機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
ブリッツ「任務、完了!」
羽の生えたガンダム「いい自爆っぷりだったぞ、後輩!」

白状すると、前話はあのシーンをやるために書いてました。


第26話「帰ってきちゃったヘリオポリス」

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“アークエンジェル” 艦長室

 

「……事情はわかった。大分、苦労したようだな」

 

「申し訳ありません中佐、”ブリッツ”や”イージス”を守り切れず、”ヘリオポリス”を崩壊させてしまうなど……」

 

”ヘリオポリス”崩壊に至るまでの事情を聞き終えたユージに、マリューらが頭を下げる。

全員、力不足を痛感しているようだ。その表情は暗い。

 

「最終的に君たちに処分を下すのは私では無く、ハルバートン提督だ。だが私から言わせてもらえれば、君たちはよくやったと思うよ。ミスがあるとすれば、”ヘリオポリス”という防衛戦力を揃えづらい場所で『ガンダム』を開発させた上層部だろうさ」

 

「あの、中佐。恐れながらお聞きしたいのですが、『ガンダム』というのは?」

 

「ん、ああ。『G』のあだ名だよ。OSの名称を略して、『GUNDAM』だそうだ。”マウス隊”の中ではそれで通っているものだからな、ついそう呼称してしまった。わかりづらかったな、すまない」

 

「いえ、そのようなことは……」

 

マリューは質問に納得したようで、そのまま引き下がる。この話題を引き延ばしても、特に意味はない。

それよりも、話さなければならないことがあるからだ。

 

「君たちの処分などよりも、まずは我々の今後を考えねばな。補給は、この後合流する”コロンブス”からある程度は受けられるとして……」

 

「避難民の扱い、でしょうか」

 

「そうなるな」

 

問題はそこだった。原作と同じように、キラは”ヘリオポリス”の住民が乗った救難ポッドを回収していた。

”アークエンジェル”の物資を圧迫している原因だが、そうなってしまった大本は”ヘリオポリス”でMSを開発していた連合にある。

もしもオーブの救難艇が””ヘリオポリス”跡を離れる前にたどり着ければ、そこで引き渡して終わりなのだが……。

 

「彼らは、そうはいかないな」

 

「……はい」

 

キラ・ヤマトとその学友達。緊急事態により戦いに巻き込んでしまったのは彼らも他の避難民と同じだが、既に”ストライク”や”アークエンジェル”という地球連合の機密に触れてしまっているため、すぐに解放するというわけにはいかないのが現状だった。

 

「彼らには申し訳ないが、プトレマイオス基地か『セフィロト』まで同道してもらう他ないな」

 

「申し訳ありません、非常時につき私が彼らの従軍行動を許可しました。全ての責任は私にあります」

 

「そうしなければこの艦が墜ちていたならば、私でも同じことをしている。報告を聞く限り無理矢理というわけではなく、志願しての行動だったのだろう?なら、その場はそれでいいではないか」

 

「そう言っていただけると、幸いです……」

 

「しかし中佐、貴官がいらっしゃったということは、これよりこの艦の指揮を執っていただけるのですよね?」

 

そう言ってきたのは、ナタル・バジルール。

たしかにこの場でもっとも階級が高いのはユージである以上、そうするのが普通に思える。

しかし、ユージは首を振る。

 

「残念ながら、私は”ヴァスコ・ダ・ガマ”の艦長でもあるんだ。私には複数の艦を指揮する能力は無いよ」

 

「ならば、ラミアス大尉に”ヴァスコ・ダ・ガマ”の艦長を任せるというのはどうでしょうか?」

 

ナタルはやはり、原作通り特に頭が固い時期だったようだ。杓子定規にハマった意見を提案してくる。

無論、整合性がないというわけではない。だが、軍学校で習ったことがそのまま現場で通用するわけではないことを、彼女はまだ知らない。

そして、なにより。

 

「ラミアス大尉が、『あいつら』をまとめきれると思えなくてね……。別に大尉に指揮能力がないというわけではなく、その、なんというか、な……」

 

「?」

 

「いや、なんでもない。とにかく、”アークエンジェル”は現状のスタッフのままで運用してもらう。私はこの艦の知識がほとんど無くてな。それに戦闘データを見る限り、ラミアス大尉は十分にこの艦の指揮を取れていると思う。適任がいるなら、それに任せるのがいいだろう。なに、重大な決定をする場所では私が責任を取る。少しは、肩の荷を下ろしてかまわんよ」

 

「ありがとうございます、中佐」

 

「気にするな。……それでは一度解散、通常業務に戻ってくれ。ああ、フラガ大尉。君は別だ」

 

「?自分に何か、御用で?」

 

まさかこのタイミングで呼び止められるとは思っていなかったのだろう。頭の上に疑問符を浮かべたような顔でこちらに向き直る。

 

「ああ、いや。私はこの艦の内部構造に詳しくなくてね。かといってラミアス大尉やバジルール少尉には艦の指揮という仕事があるし、そういうことで、君に案内を頼みたいんだ」

 

「ああ、それは構いませんよ。どちらまで?」

 

ムウも気さくに返答してくれる。原作ではキラへ地味にバッドコミュニケーションを連発していた彼だが、やはり軍人としては一級だ。人と人の間の取り方が上手いというか、なんというか。

 

「どこというより、そうだな。ある人物のところへ案内してほしい」

 

「と、言いますと、彼ですか」

 

察しのいいムウの問いに、ユージはうなずく。

()とはここで会って直接話をしておく必要がある、ユージはそう考えていた。

 

「キラ・ヤマト君のところに、案内してほしい」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”食堂

 

「ほんと、どうなってるんだろうなこの船?”アルテミス”ってとこに向かってると思えば、”ヘリオポリス”に逆戻り。俺たち、いつまで乗ってればいいわけ?」

 

キラは、カレッジで同じゼミに所属していた友人であるカズイ・バスカークの声に、内心同意した。

いつまで自分達はこの船に乗っていればいいのだろうか?連合軍の味方が駆けつけてくれたとはいえ、たった1隻だ。もしまた戦闘になったら、再び自分も戦わせられるのではないか?いくらあの”マウス隊”という人達が強くても、ピンチになったら自分を頼りにくるのではないか?

 

「きっと、大丈夫だよ。ダリダさんも言ってたけど、”マウス隊”って今の連合で一番強い部隊だって噂されるくらい強いんだって。守ってくれるよ」

 

「そうかなぁ……」

 

「なんだよカズイ、ビビってんのか?だーいじょうぶだって。ミリィの言う通り、すごい強い部隊っていうのは、さっきの戦闘でわかっただろ?」

 

同じく友人のミリアリア・ハウとトール・ケーニヒが楽観的に語るが、カズイ、そしてキラの不安は晴れない。

 

「それでも、助けに来てくれたんだ。キラを助けてくれたりしたし、来ないよりずっとマシだよ。だろ、キラ?」

 

「え?ああ、うん、そうだね」

 

友人達の中でもリーダーのような位置に収まっているサイ・アーガイルの言葉に、キラは言葉を詰まらせてしまう。

そう、そうなのだ。先の戦いまでに唯一共闘したと言えるムウでさえ、別行動だった。

彼が、アイザックが。初めて自分と肩を並べて戦ってくれた人間なのだ。それだけはたしかなことであり、キラがようやく得られた安心感でもあった。

そんな話をしていると、食堂に二人の男性が入ってくる。ムウ・ラ・フラガと、知らない男性だ。しかし彼らが近づいてくると、キラは思い出す。

───たしか、ムラマツといっただろうか?

 

「坊主、ここにいたか。中佐がお前と話したいんだとさ」

 

「僕と、ですか?」

 

「そうだ。改めて自己紹介をしよう、ユージ・ムラマツ中佐だ。よろしく」

 

「あ、はい。キラ・ヤマトです」

 

手を差し出され、それが握手を求めているということにキラは気づき、その手を握る。

自分よりも大きなそれは、大人の手だ。力強く、しかしやさしく握り返してくる。

手を離したユージは、キラと友人達を見渡す。

 

「そして、君たちが”ヘリオポリス”からこっち、協力してくれた学生かね?」

 

「あ、はい。サイ・アーガイルです」

 

「トール・ケーニヒです」

 

「ミリアリア・ハウっていいます」

 

「か、カズイ・バスカーク、です……」

 

それを聞き終えたユージは、キラ達に向かって頭を下げる。軍人、しかもマリュー達よりも階級の高い男の突然の行動に、キラ達どころかムウも驚く。

 

「ちゅ、中佐どの?」

 

「すまなかった……。君たちが家を失い、この艦で戦うことになったのは我々の責任だ。許してくれとは言わん、これはせめてもの謝罪の表しだ」

 

「あの、その……」

 

「……なんで、”ヘリオポリス”で、あんなの作ってたんすか?」

 

「ちょっと、カズイ!」

 

責めるようなカズイの質問に、ミリアリアが静止する。しかし、カズイは止まらない。

 

「だって、そうだろ!?ねえ、連合がなんでオーブのコロニーでMSなんか作ってんです!?そのせいで、俺達……」

 

最後は尻すぼみになっていったのは、現役軍人を罵倒したようなものだということに気づいたからか。ユージはカズイの目を見て、答えていく。

 

「機密ゆえに詳しくは答えられないが、『あそこでしかできなかったから』、だな。『G』の開発が本格スタートしたのはMSが連合に配備される前だ。なんとしても『G』を完成させる必要があった我々は、中立の殻でZAFTから『G』を隠す必要があった」

 

「それなら連合の、地上の本部とかで作ればよかったじゃないですか!」

 

「……」

 

ユージはそれ以上答えられなかった。否、()()()()()()()()()()()()()

誰が言えるだろう、「上層部がMSに懐疑的だったから、本部や重要拠点でやることが出来ませんでした」と。あるいは、「君たちの国とこっそり協力してMSを開発するにはちょうどよかったから」、などと。

それはもはや、軍の無能や国家間の後ろ暗さを明るみに出すような行為だ。一介の軍人であるユージに、それを話すことなどできるわけもない。

 

「もう、いいじゃないか。俺たちを助けるためにここまで来てくれたんだぞ?」

 

「俺達じゃなくて、”アークエンジェル”をだろ?」

 

「カズイ、もうやめなよ……」

 

「なんだよキラ、お前だってそう思うだろ?この人達がもっと早く来てれば、お前も」

 

カズイの言うことも、もっともだ。自分達が戦場に立つことになったのは連合軍が大本の原因だし、「彼らがもっと早く来てくれたら」と思っていたのも事実なのだから。

だが、わざわざ自分達のところに足を運んで謝罪したこの男にその思いをぶつけるのは憚られた。

キラが言い澱んでいると、ユージが口を開く。

 

「たしかに私達は君達ではなく、”アークエンジェル”を探してここまで来た。それは事実だ。だが、君達のことは命を懸けて守ろう。絶対に、君達を守り切ってみせる。それだけは、信じてほしい」

 

「えっ……あ、はい……」

 

決意表明を言い切ったユージに、カズイもそれ以上口を開くことはできない。

ユージは更に口を開く。

 

「もう一つ、いいだろうか?」

 

「あ、はい。なんでしょうか」

 

サイがユージの話を聞く姿勢を見せると、皆それに合わせて話を聞く体勢になる。

 

「この艦は”ヘリオポリス”に向かっているのだが、もしオーブからの救援艇が留まっていたら、そこで避難民の方々には下船していただくことになっている」

 

おお、という歓声が挙がるが、キラは違和感を抱いた。────それならなぜ、この男性は申し訳なさそうな顔をしているのだろうか?

 

「……すまないが、もしそうなっても君達を降ろすことはできない」

 

「ええっ!?」

 

「なんでですか!俺達だって民間人ですよ!?」

 

「どのような形であっても、君達は”ストライク”や”アークエンジェル”の設備を用いて、戦闘に参加してしまった。このままでは君達は、『民間人にも関わらず軍の装備を使用した』という罪に問われる可能性がある」

 

「そんな!俺達、艦長さんの許可を取って……」

 

トールの言い分を手をかざして遮ると、ユージは再び話し出す。

 

「それを回避するために、君達は”アークエンジェル”に乗り込むより前に『既に連合軍に所属していた』という形にすることに決めたんだ。それなら罪には問われない。しかし、今度は君達の除隊手続きが必要になる。それはここでは出来ないんだ……」

 

「じゃあ、どこでできるんですか?」

 

ミリアリアの問いに、ユージは非常に言いづらそうにしながら返答する。

 

「月の『プトレマイオス基地』か、L1の宇宙拠点『セフィロト』……宇宙ならそこしかないな。いずれも、地球を挟んで反対側だ。もしも提督……ハルバートン少将がこちらに来てくだされば、提督の権限でその場での手続きが行えるのだが……」

 

そして始まる、少年達によるユージへの責任追及。ユージは頭を何度も下げるが、簡単には収まりそうもない。

結局サイやムウの仲裁によってその場は収まったのだが、一歩引いてその光景を見ていたキラは、こう思った。

 

(なんだか、前テレビで見たドラマに出てくる課長さんみたいだったな……)

 

 

 

 

 

1/27

"コロンブス" 格納庫

 

「……隊長、お疲れですか?」

 

「ああ、まあな……。結局、世の中で一番精神にクる仕事内容はサービス業ということか、と思っただけだ。気にするな」

 

日をまたいで1月27日。ユージ達は”ヘリオポリス”跡に到着し、”コロンブス”と合流することに成功していた。

残念ながらと言うべきかしょうがないと言うべきか、オーブからの救援艇は既にこの場を去ってしまっており、避難民を下船させることは出来なかった。今は”コロンブス”から”アークエンジェル”への物資の搬入を行っている最中(さいちゅう)であり、その間にお互いに分かれて行動をしていた間の状況報告をしておこうという話になっていたのだが……。

 

「いったいなんだ、『良いモノを見つけた』って……。あいつらは何を見つけたんだ?」

 

「はぁ……なんでも、組み立て前のMSのパーツを見つけたとか」

 

「本当か!?」

 

そう、変態共である。

彼らはユージと連絡が着いたと知るや否や、”コロンブス”に来て欲しい、と言ってきたのだ。また何か問題でも起こしたのかと思っていたが、なるほどそういうことか、とユージは納得している。

 

(たしか原作SEED世界では、”グリーンフレーム”が組み立て前の状態だったような?ということはやつらが見つけたのは”グリーンフレーム”か?)

 

「おお、隊長、それに副隊長!よく来てくれたな!」

 

「無事であったことを知った俺は喜びが有頂天になった。これで今生の別れになったらちょとsYレならんしょkれは……?」

 

「ああ、こちらも無事だったようで安心しているよ。それで、見せたい物とは?」

 

普段と変わらずに声を掛けてくる彼らの姿を見て安心するとは、大分参っている証拠だろうか?ユージは苦笑した。

 

「ふふふ、これを見ろ、隊長!」

 

背後にあった何かを隠すような布をアキラが取り払うと、そこにあったのはやはり組み立て前のMSのパーツ。しかし、ユージの想像していたものと違う点が一つだけあった。

 

()()のフレーム……?」

 

「お、真っ先にそこに食いつくとは通だな隊長」

 

「ああ、いや……あの2機のようなカラーを想像していたものだからな」

 

「こんなに色があるとは謙虚な俺は想像していなかったんだが?おおらくそれぞれ違く役割を担うと言っている樽!」

 

そう、そこに置かれていたのは灰色の腕だった。

これはどういうことかとユージは少しばかり混乱したが、すぐに理解した。これはおそらく、”ミラージュフレーム”の基になった機体、そのパーツだ。

原作ではC.E73年まで所在がわからず、原型機から大規模に改造された機体であるためオリジナルカラーが不明だった『アストレイ試作5号機』だが、ユージの前世において噂されていた『元々は”グレーフレーム”』という説が正解だったということだろう。

”グリーンフレーム”が見つかったとばかり思っていたから意表を突かれたが、どちらにしろこれで”プロトアストレイ”の技術を手に入れられたのは変わりない。大収穫だ。

 

「お手柄だ二人とも。いや、工作部隊の皆もだな。おそらく”モルゲンレーテ”が開発したであろうMSだ、このまま慎重に『セフィロト』まで運ぶぞ」

 

「ん?組み立てないのか?」

 

「そりゃ、そうだろう。いくらお宝といっても、何が仕掛けてあるかわからないんだ。できる限り安全な場所で組み立てる方が良いに決まってる」

 

「oh……」

 

「……なんだ、その『やっちまった』みたいな顔は」

 

ユージは猛烈に嫌な予感がし始めた。なんだ、この変態共、今度は何をやらかしたんだ?

 

「いや、その、だな。実はこれ以外に『もう1機分』パーツを見つけたもんだから、つい」

 

「私が死んでも代わりはいるものというフィールを感じ取った我々はその意を汲んでやっただけなんだが?」

 

ブロントさんは言葉だけ聞くとまったく反省していないようだったが、やっぱり反省していない表情だった。

ふてぶてしいなナイト流石ナイトふてぶてしい。じゃなかった。

 

「つまり、どういうことかね……?」

 

「こういうことだ……」

 

もう一つ存在していた、『シートで隠されていた何か』から、アキラはシートを剥ぎ取った。

そこに存在していたのは。

 

「素組みです」

 

「……お前ら、ほんともう、お前らぁ……」

 

緑色のMS、”アストレイ グリーンフレーム”が、五体満足な状態で横たわっていた。無いと思ったら、やっぱりあった。おそらく変態共のことだから、「これをくみ上げたものが、あちらになります」的なサプライズ企画のつもりで組み上げたのだろう。

だがしかし、普通『MSのパーツ見つけた!2機分あるし、片方組んだろ!』とかなるだろうか?ジョンは止めなかったのか?と思ったが、目を点にしているのを見て確信する。

───こいつら、また勝手に行動しやがった!

 

「ふざけんなお前ら、ほんとさぁ……」

 

「あ、安心しろ!くみ上げたけど、それ以降は何もしていない!ほんとにくっつけただけだ!誰にも迷惑掛けてない!」

 

「シー婦がまたも活躍してトラッ歩サーチした。俺絵は経験が活きたな褒めてやろうとジュースを奢ってやった」

 

きちんと安全は確認したと言いたいのだろうが、問題は『部下が勝手に謎のMSを組み立てていた』ということであって、それは自分の監督責任であるとも言えて、つまり……。

 

「隊長、申し訳ありません……」

 

「ジョン、いいんだ。もう、いいんだ……これが俺の宿命ということだったんだ」

 

「うむぅ……また俺達、何かまずいことをしてしまったか?」

 

「善意は時に人を傷つけることをナイトたる俺は学んだんだが?」

 

ユージが悲嘆に暮れていると、そこに近づいてくる男性がいる。兵站を担当するソムラ・タムラ大尉(50)だ。

普段は厨房でコックなども担当している彼だが、なにやら深刻そうな顔をしている。

 

「あの、隊長。よろしいでしょうか?」

 

「……何かな、タムラ大尉」

 

「”アークエンジェル”への物資提供についてなのですが……生活物資が足りんのです」

 

「なに?”コロンブス”には長期航行を見越して豊富に生活用品、食料も積んでいたはずだろう?」

 

「それはそうなんですが、”アークエンジェル”とその乗員だけならともかく、避難民の皆さんにまで行き渡らせるとなると話が別なのです。想定を超えた量が必要で、特に水が足らんのです」

 

「……」

 

ユージは、深い思考を開始した。

なるほど、つまりあれか。自分は十分な量の物資を積んできたつもりだったが、それは『”アークエンジェル”と乗組員の分』にはなっても、『避難民の分』のことまでは考慮に入れていなかったということか。それはつまり明らかな自分のミスということであって、今からまた”アルテミス”に向かおうとしても「なんで戻ってきたの?」という疑問と共にこちら側の不備をユーラシア連邦に晒して借りをつくることになって補給と引き換えにあちらの要求にある程度便宜を図る必要があって、かといってそのまま『セフィロト』まで向かうのには無理があってまたこのことを避難民達に説明する必要があってクレーム対応報告書提出臨時の物資配分作成アストレイの扱いetcetc……。

 

「いかん、隊長が白目を剥いてフリーズした!」

 

「隊長、頼む!今あんたに倒れられたら俺達全滅だ!戻ってきてくれ!」

 

結局ユージは5分で現実に引き戻され、泣く泣く今後のスケジュールを速攻でくみ上げることになったのだった。

今になってユージは、前世における職場の課長に尊敬の念を飛ばすのだった。

 

(課長、あんたやっぱすげえや……)




ということで、”アークエンジェル”を仲間に加えて”マウス隊”の珍道中が始まりましたとさ。変態共2分の1が見つけたのは緑と灰のプロトアストレイですが、こいつらは今のところ、どうしてくれようか決めかねてます。GP04(ガーベラ・テトラ)みたいにしてもいいし、パーツだけ流用してもいいし、夢が膨らむなぁ。

あ、次回は皆さんお待ちかね、「ポセイドンデュエル」回にしようと思ってます。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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