カシン「君は頑張った。それでいいじゃない」
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デブリ帯 ”アークエンジェル” 艦橋
「襲撃から逃げ延びた先はデブリ帯、そこに残された氷を手に入れる……やはり、気分の良いものではないわね」
「仕方ありません。そうしなければ、我々は明日の命も危ういのですから。それに発案こそムラマツ中佐ですが、あなたも賛同したではありませんか」
「……ええ、わかっているわ」
やはり私は彼女、ナタル・バジルールに嫌われているのだろうか?マリュー・ラミアスは心の中でそうぼやく。もちろん、おくびにも出さないが。
現在彼女達は、地球周辺にを取り囲むように存在するデブリ帯、そこで発見された大量の氷を利用するためにその場所に滞在していた。デブリ帯には破壊された宇宙船の残骸などがある程度まとまって漂っているため、その残骸の中に水が存在することがあるのだ。現在は、MS隊を護衛に付けた船外作業用MA“ミストラル”が、氷の回収作業を
たしかに、マリューはこの作業を実行することに賛同した。だが、他に水を補給する方法があったなら、そう思わずにはいられない。どう言いつくろっても、この行為は墓荒らし以外の何でもないのだから。
”ヘリオポリス”からここまで”アークエンジェル”の作業を手伝ってくれている学生達には「生きるために、少しだけ分けてもらう」と言ったが、本当はそうやって自分を納得させたかっただけなのかもしれない。
「それにしても、ムラマツ中佐は大丈夫かしら?」
「中佐の休息開始から6時間が経過しています。予定ではあと3時間弱で復帰するはずですが……」
そう、実はユージはこの場どころか”ヴァスコ・ダ・ガマ”の艦橋にもおらず、現在は”ヴァスコ・ダ・ガマ”の自室で休息を採っていた。
学生達から「中佐がやばい」と聞いた時には何事かと思ったが、なるほど考えてみればここ1週間ほど彼がゆっくり休む暇など無く、むしろハードワーク続きだったように思える。部隊の最高責任者が離れるというのは少し不安だが、それでユージを倒れさせても仕方ない。そう考えた士官達はユージに半日の休息を採るように上申したのだ。最初はユージも「この非常事態に休んでなどいられない」として働こうとしたが、士官達(主に”マウス隊”)の嘆願により、妥協して9時間の休息を採ることを決めたのだった。
「何から何までイレギュラーな事態の連続だったとはいえ、中佐の負担を考慮することが出来ませんでした」
「それは私も一緒よ、バジルール少尉。私達は、中佐に頼りすぎてしまった。『セフィロト』まであとどれくらい掛かるかはわからないけど、これからは気を付けていきましょう」
「はい」
「艦長!あれは……」
操舵手を務めるノイマンの声を聞いて、艦の正面方向に目を向ける。
「あれは、まさか……」
「”ユ二ウス・セブン”……」
彼女達の視界に映ったのは、巨大な構造物。かつて人工の海だった場所には、減圧で沸騰したままの状態で凍り付いた莫大な氷の塊が存在し、その氷の塊に囲まれる人工の大地には、農業用と思われる施設の残骸が形を保ったままで佇んでいる。
”ユ二ウス・セブン”。かつてプラントが作り上げた農業用コロニーであり、そして『血のバレンタイン』という悲劇が起こった場所。
地球連合軍の罪の証明が、かつての形を保った状態で存在していた。
「僕は、どうしてこんなところにいるんだろう……」
キラは”ストライク”のコクピットで、そう呟いた。無論、『こんなところ』とはMSのコクピットのことではなく、デブリ帯の中を漂う”ユ二ウス・セブン”のことである。
先ほど”ユニウス・セブン”を発見、探索した後に一度帰投した彼らは、マリュー達から”ユニウス・セブン”で水を補給する旨を聞かされている。当然、学生達の中では猛反発が起きた。
あの場所で何が起きたのか、この世界では知らない人間の方が圧倒的に少ない。あの場所で、”血のバレンタイン”が起きたのだ。そして、それが戦争の引き金となった。
特にキラの場合、親友のアスランの母親が死んだ場所であることもあり、その場所を荒らすような行いは到底認められるものではない。
それなのに、自分はこの場所でMSに乗って、水を補給する手伝いをしている。自分だけではなく、友人達も”ミストラル”に乗って作業を手伝っている。
正直、自分達が手伝う必要なんて無かったと思う。”アークエンジェル”にはその程度の人員は揃っているのだから。それでも手伝っているのは、やはり彼らの影響なのだろうか。
『今回は、僕たちだけで作業を行うべきだと思います』
『何を言うのですか、ヒューイ中尉。動かせる人員を持て余すほどの余裕など無いのは、あなたも』
『いや、アイクの言うとおりだバジルール少尉。……こういう作業こそ軍人の仕事だろう。彼らはあくまで、正規の軍人ではないのだから』
『中佐、しかし……』
話し合いの中で、休息から復帰したユージを始めとした”マウス隊”の面々からは『正規の軍人だけで作業するべき』という意見が出ていた。この作業に心理的抵抗を抱えるだろう人間は多いだろうから、せめて正規の軍人だけで行うべきだ、と。それにマリューら”アークエンジェル”クルーもナタルを除き同意したことで、キラ達からは作業への参加義務が無くなっていた。
それでも、自分達はここにいる。自分達の意思で。
たぶん、嫌だったのだろう。嫌なことを”マウス隊”に押しつけるだけで、何も行動しないことが。普段は明るい彼らでさえ、この作業に苦い顔を浮かべていたのだ。発案したムラマツも、本当はこのようなことはしたくなかったに違いない。
『あの、やります。僕も』
『キラ君、別に気にしなくていい。誰だってやりたくない仕事というのはあって、今回それをやらなければいけないのが我々だということなんだ。君は……』
『お、俺もやります!』
『私も、やります』
『君たち……』
だから、参加意思を表明したのだ。出来るのに、必要なことなのにやらないということが嫌だったから。
しかし、キラ達は気付いていなかった。それが、『他の人がやるなら自分も』という、無意識が決断させたものだということを。
そしてキラは、後悔することになる。こうして作業を手伝うことになり、”ストライク”にまた乗りこんだことを。
順調に作業が進み、これで水が足りなくなる心配はなくなったと安心した時。キラはコクピットに響いた警戒音を聞いた。
モニターを見てみると、そこにはMSの存在を知らせる表示が出ている。
しかしそれは、味方ではなかった。
「”強行偵察型ジン”……!?なんでこんなところに!」
キラはデブリの陰に隠れながら、ターゲットスコープを起動して密かに”強行偵察型ジン”をロックオンする。
しかし、キラがトリガーに掛けた指は微かに震えている。キラの呼吸は、どんどん荒くなっていく。
───撃てるのか、自分に?あの中にも、人間が乗っているというのに。ひょっとしたら、自分やアスランと同じ年頃の少年が乗っているのかもしれない。それを、撃てるのか?
キラは初めて、カシンを恨んだ。彼女との会話で、そのことを認識してしまった故に。人殺しをしたということ、そして今から、また人を殺すかもしれないということを。
「行ってくれ……どこかに行ってくれ……!」
どうしてこのような場所にいるのかはわからないが、見つからなければそれでいい。早くこの場から去ってくれ。そうすれば、戦わなくても済む。
キラの祈りが通じたのか、”ジン”はその場を離れ、デブリ帯の外へと向かっていく。幸い、そちらは友軍の作業範囲からも外れている。キラは危機が去ろうとしていることに安堵し、トリガーから指を離す。
その時だった。“ジン”の横合いから、銃撃が放たれたのは。
「───っ!そんな、なんで!」
モニターを調整すると、”デュエル”や”バスター”ではない、たしか”テスター”といったか?がライフルを撃っているのがわかる。
キラは強く
「そのままいかせてやらないんだ!」
時は少しばかり戻る。
「うっひゃあ……なんか、そういう雰囲気出てるなぁ……」
新兵3人組の紅一点、ヒルデガルダ・ミスティルは忙しなくコクピット内を見渡した。
彼女達も、”ミストラル”の護衛として”テスター”に乗って出撃していた。いつもは大抵、マイケルやベントと3人で行動していたし、今回のイレギュラーな逃避行でもアイザック達”マウス隊”がいてくれたこともあり、基本的に戦えるのが自分だけということはなかった。
だが、今この場で戦えるのは自分しかいないのだ。もし敵と遭遇しても、助けにきてくれるまで時間があるだろう。
その上、水を補給しようという場所が場所だ。まさか、遠征訓練任務から一転して墓荒らしをすることになるとは思っていなかった。
「水はあまり使えなくなっちゃうし……あーもー、早く基地でシャワー浴びたーい」
ぼやくヒルデガルダだったが、これは彼女なりの平静の保ち方でもあった。実戦経験のない彼女が無音状態に耐えるために、無意識にそういう行動をしているのだ。
彼女の明るく振る舞ったかのような独り言は空しくコクピットに響くばかりであったが、その甲斐もあってか彼女が護衛する”ミストラル”の作業は順調に進み、彼女も特に見逃しなどとは無縁に護衛をこなせていた。
そう、見逃すことはなかった。
「んぅ……?」
ふと彼女は、モニターが映し出す宇宙空間に違和感を覚えた。
なにか、デブリ帯の中を横切った、ような───?
「まさか、ね?」
こんな場所にいるのなど、味方だ。そうに決まっている。まさか、ZAFTがこんなところにいるわけがない。
客観的にこのヒルデガルダの思考を見れば、愚かな楽観的思考と評するのは簡単だ。だが、1人でいきなり実戦を経験するという、最悪の事態を想像することによる恐怖から彼女の精神を守ることにはつながっている、かもしれない。
そう思いながらも、ヒルデガルダは”ミストラル”側に、『変なものがモニターに映った』と言ってからその場から少しだけ離れた。もちろん、護衛対象である”ミストラル”が物陰に隠れたのを確認してからである。
「護衛対象から離れたなんて知ったら、教官に怒られるだろうなぁ……。いやいや、違うんですよ?ひょっとしたら危ないものが近くにあるかもしれないし、状況を早期に把握するためっていうか」
誰に言い訳しているのか、そのようなことを呟きながら『何か』が見えた方向へ進んでいく。盾を構えるのは忘れない。
破壊された”ドレイク”級の残骸を壁にして、密かに様子を探る。”テスター”の頭部が動き、右、左、とゆっくり周辺を見渡す。
果たしてそこに、『敵』はいた。訓練学校で散々その造形を頭にたたき込まされた、”ジン”だ。装備から察するに、強行偵察型と呼ばれる類いの機体に間違いない。
「偵察型……それじゃあ」
ヒルデガルダはこの時、深読みをしてしまった。
この敵は自分達を探しに来たのだ、自分達の位置を知って攻撃するためにここにいるのだ、と。必然、操縦桿を握る手に力が入る。
「……まだ、気付かれてないよね」
ヒルデガルダは決意した。今この場で、自分が敵を倒すことを。
下手に通信すれば、気付かれる。かといってこの場から去って味方と合流しようとすれば、敵の姿を見失う可能性もある。
今が、チャンスなのだ。”テスター”にライフルを構えさせる。
その時、”ジン”が振り返る。
別にそれはヒルデガルダを見つけたというわけではなく、別の場所に向かおうというだけであった。事実、ヒルデガルダの方を向いたのは一瞬で、別方向に向かおうとする”ジン”。
「ひっ……こ、このぉ!」
だが、ヒルデガルダはそれを『気付かれた』と勘違いし、トリガーを引いてしまった。
補足が不十分なまま放たれた射撃は”ジン”に命中することなく通り過ぎ、当然”ジン”はこちらに気付く。
「あっ、やば!?」
有利だった状況から、一転窮地に立たされるヒルデガルダ。
残念ながら、今の彼女にこの状況を一人で切り抜けられるだけの能力は無かった。
そう、
「くそっ、このままじゃ……!」
”ジン”がその手に持ったスナイパーライフルを”テスター”に向けて発射するのを見ながら、キラは一度離したトリガーに指をかけ直す。しかし、引こうとしたタイミングで指が動きを止める。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
撃つ。撃たねば。───撃たねば。だが、指は一向に動いてくれない。
本来の歴史であれば引けた筈の引き金だが、”ジン”と戦っているのが”テスター”という戦える存在であり、それなりに抵抗できるということが引き金を鈍くしていた。
───このまま、あの”テスター”がなんとかしてくれるのではないか。そうであれば、自分が撃たなくて済む。
あろうことか、自分は『人を殺す』ことを誰かに押しつけようとしているのだ。そんな自分勝手な感情が存在したことに気付き、キラは愕然とする。
「僕は、僕は今……あぁっ!」
キラが自分の中の醜い感情に動揺していると、事態が変化する。
”ジン”の放った弾丸が、”テスター”の右足に当たったのだ。”テスター”はそのままバランスを崩し、満足に動けなくなる。
あのままでは、いずれやられてしまう。でも、撃ちたくなんかない。
キラは動揺しながら、“ストライク”を加速させて、”ジン”にぶつける。現実と理想の板挟みにあった末の苦し紛れではあったが、結果としては”テスター”を救う行動にもなったため、最善と言えば最善なのだろう。
<ぐあぁっ、なんだこいつ……!>
「通信!?なんで!?」
キラの耳に誰かの声が響く。
自分は通信機能を操作などしていない。なのになぜ、通信回線が開いているのだろうか?
この時点のキラは知らないことであったが、”ストライク”に限らずMSには標準的に接触回線接続という通信機能が搭載されている。Nジャマーによって通信機能が正常に機能しない可能性が高いこの世界では、確実性の高い通信方法なのだが、不意に敵MSとも回線がつながってしまう可能性も秘めていた。現在の状態は、そういった理由から引き起こされた、言うなれば『事故』だ。
キラはここで閃いた。今ここでこの”ジン”を投降させてしまえば、撃たなくて済むのではないか、と。こちらは高性能かつ実弾を無効化するPS装甲とビーム兵器を備えた”ストライク”なのだ。むこうも、敵わないと知れば戦いをやめるだろう。
「こちら、地球連合軍の”ストライク”です!こちらには実弾を無効化するPS装甲とビーム兵器があります!勝ち目はありません、降伏を!」
言いながら、ビームライフルを付近のデブリに向けて発射する。放たれたビームはデブリを砕いた。これで、少なくともビームのことはハッタリではないと証明できただろう。
<せ、先輩!ビームです!>
<騒ぐなバカ!こんなことをして、俺達が投降すると思ったかナチュラル!>
”ジン”との通信からは2人分の声が聞こえてくるが、データには複座型と記載されているので、おかしいことではない。しかし、問題はそんなことでは無い。
”ジン”はスナイパーライフルを”ストライク”に向けて弾丸を発射するが、PS装甲にその全てが弾かれる。
「やめてください!死にたいんですか!?今度は、撃ちますよ!」
そういってキラはライフルを相手に向けるが、実際のところ撃つつもりなど無かった。
例えば強盗が銃を突きつけてきて、手を挙げない人間がいるだろうか?それに、こちらにはPS装甲もあるのだ。このような行いは、自ら死ににくるようなものだ。
<ダメです、効いてません!やっぱり、PS装甲ですよ!>
<くそ、まさか『カオシュンの悪魔』の同型か!?>
「わかったでしょう!?抵抗は無意味です、投降を!」
キラは再度、投降を促す。勝ち目の無い戦いなど意味がない、この時点でキラはそう考えていた。
<黙れ!そんな罠にかかるものか、どうせ投降しても殺すんだろう!>
「そんなこと、しません!」
必死に説得を試みるキラだが、相手は耳を貸そうとしない。
「なんで、なんで……。そんなに戦争がしたいんですか!」
キラは頑固な敵に苛立ち、そう返してしまう。
そしてそれが、決定打となった。
<ほざいたな!元は貴様らが戦争を仕掛けてきたのだろうが!その結果が、この”ユニウス・セブン”!貴様らが奪った命だ!>
「そ、それは!」
<そ、そうだ!お前達が父さんと母さんを殺したぁ!>
「で、でも!このまま戦っても死ぬだけです!意味なんてない!」
<貴様らはいつもそうだ!無駄だ、意味が無い、と!そう言って、我らの未来を踏みにじってきたのだ!我々は屈しない!>
<そうだ、無駄なものか!ここでお前を倒すんだ!そうすれば、同胞達の命は奪われない!>
その叫びは、もはや何かを聞き入れる余地などない『怒り』を含んでいた。
キラの軽挙な試みは失敗に終わった。もう、打つ手はない。そして見逃すことも出来ない。
このまま逃がしては、敵の本隊に居場所がバレてしまい、またも”アークエンジェル”を危険にさらすことになるだろう。それは、最悪の中の最悪だった。
”ジン”はこちらにライフルを撃ちながら突進してくる。キラは牽制にビームライフルを放つが、怯む様子はない。
「もう、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
キラの叫びも空しく、牽制弾の内一つが”ジン”の脇腹に命中する。通信の先から爆発音が聞こえてくる。おそらく、内部機器に異常が発生し、爆発を引き起こしたのだろう。
<ぐびぇっ>
<せ、せん、ぱい……>
最初、その音が何の音なのかがわからなかった。だが、先ほどの威勢の良い声が聞こえなくなったことから、キラは理解してしまった。
あれは、人が死んだ時の音だ。
キラの想像は正しく、爆発した機器の破片が男の首に突き刺さり、男の命を奪っていた。後部座席に座っていた男にはそれがわからなかったが、それでも理解した。
目の前のこのMSが、先輩を殺したのだと。
<こ、のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!>
「うわっ!」
生き残った男は呆然として動かない”ストライク”に突進する。回避出来なかったキラに、強い衝撃が襲いかかる。”ジン”はそのまま”ストライク”にしがみつく。
<……先輩の、仇……!>
「あ、ああ」
<俺が……俺が皆を>
キラは聞いてしまった。生涯に渡って彼を苦しめる言葉を。
それは、『呪い』と呼ばれるもの以外の何でもなく。
<俺が皆を、守るんだ!>
その言葉の数瞬後、”ジン”は突如爆発する。
キラは自分が攻撃したからかと思ったが、そうではないことを理解した。この爆発の仕方は、見覚えがあった。───自爆したのだ。”ヘリオポリス”での初戦のように。
”アークエンジェル”からの通信が届くが、キラは無言で通信回線を切り、ヘルメットを外す。その顔には、多量の汗が浮かんでいた。
「僕は……。はぁ、はぁ、はぁ……」
この戦闘が始まる前に、自分達は折り紙の花を作り、”ユ二ウス・セブン”への哀悼を示した。
だが、なんだこの有様は?戦争を悲しみ、人を撃つことを愚かといいながらも、自分は今、何を以て事態を解決した?
銃を撃って、解決したではないか。自分で自分の祈りを踏みにじったではないか。自分には、祈ることなど許されなかったのだ。
それだけではない。”ジン”のパイロットの、最後の言葉。『俺が皆を守る』。声を思い返すと、自分とあまり年の変わらないくらいの声だったと思う。
自分は、仕方なく巻き込まれたのだと思っていた。戦争なんて、一部のバカな大人がやるものなのだと。だけど、違っていた。
誰だって、子供だって銃を取れる。大切なものを守るためになら、手に取った銃を撃てるのだ。人によっては、先ほどの彼のように命を捨てることもできるだろう。
結局、自分は特別でもなんでもなかった。『友達を守る』ために剣を振るし、自分の命を守るために銃を撃つ。キラは今、当たり前のことを認識した。
───自分も、戦争をしているのだ。誰かを守るために、人を殺している。自分と同じ、『誰かを守る』ために戦う人間を殺して、今、生きている。
カシンは自分のことを『勇気がある』と言ったが、やはりそんなことはなかった。
自分は、『それ以外に無いから』と仕方なく人を殺すような人間なのだ。そして、その罪を受け止められないでいる。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲しみと怒り、様々な感情を乗せて、キラは叫ぶ。
それ以外に、どうしたらよいのかを知らなかった。
この後彼は、一つの救命ポッドを回収することになる。
それが彼にもたらすのは、何なのだろうか。救いか、更なる悲しみか。
だが、あえて一つ言えることがあるなら。それは必然だったのだ。
キラ・ヤマトが
かくして、『ネズミ』は『歌姫』と出会う。
作者「アルテミスの経験が無いから、キラの葛藤が薄くなるのでは……。
せや!敵兵と通信つなげて今際の際の言葉を聞かせたろ!」
次回は、ついにユージ達と『歌姫』の出会い、キラとセシルの対話編を描く予定です。果たして、元引きこもりと主人公の対話は何を生み出すのか?
そして原作外、要は主人公達ではなく、地上での大規模戦とかが見たいな、というそこのあなた!
……第2次ビクトリア攻防戦(劇中で2/13)が、あるじゃろ?そこで色々放出する予定だから、少々お待ちを!
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。