機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
セシル「ちょっとツラ貸せ」

私、最近は色々なことがあってハーメルンでも荒れていたけれど……。皆、もう大丈夫!
おれは しょうきに もどった!


第30話「とある元引きこもりの持論」

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”アークエンジェル” 談話室

 

「お二人とも、どれがいいですかぁ?なんでも奢りますよぉ」

 

「えっと……じゃあ桃のジュースで。キラ、お前は?」

 

「じゃあ、僕はミルクティーをお願いします」

 

現在、キラとサイはセシルに連れられて”アークエンジェル”の談話室にやってきていた。

この部屋は手空きの隊員らが暇を潰したり他の船員と交流を深めるために備わっているのだが、この非常時にそのような時間を取れる者はおらず、ほとんど使われることはない部屋だった。部屋の中にはビリヤード台を初めとする様々な娯楽用品が置かれているが、それらはうっすらと埃を被っている。

セシルはその場所に置かれていた自販機の前で、二人に飲み物を奢ろうとしていた。どこか誇らしげにしているのは気のせいだろうか?

 

「いやぁ、私って”マウス隊”でも年少なほうなんで、こういう先輩ムーブが出来る機会って少ないんですよぉ。あ、私もミルクティーにしよぉっと」

 

「そ、そうなんですか」

 

サイは距離感を図りかねているようで、セシルの言葉への返しも当たり障りのないものだ。

しかし、キラはふと気になったことをセシルに質問する。

 

「あれ?そういえば、”コロンブス”でしたっけ?あっちに乗ってるっていう人達は新兵で、セシルさんより年下って聞いたんですけど……」

 

それを聞いたセシルは、自販機から取り出した飲み物を抱えたまま固まってしまう。

 

「……ふふふ、たしかに?不肖この私もぉ?”マウス隊”のMSパイロットですから、それなりの腕はありますよぉ?

でもね……。アイクさんやカシンさんに勝てるほどではないんですよぉ。3人ともみーんな、あの二人に質問しにいって……。たしかに私の得意分野って情報戦だからあまり目立つものではありませんけど戦場には絶対必須な役割っていうかだけど目立たなくて皆射撃戦とか格闘戦の話ばっかり話を聞きにいかれてしまって私は一人ポツネンと佇んで端末弄ってるのがお似合いというかそもそも」

 

「(き、キラ!お前なに言ってんだバカ!)」

 

「(ご、ごめん!まさかこんな風になるとは)」

 

キラとサイは、暗黒面に落ちて一人呟き始めたセシルにバレないように相談を始めた。

なんだか、最近上手く人とコミュニケーションを取れないことが多い気がする。キラはそう思った。

 

「……おっと。話があらぬ方向に飛びそうでしたねぇ。ごめんなさい、二人とも」

 

「い、いえいえ!そんなことは!」

 

「は、はい!こっちも不躾に尋ねてしまい、すいませんでした!」

 

どうにか自力で正気に戻ったセシルは、部屋の中にあるバーのカウンターに座り、何かをポケットから取り出し始めた。キラとサイは、その隣に並んで座る。

 

「えっと……あった。これですぅ!」

 

セシルがポケットから取り出した端末には、あるものが映し出されていた。

 

「これは……『ラストファンタジーXV』?」

 

「これって、一昨年くらいに発売されたゲームですよね?」

 

「はい!名作RPG『ラストファンタジー』シリーズの、記念すべき第15作目ですぅ!ハイテク感とファンタジーが複雑かつ違和感なくまとまった世界観、スピーディーなバトル、魅力的なキャラクター……全てがハイレベルなゲームなんですよぉ!」

 

それを聞いて、キラとサイはますますワケがわからなくなる。セシルもそれに気付いているようで、苦笑しながら話を続ける。

 

「こちらの作品なんですけどねぇ……制作スタッフの内5割はナチュラル、残りの5割がコーディネイターなんですぅ」

 

「え……」

 

「グラフィックやキャラのモーションなど、担当する人の技術が大きく影響する部分はコーディネイター。ストーリー構築やアイテムの数値設定などはナチュラルの方が担当していますぅ。そしてこのゲームは、その年のゲームランキングで人気投票№1を獲得したんですよぉ。ちなみに、この年の2位と3位はコーディネイターの制作スタッフが9割を示したゲームですぅ」

 

それが本当なら、地力で劣る筈のナチュラルが、けしてコーディネイターにも劣らない能力を示したことになるのではないか?

 

「でも、コーディネイターのスタッフが多いからってゲームの質が良くなるものなんですか?」

 

「そう、それです。私はそれについて話したいんですよぉ」

 

端末を弄って、今度は別のゲームの画面を映し出す。いったい、いくつのゲームをインストールしたのか?

 

「『ブレイブテール』。こちらもジャンルとしては『ラストファンタジー』と同じRPGなんですけど、評価はそこそこに収まっちゃいましたぁ。制作スタッフは、皆コーディネイターですぅ。しかも、制作のリーダーはクリエーター方面の才能が開花するように遺伝子を調整された人なんですぅ」

 

「そう言うコーディネイターも、いるんですか?」

 

「はいぃ。人間は基本的に、『こう表現すればどういう感情を得る』というメカニズムが存在しますぅ。このリーダーさんは、そういう『感情のツボ』を抑えられるように調整されましたぁ。でも、作品の評価はそこそこ。なんでだかわかりますかぁ?」

 

それを聞かれて、キラとサイはすぐに答えられなかった。彼女の言う『クリエーター系のコーディネイター』なら、人の感情を理解し、高クオリティな作品を作れるはずだと思う。なのに、なぜ?

 

「作品のネームバリュー、ですかね。『ラストファンタジー』はある程度の固定ファンがいると思いますし」

 

「ところがどっこい、老舗の看板を背負っている以上は逆に採点基準が厳しくなるんですよぉ。『この程度の筈がない』って。逆に、まったく新しいタイトルの方が新進気鋭とか言われてある程度甘く採点されやすいんですぅ」

 

「うーん……」

 

「……正解はですねぇ。『情熱』、ですよぉ」

 

「『情熱』?」

 

セシルは端末をテーブルに置いて、ミルクティーを一口飲む。

 

「ふぅ……。物作りの世界で『こうすれば良いモノが出来る』というロジックはあっても、それが最大点とは限りません。あくまでそれは下敷きで、『こういう作品が作りたい』という目標が重なって、ようやく作品が出来上がるんですぅ。このコーディネイターさんは下敷きは完璧に作れても、その上の目標が薄かったんですよぉ。個性、と言い換えてもいいかもしれませんねぇ。歌だって、同じですぅ」

 

「あ……」

 

「こう歌えば、感動させられる。こう歌えば、多くの人に受け入れられる。そんな打算まみれの作品は、100点満点はとれても120点はとれません。そうして作られた120点の作品達が、人間を感動させてきたんですぅ」

 

「……あの、それじゃあラクスさんも、120点を目指している人なんですか?」

 

「さぁ?それはわかりません。私だって、彼女について知っていることは少ないですからぁ。私が言いたかったのはつまり、『遺伝子を操作して生まれたからって、それで優れた作品が生み出せるとは限らない』ということですぅ。これが単純な運動神経とか、IQの話だったら話は別になりますけどねぇ。ゲームでも歌でも、物作りはそんな単純なことではないんですよぉ」

 

それだけは譲れませんしぃ、だからこそこうやって下手な説教っぽいムーブをかましているんですぅ。セシルはそう言って、またミルクティーを飲む。大体、言いたいことは言ったようだ。

キラはそこで気になって、セシルに質問してみた。先ほどの一件を反省してはいたのだが、それでも聞かずには居られなかったのだ。

 

「セシルさんも、何か物作りをしたんですか?」

 

それを聞いてポカンとするセシル。またも失言をしたかとキラとサイがヒヤヒヤしていると、セシルは笑い出す。

 

「うっふふふぅ、それを私に聞くんですかぁ?連合のMS用OSを作り出した“マウス隊”、その最初期メンバーである私にぃ?」

 

言われて見ればそうだ。今現在、連合でMSを運用出来ている最大の功労者の一人が、目の前にいる女性なのだ。多くの人に影響を与える作品(OS)を作った以上、セシルもクリエイターといえなくもないだろう。

 

「あのころは本当に大変でしたぁ。レナさん……同僚の女性はムスッとしているし、アイクさんとカシンさんもどこか気まずそうだし、モーガンさんにはしごかれるし……。やっぱり、ナチュラルかコーディネイターかっていうのは、”マウス隊”にもあったんですよぉ」

 

「カシンさんも、いってました。最初は雰囲気が悪かったって。でも……」

 

「そう、最初の頃の話ですぅ。皆が信じ合って、協力して、だから良いモノと、良いチームが出来た。たしかキラ君とサイ君、学生のみなさんは工業カレッジで同じゼミに所属していらっしゃったんですよねぇ?」

 

「は、はい。ロボット工学のゼミに所属していました」

 

なるほどやはり、とセシルはうなずく。何かを得心したようだが、キラ達にはわからない。

 

「キラ君、私はずっと、不思議に思っていたことがあるんですよぉ。あなたがどこで、あれほどのプログラミングスキルを磨いたのか。きっと、そこでの経験があったからなんですねぇ」

 

「まぁ、こいつは他の皆より色々と教授に仕事手伝わされていたし……」

 

「ああ、カトウ教授によく押しつけられていて……。あの日も……」

 

「んん?今、カトウ教授っておっしゃいましたぁ?」

 

キラとサイが懐かしそうにカレッジの思い出を話そうとすると、セシルは顔をしかめて「待った」をかける。

 

「はい、トシアキ・カトウ教授です」

 

「……その方、たしか『GUNDAM』OSの開発者の一人だったはずですぅ。キラ君、初めて”ストライク”のOSに触った時、見覚えのあるコードなんか有りませんでした?」

 

「え?……ああ、そういえば!」

 

キラが思い返すと、たしかにいくつか見たことのあるプログラムがあった気がする。まさか、あの教授は自分に『GUNDAM』OSを作らせていたのか!?

 

「そりゃあ、初めて見た”ストライク”を動かせるわけですよぉ」

 

「やたら手伝わせてくると思ったら……」

 

「でも、やっぱりすごいよなキラは。あんなすごいMSを動かせるOSを作っていたんだろ?同じゼミにいたのに、俺達は……」

 

キラの心に、チクリと痛みが走る。

教授がOS開発を自分だけに手伝わせていたのも、やはり自分に能力があるからだ。そして、その能力のせいで自分は戦うことになってしまった。

微かに顔を曇らせたキラだが、セシルの次の声にハッと顔を上げる。

 

「サイ君、あなたはキラ君に勝てないと思っていませんかぁ?」

 

「え?えっと……」

 

サイは言いよどむが、セシルは言葉を続ける。

 

「人間、絶対に勝てない誰かとぶつかることは絶対にありますぅ。そこで、どう歩むかなんですよぉ。勝てないからと諦めるか、絶対に諦めずに挑戦し続けるか。諦めなければ夢は叶うとは言いませんけど、それでも勝つ可能性は残りますぅ。勝てないと諦めるのだって、一つの手ですぅ。今まで取り組んでいたものとは違うものを試しにやってみたら、そっちで新たな才能が開花するなんてこともあるんですからぁ」

 

たしかに、それはそうだ。自分にどんな才能があるかなんてわかるはずもない。ナチュラルならの話だが。

生まれる前から遺伝しを調整されているコーディネイターには、最初から最適な道が示されている。

 

「コーディネイターだって、特定の才能が開花しやすいっていうだけで、それ以外にも才能が眠っている可能性はあります。野球選手に向いているコーディネイターが、実は遺伝子調整関係なく料理人の才能も持っていたということが起こりえます。先ほどの『ラストファンタジーXV』にも、そういう人はいますよぉ」

 

「そうなんですか?」

 

「はいぃ。『自分はこの仕事が向いているからじゃなくて、この仕事がやりたいと思ったからやっている』とインタビューしていますぅ。逆に、『この才能を持たせてくれたことを親に感謝する。おかげで、仲間とすばらしいものを作り上げられた。この場所にいられる』という人もいますぅ」

 

それは、なんてすばらしい事なのだろうか。

才能のある無しにかかわらず、やりたいと思ったことに向かって努力する人間が集まり、多くの人に認められる作品を作り出す。本来、人のあるべき姿なのかもしれない。

 

「キラ君は、自分がどんな風に遺伝子調整されたかを知っていますかぁ?」

 

「……そういえば、知らないです。興味もなかったし」

 

「だったら、ナチュラルと変わりませんよぉ。コーディネイターが皆、優れた身体能力を持っているわけでもないですしぃ。キラ君やサイ君は、『やりたい』と思ったから、カトウ教授のゼミに所属したんではないですかぁ?」

 

「俺は、そうですね。自分でロボットを作ってみたいって思ったから」

 

「サイも?実は僕も、昔からの友達が、ロボットを作るのが上手くて、僕も作ってみたいなって……」

 

そう、昔からの友達(アスラン)が。自分も、彼の作ってくれたトリイのようなロボットを作ってみたいと思い、工業カレッジに入学したのだ。自分のある種での原点を思い出し、キラは顔をほころばせる。

 

「だったら、それで良いんですよぉ。才能があるかどうかは関係ありません、自分がやりたいと思ったことをやればいいんですぅ。……大人になっていくほどいろんな物に縛られていくものですから、若い内はそれでいいんですぅ。私も、最近になってわかったんですけどねぇ」

 

「セシルさんのやりたいことって、なんですか?」

 

キラからの質問を受けて、セシルは微笑みながら返答する。

 

「ダラダラしたいですぅ!好きな時に起きて、ご飯食べたり、ゲームしたり、皆さんと適当にお出かけしたり……。他の人にいったら呆れられるんですけどねぇ」

 

「あはは……」

 

たしかに、時折見かける力の抜けた姿を見ると、彼女らしいかもしれない。

 

「だけど、ほら。こうなっちゃったじゃないですかぁ。戦争やってる中でそんなこと、望むべくもないっていうか……だから、戦ってるんでしょうねぇ。実は、やめようと思えばやめれたんですよぉ?」

 

「そうなんですか?」

 

「はいぃ。元々”マウス隊”はナチュラル用OSを開発することが目的で結成された部隊ですぅ。それが済んだら、もうお仕事はありません。それに、隊長も今みたいに”マウス隊”が実戦に出されるようになる前に『隊から抜けてもいい』って言ってましたしぃ」

 

戦いから逃れる方法はあったのに、それをしなかった。

キラは、ひょっとしたらこの人は見かけ以上に強い心を持っているのではないかと思った。

 

「キラ君、サイ君。才能が無くったって、やりたいことをやった者勝ちなんですよぉ、世の中。少なくとも私はぁ、クラインさんの歌が『才能があるから仕方なくやってる』ものだとは感じませんでしたぁ。お二人は、どうですかぁ?」

 

「……俺は、ただ綺麗な歌声だなって思いました」

 

「僕も……」

 

「誰かにそう思わせることが出来るのですから、彼女の歌はきっと、彼女の思いが込められているってことですぅ。彼女のことを私は知りませんけど、そう信じます」

 

自分がそうしたいから、自分がそう思ったから、それでいい。

セシルの言葉は、キラとサイの心にしみこんでいく。

 

「もっとも、個々人の持つ感覚を否定して自分の価値観を押しつけるから、戦争なんて起きるんでしょうけどねぇ……。早く、終わらせたいものですぅ」

 

セシルはそう言ってミルクティーを飲もうとするが、缶の中身が既に空になっていることに気付くと、残念そうにしながら立ち上がる。

 

「そろそろ良い時間ですし、お仕事に戻りましょうかぁ。二人も、休憩時間は終わるころですよねぇ?付き合わせてしまって、ごめんなさいですぅ」

 

「……いえ、ありがとうございました」

 

キラはセシルに頭を下げ、感謝を告げる。

やりたいから、やる。才能というものに縛られつつあったキラには、その言葉が何よりの救いとなった。

思えば”ストライク”に乗り込んだのは偶然でも、自分で戦ったのは、あの時モニターに映ったサイ達を守りたいと思ったからだ。あのとき、自分は”ストライク”で戦えるということを自覚していただろうか?いいや、していない。守りたいと思ったから、行動したのだ。もしかしたら、それがカシンの言う『勇気』だったのかもしれない。

それを思い出せたのは、セシルの言葉を聞いたからだ。だから、礼を言う。

 

「それと、カシンさんに伝えてくれませんか?この間は、すいませんって……」

 

「……承りましたぁ。でも、別の機会に自分でもお伝えするんですよぉ」

 

「はい」

 

それでは、と言ってセシルは部屋から出て行く。

部屋の中には、キラとサイだけが残された。

 

「……なぁ、キラ」

 

「なに、サイ?」

 

サイは立ち上がると、キラに頭を下げる。

 

「済まなかった。俺、無意識に酷いこと言ってた。お前がコーディネイターでも関係ない、友達だって言っておきながら、お前が戦えるのはコーディネイターだからだって思ってた。クラインさんの歌も、遺伝子調整したからだって貶したようなもんだ」

 

「サイ……」

 

「だけど、お前のことを友達だと思ってるのは本当なんだ。お前の助けになりたいと思って、CICの手伝いを志願したのも。クラインさんの歌を綺麗と思ったのも……」

 

「いいんだ、サイ。そう言ってくれたことが嬉しい」

 

「キラ……」

 

サイは頭を上げて、キラの目を見る。初めて出会った時から変わらない、優しさを秘めたまなざしだと思った。

 

「心の中で思ってることって、中々他の人には言えない。それでも話してくれたことが、嬉しいんだ、僕」

 

「……そっか」

 

その言葉を最後に、二人は談話室を出る。

この時の二人に、共通する感情があった。

───自分達は、本当の意味で友達になれたような気がする。

 

 

 

 

 

だが、世界はキラ達に安穏とした日々を許さない。

 

 

 

 

 

2/3

”プラント” ”アプリリウス・ワン” 宇宙船ドッグ

 

「本当に、これだけの戦力で向かうのですか?」

 

「何か不服かな、アスラン?」

 

「いえ……しかし、ラクスの捜索というには些か大部隊過ぎではありませんか?」

 

現在アスランは、”ヘリオポリス”から持ち帰った”イージス”や交戦した”ストライク”の戦闘データを報告した後に、”ユニウス・セブン”追悼慰霊のためにデブリ帯に向かって消息を絶ったラクス・クラインの捜索に向かうための準備をしていた。

自分とラクスが婚約者だからと、彼女を救う騎士の役目を担わされたことは既に受け止めている。しかし、そのための戦力にしては過剰なのだ、現在編成されている艦隊は。そのことが気になって、上官であるラウに質問をしたのだ。

 

「“ヴェサリウス”含む”ナスカ”級2隻に、”ローラシア”級3隻……MSも30機を投入。何か大規模な作戦でも始まるのかという量です」

 

「たしかに、な。……実は、先行して捜索に出ていたユン・ロー隊の”ジン”も戻っていないのだ。もしも連合の部隊が付近にいたなら、生半可な戦力では任務を失敗する可能性が高まる。それを避けるための、戦力ということだよ」

 

最近の連合軍の戦力が増強していることなど、いまや知らないZAFT兵はいない。それを考えれば、なるほど納得がいくというものだ。

『カオシュンの悪魔』を初めとする新型MSのことも考慮すれば、”イージス”を任された自分が行くのは当然と言える。

あれらの機体には、生半可な戦力では太刀打ち出来ない。

 

「それにしても、『あれ』を持って行く必要があるのですか?」

 

アスランの目線の先には、”ヴェサリウス”に搬入されていくMS用の武器が映されている。

その武器は『y』というアルファベットを横に倒したような形状をしており、一見、なんのための装備かはわかりづらい。

 

「”M70バルルスⅡ 特化重粒子砲”……。たしかに以前の”バルルス改”よりも取り回しは比較的良さそうですが、それでも試作装備を実戦で、しかも隊長に使わせようとするなんて……」

 

「そう言うなアスラン。せっかく連合からビーム兵器の技術を手に入れたのだから、早々に普及させたいのだろう。例の計画もあることだしな」

 

「『アイギスプラン』……ですか」

 

アスランの言ったアイギスプランとは、現在ZAFTの兵器開発局を中心に進められている計画だ。

内容は、『重力戦線の活発化並びに連合軍のMS戦線投入という現状を鑑みて、新型MSの開発だけではなく従来のMSを戦況に最適化させた改修を施すことで”プラント”を守るための戦力の質を向上させる』ということが主になっている。

その他にも、『対MS戦を意識した戦術の構築ないし既に考案されているものを整備する』なども内容として予定されている。

要するに、”ジン”などの旧式機に改修を施したり、対MS戦のマニュアルを整備しようという試みである。その一貫が、あの武装なのだという。

MSの腕を挟み込むように保持させるようになっており、銃身上部にセンサー類、下部にバッテリーを搭載しているのだという。中々開発が進まなかったこの武装だが、”イージス”から得られたビーム兵器のデータを元に、急遽の完成を果たしたとか。

 

「これから戦争は、更に激しさを増すだろう。勝つためには、出来る事はやっておくものさ。私とて試作装備を扱うことに不安がないわけではないが、プラントのためにやってみせるさ」

 

「隊長がそうおっしゃるのであれば……」

 

「さて、そろそろ時間だ。急げよ」

 

「はっ!」

 

アスランは敬礼し、”ヴェサリウス”の搭乗ゲートへ向かっていく。

その目には、一点の曇りも浮かんでいなかった。まさかこの後、親友と3度目の戦いを演じる事になるなど、彼は少しも予想していなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

この先、運命のターニングポイント。

悲劇が繰り広げられるか、それとも……?




やっと、セシル回が終わりました……。
これからは予告詐欺を控えたい……。

キラがアスランに憧れて云々は、本作独自の設定です。ご了承ください。

それと、最後に出てきた試作装備の簡単な解説です。

○M70バルルスⅡ 特化重粒子砲
MSが扱うには威力も弾数も取り回しも微妙極まりない”バルルス改”をダウンサイジングし、さらに性能を向上させたもの。ぶっちゃけ、連合の”テスター”用ビームライフルと同コンセプト。
だがその性能は折り紙付きで、”デュエルガンダム”等のビームライフルより若干大きめではあるが威力はそれより上であり、バッテリーは銃自体に内蔵されているためにMSの継戦能力の低下は起こらない。
お値段は残念ながらお手頃とはいかないが、バッテリー内蔵の本装備が普及すれば旧式化したMSの戦力を底上げすることが可能とみられている。
わかりやすい形状イメージでいうと、「新世紀エヴァンゲリオン」のy字型ポジトロンライフル。

ここからZAFTも強くなっていっちゃうんだなぁ、これが。

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