機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
先遣艦隊「野郎ぶっころしてやらぁ!」
ZAFT艦隊「MS30機に勝てるわけないだろいい加減にしろ!」

(映画「ブラックホーク・ダウン」を見て筆が遅れたので)
初投稿です。


第32話「覚悟」

2/7

ランデブーポイント

 

「ナチュラルの弾なんか当たらない、当たらない、当たらない……」

 

ZAFT艦隊から発進した”ジン”部隊、その中でも脚部がそのままブースターポッドに換装された“ジン・ブースター”のコクピットで、タカヤはひたすらにつぶやき続けた。

彼は実戦経験の浅い、アスラン達と同期のMSパイロットだった。彼の目は見開かれ、その口はひたすらに「当たらない」という呟きを紡ぎ続ける。

無理も無い。なにせ、彼の目前には地球軍艦隊が放ったミサイルやロケット弾の壁が迫っているのだから。

隙間など見えない弾幕の前に、彼はおびえきっていたのだ。

なんだこれは、話が違う。アカデミーにいたころは、前線のZAFTが成果を挙げたとか、誰々が活躍したという武勇伝しか聞いたことがなかった。噂になったエースは、この弾幕をも突破して敵部隊を蹴散らしたというのか?

 

<落ち着けよ、タカヤ>

 

「せ、先輩?」

 

彼と同じ部隊のMSパイロットが通信を送ってくる。彼は既に何度も実戦で敵のMSと遭遇し、生き残ってきたのだという。自分と2歳ほどしか歳が変わらないのに、その落ち着きようは尊敬出来るものがあると彼は常々思っていた。

 

<こういうのはな、ビビった奴が真っ先に死んでくんだ。避けようと思って避けられる事の方が少ない。それに、何のためにお前の機体には盾が付いているんだ?>

 

言われて、ハッとなる。

それもそうだ。避けよう、避けなければと思って動きがぎこちなくなってしまえば、それこそ攻撃に命中する可能性は高まる。それに盾を構えていれば、物にはよるが敵の攻撃は防げるのだ。

自分がするべきは、冷静さを失わずにこの弾幕を突破し、敵部隊に肉薄することだ。隊長にも、「近接戦では依然我らが優位に立てる」と教えられてきた。ならば、その通りにすれば良いのだ。

 

「す、すいません先輩。もう大丈夫です」

 

<それならいい。……来るぞ!>

 

敵の弾幕がすぐそばに迫っていた。ミサイル、ロケット弾、ビーム。様々な攻撃が、殺意を伴ってMS隊に迫る!

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

恐ろしい弾幕にも怖じ気づかず、MS隊は飛び込んでいく。一律して優れた反射神経を持つZAFTのMSパイロット達は、それぞれの方法で弾幕をくぐり抜けていた。

ひたすらに突き進み、直撃弾だけを見切って回避する者がいれば、丁寧にミサイルを迎撃しながら進む者もいる。ナチュラルから奪ったという深紅のMSなどは、なんと自分を壁にして味方を攻撃から守っている。たしか噂では、実弾を無効化してしまうPS装甲を使っているらしい。それなら、この弾幕も恐ろしくないだろう。ナチュラルも大したものを作り上げたものだ。あれに乗っているアスランがうらやましい。

そんなことを考えていると、ふと弾幕(殺意の嵐)が止んでいることに気付く。モニターには、既に敵艦隊の姿が拡大せずとも見えている。

 

「や……やった!くぐり抜けたぞ!生きてる!」

 

自分が敵の弾幕をくぐり抜けられたことを自覚し、歓喜するタカヤ。周りを見ると、何発か肩や足に損傷を負った”ジン”がいるようだが、2・3機が脱落しただけで戦闘継続には問題がない状態だ。

さあ、あとは鈍間なナチュラルを蹂躙するだけだ。そこまで考えたところで、タカヤは先輩の姿が見えないことに気付いた。

 

「先輩、やりましたよ!生き延びたんです、先輩!……先輩?」

 

通信で呼びかけるが、応答はない。

先ほど見渡したばかりの周囲を、注意深く確認する。

すると、”ジン”が1機、部隊の列を離れて飛んでいく姿が見える。あれは、先輩の”ジン”ではないか。

 

「先輩、そっちにいって何を……?」

 

気になって近づいてみる。

そして、その行動は彼の命を奪うことになった。

 

「せんぱ……!?」

 

近寄った”ジン”の胴体には、大きな穴が空いていた。そこは、本来パイロットが収まる筈の場所。そこにあるべきものが無い。

つまり、この”ジン”は。突撃の勢いそのままでパイロットを失い、慣性で漂っているだけなのだ。

 

「あ、ああ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

その事実を認識したことで、タカヤは絶叫した。

認められない、認めたくない、認めない。こんなことがあるものか。自分より優秀な操縦技術を持っていた先輩が死ぬなど、そんなことは。

そして彼は発狂したまま、その人生に幕を下ろした。1機だけ列から離れた挙げ句に動きを止めた愚か者を、連合側が撃ち抜かない道理は無かった。

最後まで彼は知らなかった。どれだけの力を持っていても、逃れ得ぬものがあるということを。99.9%勝利する戦いにも、0.1%の確率での「それ」が存在することを。

そう、彼らは。

不運(ハードラック)(ダンス)っちまった」だけなのだ。

これは珍しいことではない。どんな戦場でも、彼らのように命を散らしていった者達がいる。

人は所詮、0.1%を引かないように神に祈るしかないのだ。

 

 

 

 

 

「タカヤ!……くっ!」

 

アスランはタカヤが乗るMSの反応が消えたことから、自分の同期が命を落としたことを悟った。

どこか格好付けたがりで、無鉄砲。だが、誰より訓練に熱心に取り組んでいた彼。彼も、この戦争で死んでしまったのだ。

 

<全機、攻撃態勢!バカが何人かやられたが、気にすることはない!運が悪かっただけだ!>

 

ラウに代わって前線で指揮をとるMSパイロットの言葉に、愕然とする。

運が悪かった!?自分の同期は、あの陽気な青年は、運が悪かったから死んだと!?

指揮官のあまりな横暴な物言いに、アスランは口を開こうとした。しかし、それを遮るように他のパイロット達が気勢を挙げ始める。

 

<そうだ、ナチュラル共を倒すんだ!>

 

<見ろよ、あいつらのあの様!俺達をあんな攻撃で倒せると思ってたのか?>

 

<今がチャンスだ!>

 

なんと、いうことか。

戦友達は味方が死んだことを少しも気負う様子を見せずに、意気揚々と攻撃を開始したではないか!

たしかに、敵が目の前にいる以上は彼らのように戦闘を継続する方が正しいのかもしれない。しかし、アスランの心にはしこりが残る。

彼らのあの姿は、どこか歪さを感じさせるのだ。人として大事な物を、どこかへ投げ捨ててしまったかのような。彼らも、家族や友人を守る為に立ち上がり、ZAFTに入隊したはずなのに。

アスランは結局、何も言えずに戦いの波に身を任せることになった。和を乱してまで言うべきことではないし、この戦いで生き残ってから言えばいい。

今は戦うしかないのだと自分に言い聞かせながら、アスランは戦う。

誰かを守りたいと思って戦っているのは皆同じだと、自分に言い聞かせる。

 

アスラン・ザラはおよそ兵士として最高クラスの水準を誇る人物だ。それは戦闘力の高さということだけではなく、即座に思考を切り替えられる精神性を考慮したものでもある。そんな彼が未熟だとしたら、彼が自分に言い聞かせながら撃ち抜いた”メビウス”のパイロットもまた、何かを守るために戦っている人間だということに気付かない、否、目を逸らしていること。

相手も人間なのだということから目を背け続けていることに終始する。

 

 

 

 

 

”アークエンジェル” 格納庫 ”デュエル”コクピット

 

自分の息づかいだけが、聞こえる。

アイザックは現在、”デュエル”のコクピットで出撃の時を待っていた。既に”デュエル”の各所チェックは済ませてあるので、後は出ろと言われれば出て行ける状態だ。

もどかしい。アイザックはこの時間はあまり好きでは無かった。

戦場ではいつ誰が命を落とすかもわからない。そんな場所に向かうというのに無音でいるというのは、まるで自分が一人で戦場に出向くかのような錯覚を覚えるのだ。

そんなことを考えていると、モニターにユージの顔が映し出される。

 

<もう一度、作戦を振り返るぞ。我々はこれより先遣艦隊の援護を開始する。まずはアイクが”デュエル”で先行し、敵MS隊をかき回す。カシンは”バスター”で遠距離から砲撃援護だ。セシルは新兵3人を率いて艦隊の直掩に向かえ。コープマン大佐と連絡をつなげられたら、こちらの思惑を伝えてくれ。フラガ大尉は遊撃を頼む。”ゼロ”の加速性能の活かし時だ、頼むぞ>

 

<了解!MA乗りの戦いって奴を見せてやりますよ>

 

<こっちも了解ですぅ。……本当に、やるんですかぁ?>

 

”ヴァスコ・ダ・ガマ”の艦橋からユージが話す内容に、セシルはうなずきながらも半信半疑といった様子を見せる。それもそうだ、ユージの立てた作戦というのは、今まで類を見ない常識を越えた内容だったのだ。

 

<現状を巻き返すには、常道では不可能。ならば奇策で挑むしかあるまい?それともお前には、現状を綺麗にひっくり返す良い策があるのか?あるなら是非ご教授いただきたいものだ>

 

<……いや、ありませんけどぉ。流石にラミアス艦長達の負担が大きすぎませんかぁ?>

 

<"アークエンジェル"の性能ならば可能だ。それに何もこの作戦で敵を撃滅しろというわけじゃない>

 

そこまでの会話を、アイザックは口を挟むことなく静かに聞いていた。

たしかに()()()()は常識からは外れているかもしれないが、不可能というわけではないと思えること、特に不備が無い(そもそものリスクがないとは言っていない)ことを考慮しても十分達成出来るものだということがわかっている。

ユージの立てる作戦は、けして不可能なものではない。まるで誰が何を()()()()()()()()()がわかっているかのようだ。

それ故に、アイザックはこのタイミングで口を挟む。

 

「隊長、少しいいですか?」

 

<なんだ、アイク>

 

「……キラ君は、どうするんですか?」

 

そう、その1点がアイザックはどうしても気になった。

先ほどの作戦の中で、キラが何をするかだけが語られなかった。キラと”ストライク”はけして無視出来ない戦力であり、自分の上官がそれを遊ばせておくわけがない。

ユージがこの状況に至って、キラが民間人上がりだという理由で出撃させるのをためらうような人物ではない、ということも知っている。だから、問いかけたのだ。

 

<……キラ君には、”ヴァスコ・ダ・ガマ”の直掩として待機してもらう。”エールストライク”の機動力ならば、機を見て遊撃手として運用することも出来るからな。いいな、キラ君?>

 

<あ、はい。わかりました>

 

キラはどこか気の抜けたような声で返答する。ユージは少し眉をひそめたが、あまり追求するものでもないと考えたのか、そのまま話を進める。

 

<最後に、何か質問はあるか?無いようなら、これで終わるぞ。……全機、発進!>

 

<作戦開始!MS隊各機は、順次発進してください!>

 

キラの学友だというミリアリア・ハウの声を聞きながら、”デュエル”はカタパルトでと運ばれていく。

カタパルトに脚部が接続され、左右の壁から装備が”デュエル”に装着されていく。───準備完了だ。

 

<進路オールグリーン!”デュエル”、発進してください!>

 

「了解」

 

ふう、と息をつく。大丈夫、自分は一人じゃない。自分だけで出来る事はほとんどないが、仲間と一緒だから大丈夫。皆が目標に向かって行動すれば、作戦は成功する。

操縦桿を握る手に少し力を入れる。恐怖は、自分の動きを阻害してはいないようだった。

 

「アイザック・ヒューイ、”デュエル”、発進します!」

 

 

 

 

 

”モントゴメリ” 艦橋

 

<アルファ2、シグナルロスト!”ロー”にとりつかれます!>

 

<”バーナード”被弾!航行に支障無し!>

 

<うわぁぁぁぁぁ、助けてくれ!>

 

状況は最悪と言って良かった。あちこちから飛んでくる悲報・悲鳴に既に耳が慣れてしまっている。

コープマンはこの戦闘における勝利の可能性を既に切り捨てていた。どんな名指揮官であっても、数的不利かつ混乱状態にある艦隊を勝利に導くことなど出来ない。故にコープマンの頭を占めていたのは、どのようにしてこの戦闘から撤退するかにあった。

だがZAFTからしてもこちらを逃がすつもりはないようで、先ほどから何度か方向転換を試みたが、その度に敵艦隊からの砲撃が予測進行方向に向けて飛んでくる。どうやら敵は、艦砲ではなくMS隊による白兵戦で決着を付けたいようだ。

本来なら始まりの砲撃で8機は持って行きたかったのだが、まさかその半分ほどの損害に済まされるとは!パイロットの全体的な水準も見事だが、特に目を引いたのはあの赤いMS、先日奪われた”イージス”というMSだ。

”マウス隊”が有し、トップエースと称されるほどの活躍の一助となっている”デュエル”、”バスター”の同計画機。実弾を無効化するという防御力も脅威だが、機動性も大したものだ。先ほどからビーム兵器は優先して”イージス”をターゲットさせているが、かすりすらしない。

また1機、”イージス”が”メビウス”を撃墜する。

 

「か、艦長!早く撤退するんだ!」

 

加えて、隣にいる事務次官(役立たず)のわめき声もしゃくに触る。

この際、無理矢理にでも脱出艇に乗せて追い出してしまおうかと考え始めた時である。

 

「9時の方向より、高熱源体接近!これは……”デュエル”です!」

 

「なんだと!?」

 

「”デュエル”といえば……”マウス隊”!よかった、助けに来てくれたのか!」

 

周りはにわかに活気づき始めるが、コープマンは毒づく。

 

「バカなっ!反転離脱しろと言ったはずだぞ!?」

 

”アークエンジェル”という重要な戦艦を担っているにもかかわらず救援に来るなど、何を考えているのだ!?今彼らがやるべきことは、一刻も早く”アークエンジェル”を安全な場所まで運ぶことだというのに!

颯爽と駆けつけた”デュエル”は敵MS隊に切り込み、“イージス”との戦闘に入った。同じ『G』同士であればパイロットの腕次第ということになるが、おそらくZAFTのエースが乗っているであろう”イージス”とも互角に渡り合っているあたりは流石と言える。

遠距離からは高出力のビームが射かけられ、”ロー”に取り付こうとしていたMS隊を追い払う。おそらく、『機人婦好』カシンが乗る”バスター”の遠距離砲撃だ。2人の英雄の登場により士気は向上したが、それでも数的不利にあるのは間違いない。

努めて冷静に現状を整理していると、”アークエンジェル”から発艦したとおぼしきMS隊が接近してくる。その内の1機、通信能力を強化した”EWACテスター”が”モントゴメリ”艦橋の横に取り付いた。

 

<こちら、”ヴァスコ・ダ・ガマ”所属のセシル・ノマ曹長ですぅ!ユージ・ムラマツ中佐からの意見具申を運んで参りましたぁ!>

 

「なんだと……!?」

 

何故救援に来たのかと問い詰めたくなるが、あちらもただ考え無しに助けにきたワケでは無いようだ。

ユージが考えたという作戦を聞いてみると、それを聞いた誰もが驚愕に染まっていく。本気でそんなことをやろうというのか!?

しかし、これに成功すればこの艦隊は無事に撤退することが出来るし、敵艦隊に大打撃を与える事も出来る。そして何より、迷っている時間も無い。

 

「いいだろう、乗ってやる。()()は?」

 

<『ブレイクスルー』ですぅ!それでは、貴艦の防衛を開始します!>

 

通信を終えると、すぐさま近くの”ジン”にライフルを撃ち込むセシル。彼女もまた”マウス隊”パイロットということなのか、その射撃は”ジン”を直撃し、また戦場に一つの花火を咲かせた。

 

「各艦に作戦を通達しろ!我々がやるべき事はただ一つ!耐えることだ!」

 

「了解!こちら”モントゴメリ”、”ロー”、”バーナード”に告げる、我々はこれより……」

 

「左舷、弾幕薄いぞ!」

 

コープマンの指示を聞き、各艦が通達された作戦に従って行動を開始していく。

戦場でもっともやってはいけないことは、棒立ちすること。次点で、躊躇することだ。上官の指揮に従うかどうかを悩んでいるよりも、ためらわずに実行する。それが理想の兵士というものだ。

何かを考えながら戦うなど、考える立場だったり考えられる人間に任せれば良い。

先遣艦隊は混乱状態から一転して、まとまって行動を開始した。

それはひとえに、生き残るために。

 

 

 

 

 

”ヴァスコ・ダ・ガマ”艦上 ”ストライク” コクピット

 

「なんで、僕だけ……!」

 

<君を何処に投入するかは、こちらで決める。まだ待機していてくれ>

 

ユージの淡々とした声を、もどかしく思いながら聞く。

キラは現在、エールストライカーを装備した”ストライク”に搭乗し、”ヴァスコ・ダ・ガマ”の艦上にて待機していた。その機動性を活かすため、とは聞いているが、皆戦っている中で自分だけそれを傍観しているような今の状況は、なんともじれったい。”ヴァスコ・ダ・ガマ”が作戦のために少し戦域から離れた場所にいることも、それを助長している。

別に戦いたい、殺したいというワケでは無い。無いのだが……。

 

『キラ様も、戦われるんですか?』

 

『だ、大丈夫よね?パパの船、やられたりしないわよね!?ね!』

 

出撃する前に出会った、二人の少女からの声が頭の中でこだまする。

彼女達はあの後”コロンブス”に移乗したから、戦闘に巻き込まれる可能性は低い。故に、心配しているのはそういうことではなかった。

サイから教えられたが、先遣艦隊の”モントゴメリ”という戦艦にはフレイの父が乗っているのだという。今まさに、(キラは知らないことだったが)フレイのたった一人の家族が命を落としてしまうかもしれないのだ。

しかし、”モントゴメリ”を守って戦うということは、またアスランと戦うということだ。戦域には既に”イージス”が確認されているという。親友と、そして同じコーディネイターと命を賭けて戦う。そして、命を奪う。

どっちも嫌だった。しかし、自分に何が出来るというのか。”アークエンジェル”は作戦の為に”ヴァスコ・ダ・ガマ”から離れていってしまった。

キラが一人葛藤していると、ユージが話しかけてくる。

 

<ずいぶん悩ましげだな、キラ君。戦うのは怖いか?>

 

「中佐……えっと、その、それはそうなんですけど……」

 

<……誰だってそうさ。怖い。人を殺すのも、人に殺されるのも。アイク達だって怖い筈だ。それでも、やらなければいけないから、やらなければ失うばかりだから戦うんだ。そうやって皆、覚悟を決めていく>

 

「僕は……」

 

<ああ、それとも>

 

ユージの口から紡がれた言葉を聞いた瞬間、キラは自分の心臓が止まったような感覚を覚えた。無論、実際に止まったワケでは無いのだが、それほどの衝撃を伴っていたのだ。

 

()()()()と戦うのが怖いのかね?>

 

それは、ユージが知る筈の無い名前。3年前に別れ、今は敵同士となってしまった友の名前。

誰にも教えていない筈の名前。

 

「なん……で」

 

<実は、”デュエル”や”バスター”には試作機としてデータ収集を円滑に進めるためにレコーダーが搭載されている。操縦したパイロットがどのような所見を得たかを記録しておくためにね。……当然“ストライク”にも積まれている。ラミアス大尉達は、状況の対処に手一杯で忘れていたようだがね>

 

つまり、自分が今まで戦っている最中にアスランと話していた内容は全て、彼に聞かれてしまっていたということだ。

キラは青ざめた。今更ながら、ZAFTの兵士と交友を持っていることが知られてしまったということは。

また、スパイだと疑われる要因になりかねないことに気付いたからだ。

 

「ぼ、僕は、その……」

 

<……辛かっただろうな。私は記録された内容でしか知らないが、それでも君とアスランの仲が良いものであることはわかる。成り行きとは言え、友人と戦うことは君にとってどれだけ苦痛だっただろう>

 

ユージの言葉を聞き、キラの心は少しばかり安らぎを得る。今まで、誰にも言えなかったこと。友人を守るために親友と戦う事になってしまったことに、同情してくれる人はユージが初めてだったのだ。

だが、とユージは目を厳しい物に変える。

 

<それでも、私は君に二つの選択肢を与えることしか出来ない。友と戦うか、先遣艦隊を見殺しにするかだ>

 

「……!?」

 

<あの敵艦隊に想像通りの人物が乗っているなら、君の力が無ければこの作戦は失敗するからだ。だが、私はそうだとしても君に問わなければならない。……君に、アスランを殺す覚悟はあるか?>

 

「アスランを……ころ、す?」

 

ユージの言葉が心を揺さぶる。

戦うということはアスランとまみえるということであって、戦わないということは今前線で戦っているアイク達や先遣艦隊を見捨てるということに他ならない。

 

<無いならば、私が君を投入することはない。”コロンブス”の護衛にでも回ってもらう。なに、アイク達の実力ならば敵MS隊を煙に巻くことは出来る。先遣艦隊は……わからんが>

 

「そ、そんな!」

 

今まで、自分の力があったから”アークエンジェル”が生き延びれた場面もあった。それだけの力があることは、客観的に自分を見ればわかることだ。アイザックも、戦闘データを見たあとに「君がいなかったら”アークエンジェル”は沈んでいた」と言ってくれた。

うぬぼれかもしれないが、『力』を持っている自分を遊ばせていて良いワケがない。

 

<それはそうだろう。戦場に出て行って、いざ友と相まみえると固まってしまう。銃を撃つでもなく、斬りかかる訳でもない。ただ、戦いたくないとわめきながらのらりくらりと躱すだけ……そんな人間を信じれるか?>

 

ユージの言うことは正論だ。だが、それだけにハッキリと決断するのをためらわせる。

アスランか、アイザック達か。

これまではアスランも本気ではなかったのだろう。キラを殺せる場面でも殺さずに連れ帰ろうとしたことからそれはわかる。

だが、この戦いはアスランだけでなく、他の多数の”ジン”とも戦うかもしれないのだ。そうなれば、流石にアスランでも自分への躊躇を捨ててくるかもしれない。そうなれば、今度こそ本気でアスランと戦わなければならなくなる。

だが……。

 

<私からは、二択を突きつけるしかない。もう一度言うぞ?アスランか、先遣艦隊か、だ。……そして、迷っている時間もない>

 

ユージの目には、ユージにしか見えないステータスが表示されている。

 

イージスガンダム

移動:7

索敵:A

限界:180%

耐久:300

運動:33

シールド装備

PS装甲

 

武装

ビームライフル:130 命中 75

バルカン:30 命中 50

ビームサーベル:180 命中 75

 

アスラン・ザラ(Cランク)

指揮 7 魅力 11

射撃 12 格闘 14

耐久 13 反応 13

SEED 3

 

正直、アイザックが互角に戦えているのは機体性能に開きがないことが大きな要因だ。そうでなければ、既にアイザックは撃破されてしまっているだろう。やはり、このままアスランを抑えておくにはキラの力が必要になってくる。今は、かろうじて互角を保てているだけなのだ。

そして、彼はやってくる。いつもいつも、ユージ達にとって最悪なタイミングで!

 

シグー(ビームライフル装備)

移動;7

索敵:C

限界:170%

耐久:90

運動:25

 

武装

ビームライフル:140 命中 65

重斬刀:75 命中 80

 

ラウ・ル・クルーゼ(Bランク)

指揮 12 魅力 6

射撃 14(+2) 格闘 14

耐久 4 反応 14(+2)

空間認識能力

 

本当に、人へ嫌がらせをする達人だと思う。

 

(頼むから、何かの間違いでくたばってくれないかな……)

 

クルーゼ、襲来。

少年の悩みが解決しない様を、嘲笑うかのように。




今回のサブタイトルは「覚悟」。タイトルに沿って、各陣営それぞれの心情をそれなりに書いてみました。
上手く書けてたかな……。

果たして、ユージの考案した作戦とは?”アークエンジェル”はどこにいったのか?
そして、キラの『覚悟』はどうなってしまうのか?
上手く筆が進めば、GW中にもう1話書けると思います。
それでは、また今度!
良きインドアGWライフを!

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

追記
次は「フルメタル・ジャケット」を見ます。

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