機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
セシル「でもでもぉ、1種類だけ他の皆さんが弱くならないゲームシリーズがあったんですよぉ!今でもプレイしてますぅ!『アー○ード・コア』ってシリーズなんですよぉ!今は最新作の『アー○ード・コア・へクス』が熱いですぅ!」

あらすじがあらすじになっていないが、無問題。
フロム・ソフトウェアばんざい。(新作はよ)


第34話「もくもく作戦って馬鹿らしいネーミングだけど、やることわかりやすいから1周回って良いネーミングセンスなんじゃないかなと思ってきた」

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“アークエンジェル” ”ヴァスコ・ダ・ガマ”間 戦闘突入前通信 

 

『今回の戦いにおいて、MS隊は囮にする』

 

『囮……ですか?』

 

『そうだ。ZAFTからしたらせっかく自分達に有利な状況に持ち込めたのだから、敗走ないし撤退は避けたいはずだ。連中の指揮官が臆病(ゆうしゅう)であれば話は別だが……。とにかく、自艦隊の艦砲射程圏で艦隊を待機させて、邪魔な直掩を排除してから砲撃で仕留める。それが理想的。MSでチマチマ削るより、そっちの方が効率的だ。だが、それをさせない』

 

『艦隊が砲撃を行えないように、敵MS隊を先遣艦隊に引きつけておくということですか?』

 

『その通りだ、バジルール少尉。いくらZAFTが個々人の能力頼りの民兵集団でも、味方を撃たないという当たり前の常識は持っている。ならば、撃てないようにすればいい。出来れば撃墜ではなく、敵の行動能力を奪うのが好ましい。いくら手足がもがれた役立たずのスクラップでも、その中には味方が入ってるわけだからな』

 

『パイロットが脱出したら、どうします?MSを回収するより、ビーコン出して近くの味方に生身で回収される方が楽ですよ?救助する側からしたら、ですが』

 

『この乱戦状態、いつ弾が飛んでくるかもわからない状態で外に出る確率は低いと思う。実際、君に出来るか?フラガ大尉』

 

『俺ならしませんね。そんなことをして危険度を増すくらいならコクピットで待機するか、いっそ投降します』

 

『だろう?……話が逸れたな。つまり敵としては、艦砲で仕留めたい、だが味方がいるから撃てないという状況まで持っていく。その隙にアークエンジェルは密かに敵艦隊の後方まで移動し、陽電子砲による奇襲を行なう。たしか、未だにZAFTには見せてないんだったな?』

 

『は、はい。使用したのは”ヘリオポリス”で隔壁を吹き飛ばした時くらいです』

 

『陽電子砲の威力であれば、命中すれば確実に敵艦を沈める事が出来る。そうでなくとも、敵艦隊に混乱を与えることが出来るはずだ。そして、一撃を与えた後に”アークエンジェル”は敵艦隊の間を通過して艦隊と合流、我々も”アークエンジェル”からの暗号を受信しだい行動を開始し、先遣艦隊を含む全戦力で()退()する』

 

『撤退ですか?』

 

『そうだ。作戦開始時には既に包囲され、態勢が整っていないであろう先遣艦隊を抱えながらでは敵艦隊を撤退にまで追い込むことは難しい。なら、敵に混乱をもたらしたその隙に撤退して態勢を整え直す方が有意義だ。こちらから仕掛ければ、艦隊戦では連合の砲が射程的に有利だしな』

 

『了解しました。しかし、”アークエンジェル”単艦で敵艦隊を突破、ですか……』

 

『不安か、ラミアス大尉?”アークエンジェル”のスペックはこの場で君が1番知っているはずだろう。それに』

 

 

 

 

 

『戦艦相手に、駆逐艦が護衛も無しに勝てるものか』

 

 

 

 

 

”ヴェサリウス”艦橋

 

「”ショーペンハウアー”、轟沈!敵艦からの陽電子砲です!」

 

「見ればわかる!」

 

アデスが必死に怒号を飛ばすが、それが何の意味もないのは明白であった。

敵艦はよりにもよって陽電子砲などという「対軍・対城兵器」を搭載し、それを我らにぶっ放してきたのだ!

”ヴェサリウス”はとっさに回避行動を命令したために無傷で済んだが、それが間に合わなかった”ローラシア”級”ショーペンハウアー”が陽電子の奔流に貫かれ、そのまま爆散する。

なんということだ!ZAFTに限らずこの時代の宇宙艦艇のほとんどは耐熱性能に優れた装甲を用いているのだが、それをものともせずに貫くあの威力!

 

「クソっ!全艦、敵艦に対し砲撃を開始!生きて返すな!」

 

しかし、陽電子砲という衝撃とそれによって生じた混乱によって艦隊の態勢は崩れ、反撃すらままならない。

驚愕の事実がまた一つ。運良く”ガモフ”が放った火線の一つが『足つき』の右舷に直撃したにも関わらず、無傷だったことである。

おそらく、連合の開発した新たな耐ビーム装甲の1種だ。あれでは集中して何発も撃ち込まなければ、有効打にすらなりはしない。

 

「敵艦、なおも本艦隊に向かって直進!速度、落ちません!」

 

「なんだと!?カミカゼのつもりか!?」

 

いや、そんなわけがない。あの艦は連合の新造艦であり、あれ以外に確認されたものはない。つまり、あれが正真正銘一番艦であり、連中にはそれを基地まで持って行く義務がある。絶対に、やぶれかぶれなどではない。

『足つき』は小さく、しかし鋭く回避運動をとりながら、なおも突き進んでくる。

進んでくる。進んでくる。進んで───。

 

「きたぁ!?か、回避だ!ぶつかる───!」

 

とっさの指示が間に合ったおかげで、”ヴェサリウス”はこれまた被害軽微で済んだ。

しかし最初の混乱から立ち直りきっていない上に、更に敵艦の『衝突も厭わない』暴挙によって混乱を上乗せされた他の艦はそうもいかなかった。

『足つき』の両舷に備わった主砲は、真横を向くことが出来る。しかし、ナスカ級には真横を向ける砲は存在しない。

“シュティルナー”の右側を陣取り、その火力を撃ち込む『足つき』。

超至近距離での主砲の発射と、対空機銃の乱射によって穴だらけにされた”シュティルナー”は貫通した傷痕から火花をわずかに散らせた後に、しめやかに爆散した。おそらく、動力炉か何かに直撃したのだろう。

『足つき』はそのまま艦隊とすれ違い、悠々と連合艦隊が存在する方向に向かっていく。土産にわざわざ、艦体後部に備わったレール砲をこちらに発射しながらだ。おっと、もう一つおまけと言わんばかりにミサイルも吐き出してきた。

 

「回避運動と同時にミサイルの迎撃!レール砲の射角は限られる、ミサイルの迎撃に力を注げ!」

 

『了解!』

 

こちらが必死に攻撃を捌いているというのに対し、『足つき』はなんと堂々とした逃げっぷりだろうか。

我らの攻撃を弾き、”ナスカ”級の装甲を容易に貫通する主砲を初めとした様々な攻撃オプション。そして、1艦に持たせるにしても強大な陽電子砲。それでいてMSを複数機運用可能ときた。

あれが、地球軍の本気か。我らが時代遅れと笑った『大艦巨砲主義』にふさわしい『火力と装甲』とMS運用を両立させるばかりか、そこに機動性まで持たせた『戦艦』。

あの艦に比べ、我々の艦のなんと惨めなことか。奇襲されたとはいえ、たった1艦にズタズタにされるなど。

これが正面からの打ち合いだったなら、話は違ったかもしれない。しかし、『たられば』をいくらしても”シュティルナー”と”ショーペンハウアー”が戻ってくるわけではない。

今の我々に許されるのは、敗北を認め、更なる敵の攻撃に備えて態勢を整えることしかないのだ。

幸いなのは、既に何機か撃破されているためにMSを艦の外側に係留する必要がないことくらい。

アデスは耐えきれず、叫んだ。残念なことに、彼には『自分自身の若さ故の過ち』とかを認めるだけの精神の土壌が出来上がっていなかったのだ。

 

「fucking 『with foot』!(『足つき』のクソッタレ!)」

 

 

 

 

 

 

先遣艦隊付近 

 

「あの光……陽電子砲か。なら、”アークエンジェル”はやってくれたのか!」

 

キラが”ストライク”で救援に来てくれたことで”イージス”のターゲットがそちらに向き、アイザックはビームライフルを装備した”シグー”と一対一での戦闘に持ち込むことに成功した。

”シグー”は味方の艦隊が攻撃されていることに気付いたのか何度も戦場を離脱しようとするが、その度に先ほどセシルに渡されたライフルを進行方向上に撃ち込むことでそれを妨害する。こちらの作戦は「艦対艦」に持ち込むことなのだから、ここで逃がすわけにはいかない。

それに、この敵は逃がしてはいけない。そんな予感があるのだ。今逃がしてしまったら、後に自分達に大きな災厄をもたらすような……。

 

「これで、どうだ!」

 

アイザック自身もよくわかっていない焦燥感に駆られ、ビームサーベルによる接近戦を挑む。

しかし”シグー”はそれをひらりと躱し、逆に蹴りを背中にたたき込んでくる。いくらこちらが連戦で疲れ切っているとはいえ、恐ろしい操縦技術だ。しかも右手に大ぶりなビームライフルを保持したままだというのに。

”デュエル”に乗っていながら、とアイザックは思ったが、それが無意識の慢心だということに気づき、かぶりを振る。

 

「『MSの性能の差は、戦力の決定的な差になり得ない』……隊長も、劾さんも言ってたじゃないか」

 

冷静になり、状況を整理する。

このまま戦っていても、当初の目的通りこの敵を引きつけておくことは出来るだろう。だが、みすみす敵の(おそらく)試作装備を手にした機体を逃がす気にもなれない。

そこで、アイザックは一つの作戦を立てた。

先ほどから何度も、敵は母艦の援護に戻ろうとする素振りを見せている。それをライフルで妨害してきたわけだが、流石に敵もライフルに対しての警戒にも慣れてきたことだろう。

アイザックの作戦は、弾切れを装って敵の警戒を解き、生まれた隙に”デュエル”の最大加速によって近接戦で一気に仕留めるというものだ。”シグー”も重斬刀を腰に備えているものの、あのビームライフルを捨ててとっさに抜くというのは難しいはずだ。

”デュエル”のエネルギー残量も少ない。チャンスは1回だけ。

 

「うまくやれよ、アイク……」

 

サーベルを振る。当たらない。

盾を構えて突進。避けられる。

イーゲルシュテルンで牽制。弾切れを引き起こすだけ。

こちらが何かを企んでいることを、相手に悟らせない。

そして、その時は来た。”シグー”がチラリと体を母艦の方へ向けたのだ。これ見よがしにライフルを向けるが、弾切れを起こしたようなモーションを取らせる。

それを見た”シグー”は、”デュエル”に完全に背を向けて母艦の方へ戻ろうとする。

 

(───ここだっ!)

 

アイザックは”デュエル”にライフルを捨てさせ、サーベルに持ち替えながら“シグー”に向かって全速で突撃した。

そこで驚くべき光景を目にする。

なんと”シグー”はこちらに瞬時に振り返り、ビームライフルを向けてきたのだ。まるで作戦がバレていたかのように……。

いや、”シグー”のパイロットは実際に見破っていたのだ。その上であえてこちらの作戦に引っかかったふりをしていたのだ。

現に、銃口の前には作戦が上手くいったと勘違いしたバカが一人。

 

「あっ……!」

 

アイザックは自分の失策を悟った。今の彼の目には、”シグー”のライフルに圧縮粒子が充填されていく様すら見える。文句なしの直撃コースだ。

人は不慮の事故などで死ぬ間際に、脳が生存するための策を見つけ出そうとして思考速度を上昇させるらしいが、無理なものは無理である(避けられない)

 

(こんなところで死ぬ?僕は、何も為せずに……)

 

ついには『走馬灯』と呼ばれるだろうものが頭を流れていく。

エドワードの笑顔。

モーガンの『やれやれ』といいたそうな顔。

レナのしかめっ面。だが、その奥にはたしかな優しさが含まれていることを知っている。

カシンの穏やかな顔。

そして。

 

 

 

 

 

『アイクさん』

 

 

 

 

 

「───!」

 

死ねるか。死ねるものか。

親を失った。故郷を失った。何もかもを失った。

それでも、手に入れられたものがある。失ったことで得られた、大切な仲間がいる。

彼らを、そして彼女を残して、一人だけで───!

 

「死ぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その瞬間、何かが弾けるような感覚と共に、先ほどよりもスローな世界に突入する。

銃口から今にも放たれようとしている粒子。コクピット内のあらゆる計器の示す数字。全てが止まっているような世界で、アイザックは自分の為すべきことを見いだした。

 

「……!」

 

ついに、”シグー”のビームライフルから熱線が放たれた。

アイザックはそれに対し、わずかに機体を逸らした。

結果、ビームが”デュエル”の脇腹をかすめて飛んでいく。ビームの熱がPS装甲の表面を焦がす。

しかし、それだけに止まった。

結果”デュエル”の前には、ビームライフルを発射して間もない無防備な”シグー”だけが残る。

その発射間隔、実に6秒超。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ビームサーベルが”シグー”を袈裟懸けに切ろうとする。今度は、こちらが直撃コースだ。

ここで、”シグー”も恐るべき反応速度を発揮する。なんと、ビームライフルを盾にしたのだ。

ライフルには”シグー”でも扱えるようにバッテリーが内蔵されている。それが切り裂かれたことで機器に火花が散り、結果小規模の爆発が起こる。

アイザックは冷静に盾を構えて衝撃を殺すが、”シグー”は間合いから離れてしまった。

これで、アイザックは”シグー”を撃破する手段を喪失した。

だが、()()()()

そもそもこの戦いの目的は目の前の強敵を前線に引きつけておくことであって、倒すことではない。あくまで、『倒せるなら倒しておきたい』というだけだ。

アイザックの目には、無事に敵艦隊を正面から突破した”アークエンジェル”の姿が。

そして、この戦い最後の1手を打つべく現れた”ヴァスコ・ダ・ガマ”の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

ここに至って、ラウ・ル・クルーゼは自軍の敗北を認識した。

マニュアル通りの攻撃を無駄に続けるパイロット(愚か者)、きちんと連携をすれば1部隊で十分に抑えることも出来る砲撃MSに対してあろうことか4人がかりで挑む隊長格(かけ算の出来ない愚か者)、5隻も集まっていながら後方に回り込んでいた敵艦に気付かない母艦のスタッフ(数だけの愚か者)

これが本来の目的通りにクライン嬢の捜索だけであったなら、いや、相手が”マウス隊”でなければ、おそらくこちらが勝利を手にすることも出来ていただろう。

しかし現実はこの有様。比較的頼りになるアスランでさえ、親友である『キラ』が乗っているという”ストライク”に抑えられている始末。余談だが、この時点でのラウはまだアスランの言う『キラ』が忌まわしい『キラ・ヤマト』であることを知らない。

虎の子のビームライフルを奪い去った目の前の機体にも驚かされる。あの1射は確実にコクピットに直撃するはずだった。それをかすり傷に抑えた挙げ句に反撃まで加えてくるとは!

このままでは、自分の望む『終末に進む戦争』など夢のまた夢。大局的に見て、もはやZAFTに後が無いのは明白であった。

考えるべきことは多いが、今は目の前の強敵をなんとかしなければならない。残っている武装は既に無力な重斬刀(PS装甲に無力化される)のみ。敵のバッテリーの残量が気になるところではあるが……。

そこまで考えたところで、モニターがこの宙域に近づいてくる何かを映し出す。それは、1隻の艦艇。

連合の”ドレイク”級ミサイル護衛艦であった。

 

「今更、何をしに来たと……!?」

 

ラウの疑問に答えるかのように、敵艦の艦首から数発のミサイルが打ち出される。それはZAFT艦隊ではなく、敵味方関係なく入り乱れるこの場所に向かって飛んできていた。味方がいるにも関わらず撃ってくるのか!?

しかし、ミサイルから煙が吹き出してきたことでラウは敵の目論見を悟った。加えて、新たに現れた敵艦の姿を認めてから敵艦隊が揃って方向転換を始めたことが決め手となった。

 

「これはまさか……!」

 

煙幕から逃れるために各々の方向に逃げ出すMS隊。ラウは一足早く煙幕から抜け出すことに成功したが、そこで自身の予想が正しかったことが証明された。

なんと、MSもMAも艦も、敵と呼べる全てがまとまって一方向に向かって全速で逃げていくではないか!ちゃっかり、そこに『足つき』と先ほど戦場に現れた”ドレイク”級も合流している。

敵は、最初からこちらを倒すことなど考えていなかったのだ。

元々ラウが攻撃を決意したのは、艦隊と『足つき』がバラバラで行動していたからだ。合流される前に片方を仕留めてしまうつもりだった。混戦状態も、面倒ではあったが態勢を立て直しづらいのは敵も同じと考えていたために歓迎さえしていた。

敵は戦闘を無理矢理中断させることで混沌とした戦場をリセットし、態勢を整えた。『足つき』という埒外の特化戦力の存在もあったが、それを含めても見事な手腕であったとしか言いようがない。

そして1方向に逃げ出した敵をまとめて砲撃しようにも、肝心の艦隊は半壊状態。

こちらは2隻の艦と多数のMSを喪失し、残存したものであっても追撃に参加出来るのは”ヴェサリウス”と両手の指で数えきれるくらいのMSばかり。そして、正面からの打ち合いでは数で劣るこちらに不利。

ぐうの音もでない完敗だ。

自らの失態を晒すことにもなるが、そのことを無視してでもこの負けをZAFTに記憶させておく必要がある。

ラウは本国に帰り次第、この戦闘の詳細を報告することを決めた。

 

「いや、なんとしてもあの時、君たちを潰しておく必要があったということかな?ネズミの諸君……」

 

 

 

 

 

「そんなバカな……!」

 

アスランは現実を認めることが出来ないでいた。

それもそうだ。いったい誰が、この結末を予想できたというのだ?ラウであっても、予想出来なかったはずだ。出来ていたなら、そもそも攻撃自体していない。

何がいけなかったのだろう。指揮官がこぞって敵の砲撃MSを対処しに向かっていってしまったこと?ラウと組んでも青いMSを仕留められ無かった自分?『足つき』による奇襲をみすみす許した味方艦隊?

それとも。

 

<アスラン!>

 

「くっ……キラ!」

 

目の前で何度も立ち塞がる、親友だろうか。

彼がいきなり戦場に乱入してきた時は、まだキラが戦争に参加していることに憤った。パイロット不足に悩まされた連合の、強制徴兵か何かによって戦わされているのだろうと思っていた。”マウス隊”と合流したと聞いてからは、新兵だろうキラが“ストライク”から下ろされているのではないか、と淡い希望を持ってさえいた。

にも関わらず、彼はまた戦場に現れた。

おそらく、また連合に無理矢理”ストライク”に乗せられたに違いない。そうでなければ、優しいキラがこうして戦いに出てくることなどありえるものか!

実際に戦い方からもそれがうかがえる。キラは一切攻撃を行なわず、ひたすらにこちらの攻撃を防ぎ、いなし、躱すだけ。そしてこちらが焦れて他の敵をターゲットすれば、それを妨害するために体当たりをしてくる。せめて一矢報いんと”イージス”をMA形態に変形させて高出力ビーム砲スキュラを放とうとしたが、それすらも妨害された。

その動きが今までの『覚束なさと鋭さが混在した』動きではなく、迷い無く機敏な動きであったことは少しばかり疑問であったが、少なくとも誰かを害しようと考えた行動は一切採らなかった。それこそ、キラがキラである証明だ。

 

「キラ、なぜ出てくる!”マウス隊”と合流したなら、なぜお前が!」

 

<アスラン!僕はただ、助けられる人を助けたいだけなんだ!君こそ、なんでこんな風に戦えるんだ!?>

 

「ナチュラルが核など使うから……!」

 

<ZAFTだって、エイプリルフール・クライシスを引き起こしたじゃないか!>

 

それを聞いて、アスランはハッとなる。

たしかに、プラントは20万を超す同胞を失った。しかしアスランは、『エイプリルフール・クライシス』で10億を超える人間が死亡したことも知っていた。知った当時はアカデミーでひたすら戦う能力を磨いていたために気にしないでいたが、戦場に慣れてきてしまった今だからこそわかる。

ZAFTは、自分達よりもずっとたくさんの人間を殺しているのだ。

目を背けていた事実を突きつけられて、動揺するアスラン。

 

<……もうやめよう、アスラン。たしかに、『血のバレンタイン』は許しちゃいけないことだよ。だけど、だからって戦争をしていいわけがない。人を殺していいわけがない>

 

「俺は……いや、だが!」

 

アスランは必死に言い返そうとするが何人もの親を殺された子供(自分自身)を生み出し続けている事実を否定出来ない。

戦士の殻で覆っていたアスランの心に、かすかにヒビが入る。

 

<こんなこと、レノアさんだって望んでいないよ……>

 

その言葉を聞いてアスランが覚えたのは。

()()()()だった。

 

「ふざけるな!お前に母上の何がわかる!」

 

たしかに母、レノア・ザラは戦争を望むような人間ではなかった。いつかコーディネイターが認められる日が来ると考えて自分に出来ることをこなす、尊敬出来る人だった。

だからこそ、連合を許すことなど出来るはずもなかった。

たとえプラントが独自の農業用コロニーを持つことが間違っていたとしても、それを核という絶対悪で無慈悲に踏み潰すことが許されて良いはずがない!

民間人ごとコロニーを消し飛ばすような暴挙を許せるものか!

 

「殺されたから殺す、それが間違いなことくらいわかってる!それなら俺の、俺達のこの怒りはどうすればいいんだ!泣き寝入りをしろ、ずっと核の恐怖におびえ続けろと言いたいのか!」

 

<アスラン、僕は───>

 

<アスラン、撤退だ。これ以上の戦闘に意味はない>

 

キラの言葉を遮るようにラウの言葉が届く。冷静に状況をチェックしてみると、既に敵はキラ以外が撤退を完了しており、味方もほとんどが帰還している。

このままいては、キラの撤退支援のために敵が一部引き返してくる可能性もある。

先ほどのキラの言葉は聞き逃せなかったが、それでも自分に戦って欲しくないという思いがあった言葉だということも冷えた頭が教えてくれた。

 

「っく、キラ!次会った時はもう手加減出来ない!今回が最後だ、MSからは降りろ。次戦場で会ったなら俺は……お前を撃たなければならない!」

 

<アスラン!>

 

「いいな!?」

 

それだけ残して、アスランは“ヴェサリウス”に撤退し始めた。モニターに映る”ストライク”はしばしその場に佇むが、やがて『足つき』の方に向かっていった。

どんどん遠ざかっていく二人。近づけるのは戦場だけ。

アスランはどうしようもなく悲しくなった。

母を殺された怒りを収めることなど出来はしない。だがそのために、昔から変わらぬ優しさを見せる親友と殺し合う。

当初抱えていた『正義』は、どこにいってしまったのか?

求めていた『自由』は、どこまで進めば手に入れられるのか?

わからない……。

 

 

 

 

 

”ヴァスコ・ダ・ガマ” 艦橋

 

「”ストライク”、”アークエンジェル”に着艦しました!」

 

リサの報告を聞いて、ユージは背もたれに体重を掛ける。

”ロー”が沈んでしまったことは残念だが、残存艦隊を救援し、合流することに成功したのだ。それも、自分の部下やキラ、”アークエンジェル”のスタッフを失うこと無くである。紛れもない大戦果だ。

あとは敵がこちらをトレースしてくるかどうかであった。そのままこちらから離れてくるなら良し、追撃して改めて戦闘に持ち込もうとしたなら、あらためて作戦をコープマンらと考える必要がある。

果たしてモニターに映るZAFT艦隊は。艦橋にいる全員が固唾を飲んで注視する。

───敵艦隊は、こちらとはまったく別の方向に進んでいった。

 

「敵艦隊、方向転換。こちらに追撃してくる様子は見られません」

 

「と、いうことは……」

 

一拍の後に、艦橋は歓喜で満たされた。おそらく、他の艦でも同じだろう。

 

「やーりまーしたー」

 

「はっはっはぁ!見たか腐れ民兵ども!艦隊戦の年期が違うんだよ、年期がぁ!」

 

「皆さん、無事で良かったです。最近はアイ×キラという新たな可能性が生まれていたこともありますし(ボソッ)」

 

「我ながら、見事な急角カーブを決められたものです。ボーナスは期待して良いですかね?」

 

各員が思い思いの言葉を発する中、ユージは無言で、モニターに映る敵艦隊に対し。

笑みを浮かべながら、中指を立てた。これほど勤務時間中にこのような行動をとるということは、ご満悦といったところか。艦橋メンバーはそう判断した。

そしてユージの内心は。

 

(ざまぁ見晒せ、クソッタレの変態仮面が。お前の思い通りになどさせるものかよ)

 

二度の屈辱を味あわせられた怨敵に対し、勝ち誇っていた。

セシルによる越権行為の問題もあったが、それは後から考えればいい。考えられる。

今はただ、この喜びをかみしめよう。

 

(思わぬ収穫もあったしな……)

 

 

 

 

 

アイザック・ヒューイ(Aランク)

指揮 6 魅力 12

射撃 13(+2) 格闘 14

耐久 9 反応 11(+2)

SEED 2

 

セシル・ノマ(Bランク)

指揮 13 魅力 8

射撃 11 格闘 4

耐久 6 反応 14

 

キラ・ヤマト(Cランク)

指揮 3 魅力 11

射撃 14(+2) 格闘 12

耐久 9 反応 14(+2)

SEED 4

 

 




あー、疲れた!
これにて、先遣艦隊合流戦終了です!

SEEDに覚醒したアイクとキラですが、これはステータスの通常の数値に加えて()内の数字がボーナスとして加算されるという「ギレンの野望」お馴染みのステータスです。覚醒したランクから1ランク上がるごとに、()内の数値も上昇するという仕組みですね。アイクは次で最大成長のSランクになるのですが、それで()内数値は(+4)になりますし、キラがSランクまで成長した時には(+8)になります。
Aランクの軍人、しかも現役のエースパイロットとCランク時点で数値上はほぼ同等とか、なろう主人公か何かかな?

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております!

カウント、5

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