機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
連合・ZAFT「ひゃっはー!汚物は焼滅だぁ!」←誤字ではない

現在、2chで連載されてる某ダイス作品の中に、「アグニバイク」なるものがあったんですよ。
それを見て、ティンときましたね。

この作品に足りないものは!それは!
情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!
そして、何よりも!

火 力 が 足 り な い !



第40話「第2次ビクトリア攻防戦」その2

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ZAFT軍「ビクトリア基地攻略前線」

 

「ZAFTに入るんじゃなかった……」

 

クライド・ファッシルはただのZAFT軍兵士である。

他の多数のZAFT兵士と違うところがあるとすれば、別にナチュラルのことを見下しているわけではないということくらい。といっても、それは差別を否定しているわけではなく、「どうでもいい」と思っているだけなのだが。ZAFTには、親や友人達が連合との戦争に乗り気であり、志願しなければいけないと思わせる「無意識な同調圧力」に影響されて入った。

そんな彼だが、今猛烈に殴りたい人物がいる。

パトリック・ザラである。

プラント最高評議会の一員であり、もっぱら軍事面ではトップといっても良い人物である。

何故、彼はパトリックを殴りたいと考えているのか?その理由は、彼が作戦前に実施した演説にある。

 

「なーにが『地上支援の態勢が整った今、脆弱なるナチュラルどもなど鎧袖一触!』だよ。今すぐ前線に来てみやがれってんだ」

 

彼は今、“バクゥ”に乗って前線で戦っている。与えられたコードネームは、『スペード5-2』。だが、そのコードはもはや半分意味を為していない。───彼以外の隊員は既に全滅しているからだ。

 

「───っ!やべっ!」

 

無限軌道を用いて高速機動させていた乗機を、咄嗟に4足歩行モードに切り替えてジャンプさせる。一瞬後に、”バクゥ”が走っていた場所を凄まじい熱線が通り過ぎていく。判断があと0.5秒遅ければ、”バクゥ”はあれに巻き込まれて消滅していたことだろう。

熱線が飛んできた方向を見れば、そこには連合のMS3機と、MSの全高と同等のサイズの大砲が存在していた。

昨日までは戦場で見かけることはなかったが、もしあの砲台の戦線投入が早まっていれば自分がここにいたかどうかも怪しいとクライドは思う。

いったい、何機のMSと何人の歩兵があの砲台に焼かれたのだろうか。というか、なんなのだあれは。

リニアガン・タンクの砲塔部分を取っ払って、別の大砲をくっつけたみたいな()()()()感漂う珍兵器ではあるが、その威力は本物だ───!

 

「うおっ!ちくしょう、当たり前だけど、ゆっくり考えさせてなんかくれないよなぁ!?」

 

敵の隠し球の正体について考えを巡らせるが、敵はお構いなしに熱線を撃ち込んでくる。

敵の正体など、後からいくらでも考えればいい。今は生き残ることに集中しなければ───!

クライドは、乗機のレールガンを敵部隊に向けた。

 

「この戦いが終わったら俺、絶対に除隊してやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

クライド・ファッシルはこの戦闘に生き残り、苛烈な戦闘を生き残った勇士『ビクトリア・サバイバー』の1人として勲章を授与されることになる。

しかし、この戦闘を機に退役なり後方勤務なりして前線から離れようと考えていた彼だったが、「エースパイロットの一人」として積極的に最前線に向かわされるようになった。

しかもその度に戦果を挙げてくる(生き延びるために必死に戦っているだけ)ので、最前線の次は別の最前線に飛ばされるという負のスパイラルに巻き込まれるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

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ビクトリア基地 司令部

 

「第2防衛ライン、侵攻率60%!これ以上は危険です!」

 

「E-26地点に敵部隊が侵攻してきました!想定よりも早い……!」

 

「第43歩兵部隊との連絡、途絶!」

 

なるほど、負け戦とはこういうものか。ビクトリア基地司令ブリット・ニエレレ中将はこの基地の陥落が遠い物ではないことを悟った。

彼は前回の基地への攻撃時から司令を務めている老齢の黒人男性であり、守りの戦いに関しては様々な勢力で評価されている優秀な軍人である。また、南アフリカ統一機構の中では珍しく1等兵から中将まで昇進してきた希有な人物であり、多くの兵達から尊敬されている。

そんな彼であっても、此度の戦いは「負け戦」であると断じられるものであった。

彼はZAFTが再びビクトリア基地への攻撃を企てているということを事前に察知して準備を進めてきたのだが、事態が好転する兆しは見えなかった。

最初の一戦で出来る限り敵を消耗させることで侵攻を遅らせる試みは成功したはずだった。そう、()()()()()

確認出来ただけでも百機を超える数のMSと相当数の歩兵を撃破することに成功したし、その後の各エリアでの歩兵による遅滞戦闘も、概ね成功していたはずだった。

しかし、敵の勢いが弱まることはなかった。むしろ、戦闘開始時よりも勢いが強まっているのではないかと錯覚するほどにZAFTの攻撃は苛烈だった。報告では、民兵が戦闘に参加しているとさえ聞いた。

 

「まさか、な……」

 

「報告!ケープタウンから発進した我が方の援軍はディエゴガルシアより発進した敵艦隊からの妨害を受けており、突破は困難とのことです!」

 

「なにぃっ!?」

 

今度ばかりは、ブリットにも想像することは出来なかった。

インド洋チャゴス諸島。その中に存在するディエゴガルシア島には、一つの海軍基地があった。

かつてアメリカ合衆国のインド洋における一大拠点として生まれ、地球連合発足後には連合の拠点として存在していたこの基地であったが、今ではZAFTに占領されて拠点として使われてしまっている。そこから来た艦隊が、希望の芽を潰しに掛かっているのだという。

 

「連中はどれだけの戦力をこの基地の攻略に費やしているというのだ!ジブラルタルどころかカーペンタリアからもかき集めてきたとでもいうのか!?」

 

まさか、あのような急造品まで戦線に投入することになるとは。

ここでいう急造品とは、ビクトリア基地が投入した移動砲台のことである。

現在連合軍の各地上拠点では、来たる大反攻作戦のために制式量産型MSのパーツ生産が行なわれている。ビクトリア基地の工場では生産は担当していなかったが、一部のデータを流用して開発したのがあの砲台だ。

たしか元になった兵器は、『320mm超高インパルス砲「アグニ」』というんだったか。

いずれは砲撃MS用の武装になるという装備を急遽100ほど生産し、リニアガン・タンクの車両部分を台座として移動砲台代わりにしているというわけだ。

敵が固まって侵攻するのを防いではいるが、それも時間の問題だ。消耗した分を超える数で襲い来るZAFTは、いったいどんなマジックを使ったというのか。

ブリットの疑問を解消したのは、次に通信士から届けられた報告だった。

 

「これは……司令!第16観測部隊から報告!ZAFT軍艦艇が、スエズ並びに()()()()より出港したのを確認したとのことです!」

 

「オマーン!?バカな、あそこは……くっくくく、そういうことか。はははっ!」

 

「し、司令?」

 

「やられた……。してやられたのだな、我らは!」

 

突如笑い出した司令を見て怪訝そうにする司令部内の兵達だったが、次にブリットから放たれた言葉には全員が驚愕することになる。

 

()()()()()()()だ。連中、あそこから兵員を調達してきたと見える」

 

「そんな!あそこはたしかに親プラント国ではありますが、中立の姿勢を取っていたはずです!」

 

汎ムスリム会議。アラビア半島を初めとするイスラム系国家による連合国家の一つであり、親プラント国と呼ばれる勢力の一つでもある。他に親プラント国と言えば、ZAFTへカーペンタリア基地のための土地を提供している『大洋州連合』が挙げられる。

地上にNジャマーが投下された後にシーゲル・クラインからの積極的中立勧告を受けてプラントと交易を行なうようになったかの国は、そのためにZAFT寄りの国家として見られていた。

だが、いくらZAFT寄りといってもあくまで『中立』を謳っていたからこそ、戦火に巻き込まれることは避けられていたのだ。平穏を手放してまで、連合と戦うだろうか。

 

「連中からしたら、ZAFTが勝つ見込みがあったからこそ勧告を受け入れたんだ。そうでなかったら、戦後連合から報復を受けるかもしれないのに受け入れるものか。しかし、先日のカオシュン攻防戦でZAFTは敗北した。それも言い訳出来ないくらいにな。それを見た親プラント国の連中はどう思う?」

 

「どう……とは」

 

「『このままだと連合がZAFTに勝ってしまうかもしれない。そうなれば()()()()だ』。私ならそう考える。南米が良い例だ。勧告を受け入れた途端に大西洋連邦に侵攻された。同じようにプラントに与した国家を、連合が許しておくと思うか?」

 

「それは……」

 

あり得ないだろう。敵対勢力を支援していた国家など、見逃しておくはずがない。特に、カーペンタリア基地という直接的な形で支援している大洋州連合も、戦後は必ず報復を受けることになる。

 

「更に言えば今から連合に鞍替えしようにも、プラントからのエネルギー輸出を絶たれれば遅れてエイプリルフール・クライシスが襲いかかるだけだ。……この分だと、ディエゴガルシアからの艦隊にも大洋州連合の艦が混ざっているかもしれんな。民兵の姿があったというが、おそらくアフリカ共同体の連中だろう。……くくく、本当にやってくれる」

 

「し、司令……?」

 

一度俯いた司令が顔を上げた時、誰かが声にならない悲鳴を上げた。その顔が、鬼ですら泣いて逃げ出すのではと思うほど憤怒に染まっていたからだ。

今まで、基地司令のそのような顔を見たことはなかった。

 

「カンガルーの腹で育ったクソ共と、石油飲んで育ったカス共!そして、都合良く利用されていることにも気付かんガキ共が!なんとしてもこの情報を連合全体へ知らせるのだ!奴らは地球を裏切った、とな!───目に物を、見せてくれるわぁ!」

 

『了解っ!』

 

司令の鬼気迫る表情に圧せられたことで、先ほどよりも重い緊張が司令部内を支配する。

これからはZAFTだけでなく、同じ地球に住む者とも戦わなければならない。まだ憶測ではあるが、そのことがプレッシャーとなっているのは明らかであった。

しかし、いくら基地司令が奮い立ったところで現状が良くなるかと言うとそうではない。むしろ、悪化しているかもしれなかった。

追い打ちを掛けるように、司令部にある報告が届けられた。

 

「第76MS部隊からの通信が途絶しました!」

 

「くそっ、また一つやられたか……」

 

 

 

 

 

同時刻

ビクトリア基地 第2防衛ライン

 

「うそ、だろ……」

 

ビクトリア基地所属第77MS小隊の隊長、ロン・ニミダ中尉は目の前の光景を信じることが出来なかった。

自身の操縦するものも含めた4機の”陸戦型テスター”がこの場所に駆けつけた時には既に、先ほどまでこの場所で戦っていた味方の姿はどこにもなく、代わりにその場所に生まれていたのは、今までに見たことがない規模の弾着痕であった。周囲には、第76MS小隊のものと思われるMSの残骸が散らばっている。

敵陸上戦艦の姿は近くに見えないことから、戦艦の砲撃によるものではないことがうかがい知れた。しかし戦艦の砲撃でないというなら、いったい何がこの威力を発揮したというのか。

ロンが呆然としていると、部隊全体が大きな衝撃に襲われる。幸いなことに直撃した者はいないようだが、相当な衝撃だ。

そしてこの衝撃を、ロンは知っていた。その脅威を知っている分、謎の砲撃よりも明確に脅威を感じた。

 

「“フェンリル”だ、ちくしょう!総員、回避運動を取りながら後退するぞ!あんなのに当たったらひとたまりもない!」

 

<<<了解!>>>

 

一月ほど前から、アフリカ戦線では奇妙な兵器の姿が確認されるようになった。『ZMT-1 ”フェンリル”』。それがあの兵器の名前らしい。

”レセップス”級の主砲と同程度の砲を備え、かつ半端な威力の攻撃を通さない装甲を兼ね備えた『モビルタンク』らしいのだが、これが厄介極まりない。というのもあれは火力支援だけでなく、戦線の維持にも一役買っているところがあるのだ。

”フェンリル”は車体後部にコンテナを牽引しているのが常であることがわかっているが、この戦闘ではなんとMS用の予備弾薬や武装をコンテナに搭載して運ばせているらしい。

その様子を確認したMS部隊が直後に壊滅してしまったことで『らしい』止まりの情報ではあったが、この戦闘における敵MS1機当たりの場持ちの良さ、要するに継戦能力の異常な高さを鑑みれば、その情報が正しいものであることは明白だった。

つまり、”フェンリル”を火力支援兼簡易補給部隊として運用しているのだ。マルチタスクにも程があるだろうと思うが、戦艦の主砲が素早く移動しながら砲撃し、ついでにMSに弾薬を補給していくというのは相手にしてみると厄介極まりない。

優先的にターゲットしようにも、直進速度だけなら”バクゥ”に並ぶ『重装甲お化け』が簡単に沈む筈も無く、”フェンリル”に時間を取られれば敵のMS部隊が駆けつけてくる始末。

 

「ああクソ、何が”フェンリル”だ!いつか蹴飛ばしてやるからな駄犬が!」

 

今のロンには、悪態をつきながら逃げることしか出来なかった。

いつの世も、一方的に相手を殴れる側が(間接攻撃は)正義なのである。

 

 

 

 

 

ビクトリア基地 司令部

 

「観測データ、届きました!第76MS小隊は全滅、小隊が展開していた場所には砲撃痕が存在していたとのことです!この威力は……信じられない、推定30in(インチ)(約760mm)オーバー!」

 

「30だと!?何かの間違いじゃないのか?」

 

ブリットとしては、間違いであって欲しいというのが正解だ。”レセップス”の主砲でさえ16in(約400mm)である。となると、ZAFTはそれを上回る口径の砲を実戦に投入していることになる。

もしや、ZAFTの新兵器───?それなら、早急に正体を確かめなければなるまい。

 

「攻撃の正体はなんだ?爆撃か、砲撃か?」

 

「弾着痕も確認出来ているので、砲撃であることはほぼ間違いないかと」

 

「よし、ならば第41、42MS小隊を調査に当たらせろ。もしもこの砲撃が戦線各所で連続して行なわれるならば、戦線の維持どころではない」

 

「了解!」

 

まったく連中は、と内心でZAFTに悪態をつくブリット。

MSに始まりNジャマー、果てには”バクゥ”とあの手この手で連合を追い込んでくることに定評があったものだが、純粋に威力だけでこちらを恐れさせる兵器まで作り上げているとは。

 

「発想力という点では、奴らに勝てないのかもしれんな……」

 

 

 

 

 

ビクトリア基地攻略用臨時拠点 ”レセップス” 艦橋

 

「しかし、よくあんなもの使う気になりましたね?」

 

「おいおい、あんなもの呼ばわりとは。あれも、本国の技術者の皆さんがせっせと作り上げたものなんだよ?」

 

「その技術者からも、『使い潰していい』と言われているではないですか……」

 

「だから、『丁寧に』使い潰してるんだよ」

 

表では呆れた様子を見せているが、マーチン・ダコスタは改めて目の前の男の能力・発想に対して畏怖した。

アンドリュー・バルトフェルド。『砂漠の虎』と呼ばれる優秀なZAFTの指揮官であり、本作戦における指揮官の一人として参加している彼だったが、連合が持ち出してきた”アグニ砲台”への対処として、他の誰もが放置してきた兵器の使用を提案した。

 

「”810㎜迫撃砲”なんて、余りにもナンセンスではありませんか?わざわざMSを4機動員して運んでも、1発撃つごとに弾を手込めで装填する必要がありますし……」

 

そう、それが連合のMS部隊を「消滅」させた砲撃の正体であった。

”810mm迫撃砲”。C.E以前から使われていた歩兵用の”L16 81mm 迫撃砲”の砲口径をそのまま10倍にしたものであり、MS隊の火力向上を目指してZAFT技術者が開発した兵器だった。

その威力は、敵砲台の排除どころか周辺のMSもまとめて吹き飛ばしたことで証明されている。

兵士達や技術者からは『わざわざMS数機に運ばせるだけでなく組み立てさせるくらいなら、戦艦に搭載した方が良いのではないか』という意見も出ていたが、MSの活躍にこだわる上層部の強硬的な意見によって開発された代物であった。

六つほど製造されたこれらの兵器は、地上での試験で『概ね』想定通りの性能を発揮した。概ねという形容詞が付けられたのは、ZAFTのMSが未だ人体と同等の手際で砲を運用することが出来なかったことが原因である。

『MSは歩兵の延長線上にある兵器とする意見もあるが、現在の我が軍のMSは人体ほど精巧には出来ていない(動けない)』と試験を見ていた技術者が言っていたのが印象的だ。

 

「だが、威力と有効射程は十分だっただろう?必要なのは、『敵砲台を手っ取り早く潰すための火力と射程』。ほら、ピッタリじゃないか」

 

そう言いながら、テーブルの上に置かれたインスタントコーヒーを飲むバルトフェルド。

普段は自分で豆を挽いてオリジナルブレンドのコーヒーを作っている彼だが、現在のように大規模戦の時にはインスタントコーヒーを飲んでいる。

本人曰く「そっちの方が気が引き締まる」というが、端からは普段と変わらない飄々とした態度であるため効果があるのかはわからない。

 

「それにしても『実物を発射現場に放置する』のはまずいのではありませんか?」

 

更にバルトフェルドは、連合に対してある仕掛けを残していた。それは、打ち終わった迫撃砲本体をその場に残していくというものだった。

敵に情報を与えるような行為だが、それが有効に働くのだという。

 

「ぜーんぜん?あちらとしては迫撃砲の正体を知ったことで、これからはMS小隊一つに対する警戒度をさらに引き上げなければならない。そうして薄くなった防衛線では、着々と侵攻を進めているこちらの陸上艦隊を止められない。今頃あちらは、どこにどう戦力を配置すればいいかで喧々囂々(けんけんごうごう)といったところじゃないかな」

 

そして、とバルトフェルドは続ける。

 

「あのような装備は、僕たちのようにMS偏重の戦法を採る組織だからこそ採用されるものだ。連合に渡したところで粗大ゴミ扱いされるのがオチさ。仮にあちらがこれの対策を講じても、そもそもZAFTからしても常用化する気はない。あちらはリソースを無駄遣いすることになる」

 

まあ、問題がまったくないわけではないがねと締めくくり、コーヒーをすするバルトフェルド。

やってることは単純なのに、そこにいくつもの企みを潜ませている。

ダコスタは改めて、バルトフェルドの指揮下で戦えることに安心した。───この男の下でなら、どんな敵にだって勝てるだろうと。

 

 

 

 

 

2/12

ビクトリア基地周辺 ZAFT軍臨時拠点

 

時刻は既に深夜になっているが、砲声が止むことはない。今もどこかで誰かが死んでいる。

だからこそ、こうして補給を受けられている時間は大切なのだと思う。一息付けるだけでもだいぶ、心が落ち着かせることが出来るからだ。”ジン・オーカー”のコクピット内で若い男性兵士をそう思った。

この作戦の肝は、親プラント国からも兵士を動員することで一気に戦力を集結させ、短期間でビクトリア基地を陥落させる「短期決戦」にこそある。

今のところ作戦は順調だ。歩兵の不足はアフリカ共同体からかき集めた民兵で補い、海上からの援軍はディエゴガルシアに集結したZAFT・大洋州連合の混成艦隊が迎撃する。

そして、自分も含めた汎ムスリム会議に所属する兵士はMSのパイロットなどやらされている。運良くここまで生き残れてはいるが、やっぱりこんな機体で戦わされるのは嫌だ。

彼が今乗っているのは”ジン・オーカー”ではあるのだが、搭載されているOSは通常のものと異なる。

ZAFTが手に入れた”テスター”のOSを解析して、”ジン”タイプに搭載した”ジン-モンキーモデル”とでも言うべき機体が、今彼の乗っている機体だ。

ナチュラルの自分でもMSを動かせるというのは魅力的だが、それにしたってこんな風に中立の立場を取っていた自分達を動かさないで欲しい。ピンチになった途端にこちらを巻き込むなど……。

男性兵士は若さ故の未熟さから、そう短絡的に結論を出した。

彼は知らない。『親プラント』の立場を取った時点で、既に地球連合は報復を検討していることなど。

そして、ZAFTからの戦争協力を断った場合、プラントからのエネルギー供与が無くなってしまうことを。

彼ら『親プラント国』はシーゲル・クラインによる『積極的中立勧告』を受け入れたことで、エイプリルフール・クライシスの影響を最低限に防ぐことが出来ていた。

それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということでもあるのだ。

連合が勝てば報復され、プラントからのエネルギー供給が無ければ運営出来なくなる。

ZAFTから「戦え」と言われれば、もはやそれを断る道はない。彼らが生き残る道は、もはや「ZAFTが勝つ」ことでしか残されていない。

だから、参戦した。たとえ、それが自国の兵士をZAFTの盾にしているのだと理解していても。

そして当然、その決断の代償は血によって贖われることとなる。

 

「な、なんだこれ……?」

 

いきなりコクピット内に響いてくるピアノの音に、驚嘆(びっくり)する兵士。どうやら、あらゆる周波数に無理矢理割り込んで流されているようだ。よく聞けば、

兵士には聞き覚えのない音楽であったが、その拠点に務めていたコーディネイターの兵士の何人かには聞き覚えのある曲であった。この、揺るぎようのない荘厳な音楽。

たしか、ショスタコーヴィチの曲であったはず。曲名は───。

拠点に榴弾が撃ち込まれたのは、その曲が流れ始めて10秒も経っていない時のことであった。

 

урааааааааа!

 

拠点内の悲鳴と怒号の二重奏は、たちまち突入してきた兵士達の雄叫びによって押しつぶされていく。

突入してきた兵士達は目に付いたZAFT兵士や民兵、いや、ここまで言ったら自分達以外の全てに対して手に持った重火器を向け、発射していく。それどころか、既に息絶えたと思われる人間にまで数人がかりで銃弾を撃ち込んでいくではないか!

それだけではない。なんと突入してきた兵士達は、手を挙げて投降の姿勢を見せている人間をも容赦なく射殺していった。

兵士はその様をコクピット内で呆然と見ていたが、拠点に設けられた通信室から聞こえてくる出撃命令に応じて機体を動かす。通信室からの声は直後に途絶えたが、その理由は考えないようにする。

拠点の外に出て、唖然とする。

そこでは複数の”テスター”が”ジン”の手足を破壊して動けなくした上でナイフを何度もコクピットに突き刺していたり、バラバラにした”バクゥ”の部品を鉄柱に刺して地面に立てていたりと、あれが人間であったらどんなスプラッターだろうかという光景を生み出していた。

特に拠点の外で燃料の補給をしていた『エクスキューショナー』の”ジン”は、もっと悲惨だ。いや、悲惨なのは”ジン”ではなく、()()()()だ。

なんと、攻撃してきた兵士達は拠点内の人間やその遺体を炎上している”ジン”のところまで引きずっていき、炎の中に突き飛ばしているではないか!?

生きたまま焼かれていくZAFT兵士や見知った汎ムスリム会議の兵の顔がよく見えなかったのが救いである。

そうしている内に、拠点から飛び出してきた自分に目が向けられる。

”テスター”が、兵士達が、血走った目でこちらを見つめてくる。───次は、お前だ。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

逃げた。逃げた逃げた逃げた!ひたすらに逃げた。後ろから追ってくる敵のことは、あえて気にしないで一目散に逃げ出した。

もし一度でも後ろに意識を向けたら、その瞬間捕まって炎の中に突き飛ばされるのではないかと思った。

音楽は鳴り止まない。勇壮で、心を奮い立たせてくれるようなその音楽が、怖くてたまらない!

兵士はスピーカーに拳をたたきつけた。流石に音楽は鳴り止んだが、それで現状が解決するわけではない。

気がつけば、拠点からずいぶん離れた場所まで来てしまった。周りを見渡しても、敵どころか味方の姿もない。目の前にはだだっ広い荒野が広がり、後ろには先ほど駆け抜けてきた森が広がっている。……森の向こうでは、今もあの光景があるのだろうか?

先ほどまでの光景が、まるで夢かなにかであってくれればと思う。しかし、自ら破壊したスピーカーがその考えを否定する。

 

 

 

 

 

<───動くな>

 

 

 

 

 

一瞬、心臓を掴まれてしまったような錯覚を覚える。そして、一つ確信したことがある。

今、この声の主に逆らえば、確実に死ぬ───。

言われた通りに動かずにいると、2機のMSが森の中からこちらに近づいてくる。

片方は普通の“テスター”だが、もう1機の”テスター”の色はほとんど黒で塗装されており、一部に赤いラインが引いてある。隊長機か、はたまたエースか。

もう戦おう、逆らおうとは考えられなかった。それで生き残れるなら、そうしている。

 

「た、助けてくれ!投降する!もう戦う意思はない!」

 

<ZAFTは敵だ。プラントを占拠し、地球に牙を向いたテロリストだ。テロリストは排除する>

 

「違う、俺はZAFTじゃない!汎ムスリムの人間だ!」

 

<……ほう>

 

どうやら、話を聞いてくれるようだ。

情報漏洩、売国奴という言葉が脳裏にチラリとよぎるが、それは無視した。生存本能が理性を上回った瞬間である。

 

「あいつらは、ZAFTは協力しなきゃエネルギー供給を断つって言ってきたんだ!それで、政治家達はそれが嫌だから言いなりになった。俺達は、国の政治家達に人身御供として差し出されたんだよ!なあ、頼む、殺さないでくれ……」

 

<……だそうだが、どうする同志(タヴァーリシチ)イゴール?>

 

<ふむ、彼はなんともかわいそうな人間だよ同志ニキータ。国の都合で無理矢理戦わされている。C.Eにもなって愚かな話だ>

 

どうやら、同情を誘うことはできたようだ。

希望の目が見えてきた。このまま、適当に持ってる情報を渡すとでも言えば投降が受け入れられるかもしれない。

 

「そ、それだけじゃない。他にも色んな情報が───」

 

<ところで君は知っているかな?テロリストに屈した挙句にそのテロリスト共と貿易し、エネルギー供与までしてもらっている国があるらしいぞ?>

 

<ああ、それなら俺も知っているぞ同志イゴール。しかもその国はつい最近、中立という言い分すら捨ててテロリスト共に協力してるという噂もある。なんと嘆かわしい。彼の国の志はどうやら地の底に落ちてしまったようだ>

 

<君は実に物知りだな、同志ニキータ。それにもう一つ付け加えておくといい。その国の兵士は、命惜しさに自国を売り飛ばす下劣な精神を持っているらしい>

 

<仕方のないことだろう同士。なにせ我々が飢えや寒さに苦しんでいる間、テロリストから恵んでもらったエネルギーでのうのうと生活していた国の人間だ。恥知らずにまともな精神を期待するだけ無駄というものだ>

 

<そうなると、その国の兵士は何をやってきてもおかしくないな?投降したフリをして、後ろからその腰に付けた剣で切りかかってくるかもしれない>

 

恐る恐るコンソールを操作し、機体の武装をチェックする。

非常に残念なことに、しっかりと重斬刀が装備されてしまっていた。

 

「い、いや、これはちが」

 

<もう遅い>

 

弁明をする間もなく、2機の”テスター”によるライフルの斉射が行われる。

”ジン・オーカー”はたちまちハチの巣のように穴だらけになる。仰向けに倒れ伏した機体のコクピットに、更に2発の弾丸を撃ちこむ黒の”テスター”。

 

<面白い情報をどうもありがとう、名も知らぬ兵士君。これはお礼だ>

 

<しかし、これでハッキリしたな同志イゴール。ついにZAFTは戦争の禁忌に手を出した>

 

<まったく、呆れてしまうよ。ついに同盟国ですらない国に対して兵の供出を迫るようになったか。それを呑んだ国も国だが>

 

<ならば、どうする同士?>

 

<私はただの1兵卒だ。だが、一つだけ言えることがある>

 

黒の”テスター”は”ジン・オーカー”の残骸を足蹴にする。それはまるで、その機体色のようなどす黒い憎しみを発露しているかのように。

 

 

 

 

 

彼らとは友人になれそうにない(奴らは地球を裏切った)




お待たせしました、ビクトリア攻防戦その2でございます。
え、こいつ生きたまま人間焼くの好きだなって?いや、ほんとは毒ガスみたいなBC兵器を使うことも考えていたんですよ。バラバラ解体パーティーとか。ただ、
「『エクスキューショナー』とか、絶対戦場で一番ヘイト集める機体じゃん」と感想で言われたことで、こうなりました。

読者リクエストから今回登場したのは、この2つです!

〇810mm迫撃砲

自衛隊などでも使われている81mm迫撃砲をMSサイズに調整したもの。”レセップス”の主砲の倍の口径を誇り、更にはMS数機でパーツを運び、その場その場で組み立てることによってさまざまな場所で運用することが出来る。
威力と射程も期待通りに完成したが、欠点が存在していた。
それは、『MSが人間ほど器用に動けない』こと。組み立てや装填、照準に要する時間が想定よりも遅れてしまうことが問題となった。これは実際に作ってみてから発覚したものである。
具体的に言うと、”ジン”が1発この兵器を撃つ間に歩兵は迫撃砲を3・4発撃つことが出来る。
しかし、MS隊の運用できる火力の向上という開発目的は達成したこと、MSの性能向上やOS効率化で解決できるであろう問題でもあったため、実戦での運用データを欲した技術部の意向によりいくつかが地上に送られた。
第2次ビクトリア攻防戦では、連合の繰り出してきた「アグニ砲台」を陣地ごと破壊するために持ち出された。アグニが直線でしか撃てないのに対しこちらは仰角を取って発射することが出来るため、一方的に蹴散らすことに成功した。
開発者曰く「もっとこう……いい感じに使える気がする」と改良や後継機の開発には乗り気なようだ。
『モントゴメリ』様のリクエスト。
ちなみに運用方法は、劇場版『ガールズ&パンツァー』のカール自走臼砲を参考にしました。

インスパイアテスター
移動:6
索敵:D
限界:130%
耐久:75
シールド装備
スピーカー

武装
マシンガン:60 命中 60
アーマーシュナイダー:50 命中 70

”テスター”にスピーカー機能(回線への強制割込み機能込み)を取り付けた機体。名前の由来はinspire(鼓舞)から。
前もって音楽による催眠を施した兵士を用意し、この機体が音楽を流すことをトリガーとして兵士の闘争心を掻き立てる、一種の「精神兵装」。
音楽を聴いている最中は兵士達は冷徹かつ激情的な精神性を獲得し、キリングマシーンと化す。兵士が暴走する可能性を秘めているが、比較的手軽に勇敢な兵士を生み出せるために採用された。
デメリットで兵士が投降してきた敵を殺そうが、なんらデメリットにはなりえないのである。ついでに、生き残った敵兵がトラウマを抱えてくれればなおのこと良し。
主に歩兵部隊の随伴・掩護の役目を担った部隊に配属され、敵側に多数の被害をもたらした。
エイプリルフール・クライシスで最も多くの被害者が生まれたユーラシア連邦では特に効果的だったという。(憎しみを持った兵士が特に多いから)

『kiakia』様のリクエスト。
ちなみにステータス「スピーカー」を持っているユニットは、周囲の味方の士気値を毎ターン上昇させる効果がある。
ちなみに士気値が高いと、上昇すれば回避率や命中率が低下する「疲労値」の上昇を防いだり、ユニットの隠し攻撃が発動しやすくなる。
今のところオンリーワンの特性である。

さて、ようやく折り返しに近づいてまいりました。
色々と書いてる最中に反省点が生まれてくる「第2次ビクトリア攻防戦」ですが、これも経験。頑張って書ききります。忙しいけど!

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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