機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
マキシミリアン「希望の明日へレディーゴー!(一番防備の厚いところに突撃)」
ZAFT「なにあいつら怖い!」




第42話「第2次ビクトリア攻防戦」その4

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ビクトリア基地包囲網 南方戦線

 

「いやっほぅ!どこを見ても敵だらけ、されど我らを阻むもの無し!撃てば当たるの入れ食い大フィーバー!まったく、戦場は地獄だぜ!」

 

”ノイエ・ラーテ”2号車の車長を務めるジェイコブ大尉は、戦闘開始から早々にトリップした。

『第14機甲小隊』の中でもトップクラスの戦争狂である彼にとって、一方的に敵を蹴散らせるこの状況は桃源郷にも勝る心地なのだろう。

 

『ジェイコブ!まともに指揮を執れないと判断したら即刻降りてもらうからな!』

 

「はっ、中佐!落ち着いて、丁寧に、ZAFT共をぶち殺します!」

 

マキシミリアンが後方の指揮車両から警告を飛ばしてくるが、効き目があったかどうか疑わしい。もっとも、どれだけテンションが上がってもしっかりと指揮には従うのがジェイコブという人間である。それは、小隊全員がわかっていた。

 

「敵MS隊、接近!」

 

「慌てるなぁ!ロケット砲やバズーカにだけ注意していればいい!」

 

先ほど1号車が盛大に”ジン・オーカー”を吹き飛ばしたために、現在、敵の注目のほとんどは”ノイエ・ラーテ”に向けられている。

しかし、どの車両も足を止めることはない。知っているからだ。それらから放たれる攻撃のほとんどが、蚊に刺される程度の痛痒にすらなり得ないことを。

”ノイエ・ラーテ”の正面装甲は”バクゥ”のレールガンクラスの攻撃を完全に弾くほどの防御力を誇っている。キャットゥスやキャニスであれば話は別だが、高速で走行する“ノイエ・ラーテ”に命中させるのは至難の業だ。

それぞれの車両は敵から放たれた弾幕のほとんどを無視しながら、更なる攻撃の準備を終えた。

 

「次弾装填、完了!いつでも撃てます!」

 

「照準、接近中の”ジン・オーカー”!定めて定めてぇ……撃てぇ!」

 

2号車が発射するのとほぼ同時に、他の車両も前方に向かって砲撃する。

”ノイエ・ラーテ”の主砲は”ダニロフ”級イージス艦の250mm速射砲を流用したもの。そして”ノイエ・ラーテ”には、この戦争が始まってから「Nジャマー環境下で運用する」ことを前提として作られた新型FCSが搭載されている。

機甲部隊としては常識外の威力の一斉射が、ZAFTのMS隊に突き刺さる。その威力を受け止められる者はこの場には存在せず、MS隊はその戦線をかき乱された。

 

『よーし、第1段階成功!第2段階に移行する!』

 

『了解!』

 

恐ろしい攻撃力を知らしめた”ノイエ・ラーテ”隊だったが、その目的は敵部隊の撃破ではなかった。

撤退作戦を成功させるために更なる策が展開される。統制を乱されたZAFTには、阻止はおろか意図を図れる者さえ存在しなかった。

 

 

 

 

 

「くそ、なんなんだあれは!」

 

突如として戦場に現れた連合軍の新型戦車に対して毒づくことしか出来ない。

あれらの襲撃によって、楽勝ムードはどこかに行ってしまった。今は一転して死の予感がZAFT部隊を襲っている。

戦艦の主砲クラスの攻撃力と、先ほどこちらからの応射のほとんどを受け止めてみせた防御力。身内にも似たような存在がいるからわかるが、あれらはまともに相手するのが馬鹿馬鹿しくなる輩だ。適任を呼んで対処してもらうのが最適解である。

この場合適任とはある程度の火力と機動性を両立させた”バクゥ”のことなのだが、この戦闘に参加している”バクゥ”のほとんどは遊撃部隊として行動しており、この場にはいない。

”ジン・オーカー”を駆る彼は信号弾を持って救援を要請しようとしたが、敵戦車が新たな動きを見せた。

なんと、敵戦車隊はスモークを散布し始めたのだ。スモークとは本来、回避行動のために使われるもの。しかし、敵戦車は回避行動を取らずに爆進し続ける。

あの行為に何の意味があるのか。思考を遮るように、敵戦車は今度は主砲側面から機銃を発射し始めた。

ただの機銃と侮るなかれ。その口径は75mm、”テスター”の装備するライフルと同じである。

そしてそれは”ジン”の装甲を破壊しうる。疑問に答えを出す間もなく、回避行動に集中するZAFT兵達。

幸い、敵戦車はこちらに向かって今も進み続けている。

バカなやつらだ、と笑うことは出来ない。これほど好き勝手してくれた敵が無策で突っ込んでくるわけもないのだ。

しかし、現状の戦力では接近して高威力の武器をたたき込むくらいしか勝ち目がないのも事実。敵に考えがあるとわかった上で、それに乗るしかない。

敵戦車が近づいてくる。その攻撃を避ける。避ける、避ける、避けて、たたき込む───!

 

「───っ!?」

 

()()()()()()()。まるで自分達()がいないかのように、戦車は突っ切っていく。

てっきり、近接戦に持ち込んで何かをするものだとばかり思っていた。自分達を撃破するための何かを出してくると。

しかし、実際にはただ通り過ぎていくばかり。端から見れば防衛線を突破された大失態の場面なのだが、一瞬呆けてしまうZAFT兵達。

気付いた時には、敵戦車はこちらに尻を向けて離れていく姿を見送る自分達。

 

「ば、バカ!やつらを通してどうするんだ!」

 

兵士にあるまじき失態だ。あの速度では追撃は不可能だろうが、せめて後方に連絡なりしなくては。

しかし、行動を始めようとしたタイミングでスピーカーから何かが聞こえてくる。どうやら国際救難チャンネルを通じてこの音声は流れているようだ。

音声?否。それは音楽。

偉大なるショスタコーヴィチが作り上げた、交響曲第5番。

その名は、『革命』───!

 

 

 

 

 

урааааааааа!!!

 

 

 

 

 

煙の中を突っ切って、複数のMSが突進してくる。

理解した。つまるところ、自分達は見逃されたわけでも無視されたわけでもない。ただ、単純に。

自分を殺すのは通り過ぎていった彼らではなく、今目の前で、斧を叩きつけようとしている彼だった。ただ、それだけだった。

せめて痛みはありませんように。

 

 

 

 

 

『デルタ3、攻撃成功。行動を継続する』

 

『デルタ4も同じく』

 

『デルタ6より各機、デルタ5が失敗した。命は拾ったようだが、戦闘継続不可能と思われる』

 

「デルタ1より各機、攻撃を続行せよ。デルタ5は救助が来るまで待機だ。外に出るよりは安全だろう」

 

『了解!』

 

連合軍の撤退作戦、その第2段階。

それは、「”ノイエ・ラーテ”がかき乱した戦線にMS隊が強襲し、本隊の撤退進路の安全を確保する」というもの。

火力と装甲を以てその存在をアピールし、後続のMS・戦車隊から目を逸らす。注意が逸れている隙にMS隊が強襲する。そして、()()()()()()()()()()()()

───杜撰、粗雑、不定。この作戦はそういうものだった。いや、もはや「作戦未満」と称するべきだろう。

”ノイエ・ラーテ”が敵の注意を集められるだけの力を見せられなければ?

敵がスモークの意図に気付いて、対応したら?

乱れた戦列への強襲に滞ったら?

おおよそ軍人の考える作戦ではない。こんなにも確実性の低い作戦を思いつくのは、英雄志望の間抜けくらいだろう。

それでも、ビクトリア基地の将官達はこの作戦を実行した。それは何故か?

答えは一つ。これがもっとも多くの人間を撤退させられる可能性がある作戦だからだ。

彼らはすでに敗北者だ。本来守り抜かなければいけなかった基地を捨てて、敵から逃げ出してきた。

この時点でまず、基地を放棄したブリットはある程度の責任を負う事になる。たとえ、敵がどれだけ強大でもだ。

兵士達にも、単なる敗北以上の苦渋を味合わせることになる。たとえ作戦の内だとしても、自分達の職場であり誇りでもあった基地を明け渡すことになるのだ。それが悔しくないはずがない。後で取り戻せばいいというのも詭弁でしかない。

だからこそ、唯一残った命だけは持ち帰らなければならない。

どれだけ無茶苦茶だろうが、無様だろうが、生き残らなければならない。

その気迫が、「作戦未満」を「作戦」へと押し上げた。

 

「しかし……ロシア閥は流石と言うべきか」

 

強襲に参加したデルタ小隊の隊長を努める兵士は、自分と同じように、いやそれ以上に苛烈に敵部隊と戦っている部隊を見て呟く。

旧ロシア地区出身の彼らの鬼気迫る戦いぶりは、味方を奮い立てるどころか萎縮させかねないものだった。誰も彼もが死にもの狂いで戦っているからそれがわからないだけで。

見習おうとはいかないが、負けてはいられない。自分もやることをやらねば。

混沌とした戦場の中で沈黙を保つ”重防護型テスター”に近づく。

多くの敵戦力を引きつける危険な役割をこなした『偉大な鉄塊』だが、その有様は酷いものだった。シールドは弾痕のない箇所の方が珍しく、右腕は千切れてケーブルが垂れ下がっている。

それでも中のパイロットは生きて救難信号を発していた。まったく、呆れた防御力である。

 

「無事か?」

 

『なんとかな。機体に助けられた』

 

「それならよかった。ほら、さっさと降りてこい。少なくともこっちを狙ってる敵はいない」

 

『ああ』

 

呼びかけに応じて”重防護型テスター”の胸部ハッチが───開かない。ピクリとも動かないのではなく、途中で何かがつっかえたような動きだ。

 

『……すまん、フレームが歪んでハッチが開かない。外からこじ開けてくれないか』

 

「装甲よりも先にフレームがおしゃかになるたぁ、どんな機体だそりゃ……」

 

この鉄塊といいあの戦車といい、無茶苦茶やるのはZAFTの特権だと最近は思えなくなってきた。

デルタ1はその後、10分掛けて歪んだハッチをこじ開けてパイロットを救出することになったのだった。

 

 

 

 

 

『敵第2防衛ライン確認。これより、攻撃態勢に入る』

 

「了解。敵MS隊に照準合わせ。───発射」

 

3号車車長、ヘルマン中尉の号令に合わせて発射された砲弾は、狙った”ジン”からわずかに逸れて近くの地面に着弾する。

ヘルマンは舌打ちをするが、すぐさま狙いを付け直す。『即断即決』を信条とするヘルマンは、一つの失敗の原因解明と反省の素早さにおいて部隊内トップの能力を誇っている。他の仲間への気遣いを忘れないマメさもあり、”ノイエ・ラーテ”車長に選出されたことに反対する者はいなかった。

普段は部下の前で舌打ちなどしない彼だが、そんな彼でもプレッシャーに飲まれるということなのか。無理もないと3号車の操縦手は考える。

こんな状況で普段通りに振る舞える人間などいるものか。

 

「すいません!」

 

「全弾命中など最初から考えていない、次に集中しろ。……マニューバパターン14。やるぞ」

 

「「イエッサー!」」

 

失敗を引きずらず、次の行動に目を向けさせる。思考を止めた者から死んでいくのが戦場であるならば、ヘルマンの下について戦える者は幸運と言って良い。

”ノイエ・ラーテ”3号車がジグザグに動き始めたのと同タイミングで、他の2両もジグザグに動き始める。

考えることは一緒か。ヘルマンは口端をわずかにつり上げる。

 

「目標、前方の”ジン”。───()()()()()()()()()

 

「お任せを!うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

雄叫びを上げながら、標的とされてしまった”ジン”に接近する。当然”ジン”もその手に持ったショットガンで攻撃するが、元からMSの攻撃に晒されることを考慮して設計された”ノイエ・ラーテ”の正面装甲に有効な筈もない。

健気にすら思える抵抗(銃弾)を弾きながら接近する。このままいけば”ノイエ・ラーテ”と”ジン”は激突することになるだろう。

当然、”ジン”は回避を試みる。正面から撃破することを諦めて側面や背面から攻撃しようというのだろう。

実際、ZAFTでは戦争初期の経験からMAや戦車を撃破するにはこのような方法が推奨されている。そのことはZAFT兵捕虜を尋問して得た情報で明らかになっていた。

厚い正面装甲を避けて攻撃する、”ジン”のパイロットの判断は正解だ。

間違えていたのは、”ノイエ・ラーテ”に対する認識。『対MS戦車』として開発されたこの存在に常識を当てはめようとしたことである。

”ノイエ・ラーテ”と”ジン”の距離が縮まる。”ジン”がカウンターを仕掛ける構えを取る。

 

「今だ」

 

本日、何度目かの『驚くべき光景』が生まれる。

たしかに”ジン”は”ノイエ・ラーテ”の左側面を取ったはずだった。無防備な脇腹に銃口を突きつけているはずだった。

そのあり得ない光景を言葉で表すならば、「戦車の側面に回り込んでいたのに、戦車の正面に立っていた」。

250mmの榴弾×2が”ジン”の胴体を吹き飛ばす。”ジン”のパイロットは最後まで何が起きたかわからないままその命を散らすことになった。

 

「やった!成功した」

 

「気を抜くな。戦闘中だぞ」

 

「はい!」

 

”ノイエ・ラーテ”は両側面に片側4つずつ、合計8つの独立した無限軌道ブロックを備えている。

これは”リニアガン・タンク”にも採用されている機構であり、それぞれのブロックには履帯が破損しても走行可能な高性能モーターを内蔵している他、ユニットと繋がった軸を操作して車高を上げることも出来る。

だが”ノイエ・ラーテ”のそれの数は、ユニット1つにつき”リニアガン・タンク”のものを4つ、合計で32機使用とモンスター級の走行力を誇っている。そして機構が複雑になった代わりに、”リニアガン・タンク”以上の『旋回能力』を獲得していた。

その結果、”ノイエ・ラーテ”は『斜め方向への移動』どころか『一瞬での90°ベクトル変更』さえも可能な戦車となった。

ブロックの1つや2つが機能を停止しても残りで十分に走行可能と、今までの常識を置き去りにする高性能を獲得した”ノイエ・ラーテ”に、『通常兵器地位向上委員会』は大いに期待を寄せていた。

もっとも、戦車に乗って戦えるならどこだっていい『第14機甲小隊』の面々はそのことは特に気にしていない。

戦車がある。戦場がある。戦う。

ヘルマンは戦車も同じだと考えていた。(履帯)がある。(大砲)がある。なら敵を粉砕するのみ。

シンプルで実にすばらしい。

 

「敵空中戦用MSが上空より接近。対空戦闘用意」

 

”ディン”が上空から攻撃してきても、ヘルマンは動じない。完璧ではないが、備えはある。

250mm連装砲の上部に取り付けられた独立砲塔を”ディン”に向けて発射する。

”ディン”のパイロットはさぞかし驚いたことだろう。その砲塔から発射されたのはビームだったのだから。

「理想の兵器」を作るために余念の無い設計者達は、あろうことか近接・対空火器として”イーグルテスター”に搭載された試作ビーム砲と同じものを”ノイエ・ラーテ”に取り付けた。射程の短さは改善されないままだったが近接防御火器としてなら十分な威力のそれが、”ディン”に対して牙を剥く。

しかし”ディン”も伊達に人型でありながら連合空軍と渡り合ってきたわけではなく、連射されるビームを回避しながら”ノイエ・ラーテ”との距離を詰めていく。

”ノイエ・ラーテ”は本来、上方からの攻撃に備えるために上部装甲にPS装甲を用いるはずだった。

しかし、予算不足という世知辛い事情が立ちはだかったことで採用は見送られ、結果上部装甲が比較的脆いという弱点を抱えることになってしまっていた。”ディン”にターゲットされたこの状況は、かなりの窮地と言えるだろう。

それでも、ヘルマンは揺るがない。

どこからか飛んできたビームが”ディン”の主翼に命中し、”ディン”は墜落した(地面とキスした)

おまけと言わんばかりに飛んできたミサイルが”ディン”の背部に命中し、推進材に引火したのか爆発する。

”ディン”を撃破した”スカイグラスパー”のパイロットから通信が入る。

 

『必要だったか?』

 

「助かった、礼を言う」

 

『空は大体片付いた、あとは地上だけだぜ?』

 

そう言い残して、”スカイグラスパー”は別の方向に飛んでいった。

これは朗報だ。敵の空中戦力のほとんど撃破されたのなら、ZAFT側の”ノイエ・ラーテ”を止められる手段はほぼ存在しない。

勝利が見えてきた。とりあえず今の情報を僚機に通達することにしよう。そう考えたヘルマンだったが、次の瞬間、マキシミリアンから告げられた情報に目を見開くことになる。

 

『各車へ通達、”レセップス”級が進行ルート上に回り込もうとしているのを確認した!放置すれば撤退行動に支障が出る可能性がある、直ちに排除に向かえ!』

 

ZAFTの誇る大型陸上戦艦の出現を知らされ、”ノイエ・ラーテ”の乗組員達が思ったことは一つ。

───()()()()だ!

元から立ち塞がる者は殲滅すると決めていたが、まさか”レセップス”級という大物が掛かるとは!

これを撃破して友軍の撤退を成功に導いてみせれば、上層部へ『通常兵器研究の価値』を知らしめることに成功し、「通常兵器地位向上委員会」の目的を達することが出来る。

彼らは遠方の”レセップス”に向けて愛機を走らせた。

その手に栄光を手に入れるビジョンと共に。

 

 

 

 

 

ビクトリア基地

 

『……なんとか、ならんかね』

 

「なりませんなぁ」

 

バルトフェルドはモニターの向こうで深くため息をつくかつての上官を見て、自分もため息をつきたい気分になった。彼、ローデン・クレーメルに抑えられない輩を自分がどうにか出来るはずもない。

彼は連合軍が放棄した基地の占領、その後詰めのために専用の”バクゥ”に乗り込んで前線にやってきていた。

基地内に残されていたトラップが順調に解除されているという報告を聞き、気分良く魔法瓶に入れた特製コーヒーを飲もうとしたタイミングで告げられた凶報───手柄を求めて敵部隊を追撃しに向かった友軍の発生───に、真顔になってしまったのも仕方のないことだろう。しかもそれがパイロット数名の暴走ではなく、部隊の指揮官が”レセップス”級と共に向かってしまったという。

どうしてどいつもこいつも、足並みを揃えられないのか?せっかく作戦目標を達成したのだから撤退する部隊の追撃など()()()()にして戦力の保全に努めるべきだろうに。

 

『加えて、撤退する連合の部隊の中に新型戦車の存在が確認されたらしくてな……。かなり暴れ回っているらしい』

 

「ほう……新型の?」

 

『ああ。”ジン”の火力では到底突破できない装甲と艦砲クラスの主砲を備え、ビーム兵器を使用したという情報も入ってきている。ついでに、従来の戦車を上回る機動性もあるそうだ』

 

「そんな敵と最初に戦うことになってしまった方々には、同情せざるを得ませんな」

 

『そんな敵からの被害を、更に増やすわけにもいかん。悔しいが、私にはいい方法が思いつかん』

 

上官は顔を顰めているが、バルトフェルドは一転してケロッとした表情を見せる。

なんだ、それなら今から慌てて何かをする必要など無いではないか。

 

「それなら問題ありませんよ。()()()()()()()()()()()

 

『なに……?』

 

バルトフェルドは今度こそカップに特製コーヒーを注ぎ込む。

 

「手のひらを返すようで恥ずかしいのですが、自分も『ある程度』の追撃の必要性は認めていましてね。()()に言っておいたんですよ。『後ろからつっついてこい』ってね」

 

『彼女……まさか!?』

 

 

 

 

 

「目には目を、歯には歯を。なら……戦車には戦車をってやつですね。彼女に通信をつないでもらえます?たぶん良い感じの場所にいると思うので」

 

一口。……もう少し、コナを増やしても良かったかもしれない。

自分に出来ることは終わった。後は彼女に任せることにしよう。

 

 

 

 

 

「見えた、レセップス級だ!」

 

モーリッツ達はついに、大魚をその視界に収めた。

周りには”ジン”や”バクゥ”が数機たむろしているが、今更それが何の役に立つというのか。

主砲の有効射程に収めるために、速度を上げていく”ノイエ・ラーテ”達。

もう少しで、手が届く。

 

「1号車より各車、これより敵陸上戦艦への攻撃を───」

 

号令をかけようとしたその時、モーリッツは悪寒を感じた。

ゾワっとしたこの感覚は、戦争が始まってから何度か感じたもの。そして、感じた戦場では例外なく強敵と遭遇した。

これは、殺気だ。

 

「緊急停車!」

 

咄嗟の指示が届き、”ノイエ・ラーテ”達は停車する。その直後。

 

ドオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっっっっ!!!!!

 

とてつもない衝撃が、”ノイエ・ラーテ”前方に発生した。あのまま走らせていれば、直撃していたかもしれない。

レーダーにはこちらに接近してくる敵と、その名前が映し出されている。

 

ZMT-X1 Prototype Fenrir

 

「……ここにきて、『深緑の巨狼』の登場か」

 

『どうする、モーリッツ?』

 

ためらいは一瞬。モーリッツは決断した。

 

「当然、撃破する!”フェンリル”などとは言っているが、宇宙育ちが作ったものなどより我々の作りあげた戦車のが強いということを見せつけてやれ!」

 

『了解!』

 

 

 

 

 

戦車とは、時代に置いていかれた者。

戦車とは、敗北した者。

しかし、ここに集ったのは『戦車をもって新たな時代を切り開かんとした者達』。

両者の出会いは何を生み出すのか。




おかしい……ガンダムのssなのに戦車が大活躍している……。
いちおう、”ノイエ・ラーテ”諸々の解説をば。



ノイエ・ラーテ
移動:7
索敵:B
限界:160%
耐久:180
運動:12

武装
主砲:150 命中 60 超間接攻撃可能
機銃:60 命中 60
ビーム砲:80 命中 40

連合軍の「通常兵器地位向上委員会」が主導して開発した新型戦車。
見た目は61式戦車5型をアップサイジングし、履帯を8つの走行ユニット化した感じ。走行ユニット1つにつき、リニアガン・タンクの走行ユニット4つが使われている。
「MSを正面から打倒する」ことをコンセプトに設計され、主力戦車であるリニアガン・タンクよりも2周り大きなサイズの「重戦車」となった。
対MS、特にバクゥを仮想的として設定しており、直線速度であればバクゥにも引けを取らない。
主砲はダニロフ級イージス艦が備えている250mm連装砲をノイエ・ラーテ用に調整して搭載しており、火力面は機動兵器として現状最強クラス。
その他にも、イーゲルシュテルンの弾規格を流用した同軸機銃やイーグルテスターのものと同型のビーム砲を近接火器として備える。
装甲もMSの平均的な火力では突破不可能。唯一、薄く作らざるを得ない上部装甲にPS装甲を用いる予定だったが、予算不足で断念された。

製造コストと運用コストがリニアガン・タンクよりも増加したため、大量生産には向かない。しかしMSとは違う方向で有益なデータが獲得できたため、少数生産や後継機の開発、リニアガン・タンクへのフィードバックなど様々な発展プランが検討されている。
また、ビクトリア攻防戦での運用データを元に一部の技術者が「大型MAによる強攻」という戦術の有効性を検証することになった。
この世界におけるザムザザーやゲルズ・ゲーといった大型MAの始祖として位置づけられる。

『モントゴメリー』様のリクエスト。
これを見たとき作者は「これは通常兵器の技術で作られたMAだ」という感想を得た。たくさん並べるには劇中で金がかかるし、ビクトリアで採用したリクエスト案の中では一番活躍のさせ方に悩んだ。
結果、少数生産して敵の防衛線を強攻突破、味方の道を切り開くための兵器という形で登場させることになった。感想欄では「WW1に回帰した運用」と言われたが、正直これ以上の運用方法があるなら教えて欲しい(切実)。

というわけで、第2次ビクトリア攻防戦も次かその次で終結です。
大規模戦闘というものへの理解不足から、描写や設定が杜撰な箇所が多くて、すごく反省点の多いパートでしたが、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。

果たして、フェンリルとノイエ・ラーテ、最後に残っているのはどちらか?

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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