機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
ユージ「ついに感想欄で影が薄いと言われるようになりました。オリ主です」

読者諸君!
FGOと艦これにかまけていたら、更新速度が低下してしまうぞ!
これから2次創作なりなんなりを執筆しようと考えている人は要注意だ!


第45話「第2次ビクトリア攻防戦」終

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ビクトリア基地 南方

 

「クソっ、加減しやがれあの野郎!」

 

エドワード・ハレルソン、今世最大のピンチ到来。

彼の頭の中には、そんな感じのテロップが爛々と輝いていた。本人的にはたまったものではない。

 

『どうしたどうした!そんなもんか!?』

 

原因は、いきなり襲いかかってきたZAFTのMS。

”シグー”タイプの両肩にビーム兵器を取り付けたその機体は、しかしそれだけではなく、全体的な性能の底上げが行なわれていた。

いくら”シグー”といえども、エドワードにとってはここに至るまで何度も相対し、屠ってきた存在。それにここまで苦戦するとなると、そう考えるのが自然だ。

堅牢な筈の”イーグルテスター”の装甲は、既に所々に焦げ目が付き、隠されていた内部フレームの一部を露出させていた。エドワードの技量があるからこそそれで済んでいるが、そうでなければ既に胴体に風穴を開けられていることだろう。

エドワードには目の前の機体に、否、その機体カラーに見覚えがあった。

燃える夕日のようなオレンジ色。加えて、確実に敵に対してダメージを与えてくるこの戦い方。間違いない。

 

「やはり、まだ生きていたか!”黄昏の魔弾”ミゲル・アイマン!」

 

 

 

 

 

ミゲル・アイマンは、正史では”ヘリオポリス”にてその命を散らしている。

彼は彼の地にて専用の”ジン”ではなく通常の”ジン”で出撃し、キラ・ヤマトの発露した圧倒的能力の前にあっけなく散る。その筈だった。

それが、何故生きて、更に”シグー・ディープアームズ”などに乗ってここにいるのか?

彼は”黄昏の魔弾”の異名を持つほどのエースパイロットであり、任務の達成を優先させたとは言えあの叢雲劾の機体を撃破するだけの腕前を誇っている。その時の戦いで専用の”ジン”を破損したために”ヘリオポリス”では通常の”ジン”で出撃したのだが、もしもこれが本来の乗機であったなら、”ストライク”の奪取を成功させていたのではないか?という説が浮かぶほどの人物である。

ここで本来の歴史ではあり得ないイレギュラー、ユージ達”マウス隊”の影響が発生する。

結論を言うと「ミゲルがエドとの戦闘経験値を貯めた結果、ミゲルが強くなった」ことで、ミゲルの死亡するルートがこの世界から消滅したのである。

具体的に書き記すとこうなる。

 

①ミゲルがエドと『植樹戦役』で戦いまくった結果、MS同士での近接戦経験が貯まった。

②経験が活きて、劾との戦闘時に乗機に損傷を負うことなく劾の機体を撃破することに成功する。(あくまで自機のダメージを抑えられただけで、劾がZAFTの基地を破壊に成功するという結果は変動していない)

③乗機が万全であること、MS戦の経験が揃った結果、キラとの戦闘で命を落とすことなく生還

 

皮肉にもユージが部隊を結成して介入を決意した結果、連合にとって少なからず脅威となるエースパイロットが生存することになってしまったのだった。

”ヘリオポリス”崩壊後に彼は一度プラントに帰還し、第2次ビクトリア攻略戦への参加を命じられることになる。

乗機を失ったミゲルに対し、用意した戦力から見てもまず間違いなく戦闘に勝てると踏んだ参謀本部は、これ幸いにと連合から奪取した”イージス”のデータを用いて完成させた”シグー・ディープアームズ”の実戦テストをミゲルに命じた。

試作機とは言え高性能MSを手に入れ、更にアフリカで『切り裂きエド』の目撃情報があったことを知った彼はウッキウキのウッハウハで地球衛星軌道上までやってきた。

肩慣らしに連合の迎撃部隊を蹴散らした後、彼は意気揚々とアフリカの大地に降り立ち、ようやくエドワードを見つけた。

そして、冒頭の場面に至るのである。

 

 

 

 

 

「なんてもん出してきやがる、あの野郎!流石に”イーグル”じゃ無理だぜ!?」

 

強固な装甲を持つ”イーグルテスター”も、ビーム兵器に対しては余りに脆すぎる。機動性については言う必要もなく凌駕されている。

頑張って両手で構える試作斬艦刀を振るっても、かすりすらしない。このままではジワジワ削られるのを待つしかない。

しかし、転機が唐突に訪れた。

 

『んおっ?』

 

「っ!?そこだ!」

 

いくらミゲルが優秀なパイロットであっても、慣れない機体に乗っている以上ミスの一つや二つは生まれる。

スラスターによる姿勢制御に些細な乱れが生まれ、着地した際に体勢をふらつかせる”シグー・ディープアームズ”。

エドワードはそれを見逃さず、全速で突撃し、剣を叩きつけようとした。

その時、驚くべきことが起きる。

 

『いよっとぉ!』

 

「なんだと……」

 

”シグー・ディープアームズ”は咄嗟に右手に持ったビームソードを、()()()()()()()()斬艦刀に叩きつける。

刀身に発振したビームによって斬艦刀は中途から断ち切られるが、驚くべきことはそこではない。

斬艦刀は重さによって敵MSを切り裂く武器だが、それは裏を返せば重さが乗っていなければ大して怖くもないということだ。

ミゲルは、重さがほとんど乗っていない状態の斬艦刀にビームソードを合わせるように叩きつけた。これが実体剣同士であっても、”シグー・ディープアームズ”を少しも押しこむことは叶わなかっただろう。

そのことは、完全にエドワードの攻撃が見切られていたことを意味し。

渾身の攻撃さえも通じないという絶望感を、エドワードに与えることになった。

 

『……やはりな』

 

「あ、ああ……」

 

後ずさる”イーグルテスター”に、歩みを進める”シグー・ディープアームズ”。それが、今の彼らの関係を表している。

対等なライバルは、既に強者と弱者に変わってしまっていた。

 

『残念だぜ。お前があの2本角と同型の機体にでも乗っていれば、もっと……』

 

「ちくしょう、ちくしょう……!」

 

”シグー・ディープアームズ”の踏み込みは瞬時に”イーグルテスター”との距離を消し去り。

歴戦(ガタが来ている)の”イーグルテスター”の後退は間に合わず。

ビームソードが”イーグルテスター”の胴体を切り裂くのだった。

 

 

 

 

 

『……ら、……サカ。た……せよ』

 

「……うぐ」

 

頭を揺らすような耳に届き、モーリッツは目を覚ます。

頭がボーっとする。いまいち視界が安定しない。

自分はたしか、『深緑の巨狼』と戦い、そして負けたはずだ。あの怪物の主砲を受けた衝撃は幻ではない。

揺れる視界の中に、運転席と砲手席に座る部下達の姿が見える。わずかに肩が動いていることから、彼らも生きているようだということがわかる。

視界は安定した。すると、途端に雑音のようにしか聞こえなかった通信音声が耳に届く。

 

『こちら、ZAFT地上方面軍第7戦隊所属、スミレ・ヒラサカ。応答せよ』

 

「……こちら、地球連合軍『第14機甲小隊』所属、モーリッツ・ヴィンダルアルム大尉」

 

『やっと繋がった……気絶してたみたいね。動ける?』

 

スピーカーの向こう側から、ほっとしたような少女の声が聞こえてくる。このような少女まで戦場に駆り出すなど正気とは思えない。

しかしモーリッツは、ユーラシアでも軍の雇用年齢を下げる法令が検討されていることを思い出して自嘲する。───どこもかしこも人でなしの碌でなしばかりだ。

 

「動くことは出来る。体はな。───が、投降しろと言われて素直にうなずけるほど頭は柔らかくないつもりでな」

 

『もう無理よ。さっきの攻撃で片側の走行ユニットが全部吹き飛んでるのよ?これ以上は戦えない』

 

たしかに、モニターには”ノイエ・ラーテ”各所の異常の知らせがひっきりなしに表示されている。さきほどの”プロト・フェンリル”の攻撃は、どうやら右側の走行ユニットをまとめて吹き飛ばしたらしい。

だが、それがなんだと言うのか。

 

「悪いがこいつの情報を渡すわけにはいかない。さっさと殺れ」

 

『……お断りよ』

 

「まさか、殺すのが嫌とか言うわけじゃないよな?」

 

『だったら悪い?』

 

それを聞いて、モーリッツは猛烈に怒りを感じた。

こちらは命を賭けて戦っていた。そして、負けた。

別に負けたら死ななければならないというルールはどこにもない。敵国の兵を殺しすぎれば戦後その国の働き手がいなくなり、国が運営出来なくなり、最終的には国そのものが滅ぶ。もっとも、それを目的に戦争をするという場合は問題ではないが。

だが、こちらには死んでも守らなければならないもの(ノイエ・ラーテの情報)がある。ここで愛機ごと散ることになろうとも、それが味方の利となるのであればなんらためらう必要はない。

散ろう。潔く。

だというのに、この少女は殺したくないから殺さないのだという。バカにされているような気分にもなる。

 

「いいか小娘!俺はここに、死ぬことを覚悟してやってきて、敗れた。そして今は、ここでこいつと共に死ぬことも味方のためになると思っているから撃てと言ってるんだ!そっちが撃たないなら、こっちは自爆するだけなんだよ!」

 

『……』

 

「わかったらさっさと」

 

『ふっざけんじゃない、このドアホが!』

 

「!?」

 

いきなりの怒号を浴びて、一瞬縮こまるモーリッツ。スミレはその隙を逃さずにたたみかける。

 

『死ぬことが味方のためになる?バカじゃないのアホじゃないの、碌でなしの考えじゃないの!生きてる方が絶対に良いに決まってるのよ!だって、生きてりゃこうやって走って息を吸って食べて寝て、なんだって出来んのよ!?それに換えることの出来るものなんて私はなに一つ知らないし、知る気もない!その戦車の情報を渡すのが嫌だってんなら、降りたところを破壊してやるわ!そしたら後は、黙って捕虜やってりゃいいだけ!えーっと、あのその、とにかく死ぬ方が良いとか言うな!』

 

なんだそりゃ。少女から発せられた癇癪にモーリッツは呆れた。

説得する気があるんだか無いんだか、とにかく自分の言いたいことを言ったという風の少女。

だが、なんだろう。さっきまで自分の中で張り詰めていた何かが緩んでいくような気がする。それだけ、彼女の言葉からは本音が込められていた。

なんだか馬鹿馬鹿しくなったモーリッツは軽く笑いをこぼすと、”ノイエ・ラーテ”のハッチを開け、手を挙げながら外に出る。

そもそも、気を失っている部下の意見を聞かずに自分だけで何かを決めることなど出来るはずない。

あらためて認めよう。自分達の負けだ。

 

「……捕虜としての待遇は、保証してくれるんだろうな?」

 

『もちろん。これでも、『深緑の巨狼』なんて呼ばれてるのよ?功利主義のZAFTで、戦果を挙げてるあたしに何か言える奴の方が少ないわ』

 

「……」

 

『何よ、そんな呆気にとられた顔して』

 

「……え、いや、お前が『深緑の巨狼』?」

 

『誰と話してると思ってたのよ?』

 

「いや、なんとなくもっとゴツいおっさんが『深緑の巨狼』だとばかり」

 

『ニアピンすら外してるわ、これでもまだ10代よ』

 

この後モーリッツは、スミレが”ノイエ・ラーテ”を破壊したのを見届けてからZAFTの基地に連行され、スミレの顔を実際に目にすることになる。

 

「イメージって、本当に宛てにならないもんだな」

 

先ほどまで激戦を繰り広げていた敵の素顔を知り、それだけしか声を絞り出すことは出来なかったとか。

 

 

 

 

 

「こんなもんか……まあ、最後までしぶといのは()()()けどよ」

 

目の前で仰向けに倒れたライバルのMSを見て、ミゲルはわずかに顔を歪ませながらそう呟く。

”イーグルテスター”の胴体を斜めに奔る傷痕は、しかしコクピットにまで到達してはいなかった。”イーグルテスター”の胸部には小型ビーム砲が内蔵されているのだが、その分厚みが増したことが幸いして、パイロットを守ったのである。

もっとも、エドワードはコクピット内で発生した小規模の爆発に体を焼かれて気を失っているため、あとはビームを撃ち込むなり剣を振り下ろすなりするだけで彼の命は絶たれる。

ミゲルとしても、この決着は少しばかり不本意なものだった。

だってそうだろう?ナチュラルのクセに自分と互角に渡り合い、食らいついてくる強敵。

何度も戦っている内にライバルのように感じるほど評価していた相手を、高性能MSを用いて一方的に倒す。そこに悦びを見出すほど、ミゲルは嗜虐心を持っていなかった。

軍人としての自分は、今ここで確実にとどめを刺すべきと言っている。しかし、戦士としての自分はこの戦いをフェアじゃないと叫んでいる。

 

「……仕方ないよな。俺達は軍人だ、こうなることはお互い覚悟していたはずだろ?」

 

悩んだ末に、ミゲルはライバルにとどめを刺すことを決断した。

一歩一歩、距離を縮めていく。ライバルとの決着を付けるために。

そしてたどり着き、剣を振り上げる。

 

「あばよ、エドワード・ハレルソン。お前は、俺が名前を記憶しようと思った数少ないナチュラルだったぜ」

 

そのまま。剣が。

 

『エドーーーーーーーー!!!!!』

 

「っとお!?」

 

振り下ろされることはなかった。

横合いから発射されたグレネード弾を咄嗟によけるミゲル。

弾が飛んできた方向を見れば、こちらに接近しながらグレネードランチャーを発射する”ジャガーテスター”の姿があった。どうやら、エドワードはまだ死神に魅入られてはいなかったようだ。

ミゲルは敵の増援に対して”ディープアームズ”の肩部ビーム砲を向けるが、モニターが異常を知らせてきたことに舌打ちする。

 

「冷却装置に異常発生!?クソっ、ぶん回しすぎたか!」

 

元々”シグー・ディープアームズ”は完成したばかりでテストも禄に行なわれていないMS。絶対に勝てる戦いだと踏んだからこそ、上層部も実戦テストを承認したのだ。

いつ、異常が発生しても良いように。そしてその時が今訪れた。それだけのことである。

 

「ふん、やはり運の良い奴だ。あの時、最初の戦いでもそうだったな。───生きてるかどうかは知らんが、またお前が戦場に立つ時。その時こそ、決着をつけてやるぜ」

 

だから、これは仕方ないこと。うん、武器が使えない状態で白い奴とも戦うのはさしもの自分でも不安だ。

しょうがないな、これは。けしてホッとしてるわけじゃない。しょうがないから撤退するのだ。だけど、まあ。

願わくば次回は、性能差も余計な茶々もない状況で。

 

 

 

 

 

こうして、後に『第2次ビクトリア攻防戦』と呼ばれることになる戦いは幕を下ろした。

わずか4日間の内に両軍に10万人を超える大量の死者を出したこの戦いだが、何故それほどの被害を出すことになったのかということについて後世の歴史家はこのような言葉で評している。

 

「連合軍もZAFT軍も、互いに今有るものを全力で叩きつけ合った、否、叩きつけ合うしかなかったためである。

連合軍はMSを導入して日が浅く、他の兵器との折り合いがまだついていなかったために。

ZAFTは戦力の大半をMSに依存していたばかりに軍全体の柔軟性に欠け、ついには対人掃討のためにMSを改修するなどという非効率的な行動を取ったために。

加えてZAFTは、指揮系統が異なるどころではない他国から戦力を供出させ、大規模戦闘に参加させるという愚行を犯した。あの戦いでまともに集団行動が出来ていた部隊がいかほどあっただろうか。

また、終盤に連合軍が行なった撤退作戦の追撃戦時、一部の部隊が突出した挙げ句に撃破されたなど、これまでのZAFT軍で問題視されても修正されなかった『スタンドプレー癖』がついに誰の目にも明らかになりもした。

統制なき戦いはただの生存競争、原始的な殺し合いでしかない。この戦闘の勝者はたしかにZAFTだが、より大きな苦渋を飲んだのもZAFTであった。

総評すると、両軍の修正すべき欠点が露呈した戦いであるとも言える。このような混沌とした戦いが2度と繰り返されないことを願う」




ようやく、ようやくビクトリア攻防戦が終わった……!今回、あっさり目の話でごめんなさいね!
やっと主人公達の出番だぞ!前回ユージ達が登場したのって何ヶ月前だっけ!?

そこそこ長く続いてきたこの作品も、次回でようやく第2章です。
次回は、ユージによるこれまでの振り返り的な話にしようと思います。

活動報告を更新しました。良ければ覗いていってください。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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