機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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前回のあらすじ
戦争なんてそんなもん。
兵士は駒であって、偉い人に操られて、その対価にお給料を貰うだけの簡単なお仕事です。




第59話「急転直下」

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プトレマイオス基地 周辺宙域

 

「ユリカ、パターン12でいく、追い込むよ!」

 

<OK、任せて!>

 

2機の“テスター”が、逃げるもう1機の”テスター”に同時にライフルを射かける。

しかし打たれた側の”テスター”は、熟練を感じさせる動きで射線と射線の間に存在する安全圏(セーフティポイント)を駆け、逆にライフルをキラの”テスター”に向けて発射した。

もっとも、マモリ・イスルギであればこの程度はやってのけると知っているキラとユリカにとって、それは予想出来たことでしかない。

 

「掛かった!」

 

マモリが想像通りの動きをしたことを認めたキラは、自身の”テスター”に盾を構えさせ、迫り来るマモリの”テスター”に突撃する。

開発当初はそれこそカウンターウェイトでしかなかったシールドだが、戦争が進むにつれて改良が進み、今では”ジン”のマシンガンに十分耐えうるだけの防御力を備えていた。そしてそれは、実戦でのデータに基づいて判定が下されるこの模擬戦にも反映されている。

十分な防御力を備えた盾を構えての突撃(チャージ)が、銃弾を無効化しながらマモリの”テスター”に迫るが、やはりこれもマモリの目には破れかぶれの一手にしか映らず、そのまま上を飛び越えられる形で、キラの”テスター”の背後を取る。

 

<成長無しか貴様、捉えたぞっ!>

 

<───こちらも、です!>

 

ハッとなるマモリ、しかしその反応が操縦桿に伝わるまでのわずかなタイムラグが、彼女の運命を決定づけた。

一見破れかぶれなキラの突撃は、しかしそれさえも2人によって仕組まれた作戦に組み込まれた1工程でしかない。

マモリならこの突撃にどう対処するか、これまでの数度の模擬戦から得られたデータを元に予測を立てた2人は、片方が囮となってマモリを誘導し、隙を見せたマモリを撃ち抜くという作戦を立てた。

無防備なマモリの”テスター”に、ユリカの”テスター”が発射した銃弾が襲いかかる。

 

<ぐぅっ!?だが……>

 

その射撃によって右腕の破壊判定が下されるが、即座にマモリは”テスター”の残った左腕にアーマーシュナイダーを引き抜かせ、キラの”テスター”に斬りかかろうとする。

右腕が使用不可能になると同時に、その手に保持していたライフルも喪失判定が下された。さしものマモリもライフルと右腕無しで2機を相手することは出来ない。

せめてここで1機落として、少しでも勝ちの目を残すための1手であった。

 

「───流石です、教官」

 

<っ!?>

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()

キラ達は囮にならなかった側が仕留め損ねるだろうということを念頭に置いて、2段重ねの作戦を立てていた。マモリがこの1撃をしのぐだろうということを前提に、囮がすぐさま追撃態勢に移るのだ。

つまりどういうことかというと。

無防備な背中を晒しているはずのキラの”テスター”は、180度縦に回転することで、マモリの”テスター”に逆さまに向き合う姿勢を取っていて。

銃口を、右腕を奪われた”テスター”に向け終わっているのだった。

 

<……やるじゃないか>

 

マモリにしては非常に珍しいことに、率直に褒める言葉を言い終わるや否や、銃口から弾丸が彼女の機体に向けて放たれた。

マモリ・イスルギ機、胴体に直撃弾多数につき、撃墜判定。

訓練開始から1ヶ月経とうとする2人の、その短すぎる訓練期間に比べて、破格の成果であった。

 

 

 

 

 

「やったねキラ、初の白星、いやさ金星だ!」

 

「うん、正直あれで通用しなかったらもう無理だろと思ってたけど……なんとか上手くいったよ」

 

キラとユリカの2人は、普段の訓練生用の、白のシャツに迷彩柄のズボンに着替えて通路を歩いていた。

彼らはこれから、先の模擬戦の反省を行なうために普段は講義に用いられる部屋に向かっているのだが、その足取りは軽い。

それもそのはず、今回ばかりは上手くやったという自負があり、その証拠も既に掴んでいるからだ。

 

「あの『もにょり歪み』が出てるし、流石に今回は罵倒無しでしょ。間違い無い」

 

「こうやってコソコソ話してるのがバレたら、一瞬で大魔神になるだろうけどね」

 

彼らの言う『もにょり歪み』とは、マモリが訓練中に時々見せる表情のことであり、例えるなら「喜びでキリッとした表情を保てない結果、にやけと仏頂面の中間のような奇妙な表情」と表現出来る代物であった。

これが出た後の反省会では罵倒が飛ばず、淡々と評価されてで終わるのだが、それはマモリからの「文句なし」という賛辞であるということには気付いていた。

酒を飲んだ後の彼女の醜態を知っている身としては、普段の彼女は教官と生徒という立場を保とうとして厳しく当たっているだけであり、本当は生徒を思いやっている人間なのだということは知っている。

そんな彼女からの無言の賞賛は、どことなく心地よいのだ。

スキップでも始めそうな浮かれ気分で歩みを進めるユリカだが、曲がり角から現れた人物とぶつかりそうになってしまう。

 

「おっと、ごめ……!?」

 

「うおっ、いやこっちも……!?」

 

激突の危機を回避したユリカだが、激突しそうになった人物、グラン・ベリアの顔を見て言葉を止めてしまう。

数週間前に食堂で喧嘩した2人は、訓練過程が異なることもあってあれから話し合いをする時間が設けられず、遭遇したら気まずそうに顔を逸らすだけの関係となっていた。

そんな彼らは言葉に困り、たじろいでしまう。そんな2人を見かねたキラは、助け船を出すことにした。

 

「あーもー、ほら、ユリカ。言うんじゃなかったの?」

 

「……うー」

 

キラは以前、ユリカからグランへの謝罪をどうするべきかについてキラに相談を持ちかけていた。

事情はどうあれ、先に手を出したのはユリカからなのだ。いつまでも遭遇する度に基地内に気まずい空気を生み出す今の状態は良くない。

 

「……あのよ」

 

「っ!?な、何かな」

 

どうにかしてユリカに会話を始めさせようとしていたキラだったが、グランが会話を切り出したことでその思考は不要のものとなった。

まさか彼から話を切り出してくるとは思っていなかったキラとユリカは軽く警戒しながら、言葉の続きを待つ。

 

「その……悪かったよ、いきなり喧嘩売って」

 

続く言葉も、キラ達にとっては驚くべきものであった。

実際に会話したのは短い時間でありながらも、この男から謝罪が行なわれるとは想像も出来なかったために。

 

「訓練開始して1ヶ月も経ってない奴に、射撃訓練で負けるとは思っていなかった。正直、嫉妬してた。だからその、スマンかった」

 

「……こっちも、あの時は熱くなりすぎたよ。ごめん」

 

一度会話が始まれば、今までの逡巡はなんだったのかと思うほどにすんなりと和解する2人。

数週間に渡った確執は、こうして終着を迎えたのだった。

 

「お前も悪かったな、こっちの勝手で振り回してよ」

 

「あ、えっと」

 

「何かあったら言ってくれ、正直何言われても仕方ねえって思ってる」

 

言葉に迷うキラに、グランは言葉の続きを求める。

それを聞いたキラは、ためらいがちにグランに問いかけた。

 

「いや、()とは、大分違うなって……」

 

「……さっきも言ったけどよ、あの時は嫉妬で目が曇ってたってのと、俺が気を張りすぎてたってのがある」

 

「気を張りすぎてた?」

 

ユリカの問いかけにグランは、ああ、と返す。

 

「俺の後ろにひっついてた2人、覚えてるか?俺もあいつらも、南米の出身でな。知ってるか?今の南米は、酷えことになっちまってる」

 

「……『エイプリルフール・クライシス』?」

 

「ああ。あれのせいで南米のエネルギーは不足して、おまけに一度プラントに対して中立を表明しようとしたばっかりに大西洋連邦に侵略されてさ。で、ストリートチルドレンだった俺達は、真っ先に政府に売られた。反抗しません敵対しません、貴方たちに従いますって意思表明のためにな。文句を言おうもんなら銃殺刑ってやつだ」

 

「それは……」

 

たしかに南米、南アメリカ共和国は連合加盟国の1つだが、そこに至るまでには大西洋連邦の侵略という過程が挟まる。

『エイプリルフール・クライシス』でエネルギーに困窮した彼らはそれを解決するためにZAFTからの積極的中立勧告を受け入れ、中立の立場を取ろうとしたが、それを良しとしなかった大西洋連邦によって侵略され、半ば無理矢理連合に加盟させられたのだ。

そして、加盟した以上はZAFTとの戦争に参加を強制させられる。とは言っても他の加盟国と比べて大した戦力を持たない南米は、協力の証として兵士やその候補を連合に差し出したのだ。

それはここにいるグラン・ベリアと、その子分も同じ。

 

「国からしたら余分な人間を追い出せるし、忠誠も示せるってことだ。こういうのってあれだろ、ジャパンでは『一石二鳥』ってんだろ?」

 

国からしたら、俺達は石ころ同然ってことだけどな、とグランは笑う。

自分達は、捨て石にされたのだと。

 

「だがな、俺達は勝手に差し出されて、どうでもいいところで死ぬなんてごめんだ。俺もそう変わらんが、あいつらは単純で、このままだとどこかで死んじまう。死なせたくねぇ、俺が守ってやらねえとって思ったら周りの奴らが敵に見えてよ。それで……俺より上だって思うお前が出てきて、八つ当たりした。だから」

 

「……もういいよ」

 

グランが謝罪を重ねようとするのを、ユリカは手で制する。

 

「皆、事情があって戦ってる。誰かを守るためだったり、敵を倒すためだったり、お金のためだったり。だから今重要なのは、君がどうして喧嘩腰だったのかじゃない。互いに『ごめん』って謝ることだ。僕も謝った。それでいいじゃないか」

 

「いや、しかし……」

 

「どうしても謝りたいっていうなら、そうだなぁ」

 

ユリカは指を自身の顎に当てて、いたずらっぽく笑う。

 

PX(酒保)で、お菓子奢ってよ。今は祝杯を挙げたい気分なんだ」

 

「……!ああ、それくらいならいいぜ。お前もどうだ?」

 

「え?あ、うん、じゃあ僕もご相伴にあずかろうかな」

 

「よっしゃ、任せろ!それなりに貯めてるからどんときやがれ」

 

グランとユリカが並んでPXの方へ向かっていくのを見て、キラは微笑ましい気持ちになる。

やっぱり、全然不可能なことじゃあないのだ。ナチュラルとコーディネイター、否、人間同士で笑い合うなんてことは。

きっと人間は、世界はどこかで大きく間違えてしまったのだ。こうやって話し合っていれば全部は無理でもいくつか解決出来たことを、言葉を放棄したばっかりにこじらせて、こんな世界になってしまった。

それでも、きっとまだ間に合うはずなのだ。まだ理性は機能しているはずなのだ。

それがきっと───。

 

(僕達もまた、笑い合えるよね?アスラン)

 

今は遠く、もしかしたら地上にいるかもしれない友に向かって、キラは呟くのだった。

 

 

 

 

 

3/23

プトレマイオス基地 小講堂

 

学校の教室の半分程度の広さの一室、その場所にいるのは、たった3人の人間のみであった。

ちょうど1ヶ月前から今日まで、『特別訓練コース』を過ごしてきた者達。

すなわち、キラ・ヤマト、ユリカ・シンジョウ、そして彼らの教官『であった』マモリ・イスルギの3人である。

今日を以て、彼らは生徒と教官の関係ではなくなるのだ。

今日は、訓練生達の卒業式の日であった。

 

「キラ・ヤマト少尉!貴官は3月25日より”第13MS実験部隊”の強襲機動特装艦”アークエンジェル”の艦載機、試作MS”ストライク”のテストパイロットとして配属されることになる。貴官の奮闘を期待するものである」

 

「はっ、光栄であります!」

 

キラが前に進み出て、マモリから卒業証書を受け取る。

たかが1枚の紙切れだが、不思議な重みが感じられる1枚であった。

 

「続けて、ユリカ・シンジョウ少尉!3月25日より連合宇宙軍第4艦隊に配属、月軌道防衛の任に就くこととなる。同じく、貴官の奮闘を期待する」

 

「粉骨砕身、努力します」

 

同じく、ユリカが前に進み出てマモリから卒業証書を受け取る。

後は、教官としての最後の言葉を残すのみだ。

 

「……正直な、私はお前らを、訓練開始から数日の間にドロップアウトさせてしまいたかった」

 

マモリはぽつりぽつりと語り出す。

曰く、さっさと追い出してしまいたかったのだと。

 

「お前らを見てると吐き気がした。戦争に参加した友を救うだとか、生まれ育った街を守りたいとか、そんな考えで入隊しようなんて奴の席なんて用意したくなかった。───そんな優しい考えを持ってる奴らが戦争に参加するなんぞ悪夢だった」

 

「……」

 

それは、紛れもなくマモリ・イスルギの本心であった。

戦争に参加するには、自分の生徒達は優しすぎる。特にキラ・ヤマト。訓練を施してる間、いつも見ていたからマモリにはわかる。

この少年は天才だ。大凡何をやらせても即時に技術を吸収し、自分のものとしてしまえる天賦の才を、彼は持っている。

しかし、その精神は致命的に戦争に向いていなかった。

 

「だがお前らは訓練を耐えきった、くぐり抜けた。私には止めることなど出来ないのだと思い知らされたよ。お前達は想像してたよりもずっと、心が強かった。だから、色々とたたき込んだ。せめてその命を散らすことがないように、理想を追い続けられるように。そしてお前達は、それもこなした」

 

はあ、と息を吐いた後、マモリはキッとキラ達を見つめ、嘆願するようにこう言った。

 

「もうお前らに私がしてやれることは無い。お前達は少年少女から、戦士になった。そしてこれが、私が教官として言える最後の言葉だ。───生き残れ。バカみたいに綺麗な理由で戦うことを決めたんだから、バカみたいに生きあがけ。……最後に言わせてくれ。お前達の教官になれて幸せだった」

 

そう言うと、マモリは敬礼する。

まるで旅立つ我が子を見送る母親のように、その姿からは確かな『愛』が感じられた。

感極まったキラとユリカは、敬礼を返しながら、こう返す。

 

「───自分達も!貴方という教官に出会えて幸せでありました!」

 

「絶対に、生き抜きます……!」

 

教官であった女性から愛を受け取った2人は、何があっても生き抜くことを決めた。

それこそが、ここまで自分達を育て上げたマモリ・イスルギへの、最大の恩返しであった。

雛鳥の巣立ちにも似たその光景は、人間に社会が生まれたその時から、何度も繰り広げられたものであったけれども。

今日を生きる3人にとっては、掛け替えのない一瞬であった。

 

 

 

 

 

「おかしいな……どこにいったんだろ、ユリカ」

 

キラは1人、プトレマイオス基地の通路をさまよっていた。

あの卒業式から既に数時間が経過し、標準時間で17時になろうとしている。

サイやトール、和解したグランらで卒業を祝して簡単なパーティを計画し、既に準備を済ませていたのだが、未だにユリカが姿を表さないのでキラが探しに来たというのが、ここにいる経緯であった。

しかし、中々見つからないとはいえ、こんなところまで来る必要があっただろうかとキラは自問自答する。キラが今いるここは、“コペルニクス”との連絡船などの軍艦以外が使用する港口だった。

流石にここにはいないだろうと早々に見切りを付け、キラは今度は訓練所周辺を探しにいこうと決めた。

───その時である。

 

「───ユリカ?」

 

「っ、キラ?」

 

T字路の曲がり角の辺りで、緊張した面持ちで辺りを見渡すユリカを発見したのは。

めでたく訓練生活を卒業した日だというのに、引きつったような調子でキラに反応するユリカは、焦ったような声でキラに問いかける。

 

「な、なんでこんなところに?いるのかな?」

 

「ユリカこそどうしてこんなところにいるのさ?もう皆待ってるよ」

 

「……そうか、そういえばもうそんな時間だったか」

 

今度はホッとしたように振る舞うユリカに、違和感を感じるキラ。

彼女がこのように不自然な態度を取る場面は、この1ヶ月の間で記憶に無い。いつだって彼女はサバサバ、きっぱりと物事に向き合う人間だった。

キラは彼女が現れたT字路の先が気になり出した。

 

「何か、あっちにあるの?」

 

「ううん、なんでもないよ。じゃあ、行こうか」

 

目を離した一瞬でユリカの態度は普段通りの飄々としたものに変わっていたが、それが逆にキラの違和感を助長する。

 

「どうしたのキラ、そっちには何もないよ?」

 

「え、ああ、うん……」

 

ユリカに促されてキラは元来た道を戻り始めるが、それでも言い表しようの無い違和感が拭えず、去り際にチラッと後ろ、T字路の方を見た。

すると、何人かの作業着姿の男達が、宇宙船ドッグの方へ足早に向かっていくのが見えた。

それだけなら何ら不思議な光景ではない。このプトレマイオス基地は連合宇宙軍最大の拠点であり、それを軍内部だけで維持するのは困難で、所々で民間の業者が作業に従事しているのだから。

だが、その内の1人が肩に担いでいるものを、見過ごすことは出来なかった。

それは10代半ばの少女くらいのサイズで、人形のように手足を揺らしていて、頭部からは桃色の髪が生えていた。

どこからどう見ても、気絶したラクス・クラインであった。

 

「───っ、ラクスっ!?」

 

その声に反応して、男達の最後尾を走っていた男がキラ達の方を向き、懐に手を入れる。

嫌な予感のしたキラは、咄嗟にユリカの体を掴んで横道に倒れ込む。

ピシュっ!!!

いきなり引き倒されたユリカが悲鳴を挙げるが、キラは空気の抜けるような音がした直後、壁に何か堅い物がぶつかるような音がするのを聞いた。

もしもあれが勘違いでなければ、先に挙がった空気の抜けるような音は、消音装置(サイレンサー)を付けた拳銃の発射音。いや、その後に続いた衝突音を考慮すれば、確実にそれだ。

そのことが意味するのは、つまり。

───発砲。

 

「き、キラ!?」

 

「しっ、静かに!」

 

ユリカを後ろにかばいつつ、キラは通路の先を窺う。

ピシュっ、ピシュっ!!!

少し顔を出してみようとするが、即座に通路の先から発砲されるため、詳しい状況を把握出来ない。

使える物は無いかと辺りを見渡しても、武器と言えるようなものがそこらにホイホイと転がってるわけもなく、仕方なしにキラは近くに置いてあった消化器を手に取った。

何も無いよりはマシだ、そう考えて両手で構えて通路の先の敵へ注意を配るが、そこでふと気付く。

───発砲が止んでいる?

 

「キラ、よくわかんないけど、これはマズいよ。早く逃げよう」

 

「しっ、待って。発砲が止んだ」

 

もしかしたら、こちらに見切りを付けて立ち去ったのかもしれない。恐る恐る通路の先を窺うキラ。

 

「……!?」

 

「ったく、処理は済んだ───!?」

 

バッタリ。文字にすればそれが相応しい。

まるで1つ2つほど昔の恋愛シミュレーションのように、キラとその人物はぶつかりそうになる。

シミュレーションと違うところがあるとすれば、ゲームなら男と女がぶつかりそうになるところだが、この場合は同性だったこと。

そして男の手には、トーストの代わりに拳銃が握られていることであった。

お互いにこうなるとは想定していなかったためか、一瞬固まってしまう両者。その一瞬からいち早くキラが立ち直ったことが、両者の命運を分けた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「なんっ!?」

 

キラは男の頭部に向けて思い切り消化器を振り回した。

男はその手に構える拳銃をキラに向けて発射するだけでキラに勝利することが出来たのだが、人間の反射神経に逆らうことは出来ず、咄嗟に左腕で頭をかばってしまう。

鈍い音と共に男は怯み、キラはその隙を突いて拳銃を握った男の手に組み付く。

男の手を極めることでなんとか拳銃を取り落とさせることには成功したが、直後に男が壁に向かって走り出す。

壁に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべながらもキラは足払いを掛けて男を横倒しにする。

そこから先は取っ組み合いだ。キラは男に馬乗りになって男の顔面を殴りつける───自分の命が賭かった状況で躊躇するなとマモリから教えられたので、死なない程度には人を殴れるようになった───が、咄嗟に腰ポケットから小型のナイフを取り出したことで、その状況は一変する。

男がキラに向かってナイフを振り回すと、キラは反射的に体を引いてしまい、今度は男がキラに飛びかかり、その顔面にナイフを突き立てようとする。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

「ぐうっ、ユリカ!助け……!?」

 

男に馬乗りになられ、男の手を掴むことでナイフを食い止めるキラ。だが、上から体重を掛けられていては思うように力を込めることが出来ず、次第に押し込まれていく。

近くにいるユリカに助けを求めるキラだがユリカは腰を抜かして呆然と見るばかりで、動こうとしない。突然の事態にパニック状態にあるのだろう。

ユリカの助けが得られないとなると、もうキラに打てる手は無い。このまま迫り来るナイフが突き立てられ、ゲームオーバーの時を待つしかなかった。

 

(くそっ、こんなところで僕は……!)

 

 

 

 

 

「そのまま動かすなよ、ヤマト!」

 

 

 

 

 

聞き慣れた女性の声が響くと共に、男の体が横に向かって吹き飛ぶ。いや、倒れ込む。

声がした方へ目を向けると、そこには口から煙が昇っている拳銃を構えたマモリ・イスルギの姿があった。

マモリは素早くキラの方へ近づくと、男の頭部に弾丸を撃ち込む。既に1発頭部に命中して即死だったはずだが、念入りにマモリは2度撃ち(ダブルタップ)する。

わずかに飛び散った血液がキラの顔に付着し、キラはビクッと竦んでしまった。

 

「無事か、怪我は!?」

 

「あ、え……、はいっ、大丈夫です教官」

 

「ふぅ……中尉と呼べ、ヤマト」

 

安堵のため息を漏らしながらも、冷静に呼び方を訂正するマモリ。いつも通りの頼れる恩師を目にして、キラは体から力が抜けていくのを感じた。

 

「ど、どうしてここに?」

 

「……貴様が中々戻らないからと、ケーニヒ2等兵に捜索を頼まれてな。片手間に探してみればこの有様だ。何があった?」

 

周りには腰を抜かした教え子2人と、その教え子達に襲いかかっていた作業着姿の男性の死体。よく見ると銃痕が壁に付いてるし、それを為したであろう拳銃も転がっている。

教え子の危機とは言え即死させたのはマズったか、と顔を顰めるマモリは、キラに事情説明を求める。

 

「……あっ!マズいんです、マズいんですよ中尉!この人達に、ラクスが」

 

「ラクス?……ラクス・クラインか?たしかにこの基地に捕らえているという噂はあったが……連れ去られたというのか!?」

 

「はい、こいつらの1人に担がれて……」

 

それを聞くとマモリは、死体の服を漁り始める。

胸ポケットに入っている身分証、これは違う。ただの作業員が拳銃持って兵士に襲いかかる訳がない以上、偽装に違いない。一応懐にしまい込む。

ズボンのポケットを漁ってみると、そこからは四つ折りになった紙を見つかった。手触りからして、おそらく写真だろうか?

それを広げて、マモリは絶句する。

信じられない、これはあり得ない。いや、だが、認めざるを得ない。

 

「……くくくっ、ハハハ!なんてこった、この大間抜けが!いや、そんな奴らにしてやられた我々はもっと間抜けか?ええいっ、クソ!ファ○ク!」

 

普段の姿からは想像出来ないほどにマモリは心底愉快そうに、否、はらわたが煮えくりかえると言わんばかりに笑う。

不審そうにするキラにマモリは紙を手渡して、見てみろと目で訴える。

そのまま通信機を取り出してどこかへ通信を始めるマモリを尻目に、キラもその紙を見てみる。

やはり、絶句した。

統一された緑色の制服を着た複数名の男女が、宇宙空間を背景にして写っている集合写真であった。おそらく、宇宙船の中で撮ったものであろう。

その制服には見覚えがあった。見間違う筈も無い。

そして、背景の宇宙空間に写る物。

砂時計のような形をしたそれは───!

 

「HQ、HQ!こちら、MS戦技特別教導隊所属のマモリ・イスルギ中尉!民間の作業員に紛れてZ()A()F()T()()()()()()()()()()!ラクス・クラインも連れ去られた!繰り返す、当基地にはZAFTが侵入している!───奴ら、最悪の手段(協定破り)を取ったぞクソッタレ!」




一方的な戦いが好きになれない私から、ZAFTへボーナスタイムをプレゼント。
次回から、第一章最終盤に突入です。
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