機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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今回は前後編です。


第77話「紅の集結」前編

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L4宙域 ”コロンブスⅡ”艦橋

 

「司令、もう少しでランデブーポイントに到着します」

 

「了解した。周辺警戒を怠るなよ」

 

”アークエンジェル”の大気圏突入作戦の陽動作戦から2日が経ち、ユージ達”マウス隊”はL4宙域にやってきていた。

このような主戦場から離れた場所に彼らがやってきたのは、()()()()が理由だった。

 

「本当に来るのでしょうか?」

 

「さてな。こういう場合は半々といったところだが」

 

「半々?」

 

「本当に来るか、罠のどちらかだということだよ」

 

カルロスが若干気の抜けたような調子で振った話に、ユージは肩を竦める。

ハルバートンから下された任務の内容は、『ZAFTのクライン派と接触すること』だった。極秘任務であるため、”コロンブスⅡ”単艦での任務である。

戦闘になる可能性が低く、また政治的側面の強い任務ではやる気があまり出ないのも無理は無い。艦長の仕事はきっちり行なっているのでユージはカルロスの態度を咎めるようなことはしない。

なんでも、先の奇襲から間もない頃に現地のスパイがクライン派と接触し、極秘での会談を申し出てきたのだとか。

L4はその密会場所として、“マウス隊”は実際に対面する『使節団』としての役割を担わされたのである。

罠かもしれず、加えてプラント内での影響力を大きく低下させたクライン派。プラント内の情報を得る窓口になるかもしれないとはいえ、そんな存在にハルバートンが出張るわけにはいかない。

しかし、こちら(連合軍)にとって有益になるかもしれないとなれば下手な部隊を向かわせるわけにもいかない。

”マウス隊”が選ばれたのは隊の戦力と知名度、要するに「高名な部隊を派遣することで誠意の証とする」ためだ。

過大評価ではないだろうかとユージは思うのだが、カルロスはそうではないと言う。

 

「この部隊への評価は妥当だと思いますよ、私は。連合初のMS開発の立役者、パイロット達はいずれも単独で戦局を打開しうる能力の持ち主、技術部のメンバーも粒ぞろい……影響力は十分にあります」

 

「そうかな……そうかも」

 

「加えて、隊長は戦争初期から”メビウス”で戦い続け、有効な対MS戦術を生み出した『英雄』ですからね」

 

「……『英雄』、ねぇ」

 

本当に『英雄』だったら、素晴らしき戦友達を死なせることは無かった筈だ。

結局、自分はどこまでいっても凡人だ。出来る事は真に『英雄』と呼ばれるべき者達の戦う環境を整えてやるくらい。

 

「隊長が『英雄』ですか、あまり想像出来ませんね」

 

「マヤ、準備は済んだのか?」

 

「ええ。『物資』の検査も、非常事態(罠だった時)への備えも万全です」

 

艦橋に新たに現れたのは、ユージが信頼し、ユージの持つ『知識』をある程度明かしたマヤ・ノズウェル。

彼女は格納庫にてMSや機材の点検を行なっていた。作業が一段落したので艦橋にやってきたマヤは、ユージは『英雄』ではないという。

 

「この人は『自分でなんとかしよう』ってよりも『出来る誰かにやってもらおう』ってタイプ、言っちゃなんですけど他力本願なんですよ。その『出来る誰か』へのサポートは手厚く行なうから立派に見えるだけで」

 

「ズバッと言うな君は……」

 

「人を引っ張るでもなく、人の上に立つでもなく、人の背中を押し出す。そのクセして背中を押したことが本当に正しかったのかウジウジと悩む、面倒臭い人ですよ」

 

「マヤ、俺何か怒らせるようなことした?」

 

「結論を聞いてください。───そういうところがほっとけないって話ですよ」

 

「……あのー。隊長と技術主任は、その、()()で?」

 

胸焼けでもしたような表情のカルロスは握りこぶしから小指だけを立ててみせる。

ユージはバツが悪そうに頭を掻き、それとは対照的にマヤはイタズラっぽく微笑む。

 

「この人が臆病でさえなければ、ですね。───お客さんがいらっしゃいましたよ」

 

マヤの指差した方向のモニターにはたしかに、プラントで使われている貨物シャトルの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

”コロンブスⅡ”格納庫

 

”コロンブスⅡ”とシャトル、それぞれから連絡艇が発進していく。

シャトルからは『物資』受け渡しの責任者が、シャトルに向かっていく方には『物資』に何か仕込まれていないかを確認するためのスタッフが乗っていた。

格納庫に並んだユージ達の前に連絡艇が着地し、側面のハッチから数名の人間───全員、ZAFTの制服を着ている───が降りてくる。

その中でも、特に目を引くのが中央に立つ白服の男だ。

バッジを付けていることから上級将校相当であることが窺えるその男の制服は、男自身の筋肉で今にもはち切れそうになっている。

更に唇は男性にしてはいやに鮮やかで、口紅を使っているようだったし、髪型はポニーテールに整えられている。

総括すると、『濃い』男が立っていた。

男は手を差し出しながら挨拶する。

 

「初めまして、あたしが使節団リーダーを任せられたミルキー・ウィンターローズよ。よろしくね♪」

 

「うおぉ、これは……」

 

「筋肉もりもり、マッチョマン、ですね……」

 

「だ、大丈夫ですよぅ。敵じゃない、ですよねぇ……?」

 

当然のようにその『濃い』口から放たれた女言葉に、”マウス隊”メンバーのほとんどは固まる。

しかし、周囲をまったく意に介さず前に出てその手を握った男がいる。───ユージである。

 

「こちらこそ初めまして、ウィンターローズさん。地球連合軍第8宇宙艦隊直轄”第08機械化試験部隊”の隊長を務めるユージ・ムラマツ中佐だ」

 

「あら……」

 

握り返しながらも、『濃い』男は不思議そうにユージを見つめる。

 

「何か?」

 

「いえ、大抵の人はあたしと会ったら固まるんだけど、貴方は違うのね」

 

「ははは……慣れ、ですかね」

 

今更このような『濃さ』で動揺していたら”マウス隊”の隊長など務まるものか。

つい最近は聖帝もどきまでやってきたよ、ちくしょー。

 

「あら、あらあらあら!そんな人はラクスちゃん以来よ~♪」

 

「まあ、貴方ならば彼女との親交もあるのでしょうねウィンターローズさん。いや……()()()()さんとお呼びするべきかもしれませんが」

 

ミルキー・ウィンターローズと名乗ったこの男性、当たり前だが本名ではない。

この男性の真の名前は、マグナウェル・ローガン。『クライン派の最大戦力』『薄紅の破壊神』という異名を持つ、ZAFTの中でも屈指の兵士である。

高い戦闘能力と指揮能力を併せ持ちながら人格者としても知られており、休戦中にZAFTと交換した捕虜の中には彼によって捕虜とされた者達も多い、極めて真っ当な軍人だ。

ユージがそれを知っていたのは前もってクライン派から派遣されてくる可能性の高い人物をピックアップしており、その中に彼も含まれていたからだ。

彼は軍人としても優秀だが、明白にクライン派であるとみなされており、シーゲル・クラインからの信頼も厚いため、来る可能性は高いと踏んでいた。

 

「そう呼ばれるのはあまり好きじゃないのよね、可愛くないから。出来ればミルキーって呼んで欲しいわ」

 

「……ウィンターローズさんで、いかがでしょう?」

 

「ミルキーの方が呼びやすいと思うのだけど……まあいいわ」

 

さしものユージも、いきなり目の前の男を『ミルキー』呼びすることは出来なかった。

極めて平常心を保つよう心がけながらも、冷静に『能力』で視界に表示されるステータスの把握に努める。

ステータスが表示される者(ネームド)は彼だけではなかった。

 

 

 

マグナウェル・ローガン(ランクA)

指揮 13 魅力 12

射撃 9 格闘 14

耐久 16 反応 11

 

ヒルダ・ハーケン(ランクC)

指揮 9 魅力 9

射撃 7 格闘 10

耐久 9 反応 7

 

ヘルベルト・フォン・ラインハルト(ランクC)

指揮 5 魅力 6

射撃 8 格闘 8

耐久 9 反応 6

 

マーズ・シメオン(ランクC)

指揮 6 魅力 7

射撃 7 格闘 7

耐久 10 反応 8

 

 

 

マグナウェルだけではなく、『原作』のdestiny時代において”ドムトルーパー”を駆った3人組も、今回の使節団に混ざっていた。

たしか無印時代からクライン派だったという設定もあったので、ユージは「そういうこともあるか」と納得する。

というか流石にこちらの世界に生まれてから30年近く経っているのに(ノートなどにこっそりメモとして残したりはしているが)、メジャーではない人物のことまでは把握しきれない。

 

(たしか、リーダー役のヒルダ・ハーケンが同性愛者だったかな)

 

本当に、それくらいしか覚えていないのだ。

出来れば得意分野なども把握しておきたかったが、厳密には味方ではないために表示されることはない。

そんなことよりも、気に掛かることがあった。

この場には姿を現していないが、ユージの『能力』の有効範囲内にいればしっかりと表示されている。

 

「……操縦席の者は、呼ばなくて良いのですか?」

 

「あら、よく分かったわね。あの子は艇内で待機よ、色々と複雑でね」

 

「そうですか……」

 

たしかに自分達の前に顔は出しづらいだろう。

出来れば会いたかったが、仕方あるまい。

 

<隊長、『物資』に怪しい反応はありません。おそらく安全かと>

 

「分かった、搬入を開始してくれ」

 

色々と話題は逸れてしまったが、本題は()()()だ。

複数の”ミストラル”によって”コロンブスⅡ”に搬入されてきたのは、全身が灰色に染まった鋼鉄の巨人。

ツインアイとトサカのように突き出たアンテナ部分が特徴的なその機体……”イージス”の姿を複雑そうに見る。

 

「たしかに、GATX303”イージス”、返還したわよ」

 

「ああ、確認したよ。こんな形で連合に帰ってくるとはな」

 

「それについては、申し訳ないと言う他に無いわ。シーゲル殿はたしかに休戦協定を守ろうとしていたし、当然この機体も返すつもりでいたのよ」

 

「……パトリック・ザラの暴走を許してちゃしょうがないだろ」

 

ふとユージの後ろ、つまり”マウス隊”側から呟き声が漏れる。

ユージがキッとにらみつけるが、誰が言ったのかまでは聞き取れなかった。

せっかくこちらに友好的姿勢を見せようとしている相手に、それは完全に悪手だ。

しかしマグナウェルは怒りを露わにすることはせず、むしろ一歩前に出て頭を下げた。

 

「謝ったってどうしようもないのは分かっている、それだけのことをしでかしたのも。───それでも信じて欲しいの。プラントにもこの戦いを終わらせたいと、平和を願う者が残っていることを」

 

「……ウィンターローズさん、部下の非礼をお詫びします。あなた方が危険な綱渡りをしてこの場にいることも、理解しているつもりです」

 

すぐに埋まる溝ではない。それだけの業を、お互いに積み重ねてしまった。

しかし、いずれは埋めていかねばならない溝だ。

どれだけ時間が掛かったとしても、必ず。ユージはその旨をマグナウェルに伝える。

 

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。……そろそろ時間ね」

 

そう言うと、マグナウェルは踵を返してスペースランチに向かって歩き出す。

ユージの言うとおり、この場での会合は非公式かつトップ(シーゲル)が拘禁されているクライン派にとって非常に危険な行為であった。

あまり長々といるわけにもいかない。

 

「また会えることを祈っているわ。今度もまた、戦場でないところで」

 

「ええ、心底思います」

 

クライン派の一同が乗り込んだスペースランチはふわりと浮かび上がると、再び気密扉の方へ向かって進んでいく。

結局、スペースランチの操縦席に座っている者の姿をユージが目に納めることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ~♪」

 

「無事でなによりです、ミルキーさん」

 

「当たり前よぅ、あたしを誰だと思ってるの?それに、噂に聞くネズミの親玉さんもいい男だったからね~」

 

「そう、ですか……」

 

「それと……彼、貴方のことに気付いていたみたいよ。知り合いだったり?」

 

「……一度だけ」

 

「はあ……だから言ったのよ。『貴方にスパイなんて似合わない』ってね。顔見知りと戦うなんて出来ないでしょうに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“コロンブスⅡ”艦橋

 

「なんていうか、色々とすごかったですね……色々と」

 

「そうかぁ?」

 

「隊長、感覚が麻痺してるんじゃないですか?」

 

「そうかな……そうかも……」

 

遠ざかるシャトルを見送りながら、カルロスはユージに話しかける。

たしかに、冷静に振り返ってみれば強烈に過ぎる見た目だったと思う。が、初対面の相手に対して挙動不審な様子を見せるような失礼な真似を出来るわけもないし、問題が無かったならそれでいいだろう。

 

「それにしても、本当によく分かりませんね。連中、今更こんなもの渡してきてなんだというのです?」

 

「”イージス”か?いいじゃないか。奪われた物が返ってきたんだ、喜んでおくところだ」

 

「それはそうです、ですけど、なんで”イージス”なのかという話です」

 

カルロスはなおも言いつのる。

”イージス”にわざわざ危険な密会をしてまで渡すような価値は無い筈だ。

 

「だってそうでしょう?先の奇襲、『三月禍戦(マッチ・ディザスター)』で連中が投入してきた新型機の中には、”イージス”の量産型と思われる機体もあったそうじゃないですか」

 

「……”アイアース”タイプか」

 

「はい。それに隊長達は、ZAFT独自の強化発展型と思われる白い”イージス”タイプとも交戦したんですよね。それだけの機体が開発されてるってことは、もう連中にとっては用無しということです」

 

そしてそれは、連合軍にとっても同じだとカルロスは言う。

たしかに”イージス”本体は強奪されてしまったが、”アークエンジェル”が『セフィロト』に到着した時点でその機体データは手に入っているし、それを基に再生産を行なうことも不可能では無い。

実際、『原作』においてアクタイオン・インダストリーがそのデータを用いて再生産・改修を行なって発展機である”ロッソイージス”を開発している。

それなのに、こんなところで返してくる意味が分からない。

 

「んー……機体そのものに注目すればそうとしか捉えられないが、メッセージ性があると見たな、私は」

 

「メッセージ性?」

 

「ああ。今回彼らから私達に届けられたのは、別に”イージス”だけというわけではない」

 

ユージは懐から小さな長方形の物体を取り出す。

USBメモリー等から発展したその小型記録媒体には、クライン派が収集した最高評議会が決定した予算案やプラント内経済活動の動向、そして僅かではあるがZAFTの各地に点在する拠点についての情報が詰まっている。

むしろこちらの方が本命で、”イージス”は言ってしまえばオマケといったところか。

 

「要するに彼らはこう言いたいのかと思うんだよ。『我々はきちんと協定を守るつもりでいたし、”イージス”も返すつもりでいた。こうなった全ての責任はザラ派に有り、我々は彼らとは違う』、と」

 

「……ごますりですか」

 

ザラ派の強硬手段によって大きく変化してしまった今のプラントではもはやクライン派が主導権を握るのは不可能に等しい。

ならば、せめて戦後の自分達の立場をよくするために動こうというのはある意味当然の考え方かもしれない。

もしくは、『暴走してしまった祖国を止めるためにあえて汚名を被る覚悟をした』と言うことも出来るかもしれないが、得てしてそういう考え方は多くの人間から疑念的に捉えられるものだ。

 

「だが、大事なことだ。これで我々はプラント内に探りを入れるのにクライン派という窓口を得られたし、戦後プラントの統治だって彼らに面倒なことを任せて戦前の体制に速やかに戻すことも出来る……かもしれん」

 

「戦後って……こんなことしてたら裏切り者扱い確定じゃないですか。そんな連中に統治なんて出来るんですか?」

 

「出来るさ。『speak softly and carry a big stick(棍棒を携えて、穏やかに話し合おう)』、昔っからの常套手段だ。能力がある奴が仕事をやって、その周りを怖ーい男達が囲んでいれば何も起きやしない」

 

反抗的な態度を見せれば、バンっ。ユージは右手で銃のような形を作り、おどけてみせる。

現代日本で生まれ育った記憶のあるユージからすれば唾棄すべき棍棒・砲艦外交だが、ここまで戦局が悪化してしまうとそうしなければ連合加盟国の市民達が納得すまい。

どうやっても混乱が避けられないというなら、結局のところ恐怖による支配が最短で事を納める方法なのだろう。───その後もずっと長く続く禍根の種となるのも間違い無いが。

前例(東西ドイツ)は41年でようやく解決したが、今回はどうなるのやら。

 

「結局、政治ですか。嫌なもんですね」

 

「私だって好きなわけじゃない。だが、そうするしかないということも分かるようになったつもりだ。───それに、これも所詮は取らぬ狸の皮算用さ。まずはZAFTに勝たねばならん」

 

そう、結局これはユージの憶測でしかない。

ならばそれを延々と続ける意義は薄く、また、ユージが考えるべきことでもなかった。兵士は目の前の任務を片付けて、明日を迎えられるようにするだけだ。

そういう意味ではユージもクライン派も変わらないのかもしれない。───自分達のことで精一杯という意味では。

 

「さて、いつまでもくっちゃべってるワケにもいかん。我々は多忙だからな。任せるぞデヨー艦長」

 

「アイアイサー。きっちりかっちり、安全かつ快適なクルーズを提供いたしますとも」

 

ユージは艦橋から退出し、格納庫へ向かう。

爆発物などのわかりやすい罠が仕掛けられていなかったとはいえ、完全に”イージス”が安全と分かったわけではない。

検査結果の確認、そして報告書の作成。

やるべきことはいくらでもあるのだ。

 

 

 

 

 

4/2

『セフィロト』 ”第08機械化試験部隊”オフィス

 

「ふーんふふんふん、ふんふんふーん♪」

 

「やけに上機嫌ですね、隊長」

 

「そりゃあそうだろう。ようやくあの3人に負担が集中する体制が変わるんだからな」

 

柄にも無く鼻歌を歌いながら書類を捌くユージにウィルソンが声を掛ける。

任せられた仕事を終えて日課である趣味の可変MS設計をしていた彼だったが、ここまで浮かれながら仕事をするユージの姿は珍しいことであった。

とはいえ、無理も無いことだとウィルソンは思う。

 

「ああ、たしか今日来るんでしたね。追加パイロットの皆さん」

 

ユージが浮かれているのは、ついに、”マウス隊”にMSパイロットが追加で配属されることが決定し、今日がその日だからである。

本来ならば先週、それこそ3月25日には配属されているはずだった。しかし『三月禍戦』の影響を受けてそれどころではなくなってしまい、今日まで延びていたのだった。

特に痛いのは、新人に宛がわれるはずの”ダガー”がZAFT特殊部隊の破壊工作によって使用不可能にされてしまったことだが、それも解決した。

 

「ああ。”ストライクダガー(急造品)”を宛がうことになってしまったのは残念だが、まあ”テスター”よりはマシだ。十分な戦力だよ」

 

”ストライクダガー”。本来ならば『原作』において主力量産機となるはずだったその機体は、その出自故にこの世界での誕生は望み薄だった。

『短時間で数を揃えるために正式量産機である”105ダガー”を更に簡素にした機体』なのに、既に十分な数の“(105)ダガー”が量産されていたためである。

しかし『三月禍戦』によって大西洋連邦は大きな被害を受け、早急にその穴を埋めるために行動せざるを得なくなり、その結果、戦力を補うためとしてこの”ストライクダガー”の量産が急遽決定したのだった。

 

「まあ、いいんじゃないですか?腕と足があってビームも使えるなら十分MSやれると思いますよ。新人整備士の練習にも程良さそうですし」

 

「……興味無さそうだな」

 

「ぶっちゃけて言うと、あんな発展性の無い間に合わせ量産機に興味を持てません。整備とかはきちんとやりますけど、研究者なら誰でも同じだと思いますよ」

 

「そりゃあ、”ダガー”から必要な部分だけを抽出したみたいな機体だしな」

 

たしかに、ウィルソンら変態技術者達からすれば『ガンダム』タイプを弄っていた方がずっと楽しいしやりがいがあるのだろう。

増員されてきた整備士達にベテランを混ぜて整備させるのがちょうどいいか、ユージがそう考えていると、入り口の脇に据えられたモニターが起動する。

 

<失礼いたします!ベンジャミン・スレイター少尉であります、入室してもよろしいでしょうか?>

 

「入れてやれ、話は聞いている」

 

ドアの近くにいた隊員に指示をしてドアを開けさせると、3人の男が入室する。

やる気に満ちた若々しい男性を先頭に、無骨な壮年男性とやる気の無さそうな青年が続き、ユージの机の前で立ち止まる。

 

「お初にお目に掛かります、この度”第08機械化試験部隊”にパイロットとして配属されました、ベンジャミン・スレイター少尉です。ゴンザレス曹長、ウォーカー伍長と共に、本日からお世話になります!」

 

「ブレンダン・ゴンザレス曹長です。よろしくお願いします」

 

「ども、ジャクスティン・ウォーカー伍長です」

 

 

 

ベンジャミン・スレイター(ランクB)

指揮 10 魅力 9

射撃 9 格闘 9

耐久 9 反応 10

 

得意分野 無し

 

ブレンダン・ゴンザレス(ランクB)

指揮 8 魅力 8

射撃 7 格闘 10

耐久 11 反応 7

 

得意分野 無し

 

ジャクスティン・ウォーカー(ランクD)

指揮 6 魅力 4

射撃 7 格闘 5

耐久 8 反応 6

 

得意分野 ・反応

 

 

 

無骨そうなブレンダンと、気迫の無いジャクスティン。そしてそれをまとめる活気に満ちたベンジャミンと、非常にわかりやすい面子だ。

表面上では穏やかに話しているユージだが、内面では飛び回りそうな勢いで喜んでいた。

 

(ようやく、ようやくまともな奴らが来た!今回はヴェイク(聖帝もどき)の時のように確認を怠るということもしていないし、能力も保証されている!)

 

ベンジャミンとブレンダンは元々”メビウス”乗りだったところを転科してMSパイロットになった、つまり実戦の経験者。

ジャクスティンの方はこの間までヒルデガルダ達と同じような訓練生だったが、訓練ではMSに高い適正を示した期待の新人とユージは聞かされていた。

実力も人柄も十分。『我が世の春』とはこのことか。

 

「知っての通り、我々は試験部隊という名を背負っているが実戦任務に赴くことも多い、忙しい部隊だ。覚悟はしておくように」

 

「我らも軍人、命の奪い合いをすることへの覚悟は出来ているつもりです」

 

「ならいい」

 

たしかに、ベンジャミンとブレンダンには忠告する必要もそう無いだろう。既に”メビウス”で実戦を経験している彼らなら、とっくに覚悟は出来ている。

気怠そうにしているジャクスティンは、どうだろうか。

 

(まあ、これから考えていけばいいか……しばらくは大きな作戦も無いだろうし)

 

「それでは、格納庫に向かってくれるか?2日後君たちには試作機の仮想的(アグレッサー)をやってもらうことになる。その前に自分達の機体に慣れておいた方がいいだろう」

 

「了解しました!」

 

敬礼をして部屋の入り口に向かおうとするベンジャミン達。

しかし、ユージは彼らを呼び止めた。

 

「そういえば、君たちのコールサインについてだが」

 

「コールサイン、ですか?」

 

「ああ。実はまだ決まっていなくてね。君たちに希望があればそれに合わせてもいいのだが」

 

そう、実はまだコールサインが決まっていなかったのだ。

急いで決める必要があるわけでもないということもあり、今の今までユージの思考からすっぽ抜けていたのだが、ふと思い出したユージはベンジャミン達から希望を募る。

なんでもいいのなら、ある程度本人達の希望を聞いてもいいかと気まぐれに聞いたユージ。

 

「希望が通るのですか?」

 

「ああ、よっぽど変なものじゃなければな」

 

「少尉、ならば()()でよいのではありませんか?」

 

「そうだな曹長、()()でいいか」

 

「俺は別になんでもいいですけど……」

 

「?」

 

「ああ、いえ。実は我々は訓練課程の中で同じグループだったのですが、そこでは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカーレットのコールサインで呼ばれていたので、よろしければ此方でもそうしていただけるとやりやすいかと」

 

「……うん?」

 

なにか、おかしな物を聞いてしまった気がする。

他からすれば何も妙なところは無いし、ユージも一瞬聞き逃しそうになってしまったが、たしかに、彼は。

 

「えと、今なんと?」

 

「ですから、スカーレットのコールサインで呼ばれておりました。私がスカーレット1で」

 

「自分がスカーレット2です」

 

「俺が、スカーレット3ですね」

 

「全員でまとめて『スカーレット隊』などと呼ばれていました」

 

「……そう来たか~」

 

絶対に神は自分のことを嘲笑っている。ユージはそう確信した。

そんな方向(ガノタ限定のネタ)で攻めてくるなんて反則だ。




新キャラのコールサインに特に深い理由はありません。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

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