機動戦士ガンダムSEED パトリックの野望   作:UMA大佐

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「Dixie to arms」様からマヤ・ノズウェルのファンアートをいただきました!
毎度昇天しております!


第84話「迫り来る牙の脅威」

「来たわよ、隊長……って。またコーヒーブレンドしてたわけ? またダコスタに文句言われるわよ、カフェイン臭いって」

 

「おっ、来たかスミレ君。いやぁ、こればっかりは止められないんでねぇ」

 

「あっそ。で、私を呼んだのは何?」

 

「ほら、あれあるだろ? ”アークエンジェル”。倒してこいってお達しが来てね」

 

「”アークエンジェル”……ああ、噂のあれ? 『神出鬼没の大天使』? とびっきりの厄介事ね」

 

「だが、僕達向きだよ。呼んだのはその相談さ。『どうやって倒す?』って」

 

「相談……する意味ある? 隊長だけでなんとかしそうだと思うんだけど」

 

「とんでもない! 言い方はアレかもしれないけど、君は僕の指せる駒の中では最強の1手だよ? しかも実力だけでなく、言うべきことはしっかり目上にも言える胆力がある。意見を聞くことに意味があるのさ」

 

「随分高く買ったものね、MS乗れないポンコツを。まあいいわ。で、どうするワケ?」

 

「その前に……一杯どうだね? 今回のブレンドは君の好みに合わせて、カフェラテにしてみたんだが」

 

「いただくわ。……もっと甘い方が好みよ」

 

「子供だねぇ」

 

「ほっといて」

 

 

 

 

 

4/13

アフリカ大陸中央部

”アークエンジェル”

 

「その物資は3番倉庫だ! 間違っても落とすなよ!」

 

「班長、補給された弾薬量ちょっと合わないんですけど……」

 

「ごらぁマイケル馬鹿野郎! 偽装を引っかけるなっつってるだろうがZAFTの前にテメエ殺すぞ!」

 

<初めてやるんだから、細かいことなんて完璧に出来るかよ!>

 

「おいキラ、そんな慌てなくていいから落ち着いて運べ」

 

「は、はい!」

 

喧噪の中、キラは両手に物を抱えてあちこちを動き回る。

現在、”アークエンジェル”は潜伏している山間部にて補給を行なっていた。

先の戦闘から一週間が経過したが、その後も”アークエンジェル”は2つのZAFT軍の拠点を襲撃、その全てを陥落させてきた。

その内2回は”コマンドー・ガンダム”形態で出撃したものであり、やはり出撃の度に戦果を挙げて帰ってきたキラであったが、3度目の出撃でついに”コマンドー・ガンダム”の欠点、それも『戦闘に関しない』ものが明らかとなり、正式に試験を終了することとなった。

それは、『部品の摩耗率』と『弾薬の消費量』である。

”コマンドー・ガンダム”、正式名称”重装パワードストライク”は通常のパワードストライカー装備に追加武装を取り付けたものである。しかし、それに伴ってスラスター出力を向上させた結果、ホバーユニットの部品の摩耗率が上昇するということが明らかとなったのだ。事前にその可能性は指摘されていたものの、これまでの実践テストで明らかになったというわけである。

そしてこれも当然と言うべきか、弾薬に注がれるリソースにも限度がある。追加した武装の大半はミサイルで、それを出撃の度に全弾発射していれば───それが最適解だとしても───弾薬費がバカにならない。『有力ではあっても無用』という、キラの言葉の正当性が証明されたということだった。

しかし、戦果自体は高い物を示したために、何かしらの特殊用途装備の開発には活かされるかもしれない、という旨をキラは聞かされていた。

ここでの役目を終えた装備類は、補給物資を空輸してきたVTOLに積み込まれることとなる。

C/OV-70強襲VTOL”ヘルハウンド”。大西洋連邦のとある軍需企業が開発したという機体で、名前の通り本来は強襲作戦を目的として作られている。武装は船体前面に取り付けられた2門の機関砲のみだが、MSは3機まで輸送可能かつ既存の輸送機よりも機動性に長けており、現在は増産が進められているとか。

そして今は、”アークエンジェル”の生命線である。

補給が絶たれてしまえば、どんなに強壮な艦体でもたちどころに張り子の虎(ハリボテ)と化す。しかし”アークエンジェル”は現在単艦での攪乱作戦という隠密性の高い任務を実施している。おおっぴらに補給することは出来ない。

そこで補給役に選ばれたのが、この”ヘルハウンド”なのだ。

”ヘルハウンド”は既存の輸送機よりも一度に運べる物資量は僅かに劣るが、その分速度に勝る。隠密かつ迅速に活動する”アークエンジェル”の補給役としては最適解なのである。

だが、いくら高速で運べると言っても積み込むのにもたついていては話にならない。なので、キラを始めとするMSパイロット達もこうして作業にかり出されているのだった。

 

「ん……スノウ?」

 

そんな中、キラは自分と同じように荷物運びにかり出されているスノウの姿を見つけた。

フラフラと歩いているように見えるが、大丈夫だろうか。持っている荷物は遠目に見た限り医薬品のようだが、もしも落としたらフローレンスに『指導』されてしまうだろうし、心配になる。

しかし、荷物の重さで震えているというようでもない。

キラは心配になって近づき、声を掛ける。

 

「バアル少尉、大丈夫?」

 

「……」

 

「少尉?」

 

やはり、何か様子がおかしい。

戦闘時にはよく凶暴になるスノウだが、それ以外は生真面目に職務を全うする少女だった筈だ。今もキラが隣で荷物を持ちながら並歩しているのに無反応のままである。

 

「少尉、少尉ってば。───バアル少尉!」

 

「ひゃッ!? わっ、とっと、あぁ!?」

 

埒が明かないと思ってキラは声を大きくして呼びかけるが、それがマズかった。

我に返ったスノウは突如大声を出したキラに気を取られ、ただでさえフラフラとしていた足取りを更に悪化させる。

キラは反射的に手を差し伸べようとするが、自分の両手も塞がっているので不可能。

そのままの勢いでスノウの手から医薬品の入った箱がこぼれ落ち───。

 

 

 

 

 

「次からは気を付けるように」

 

「「はい……」」

 

キラとスノウは順々に医務室から出る。

結局、医薬品を床に落としてしまったキラとスノウはそれを持って医務室に直行、フローレンスに謝罪に向かう事にした。

幸いにして、落としたものが比較的安価なものだったり破損がほとんど無いということもあってフローレンスは大きく問題にすることをしなかったが、その代わりに『指導』が飛んで来たのは言うまでも無いことである。

フローレンスの『指導』には大雑把に2種類がある。

1つは説教だけで済む言論的指導。そしてもう1つは、()()()()を交えた物理的指導。

今回は前者で済んだが、もしも後者だった場合、キラ達は今頃医務室の外ではなく、ベッドの上に縛り付けられていただろう。その光景を想像したキラは思わず身震いをする。

 

「……その、ごめん。下手に声掛けて」

 

「謝るな……ボケッとしていた私にも責任はある」

 

とぼとぼと通路を歩く2人。

キラは教官(マモリ)からの罵倒である程度タフになっていると自負していたが、フローレンスの『指導』は別方向のキツさがあった。

 

「覚束ない足取りをしていることを心配するのは結構、ですがそこから先へ思考を飛ばすことは出来なかったのですか?」

「もしもバアル少尉が落とした物資が医薬品ではなく実弾で、落下の衝撃で暴発でもしたら?」

「そもそも、自分が何かしらの作業をしている時に別のことに手を出そうというのが無茶であると分かりませんか?」

 

むしろストレートに罵倒してくる分、マモリの方がマシな一面もあったかもしれない。いや、やっぱりどっちもキツい。

スノウに至っては「白昼からふらついているとは……診察を開始します」と言ってベッドに縛り付けられそうになっていた。

時折生身での戦闘訓練を行なったりもするので、スノウのその華奢な体躯に似合わない剛力をキラは知っているのだが、それを物ともせずに拘束を完了しそうになったフローレンスには恐怖さえ感じた。

 

「そういえば、少尉はなんでふらついてたの? 体調が悪いとかじゃ……ないか」

 

「もしそうだったら、私は今頃あの部屋でベッドに縛り付けられていただろうな……」

 

スノウも、恐怖がぶり返したのか震えていた。

溜息を吐いて平静を取り戻し、話し始める。

 

「貴様に話す筋合いは無い……と言いたいところだが。そもそも私が放心していたせいでこうなったんだ。話すべきかもしれんな。……分からないんだ」

 

「分からない?」

 

「ああ。物資を運んで、他の隊員達と話して、そんなことをしていると、なんだろうな……()()()があるような気がしたんだ」

 

既視感があった、というだけなら呆ける理由にはならないだろう。キラはそう思ったがスノウは更に話し続ける。

スノウが明かした情報は、キラを驚愕させるに十分なものだった。

 

「既視感程度で……と思うだろう。だが、私には……記憶が無いんだ」

 

「え!?」

 

「ああ、おかしいと思うだろう? 記憶も無いのに既視感など……」

 

「いや、いやいやいやちょっと待って? 記憶が、無い?」

 

「……言っていなかったか?」

 

コテン、と首を傾げるその姿は戦い振りからは想像出来ないほどに可憐だったが、それが気にもならないほどにキラは狼狽していた。

だって、記憶喪失である。

 

「記憶喪失? あの、ドラマとかで『頭を打ったせいで何も覚えてないんだ』とかやってる?」

 

「ドラマとやらのあれこれは知らんが、まあ『何も覚えてない』というのは合ってるな。私が覚えているのは、ここ1年程度のものくらいしかない」

 

人間は誰しも、記憶を紡ぎながら生きている。それがその人の歴史、生きた証となるのだ。

しかし、目の前の少女はそれを失っているという。

キラは、踏み込みすぎではないかと思いながらも更にスノウに尋ねる。

 

「なんで、そんなことに?」

 

「さぁな。『私』が最初に目を覚ましたのは逆に気持ち悪くなるほど白く清潔な病室で、目にしたのは漆黒の服の女だ。名前はなんと言ったか……まあ、その女に誘われて軍に入った」

 

「そ、そう……」

 

いきなり明かされる、同僚の衝撃的事実。それにキラは困惑しっぱなしだったが、最後に1つだけ聞いておきたいことがあった。

 

「えっと、記憶喪失っていうのは分かったけど、なんでそこから軍に……?」

 

ピタリ、と歩みを止めて俯くスノウ。

何か、マズいことを言ってしまっただろうか。それなりに関係は良好になってきたと思ったが、それでも踏み込み過ぎたか?

 

「あの、スノウ?」

 

「……ああ、すまない。今すぐ貴様を殴り殺したい衝動に襲われてな」

 

どうやら、地雷は地雷でも特大の物を踏み抜いたらしい。キラはこの時、死を覚悟した。

だが、スノウがこちらに襲いかかってくることはなかった。どうやら事情はキラが思うよりずっと複雑なようだった。

 

「いや、お前に問題があるわけじゃない。そう、お前には、無いんだ。……軍に入った理由、理由か。私がコーディネイター、いや、ZAFTが憎くてたまらないからだ。それだけしか、無かったからだ……」

 

私の記憶を奪ったのは、奴ららしいからな。そう言い捨ててスノウは歩き去っていく。

キラは1人、呆気に取られながら立ちすくむのだった。

 

 

 

 

 

4/14

“アークエンジェル”会議室

 

結局、キラはスノウに声を掛けられないままに一日が経過した。

今は会議室で、明日行なわれるZAFT軍拠点襲撃作戦の会議が行なわれており、キラは時折チラリとスノウの方を見るが、当の本人は澄まし顔でムウの説明を聞いている。

 

「そんじゃ、次は……おい、キラ? ボケッとすんなら待機時間の時にしな」

 

「あっ、す、すみません少佐」

 

「連日の作戦行動で疲れてるのは分かるがな、そこんところはしっかりしてくれよ?」

 

大事な作戦会議で別のことに気を取られるなど、マモリがこの場にいたらキラを殴り飛ばしていたことだろう。

元から真面目に何かに取り組むということは少ない方のキラだが、今は自分だけではなく他の仲間達の命も掛かっているのだ。頭を振って意識を切り替える。

 

「よし、じゃあ今度こそ……アリアの嬢ちゃん、頼む」

 

「任されました! さてさて、今回のビックリドッキリ……じゃない、試作装備はこちらです!」

 

アリアはウキウキとした様子で、先ほどまで地図を映していたスクリーンを操作する。

スクリーンに映ったものは、長砲身の実弾砲を2門搭載した見慣れぬストライカーの画像。

 

「こちら、試作ストライカー『ドッペルホルン』となります。見ての通り砲撃戦仕様の装備ですね」

 

「へぇ~、アリアちゃんにしては大分おとなしめなような」

 

ヒルデガルダの言うとおり、アリアの性格をある程度知っている者であれば疑問に思う程度には、その装備は()()()()()()()。余計な装備は付いておらず、やることがわかりやすいシンプルな形状だ。

しかし、キラはそれを違うと分析する。

 

「トラスト少尉、いいかな?」

 

「はいはい、なんでしょう?」

 

「これは()()()()()()()()()()?」

 

「流石いい目の付け所してますね、ヤマト少尉」

 

ドッペルホルンストライカーは、カタログスペックでは優秀な装備に思える。

ただしそれは、宇宙空間で使用した場合の話だ。

 

「後方に比重が偏っている……宇宙ならともかく、地上でこれを使うとなればかなり安定性と機動力が削られると思うんだけど?」

 

「それはそうでしょう。それを検証するんですから」

 

ドッペルホルンストライカーは本来、宇宙空間において平均の高い耐ビーム防御性能を誇る艦艇群を撃破するために開発されたストライカーだ。しかしその高い砲撃性能は、地上でも一定の活躍が見込めるのではないか?という意見が持ち上がってきた。

宇宙では強力なビーム兵器だが、地上ではというとあまり評価は芳しくない。その理由を大まかに挙げると以下の3つに絞られる。

 

①弾が直線でしか飛ばない=山間部ではちょっと強いだけ

②地上では大気に影響されてビームの収束率が低下し、有効射程が狭まる。砂漠などでは熱対流によって軌道自体も大きく逸れるという報告も有り。

③実弾火器よりも高度な整備態勢が求められ、故障が起きやすい。

 

そこで地上軍は、実弾火器であるために強力な弾丸を山なりの軌道で放てるドッペルホルンストライカーに目を付けた、というのが試験対象装備に抜擢されたあらましである。

ちなみに「強力な砲というなら既に250mm連装砲を備えた”ノイエ・ラーテ”があるじゃないか」という意見が『通常兵器地位向上委員会』から挙げられたが、「その”ノイエ・ラーテ”が活動出来ない山間部などでの選択肢としては有りではないか」という意見とぶつかるという小衝突が起きていたりする。

 

「まあ、選択肢はいくらあっても困りませんよ。こと戦争においては特に」

 

「それはそうだろうけど……重力下における姿勢制御と照準補正プログラムはちゃんと調整されてるんだよね?」

 

正直言って気が乗らないキラではあったが、やれと言われた以上やるのがパイロットとしての筋だろうと自分を納得させる。

先日まで複数回行なわれた”コマンドー・ガンダム”による単独突撃に比べれば負担は少ないだろう、ということもあった。

 

「あ、それなんですけどね」

 

「うん」

 

「きちんとプログラムはしてる筈なんですけど、実際に動かしてみないと分からないこともあるかもしれないじゃないですか。

なので、()()()()()()順次補正も掛けていってください」

 

「バカなの?」

 

思わずキラの口からシンプルな罵倒が飛び出たが、周りの人間も同じような顔をしているから問題ないだろう。

ただでさえ気を張る戦闘中に高度な計算・情報処理能力を求められるプログラム補正を行なえとは、そんじょそこらの()()企業が裸足で逃げ出しそうな物言いである。

 

「いくらテストパイロットだからって、無茶振りさせすぎじゃないかなぁ!? 戦いながら自力で調整しろって正気で言ってる!?」

 

「いやぁ、いけるかなって」

 

「おいおい、マジで言ってたのかよ……『”マウス隊”の無茶振りプリンセス』は未だ健在だったか」

 

苦笑いをするマードック。彼も整備現場の副リーダーとしてこの場にいたが、苦笑いするだけでアリアを窘める素振りを見せない。

もう完全に諦めきっている。

 

「マードック曹長も何言ってんですか! 知ってたなら止めてくださいよ!」

 

「無駄ですよヤマト少尉! 既にラミアス艦長から『MS戦をこなしながらOSを構築出来る』という証言は取っているんですから!」

 

「艦長ぅ!?」

 

死にたくない一心でなんとか必死にこなしただけというのに、この扱いはあんまりではないだろうか。キラはそう思いながらマリューの方を見るが、申し訳なさそうにするばかりで力になってくれそうにない。

 

「じゃあ聞きますけど、出来るんですか、出来ないんですか!?」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………出来ませんっ!」

 

自分の能力と予想される作業の困難さ、作戦における自分のポジション、そして実際にやるとなった際の面倒くささを考慮した長考の末にキラが出した答えは、「出来ません(めんどくさいです)」だった。

 

「はいダウトっ! 決定、決定で~す!」

 

「ミヤムラ司令!」

 

「これが若さかね……まあ、いいんじゃないか?」

 

「ちくしょう、最後の希望がっ!」

 

結局、「実際に似たようなシチュエーションで似たような作業をクリアしたことがある」という建前に飲み込まれてしまい、キラの仕事が1つ増えるという結果に終わる。変態技術者にかかればテストパイロット(モルモット)の人権は無いに等しかった。

「戦場で余計なリスクを出す必要は無いだろう」という意見も出たが、「後方支援だから激戦にはならないし、護衛も付ける」と見事にカウンターを喰らったキラは、泣く泣く戦闘時の自身の負担を下げるためにプログラムの調整に自主参加することになったのである。

当然、スノウへ意識を向ける余裕など消滅済みなのであった。

 

「明日には作戦決行ですからね~」

 

「いつか労基に訴えるから覚悟しておきなよトラスト少尉!」

 

 

 

 

 

4/15

中部アフリカ コンゴ民主共和国

 

密度高めなスケジュール、かさ増しされるキラの負担と懸念事項が複数ある中で行なわれた、ドッペルホルンストライカーの重力下運用試験を兼ねたZAFT拠点襲撃。

しかし、いざ蓋を空けてみれば順風満帆と冠せるほどに作戦はスムーズに進んだ。

”ストライク”や”アークエンジェル”といった強力な砲撃能力を持つ戦力による支援砲撃は敵拠点の戦力を削ぐことに成功、MS隊の強襲を助ける。

キラという一大戦力が前衛から抜けたものの、ムウはマイケルとベントに敵MSの連携撃破の指示を徹底させ、危なげなく敵MSの数を減らしていった。そしてなにより。

 

<いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァっ!!!>

 

最高速度ではトップの”デュエルダガー・カスタム”の特性を活かして敵部隊を攪乱しつつ、近接戦においてはキラを凌駕しうるスノウが高速で敵MSを刻んでいったことの働きが大きかった。

大きな被害は無く、ストライカーの試験も成功───後にドッペルホルンストライカーは地上用に調整された『ver.G』の開発が決まった───した。作戦は大成功と言って良いだろう。

ただ1人、機動性の低下した”ストライク”の護衛という名目で後方に配置されたヒルデガルダを除いては。

 

「なんであたしだけ……」

 

マイケルはどこかぎこちなさもあったが、他のパイロット達は十分に活躍し、経験を積むことが出来た。しかし、後方に待機していた自分にはそのようなことは無い。

まさかこの配置は、自分の『家』に関係するのだろうか?

現役大統領かつ『ブルーコスモス』№2の娘であるヒルデガルダは、色々なところで過保護にされることがあった。今回も()()なのかもしれない。

”アークエンジェル”の司令部はけしてそのような人物達ではないと思いつつも、心の中で生まれた疑念は払拭しきれない。

自分はまたしても、()()()()にしかなり得ないのだろうか?

 

<ワンド2、敵部隊からの降伏信号と撤退の指示が出ました>

 

後ろから”ストライク”に乗ったキラが近づき、ヒルデガルダに伝える。

 

「そっ。……はぁ」

 

<どうかしましたか?>

 

溜息の音を聞いてキラが問いかける。今回の作戦は大成功だというのに陰鬱なオーラを出すヒルデガルダは、キラには不思議な物に映っただろう。

能力はともかく自分の方が先輩、情けない姿を晒すわけにいかないだろう。

 

「あー、いや大丈夫大丈夫(だいじょぶだいじょぶ)! なんでもないよ」

 

<……ヒルダさん、何か悩みでもあるんですか?>

 

「ホントに大丈夫、平気だから」

 

<どんな悩みを持ってるのかは分かりませんけど、僕で良ければ話は聞きますよ。あっ、勿論嫌じゃなければですけど……>

 

本当に、優しいんだなぁ。

キラの心配を受けたヒルデガルダは、いったん目を閉じて深呼吸をし、肩の力を抜く。

たしかに、自分だけでため込むよりも誰かに相談しておく方がいいかもしれない。どんな小さなことでも、それが何時肥大化して大問題に繋がるとも知れないのだから。

ついでに、スノウやあの2人(マイケルとベント)を呼んで新人パイロット間での意見交換会をやってみるのもいいかもしれない。

 

「んー……。じゃあ、戻ったらちょっと───」

 

 

 

 

 

<あー、隊長? 救援に来たは良いけど、大分遅かったみたいよ?>

 

<あっちゃー……元から期待はしてなかったけど、まさかここまでとはねぇ>

 

<で、どうする? 今なら一撃は撃てると思うけど>

 

<任せるよ。()()()()()()()、君にね>

 

 

 

 

 

<っ! ヒルダさん、避けて!>

 

「えっ?」

 

突然言われたヒルデガルダは、気を抜いていたこともあってキラの言葉に対応出来ない。

モニターには”ストライク”がドッペルホルンを外しつつヒルデガルダの機体に近づき、そのまま突き飛ばす。

 

「ちょっ───!?」

 

次の瞬間、“ストライク”は画面から消え去った。

ヒルデガルダの”ダガー”目がけて放たれた攻撃によって吹き飛び、”ダガー”の前方から姿を消したためである。

シールドを粉砕され、その攻撃を体で受け止めた”ストライク”は地面をバウンドしながら転がっていく。

勢いが収まった”ストライク”だが、その機体は動こうとしない。どこかしらの電装系に問題が生まれたのか、それとも。

中のパイロットに何かあったのか。

 

「カ、カップ(CIC)! こちらワンド2、ソード1……キラ君が、キラ君がっ!」

 

 

 

 

 

”アークエンジェル”艦橋

 

「どこから!?」

 

「ただいま、弾着角から索敵中……出ました! 北東に”フェンリル”を確認しました! 距離およそ8000!」

 

「”ストライク”の回収を急げ!」

 

突如として襲いかかってきた脅威に、艦橋は慌ただしくなる。

望遠モニターの中には、砲身から煙が上がらせている大型戦車の姿があった。

 

「『ウォンバット(大気圏内用ミサイル)』装填、『バリアント』照準!」

 

「了解!」

 

「待ってください、これは……敵機転換、離脱しようとしています!」

 

「なんですって!?」

 

言われてモニターを見ると、たしかにこちらに背を向ける”フェンリル”の姿が映っている。

”フェンリル”の直進速度は”バクゥ”と互角、今からでは間に合うまい。

ランチャーストライカーを装備したマイケルが『アグニ』を射かけるが、”フェンリル”は最小限の動作で回避し、距離を空けていく。

そして、レーダーが完全に”フェンリル”の反応を映さなくなった時。

通信士のリサから奇妙な声が挙がる。

 

「国際救難チャンネルを通じて、本艦にメッセージが送られてきました! 簡単なチェックではありますが、トラップが仕込まれている可能性は低いかと」

 

「ど、どういうことなの……」

 

「このタイミング……偶々、じゃないよな」

 

「ふむ……」

 

艦橋やCICのメンバーが様々な反応をする中、マリューは決断する。

 

「……メッセージを開封して」

 

「分かりました」

 

意を決して封を切る。

メッセージの内容は、至ってシンプルなものだった。

 

『虎と狼より、大天使に愛を込めて。

 

 P.S 好みのコーヒー豆などはございますか?』

 

虎、そして狼。

ネズミと聞いて”マウス隊”を思い浮かべる者は多いが、それと同様に、この2種類の生物の名を聞いて震えない連合軍兵士はいまい。

それは、アフリカ大陸どころかZAFT全体で見ても『最強』の呼び声高い者達の称号なのだから。

 

「敵は……”バルトフェルド隊”」




更新が遅れていた理由は活動報告にて記載しました。
遅れて申し訳ありません……!

本編のちょっとした小話として、実はキラがあんまりにも無双するから他のパイロット達が経験を積めないことを憂慮したミヤムラがマリューやアリア達にそのことを仄めかした結果、「キラの負担を無理なく上げつつ後方支援に特化させる」ことで他のパイロットの出番を増やそうとしたことが、ミヤムラの

「(こんな方法で問題解決を図るとは)これが若さかね……」

という発言に繋がっていたり。

「第三回オリジナル兵器・武装リクエスト」より一つ、採用いたしました。
「Dixie to arms」様より、「ヘルハウンド」です!
素敵なリクエスト、ありがとうございます!

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