☆10 転凛虚空 様
ありがとうございます!
にしても約1ヶ月ほどで投稿できましたね……もう少し執筆が早ければ……
さて、今回はクロスオーバーものという事で……サブタイトルに書いてある通りなのですがfateとは全く違った世界線のキャラの回想が入ったりします。多分読んだら分かる人には分かる作品です。
正直書き終わってみて、これ大丈夫か? と想いましたが、まぁ書いてしまったのでこのまま行きましょう。では早速どうぞ!
俺は漸く……ロンドンの地に足を付けた。カルデアスが嫌がらせか何か知らないが俺をロンドンの上空より更に果て……宇宙空間に召喚して、そこから自然落下しながらロンドンらしき所を見ていると……邪ンヌ達があの
そのクズ野郎が下品にほくそ笑みながら邪ンヌ達に向かって何かを言っている時点で俺は……我慢なんて出来るはずなく攻撃を仕掛けた。
宇宙空間だろうが何だろうがそんな事は関係ねぇ……ただ奴という存在が邪ンヌ達と一緒にいるだけで不愉快だ。
(俺の大切な存在にまた手を出しているんだ……殺される覚悟ぐらい持ってんだろ? なぁ?)
それで奴を中心にして対物ライフルを5発、イメージ的には五芒星が出来る位置に撃ち出した。その後は……
「貫けぇーっ‼︎ 」
そのクズ野郎目がけて特殊な鉄杭を投擲した。それは音速以上の速度を出して奴へと向かっていく。それに気付いてか邪ンヌ達への攻撃をやめて障壁を何重にもかけていたが……
(そんなんで止めれるわけねぇだろうがドアホ‼︎)
アルジが投擲した鉄杭は……オルフェンズの世界で禁忌とされていた武装のレプリカである。本来であれば特殊な装置で打ち出す仕様なのだが……仇敵を目の前にしたアルジからしてみれば、
結果は……まぁ誰しもが分かっていたと言わんばかりに、ソロモンが張った障壁を鉄杭はいとも簡単に壊し尽くして着弾した。
「灼熱に呑まれろ‼︎ フレアトルネード‼︎」
着弾したと同時に唱えられたそれは、まさに灼熱の渦という表現が好ましい。鉄杭を中心にして吹き荒れる灼熱の渦は、その場にいるソロモンをあっという間に内側に呑み込んだ。その渦はまるで生きているかのように……渦の中心に捉えたソロモンを一歩たりとも逃がさない。
取り敢えず灼熱の渦の中にソロモンを捕らえた状態でアルジは邪ンヌ達と合流を果たした。
「悪い……邪ンヌ。皆……待たせたな」
邪ンヌ達に顔だけ少し向けてその言葉を口にした。正直……今すぐにでも彼女達を抱き締めてやりたかった。大切な時にいなくてごめんと、謝りたかった。
(だけど今の俺は……そんな顔が出来ない)
どうにか向けている顔半分は笑みを作れているが、その半分は……誰が見ても醜いって思っちまう様な顔になってる。
「ねぇ……なんでそんな顔だけ半分向けてるのよ……」
その一言を邪ンヌから聞いて……あぁ、やっぱりバレてるなと思った。勿論今回付いてきた嫁ネロ達も気付いているだろうな……
(マリー……そんな悲しそうな顔するなよ……)
マリーは、多分今すぐにでも俺の所に来たいんだろう。でも俺が、不自然にこんな体勢になっているから……俺の心情に気付いているからこそ、あんな悲しそうな顔になってんだろうな……
(アマデウス……お前そんな顔すんのかよ? 初めて見たぞ?)
いつもケラケラ笑ってる奴が、何で今不安そうな顔してんだ? どちらかといえばムードメーカーみたいな存在だろうが……
(……ブーディカ、そんな辛そうな顔しないでくれ)
いつも俺の事を弟みたいに気遣ってくれた笑顔はどこ行ったんだ? いつもの様に優しい笑顔を見せてくれよ……
(アルテラ……いつも凛としてる癖になんて顔してんだ)
アルテラのあんな顔も初めて見た。いつも無表情に近い顔してるが、それがクールに見えてるし、俺も正直惚れ惚れと見る事がある。そんなアルテラの顔が、今の俺を見てとても心配そうな顔をしてる。
(ネロ……いつもの無邪気さはどこ行ったんだよ?)
俺を見かける度に飛びついて来る困った奴だ。寝てる時にもこっそり俺のベットの中に潜って来るし、あわよくば……いや、これ以上は言ったらいけない様な気がする。
そして……
「アルジ……お願い。どんな顔しても良いから、だから身体ごとこっちに向けなさいよ……」
(邪ンヌ……)
彼女の左腕からは血が流れていた。さっきあのクズ野郎の攻撃から皆を守った時に無茶し過ぎたんだろう……
(なんで俺は……いつも大切な時に大切な人のそばにいないんだ! どうして……邪ンヌや皆がこんな悲しそうな顔しなきゃならないんだ‼︎)
だがそんな理由……分かりきってる。
(全てはコイツが……このクズ野郎が悪い)
オフェリアがあんな状態になってしまったのも……今目の前で俺の大切な人達が悲しそうな顔しているのも……全部……全部‼︎ だから……
テメェは最初から復讐対象だ‼︎
「邪ンヌ……皆、悪い。今すぐにでもそっちに行きたいけど、まずやる事があるから、それ終わったらな?」
どうにか平静を装った様に邪ンヌ達に声をかける。いつもの様な声音で言えただろうか……
「そんな事……良いのよ。遅れた事なんて気にしてないから! だからこっちに来て‼︎ 貴方の事を抱きしめさせなさいよ……」
「……ごめん、今は無理そうだ」
あぁ、俺だってすぐにでもそっちに行って邪ンヌ達を抱き締めたいし、抱き締められたい。ただ今の俺にはそんな余裕がない。
「そういえば立香……俺がいない間によく頑張ったな」
「えっ?」
急に振られてか立香は驚いた表情してた。まぁ、本来俺がいなくてもここまでの事はできるスペック持ってるからな。それで立香の所はマシュ以外倒れてる。どうにか意識はある様だが……あのクズ野郎からの攻撃でしばらく立ち上がれない様だな。
(まぁ頑張ったなら、俺からも何かしてあげようか)
「壮麗たる天使の歌声……ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュォ トゥエ クロア」
アルジが何かを詠唱した。紡ぎ出されたその言語は……やがて何らかの効果を伴って現れる。アルジを中心に青く優しい光が円となって広がっていく。
「えっ……?」
その光の円に最初に触れた邪ンヌが驚く。先程ソロモンの攻撃を防いだ事で左腕を少し負傷していたのだが、光が触れて邪ンヌの身を優しく包み込んだ次の瞬間には、その傷は跡形もなく癒されていた。
邪ンヌだけでは無い、その光に触れた者達から順に、ソロモンから受けた攻撃がまるで最初からなかったかの様に癒されていた。
side ???
(あぁ……彼の歌が聴こえる)
fateの世界線では無いどこか……綺麗な栗色の髪を背中まで伸ばした女性がいた。彼女は綺麗な白い花が沢山咲く場所から澄んだ空を物憂げに見上げる。
「貴方がこの世界から去ってしまって……何年経ったのかしら」
私達の出会いは唐突だった。世界の崩壊を願う兄さんを止めるために向かった先で、当時兄さんの弟子だった貴方と刃を交えた。
その瞬間から……私達の旅は始まったのよ。貴方の剣と私の杖がぶつかった衝撃で知らない土地に飛ばされてしまった。そこから貴方を家まで送り届ける事が、兄を止める前にやる事となったわ。
でも私達が飛ばされた所は貴方が暮らしていた国とは全く違うところで、運良く行者に会えたと思えば首都に行くまでの路銀が足りなくて……仕方なく私の母が残したペンダントを運賃の代わりで差し出そうとした。
そしたら貴方は……
「それ、君の大切な物じゃあないのか?」
「えっ? た、確かにそうよ。でも私は貴方を巻き込んでしまった。なら私は、何を差し出したとしても貴方を送り届けないといけないわ」
「……君のその心遣いは、確かに嬉しい。だけど俺はそんな事は望まないよ」
「な、ならどうすれば……」
「なぁ行者のおじさん」
「ん? なんだ坊主」
「これで首都まで足りるか?」
そう言って貴方が取り出したのは……金の延べ棒だった。掌サイズには収まりはするけど、それでも価値が高いという事は一目見て分かったわ。
「お、おい坊主⁉︎ これをどっから⁉︎」
「ん? あぁ、それは企業秘密で」
「そ、そうか……」
「ちょ、ちょっと!」
「ん? どうかしたか?
「どうかしたも何も、あれをいつの間に……」
「あぁ、ここに飛ばされて君が少し意識を失っている間にかな」
「えっ⁉︎ でもここって鉱脈があったの?」
「いや、ただここには複数の川が流れている様だったから、川底に沈んである砂金を纏めて1つの塊にしただけだよ」
その頃だったわ……貴方の事をただの貴族の子供ではなく、型破りな人なんだって思い始めて。一緒にいると……いつの間にか貴方の人間性に惹かれていった。一緒に笑い合ったり喧嘩したり、時には悲しい事も沢山あった。でもそんな時を乗り越えて私達は進んでいったわね。
「でも……最後に貴方はこの世界からいなくなってしまった」
兄さんの思惑を止めるために。そして……そんな兄さんの過去や、みんなが背負っていた辛い過去も全部貴方が背負う為に……
「ここにいたか」
「っ! 兄さん……」
「あの者の事を思っていたのか?」
「……えぇ。アルジの歌声が聴こえたから」
「私にも聴こえた。まさか彼奴が私達の始祖とは繋がりがないにも関わらず、旋律と歌に込められた意味を理解し、あまつさえそれを用いてしまうとは……最初の頃は考えもしなかった」
「えぇ、そうね。でも彼の歌は……綺麗だわ」
「全く……私もそう思わされる」
「この歌が聴こえるという事は……彼はどこかで生きているのね。この世界ではない、どこかで」
「ーーー……お前は彼奴の事を……」
「えぇ、今でも愛しているわ。本当なら一生をアルジと一緒に過ごしたかった」
「……すまない。私が犯してしまった過ちのせいで……お前には苦労をかけてしまった。それに、お前にとっての大切な存在も……」
「うぅん、アルジが決めた事だもの。私はそれを精一杯応援するって言ったんだから。だから……悔やんでないと言ったら嘘になるけれど、でも彼がどこかで生きている事が分かるだけでも今は良いのよ」
「……」
兄と呼ばれた者は、彼女の悲しそうな顔を見てさらに自責の念に駆られる。
最初はこの狂った世界を滅ぼす為に、レプリカという技術を使って世界に復讐しようとした。方法としては、この世界の未来が記された道筋を壊そうとして、とある貴族……自らの弟子を誘拐し、とある技術でその貴族そっくりの
そこからはレプリカに自分は良い存在だと信じ込ませ、後々操り人形の様に利用して未来が記された道筋を壊そうとした。
しかし何の因果か……そのレプリカの中にアルジの魂が入ってしまったのだ。その時期アルジは、ルヴィアに並行世界に送り出して暫く経った頃で、アルジにもましてやアルジの事を見守っている女神でさえも何故違う世界線にアルジの魂が移ってしまったのか分からない。
ただ原因があるとすれば……世界を滅ぼそうとした復讐心が、少なからず魔術教会に恨みを持つアルジの魂を引き寄せたのだろう。
レプリカは本来記憶を持たないがアルジの魂が入った事によって、外見は違うが人格などもアルジそのままに生まれた。まぁ髪の色だけ元のアルジと一緒になってしまったが……
そしてアルジも前世の記憶でその世界の事を知っていたので、本格的に物語が始まるまでは自分なりに、しかしながら黒幕に怪しまれず過ごして行く。
そうして年月が経ち、アルジは少女と出会って旅をして、道中いろんな人にも恵まれていく。その道中で様々な敵が立ちはだかるが、それらも容易く跳ね除け黒幕を倒す所まで行く。
しかしながら黒幕も、ましてや黒幕に従った者達の過去もわかっている為に、最終的に彼は……自分を犠牲にして世界をやり直したのである。その代償は……これまで出会った者達の記憶から自分の記憶を全て消し去るというもので、正気の沙汰とは思えない行為である。
アルジと出会った仲間達は反対するが、だがアルジは……
『本当は自分ではなくて、誰かがここにいたんだ。それを結果的には……俺が横取りしてあまつさえ何年もここに居座っちまったんだ。だから……そのケジメぐらいつけねぇとな』
『ダメ……ダメよ! そんな事……絶対に許さない‼︎』
アルジの意志が固いという事をその少女も分かっていた。それでも彼女はアルジのやろうとする事に最後まで反対した。
(私は……貴方の事が好きなの! 例え貴方がレプリカであったとしても、貴方と一緒にいた時間を……貴方とこれから一緒に歩みたいこの想いも……全部全部無くしたくない‼︎)
『貴方がここからいなくなるというのなら……私m『ーーーっ‼︎』っ⁉︎』
『君がいなくなるなんて……そんなの、逆に俺が許さねぇよ』
『だったら私だって……貴方にはこれからの時間が、これからの未来を自由に選べるじゃない! なのにどうして‼︎ どうして貴方は自分の事をいつも蔑ろにして……何でその道を選ぶのよ……』
『選ぶんじゃねぇ。もう選んだんだ』
『……えっ?』
『確かに人からして見れば俺の行いは、今日まで俺が積み重ねた事や先人達から譲り受けた想いも無かった事にする最低な行為だ。誰かに対する良い事や悪い事、幸せな事や辛かった事、ここまで一緒に過ごしてくれた仲間の事も……全部無くして新しい道を作るって事だからな』
『でも俺は……その新しい道を見てみたいんだ。ここからの新しい道じゃあなくて、君達が過去に決められた道筋を辿らない……全く新しい道を』
『でも……私は……貴方と一緒に、これからの未来を歩みたい……』
『……ごめんな。でも』
『でもさ……俺がこの世界から消えたとしても、俺がいなくなる訳じゃあない』
『それって……』
『あぁ、俺にはやらなきゃいけない事がまだ山ほどあるからな。だから俺はそれを成し遂げるまで死ぬ訳にはいかねぇんだわ。それで』
『もしその全てを終わらせる事が出来たら……きっとまたここに来るさ』
『本当に……本当にまた来てくれる?』
『あぁ。どれくらいかかるか分からねぇけど、それでもきっといつか帰ってくるから』
『……分かったわ。なら……必ず帰って来て! 必ずよ。ずっと……ずっと待っているから……例え貴方と過ごした記憶が無くなっても……ずっと待ってるから‼︎』
『あぁ、待っていてくれ』
そしてアルジは全ての者達から自分に関する記憶を全て消し去り、その代わりとして世界の全てをある時期まで巻き戻した。
その巻き戻された世界は、過去に記された道筋から違う方向へと向かう。例え本来戦争によって引き起こされていた災禍や悲しみも、アルジが残した意志が世界の修正力を強引に捻じ曲げて結局起こらなかったりした。
結果、アルジの事を想う彼女の兄は世界に対して復讐をしなかった。そもそも自分を苦しめた事がこの世界で起こらなかったのだから当然の帰結である。そしてその兄に賛同していた者達も、別々の幸せな道へと進んでいく。
側から見れば全てが平和に思えるそんな日々の中、彼女がアルジと出会った日を迎えると……
「あっ……あぁっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
彼女は思い出したのだ……この世界線になる前の世界で彼と出逢い、惹かれていった事を。そして彼は既に……この世界のどこにもいない事を……
彼女だけではない。アルジと深く関わった仲間や人々が次第に彼の事を思い出していく。前の世界線を自分の命を賭して守ってくれた存在を。そして今の世界線へと生まれ変わらせてくれた代償に、彼の存在がここからいなくなってしまった事を……
「どう、して……どうして私は今まであの人の事を忘れていたの……どうして忘れたままのうのうと今まで過ごしていたの! あの人の事をずっと待っているって……そう強く決めたのに……どうしてっ」
「ーーーっ! ぐっ⁉︎ これはっ⁉︎ この記憶は……そうだ、私はあの者に……」
「ねぇ……兄さん……私は一体どうすれば良いの? 今まで幸せでのうのうと生きてきて……でもこの幸せも彼が、アルジがくれたものなのに……なのに彼はこの世界のどこにもいないなんて……」
「ーーー……私が言ったとしても聞く耳を今は持たないかもしれないが、それでも聞きなさい。あの者はまた帰ってくるとお前に誓ったのだ。何を最後まで抱えていたのかは……今となってはこの世界の誰にも分かりはしない」
「だが、それでもあの者は帰ってくると言ったのだ。ならばーーー、お前もあの者にそう誓ったのならば信じて待ちなさい。それが……あの者を心から愛しているお前に今出来る最善の事だ」
「……そうだわ。私……何を迷っていたのかしら……私はあの時、アルジずっと待っているって誓ったわ。どんなに辛くても待ち続けようって……ありがとう、兄さん……この大切な気持ちを思い出させてくれて」
「私は……礼を言われるような事は何もしていない。それに私も……あの者に礼を言う事すら出来ていない。今の……前の世界線では考えられなかったこの暮らしを享受している。その事の感謝をな。だから私も付き合おう。お前と一緒にあの者が帰ってくるのを……それが私が出来る最大限の贖罪だ」
「兄さん……えぇ」
そして彼女とその兄はアルジが帰ってくるのを待ち続ける。彼女は自分の想いを貫き通す為に。兄は彼女の想いを見届ける為に。
「貴方の事を思い出して……何年経ったのかしら」
「あぁ、もう随分と待っていると思わされる。実際にはあの時からまだ3年しか経っていないだろうが」
「えぇ、この世界で今日がアルジの成人の日になるんだもの。でも……それ以上に長く待っている気がするわ」
「だが、お前はそれでも待ち続けるのだろう」
「えぇ、待ち続けるわ。例え私がおばあちゃんになっても、死んでしまったとしても……この想いは本物だから」
「ふっ、それでこそ私の妹だ」
兄がそう言い終わった同時に、2人は空をまた見上げる。アルジが今もどこかで生きていると分かったから、後は帰りを待つだけだ。まぁ遅すぎたらそれはそれでこちらからアルジの元へ行く方法を考えるだけだ。
「さぁ、そろそろ戻ろうか」
「えぇ、行きましょう兄さん」
2人がその場から離れようとした時、兄の足元に何かが転がっている事に気付く。
「ん? これは……」
「何かしら?」
後に2人と彼女らの仲間達は歓喜する。それがアルジを転生させた女神からの贈り物であり、アルジが今何をしているのかが映像と音声で知らせてくれる物だったのだから。
だが彼女がそれを多用する事はない。全てはあの日アルジと約束したから、今彼がどこかで元気に過ごしていると分かっただけでも彼女にとっての希望なのだから。
まぁ……偶には使うだろう。アルジが寝ている時間帯を狙って……
side out
久々に譜歌を歌った。使ったのは随分と前の事だから効果として現れないと思ったが、どうやら今も旋律と旋律に込められた意味は理解して歌えるようだ。
にしても……
(懐かしいな……あの世界を離れてどれくらい経ったろうな)
俺としてはその場での事が終わったら転々と飛ばされていたから、年月がどれくらい経ったとか意識していない。でも、あっちでは長い年月が経っているだろう。
(いつかまた来るって約束したからな……まぁ今はそれよりも……)
アルジが目の前の業火に目を向けると、術の効果が切れ始めたのか勢いが弱まっていた。そして中からはソロモンが現れる。現れるのだが……
「ハァ……ハァ……」
右腕が曲がってはいけない方向に折れており、先程まで綺麗だった白い布衣も流れ出る血によって所々赤黒く染まっていた。そして業火の渦に呑まれていた為に、所々焼け焦げていた。
だがそれだけではない……アルジと邂逅するまでは余裕だったソロモンの顔は、どこか怯える様な表情になっていた。
「おいおい……さっきまで邪ンヌ達に浮かべていた余裕はどこに消えた? テメェまだ奥の手残してんだろ?」
「にしたって滑稽だよなぁ? テメェ、ソロモンっつったよな? かの魔術王が俺みたいな奴に対してこんな体たらく晒してやがるなんて、誰が想像しただろうなぁ?」
「……んだ」
「あっ? 聞こえねぇよ……もっと大きな声で喋れよ」
「あれは何だと聞いている⁉︎」
「あれ? どのこと言ってやがる?」
「全部だ! 貴様はどこから湧いて出たのだ⁉︎ 我の魔力感知に引っかからず、それどころか我に攻撃までしあまつさえ障壁を紙屑同然に砕くなど……」
「それにあの魔術は何だ⁉︎ 魔術耐性が一切無視される物など……生きていた時代含めてあんな物見た事も聞いた事もない!」
「だがそれよりも……先程の歌は何だ⁉︎ あれこそこの星の記憶にすらない物の筈! それを貴様は一体どこで「黙れ」っ⁉︎」
「そんな事ぐらい、テメェの千里眼で見えねぇのかよ? 過去から未来まで見通せるんじゃねぇのかお前のは? まぁそんな事どうでもいいか」
「とにかく……今から無様に消え去るテメェに言う事なんてねぇよ」
(っ⁉︎ な、何だこの我を押し潰すほどの威圧は……っ⁉︎ これ程の者が……ただの魔術師だと⁉︎)
ソロモンは戦慄する。フラウロスが言っていたのにこの事であったのだと……
確かに最初、カルデアスを襲撃して帰ってきた後にボロボロの状態だったのは予想外だったが、何か油断が生じてしまったか手違いが起こってしまったからだと推測した。
その時に千里眼などは使っていないが、魔神柱の一柱がそう簡単にやられる事はないとタカを括っていた。
しかしそれが懸念として思い始めたのがオルレアンが終わった後フラウロスが戻ってきた時だ。今回はボロボロでは無いにしろガタガタと震えながら帰ってきた。
流石に何があったのか聞いた。聞いたが、曖昧な答えしか返ってこず、そしてセプテムではいよいよ返ってくる事は無かった。
セプテムではカルデアの最後の1人である魔術師、藤丸立香に敗れたと聞いていたので、まぁ偶然が重なっての事だと思っていた。
だが、目の前の存在と対面して思い知らされた。原因は目の前の存在であると……暴力的にまでに纏っている魔力の奔流、こちらを射殺すの表現では生温い程睨みつけてくる
(な、何なのだこの存在はっ⁉︎)
「来い……アスタロト」
(なっ⁉︎ 我が従える魔神柱の名を……まさかフラウロスが最初に言っていたのは……)
ソロモンがそう思ったと同時紅い魔力の奔流がアルジを中心に吹き荒れる。その渦の中で、アルジの身体はアスタロトの装甲を魔力で形成しながら纏っていく。
(あ、あの魔力の中から神代と同じ気配がするだとっ⁉︎ ば、馬鹿な……ただの一魔術師が持っていい代物ではないぞ⁉︎)
ソロモンが驚愕しているのと同じく、別の所でもソロモンと同じ思考に陥っている者がいた。
(こ、これがファヴニールを倒した時に纏ったといわれるアスタロトの鎧……確かにオケアノスでも似た様な物を纏っていたけど、それと比べても最早別次元だ……)
「へぇ〜、これがアルジくんが纏っていたアスタロトかぁ〜。全貌はまだ見えてないけど、計器越しでも段違いって分かっちゃうなぁ〜!」
「いよいよもってアルジって人間を辞めてるわね。前から普通に思ってたけど……」
「ハハハ……確かに……」
(でも、これはいよいよアラヤとかが黙ってない展開なんだろうな……)
それは管制室で成り行きを見守るロマニだ。アルジから発せられる魔力の奔流を計測したところ、セプテムで展開していた時に出た値ではなかった。
だがそれでも感じてしまう。否、前々から感じていた。彼は普通の魔術師、人間よりも遥か先に至る存在であると。もしかしたら神話に出てくる神々と同等かもしれない。
考え混んでいると画面上に変化が起こる。紅い奔流の中から鉄で出来た様な右腕が出てくると、一気に右へと薙ぐ様に振り払う。
振り払われた直後には奔流は収まったものの、その中から出てきたのは先程まで噴き出ていた魔力以上の物を見に纏うアルジの姿……それこそがアスタロトである。
殆どの装甲を白と青で纏められているシンプルなデザイン。しかしながら圧はヒシヒシと感じる。ソロモンは先程アルジから受けた攻撃に加えて目の前の存在を、最早自分が理解出来ない存在だと感じ取ってしまった。
「貴様は……本当に貴様は何者だ! なんだその鎧から感じられる気配は⁉︎ まだ我が生きていた神秘の時代と同じ気配……だが知らぬ……その様な鎧は皆目見当がつかぬ‼︎ それを貴様は「ゴチャゴチャウルセェよ」っ⁉︎」
「さっき言っただろ? 今から消え去る貴様に言っても意味がないと」
「なっ⁉︎ いつの間にっ⁉︎」
「遅ぇんだよ‼︎」
「ブグッ⁉︎」
ソロモンの頬に突き刺さるアルジからの右ストレート、その一撃はいとも簡単にソロモンにダメージを負わせた。そして瓦礫の中へと突き刺さるソロモン。先程までの俺様最強ムーブはどこへやら……
そしてソロモンは、これから苛烈という表現が生温い程の猛攻をアルジから受けるのである。
今回は違う作品を踏まえて情景を描かせて頂きました。そもそもアルジがfgoにいる時点でクロスオーバーですが、fateとは全く異なる世界で過ごす登場人物からの視点を描くのは今回が初めての試みでした。上手く描けていれば良いのですが……
解説
・フレアトルネード
テイルズシリーズで出てくる呪文。(シリーズによって呪文、譜術etc呼び方が変わる)業火の竜巻が範囲内の敵を呑み込む様に展開され、下手な防御耐性ではそれ諸共消し炭になってしまう。
今回アルジが行ったものは範囲内に五芒星が出来る位置取りに対物ライフルの弾丸を着弾させ、その後丁度五芒星の真ん中あたりに特殊な鉄杭を着弾させる事によって発動させるというもの。勿論詠唱、無詠唱でも可能ではあるが、アルジの特質故に目の前に憎悪の対象がある場合は一手間加える事によって更に威力が上がる。
・譜歌
とあるテイルズシリーズでは物語の鍵を握っていた歌。気になる方はWikipedia参照。(作者からネタバレをしたくない為……)
・壮麗たる天使の歌声
正式名称は別にある。本日はネタバレを限りなく避ける為にこの内容で解説する。
効果としては範囲内の味方にあらゆるバフを付与し、体力を少量回復させる。
・他を救う為に別世界をとある分岐点まで戻し、尚且つ修正力の入る余地も無い世界を創り上げたアルジ
最早常人ではない……どれだけ魔力を持ってるの?
・別世界でアルジを想い空を見上げた少女
自らの兄の暴走を止める為に行った先で偶然アルジと出会い、不思議な現象でアルジと一緒に全く違う所に飛ばされたところから一旅を始めた。
初見ではアルジの事をただの貴族で世間知らずな人だと思っていたが、行者に自らの形見を差し出そうとした所を止められ、逆に助けられた所から世間知らずから不思議な人の印象に変わる。後は邪ンヌ達と同じくいつの間にかアルジに対して好意を寄せる。
アルジが自分の存在と引き換えに少女がいた世界をとある分岐点まで戻し、平和な世界で本来好きだった兄と、本来の世界線で生まれてまもない頃に死んでしまった両親と共に暮らしていた。
だがアルジと会った年になって数ヶ月後にアルジの事を思い出し、絶望するも兄に諭されてアルジがまたこの世界に来る事を待ち続ける。
しかしながら一部始終を見ていた女神は密かに企てる。全てはアルジが幸せな道に至る為に……
・選ぶんじゃねぇ。もう選んだんだ。
『テイルズオブヴェスペリア』の主人公ユーリ・ローウェルより
自分の手を血に染めてでも弱き存在を守ろうとした意志。アルジは自分の存在と引き換えに、少女が暮らす世界をとある分岐点まで巻き戻すと決めた。その強い意志が言葉によって表現されている。(そう思ったのば事実だが、本人曰く意識したらしい……完全なるパクリ)
解説はここまで……なんですが、本来だったらクロスオーバーを入れるつもりは無かったんですよね。書いてたらいつの間にやら違う世界のキャラの回想を描いていたりと……この4章1、2話で終わらせるつもりだったのに……
まぁともかくとして次の話で4話は終わらせるつもりです。早く1部完結させたいですからね……
ということでまた次回に続きます!