別にナツメにしてみればこのオデュッセウスガンダムという機体が悪いものであるとは思っていないが。
ジャア……!!
「危な……!!」
それでも小型モビルスーツ、デナン・ゾンだかデナン・ゲーの鬱陶しい機動性の前には苛立つ事が多い。所詮は型落ち品なのだ。
「この、バンガードだか何だか!!」
その不安定な姿勢のまま彼女、ナツメはオデュッセウスの可変型ビーム、メガ粒子砲を再度「槍」を放ったデナン・シリーズへと向ける、だが。
バァン!!
そのビームはまたしても「小型野郎」のビームシールドによって弾かれる。もちろんもう彼女は気にしない。
「廃棄コロニーなら、手加減をしないか!?」
驚いたような声を上げる敵の隊長機、ナツメの記憶によればダギ何とかという名前だったと思うが、その敵機からの拡散ビームをナツメはオデュッセウスが乗っかっている運搬機を駆使してどうにか回避する。その五月雨のようなビームの内、数条がオデュッセウスの装甲を削り取る。
「ナツメ!!」
「遅いよ、あんた達!!」
「F91、ここにもいないんか!?」
「あたしが知るもんですか!!」
その味方の増援部隊、その中に旧式のリゼルの姿さえあることにナツメはうんざりしつつも。
「あたしがここの指揮を執る、いいですか!?」
「親父さんの威光かい!?」
「だったら、あなたのような旧式でもデナンを落として見せるんだね!!」
「言ってろ!!」
オデュッセウスのビーム砲を牽制に使いながら、どうにか敵機に接近しようとする。ビームライフル等はとうに放棄した、ビームシールドを撃ち破れないビームなぞ、実弾兵器以下だ。
「父さんの自慢話に出てくる、マグナムなら話は別だろうけど!!」
それでも、ナツメのオデュッセウスは廃棄コロニーの中を飛び回っている敵性モビルスーツに接近戦を挑む事に成功し、そのもろ手に構えたビームサーベルにてデナン・ゾンのビームシールドを圧殺せんと力を込める。
「しかし、ここで深追いしては!!」
そのナツメの拙速に近い判断がなければ、その場でオデュッセウスは撃破されていたであろう、身を捻って回避したナツメ機の近くを「槍」が、ショットランサーという名の質量兵器が疾った。
「うわぁ!!」
やはりリゼルでは敵モビルスーツの動きについていけない、慌てて高機動形態に可変しようとしたそのモビルスーツ「リゼル」に生じた隙を付き、デナン・ゾンから放たれた二本の槍が一機のリゼルを深く貫く。
「ちっ!!」
だが、その槍を放ったデナン・ゾンをサブ・フライト・システム、運搬機にと乗っているグスタフ・カールがビームの乱打を浴びせて撃破した。
「ギャンブルだな、味方の練度に差があるというのは!!」
このナツメが配属された部隊には古参兵、風の噂によればジオン戦争とやらの時代に少年兵だったパイロットもいるのだ、酒の席での自慢話がうるさい連中だ。
「ナツメ、オデュッセウスの底力を見せろ!!」
「言われなくたって!!」
そう叫び返しながらナツメはケッサリア、武装付き運搬機のメガ粒子砲を光らせつつ、どうにか再度の接近を試みようとするが。
「黒いバンガード!?」
どうやら敵、そう「クロスボーン・バンガード」にも増援が来たらしい、その黒一色で塗装された、見るからに「鼻持ちならない」敵を前にして、ナツメは微かに怯んでしまう。
「ここまでだな、うろちょろと!!」
その黒い敵機達を率いていると思われる隊長機、その背にビーム砲身を携えた機体から低い男の声が響くと同時に。
バァ……!!
「クロムシか!?」
言い方は悪いが、まさしくその甲虫のような敵機群は四方にと散らばり、互いに連携してリゼル、グスタフ・カール達を追い詰めていく。
「くそ!!」
敵隊長機は照合データによると「ビギナ・ギナ」と出ている、しかし解析度は約五十パーセントであるとも。
「ならば、マイナーチェンジか!!」
「くらえ、旧式!!」
バゥ!!
その隊長機の背から放たれたビーム砲、凄まじい速度のそれがナツメのケッサリアにともろに当たり、そのままオデュッセウスは宙に放り出される。
「ヴェスバー、強いビーム!?」
ならば、なおさらF91には早く来てほしい、慣性を利用して回避運動を行っているナツメは、危機的状況にも関わらず微かに苦笑いを、ヘルメットの中で浮かべて見せる。
「止めだ、骨董品のガンダム・タイプとやら!!」
「速い!?」
一瞬の合間にオデュッセウスにと距離を詰めてきた敵隊長機、その機体が装備しているライフルがナツメの目前にと迫る。
ドゥ!!
その敵機の放った前蹴り、それによって姿勢を崩されたナツメ機は、機体各部のスラスターを駆使して体勢を整えようとしたが。
「終わりだ!!」
まるで瞬間移動のように彼女の機体背後へと回った敵の黒い機体、それがビームの刃を手に持ち、彼女のオデュッセウスに止めを刺そうとした、が。
「クロスボーン!!」
ガァ、ガッガ!!
どこからともなく放たれたビームの連打、それに即座に反応した黒い敵機がビームシールドを展開してその雨を打ち払う。
「白い奴か!!」
白い奴、ナツメ達の間では「F91」という名で通っているその小型機が、両脇にビーム砲を携えナツメを救援した。
「シーブック!!」
「ナツメさん、下がって!!」
ギィン!!
そのF91と敵の機体、それらが互いにビームの刃を合わせながら、ナツメ機オデュッセウスやリゼル、グスタフ・カールなどには真似出来ない高速戦闘を始めた。
「黒いセシリーの機体か!!」
「やるな、鉄仮面を仕留めた奴!!」
「シーブックだ!!」
「一人のパイロットか!!」
「お前も一人であの仕留めた化け物も一人、ならば!!」
ザァン!!
ビームサーベルの出力はF91の方が上であるらしい、そのまま白い機体は黒い機体を圧迫しつつ。
「この俺でも撤退支援はやれる!!」
「このビギナ・ゼラ、そう簡単には!!」
そう叫びながら、黒い機体はサーベルを保持したまま腰のヴェスバーに火を灯す。
「このザビーネ共々に、気迫で負けん!!」
「ザビーネ、セシリーから聴いた奴か!!」
「セシリー、ベラ様か!?」
その人物の名を聞いて、ビギナ・ゼラとやらのモビルスーツ・パイロットはやや動揺したようだ。それでも彼はヴェスバーを放ったがそれはF91にかわされ、そのまま二機のモビルスーツは互いに距離を取る。
「レジスタンス、引くぞ!!」
「出来るの、シーブック!?」
「やるしかないでしょ!!」
そのまま仲間のケッサリアにと乗っかったナツメ機、彼女はそのグスタフ・カールに礼を言いながら、急いでこのコロニーから退避するように伝えた。
「各機、連邦のレジスタンスを逃がすな!!」
そのビギナ・ゼラの掛け声に従う黒きモビルスーツ達。しかしF91が放った背部ミサイルランチャーに仕込まれた「目眩まし」によりややその隊列は乱れ。
「こちらジャベリン、支援する!!」
キュイ!!
ナツメ達の救援に駆けつけた新鋭機ジャベリンから放たれた「槍」によりその敵軍、通称「クロスボーン・バンガード」のモビルスーツ達の勢いが低下していく。
「下がれ、ナツメ!!」
「すまない、レーンさん!!」
「良いって事だ!!」
その数機のジャベリンの中でも一際動きの良い機体、それが放ったショット・ランサーは的確にデナン・シリーズ二機を撃破する。かなりの手練である。
「ちぃ、連邦の模造品が!!」
「さらばだ、ザビーネとやら!!」
「ベラ様の面子を立ててやる!!」
その言葉にクロスボーン・バンガードの各員は納得したのか、ナツメ達はもちろん撤退を開始したF91シーブック機を追ってくる機体もいない。その事にナツメはコクピット内で首を傾げたが。
「ナツメ、何をしている!?」
「ごめんなさい、レーンさん!!」
「コロニーの奪取は失敗だ!!」
その台詞を吐いたレーン、ナツメの父と同じくらいの年齢であるレーン・エイムの声にナツメ、そしてグスタフ・カールのパイロットは運搬機ケッサリアの出力を上げた。
――――――
「やっぱり駄目でした、レーンさん」
「いや、元々が無茶な作戦だったのだ、シーブック」
「そう言ってくれると助かりますが……」
正直、シーブックにしてもこのクロスボーンが兵器試験場にしていた廃棄コロニー、そこにまたクロスボーン・バンガードが部隊を派遣しているとは思わなかったのだ。
「セシリーの言葉通りなら、ザビーネという男はサイコ・バグを使わないタイプみたいです」
「当てには出来ない」
「そんなもんですか……」
「力でコロニーを収めた連中のすることだぞ……?」
「……」
レーンとてこのシーブック、そしてセシリーとやらのいう台詞には信じられる物があるのだが、自分が乗っていたモビルスーツの技術が「人食い虫」に使われていたとなると、予断は許されない、年月はそれだけの思考をこのレーンという男に与えている。