「サイコ・バグ、確かにコスモ・バビロニアの防壁となるかもしれんが……」
しかしそのような大事を自分に、マイッツァーに対してメール一通でのみ伝えてきた銀面の淑女の行い、それに彼マイッツァーはどこか警戒心を抱いてしまう。
「それが彼女、そう彼女のような精神を持つ者のやり方なのかも知れんがな」
そして、サイコ・バグの有益性を示すために行う、連邦艦隊への強襲もまた、たかが一通の知らせのみで彼女は行おうとしている。
「フウ……」
軍事力を備えていなければコスモ・バビロニア、いやそれに限らず新興国の独立は不可能である、そのことはマイッツァーにもよく解っているはずではあるが。
「カロッゾの置き土産か……」
――――――
ギュイア……!!
「まず、一艦……」
銀面の淑女がエビル・ドーガ、ラフレシア後継機の中で鼻歌を口ずさむなか、対艦用の大型バグがその身体、円盤状のそれから巨大なビーム刃を放ちながら連邦軍のクラップ級を切り刻む。
「ムーン……!!」
淑女はエビル・ドーガの内部で呻き声を上げながら脳波で機体の制御、およびサイコ・バグ達の動きをコントロールする。その行動を行っている彼女の脳裏には、あたかもレーダーのごとく連邦艦隊達の姿が光点として映りこんている。
シュア……
その円盤達、バグは淑女の指令を受けてその連邦艦の旗艦を引き裂き、ようやく飛び出してきたモビルスーツ、グフタス・カール達をその運搬機ごと、サイコ・バグから放たれた可変弾速ビーム砲で次々に仕留め始めた。
「連邦、そう我らの宿敵……」
しかし、その淑女が古巣である組織「ジオン」に対して、彼女自身は対して忠誠心などは持ち合わせていない。火星ではクローンである自分を文字通りの「穴埋め」として産み出した残光だ。
「貴族主義、力あるものを肯定する思想か……」
ついに残り三艦となった連邦艦隊、エビル・ドーガの大型バグ・ポッドから次々に放たれるバグの群れを脅えをなした連邦の機体達は、ようやくにして淑女のエビル・ドーガの姿を認め、その腕部から連続してビーム兵器を放っているが。
バォ……
ビームの波はエビル・ドーガのバリアーにより防がれ、その巨大モビルアーマーから反撃にと、的確に撃ち放たれたメガ粒子砲により、旧式のジェガンを中心とした艦隊の直掩モビルスーツ達はその数を減らしていく。
「サイコ・バグ、そうサイコミュ兵器……」
確かにその新型サイコミュ兵器「サイコ・バグ」の効果は絶大だ、巨大な質量兵器の特性を持ち合わせたそのバグ達の行いは防ぐ手段がなく、彼女の感性にも合う。
ズゥ……
最後の連邦旗艦がバグによって沈没していく姿を彼女、淑女は有視界で漆黒の宇宙を見渡せるコクピット内部で、自らの仮面の下の顔を綻ばせながら。
「火星へと無惨に追いやられた、その反骨を持つ我らプルこそが、真の貴族なのだよ……」
宇宙に浮いていた脱出者、連邦艦隊のクルー達を凶悪な外見を持つファンネルでもって仕止め始め、宙にと赤い飛沫を散らせた。
――――――
「オールズモビルだと、デナン・ゾンなのにか?」
その識別信号の反応は彼、ザビーネ・シャルも昔からの友人に聞いた事がある。古き国である「ジオン」の残党だ。
「識別信号にはそう出ている、誰の手引きだ?」
「さあ、ザビーネ……」
結局修理が終わらなかったビギナ・ゼラの代わりに与えられたビギナ・ロナ、もちろん悪い機体ではないが正直調整が全く未完成だ。
「あの緑色のデナン・ゾン達、我々を無視しているようですよ、ザビーネ」
「はい、ベラ様」
「危険ですね」
その言葉を聞くまでもなくザビーネにはこの宙域に留まっている事が危険だとは解っている。ベラことセシリーはいいが、自分はこの機体のテストを命じられて、未だ三日しか経っていない。
「なにより、あたしのベルガ・ギロスとビギナ・ロナは目立ちます、お互い白すぎます」
「そうですね、あの者達から離れましょう」
「おや……」
自分セシリーの臆病とも受け取れる意見、それをザビーネ・シャルが簡単に受け入れてくれた事に、彼女は自機「ベルガ・ギロス」のコクピット内でその目を丸くしながら。
「珍しいこと、ザビーネ」
「私とて、危機意識はあります」
「あのモビルスーツも笑うかもしれません」
そう言ってセシリーが指差した先、それには緑のデナン・ゾン達とは違う、赤いクロスボーン製のモビルスーツの姿が浮かんでいる。
「ザビーネ」
赤い指揮官機、身軽に接近してきたその機体は気さくにザビーネ機ビギナ・ロナの肩を叩きつつ、そのまま低い声でザビーネにと語りかけた。
「クロスボーンには我らレッド・バンガードがついている」
「手間をとらせるな」
「良いって事だ……」
「助かるよ」
その昔からの友人に感謝の意を表しながら、ザビーネはそのままベルガ・ギロス、白い高機動型モビルスーツのその手を取る。
「スペースアークとやらに行くのでしたね」
「シーブックにも会えますよ、ザビーネ」
「小僧のような声にも聴こえましたがね、さて……」
――――――
地球連邦軍のメジナウム大将にとって、宇宙の民がどれほど減ろうが、大して気にする事ではない。
「バグ、そうバグね……」
たとえこのバグが人道とやらに反する兵器であろうとも、地球にさえ使用しなければ済む話だ。
「いやいや……」
それに地球の各地には未だに旧ジオンの御鉢を掲げた連中がいる、彼らに対してこの「バグ」が有効だということは、あの不気味な女「淑女」との話によって納得がいく話だ。
「良い兵器じゃないか、リディ君?」
「まあ、コストパフォーマンスに優れた兵器ではありますな、大将」
「人件費が削減出来るよ、君……」
ただ、リディにしてもその話を聞かされた時は一概には否定こそしなかったものの。
「この兵器のアイディアを拡大解釈されては、たまったものではない……」
「何か言ったか、リディ君?」
「いや……」
「もちろん、儂にしても」
そう言いながら、わざとらしく深いため息をついて見せたメジナウムは、そのまま無煙葉巻のスイッチを入れながら。
「無用な殺戮は好まんよ」
「しかし、ジオンの連中は未だに健在です」
「だから、やむを得んと言っているのだよ……」
この月面都市から眼下に見える地球、それに対してそのギョロリとした双眸を投げつける。
「バグ、か……」
虫を意味するその兵器の意、それを舌に乗せながら、それでもリディには何かが納得出来ない感情を抱くのである。
「バナージ達はどう思うかな……?」
今はどこにいるか解らないその者達、しかしリディは何故かその目をメジナウムと同じく地球にと向ける。
「ところで、君の娘さんは?」
「さあ?」
「会いたいものだよ、なあ……」
「……」
「良い躯をしている」
――――――
「ザビーネ、あれがスペースアークです」
「練習艦ですね、信号は送りましたか?」
「もちろん」
しかし、そのセシリーの言葉は上の空だ、彼女のその瞳はその白い艦「スペースアーク」付近で模擬戦を行っているF91に向けられている。
「あれがシーブックとやら、しかしその大型モビルスーツの相手は?」
だがそのザビーネの声に白いベルガ・ギロスは何も答えない、パイロット・セシリーは何かコクピットの中で考え事をしている様子だ。
「大型、旧式のようにも見えるが動きがいい……」
F91と対峙している大型機がペーネロペーであるとはザビーネも知らないが、その付近でカメラを構えている機体、それがリゼルという旧式である事は良く知っている。
「こちらセシリー・フェアチャイルド、着艦許可を願います」