天空のバビロニア   作:早起き三文

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第11話「邂逅」

  

「これで完了、シーブック」

「ありがとう、母さん……」

 

 もちろん母、シーブックの母親にしても実の息子が着々と「人殺し」の道を歩むのは胸が痛む話であるが。

 

「頑張ってね、お兄ちゃん」

「ああ、リィズ」

 

 自分と娘の分まで、彼が業を背負うというのであれば、それに手助けするのも親心というものかもしれない。

 

「ヴェスバー、それに追加パーツがあるとはね……」

「助かるよ、母さん」

「何の……」

 

 もちろん自分がサナリィ、F91を開発した研究所の職員である以上、否応もなくこのレジスタンスには手を貸さなければいけないのだが。

 

「全く、あたし達を何だと……」

 

 サナリィにしてみればここまで独自ルートでレジスタンスに手を貸すのは地球の連邦共々、単にモビルスーツ技術の蓄積という「損得勘定」の他にならない。連邦もそうだがコスモ・バビロニアに積極的に反対しようとする存在は、このレジスタンスを除いて他にいない。

 

「人身御供、か……」

「グルズさん、ヴェスバーの調整を行うよ!!」

 

 その人身御供の最たる物が、まだ若い身空で兵器の試験を積極的に執り行なおうとする「シーブック・アノー」である。

 

 

 

――――――

 

 

 

「バグを月面に降ろす?」

「確かな情報よ、シーブック」

 

 とはセシリーに言われても、シーブックにしてみれば少し首を傾げざるを得ない。いくら彼女セシリーがベラ・ロナだとしても、ここまで簡単に情報が漏れるかどうか不審を抱くのだ。

 

「レジスタンスの今の指揮官、ええと……」

「メジナウムだよ、セシリー」

「その人に、この情報が伝わるかしら?」

「さあ……」

 

 シーブックは無論そのメジナウムという男に会った事がない、それでも艦の噂では彼が先の戦闘で「良いとこ取り」を目論んでいたという話は耳にしている。

 

「シーブック、いる?」

 

 シャ……

 

 その時シーブックの居室にミンミ、医務員であるクルーがその自動ドアを開けて入ってきた。

 

「ザビーネさんとやらが、あなたに会いたいって」

「ここに呼んでこいよ……」

「来るみたい」

「あっそ……」

 

 そのシーブックの呆れたような声が耳障りにミンミ、そしてセシリーの耳を撫でると同時に。

 

「ベラ様もおられたか」

 

 当の本人、片目を眼帯で覆ったパイロットスーツの男が入ってくる。クロスボーン・バンガードのスーツである。

 

「初めましてだな、レジスタンスのパイロット」

「こちらこそ、クロスボーン」

「フフ……」

 

 椅子に座ったままのシーブック、彼に対してその顔を覗き込むようにその身を屈するザビーネは、彼は品定めをするような目、それをそのままシーブックに向けつつ。

 

「鉄仮面の件、礼は言わんよ……」

「ここで言うか、ザビーネとやら?」

「これは失礼」

 

 あまりこの場にいるセシリーに対して、気を使ったとは言えない言葉を、それを静かに吐く。

 

「ザビーネ、何の用ですか?」

「ハッ……」

 

 そのやや、セシリーの咎めるような言葉にザビーネは姿勢を正しながら、微かにその首を傾げると。

 

「今、クロスボーンには貴族主義に似つかわしくない者がいましてね」

「その貴族主義とやらが、俺にはよく解らないんだ」

「そうだろうな……」

 

 そのまま、彼ザビーネが知る限りの貴族主義、その概要をシーブックにと少し時間を掛けて伝える。

 

「ふぅん……」

 

 もっとも。

 

「単なる独裁じゃないか……」

「歴史の授業は寝ていなかったようだな、少年」

「少年と言うなよ……」

 

 ザビーネにとって、シーブックが貴族主義について錯覚を起こしてしまうのは十分にあり得た事だ。もともとが連邦民主主義のアンチテーゼである貴族主義は、その基盤からして脆弱なのだ。

 

 

 

――――――

 

 

 

「やはり、あのラフレシアもどきが出てくるか……」

「サイコ・バグ、エビル・ドーガの専用兵器よ、シーブック」

「エビル・ドーガ、そうエビル・ドーガね……」

 

 しかし、シーブックの視点ではそのエビル・ドーガとやらを中心にした緑色のモビルスーツ編隊、それに何か妙な違和感を感じてしまう。

 

「まるで、襲って下さいと言わんばかりじゃないか……」

「罠、囮だとでも?」

 

 そのセシリーが乗るビギナ・ロナからの声にはシーブックは答えない。ただ漆黒の宇宙の中、彼シーブックは自機「F91」に設置された新型の機体駆動系の調子を確かめてみる。

 

「こちらレーン・エイム、ジャベリン」

「何か?」

「用心しろという事、シーブック」

 

 その運搬機にと乗るレーンの機体、彼のジャベリンからの声は何処か緊迫した感じがあると、シーブックが思ってしまうのは錯覚ではないだろう。

 

「あのクロスボーン、やはりただ者ではないなあ……」

「それは私も感じたよ、シーブック」

 

 黒にと塗装し直された機体に乗るザビーネ、彼までもそう言うのであるならば、その彼らが感じた印象は本物なのであろう。確かにはた目から見てもそのデナン・ゾン、クロスボーンバンガードの旧式は異質さを感じさせる。

 

「クロスボーンがザクの真似だと、ナンセンスな……」

 

 ザク、旧ジオンの機体を表す名を言った通り、そのデナン・ゾン達は皆緑色の塗装を施されており、なによりクロスボーン系モビルスーツの特徴であるゴーグル・アイが「一つ目」にと換装されていた。

 

「オールズモビルとかいう者達ではなくて?」

「そうかもしれませんが、ベラ様……」

 

 とは言っても、ザビーネにしてみれば通信の一つでも入れたかったのである。しかし、その謎のモビルスーツ達はザビーネ機から発せられた信号を無視したのだ。

 

「銀面の私兵か?」

「どう出る、ザビーネ?」

「しかし近くにクロスボーンの戦艦もあるよ、シーブック……」

 

 シーブックやセシリーにしてみればバグの再来は防ぎたいと思う所である。が、ザビーネの立場では後先というものを考える必要がある。

 

「サイコ・バグを認めないというのは、私の揺るぎない所ではあるのだが」

 

 だが、そのザビーネ・シャルの考えはその「不明機」たちにとってどうでもいいものなのであろう。

 

 ジャア……

 

 漆黒の宇宙を切り裂くショットランサー、緑色のデナン・ゾンから射出されたその槍がF91の側をかすめ。

 

「いい狙いだ、こっちも仕掛けるぞ!!」

「待て、シーブック!!」

「何がまてだ、敵の数は多い!!」

 

 その連射されたランサーに触発されたのか、シーブックはF91の手に構えられているビームランチャーを威嚇としてエビル・ドーガの方面に放った。

 

「……」

 

 戦いで迷いを見せるのはザビーネとて本意ではないのだが、それでも彼は自らの機体、黒のベルガ・ギロスをシーブックの機体に続けさせるのを躊躇ってしまう。このままいけばセシリー共々、味方殺しだ。

 

「動きが良いな……」

 

 レーンのジャベリンもまた、F91に続いて牽制射撃を行っている。相手の動きが良く、隊列も整っているが為に手を出すタイミングが掴めないのだ。

 

「迷っては、大事に障る……」

 

 遠くで悠々と進んでいるエビル・ドーガの姿を見やりながら、シーブックはコクピット内で軽く自らの唇を嘗めつつ、それでもヴェスバーの一射によってそのデナン・ゾンを後退させた。

 

「セシリー、援護を頼む」

「エビル・ドーガに突入するの、シーブック?」

「一か八かだ」

 

 そのままシーブックはちらりとザビーネ機の方を見たような気が、セシリーにはしたがそのまま彼女は何も言わず。

 

 バァ……!!

 

 そのビギナ・ロナの手に持たせた可変式ビームランチャーを放ち、エビル・ドーガへの直線距離を作ろうとする。

 

 ギュア……

 

 にわかに敵デナン・ゾン達の機敏さが増した、その一つ目達はビームを放ったセシリー機にマシンガンを放ちつつ、その機体をシーブック達四機の方向に機首を向けた。

 

「やはり味方がもう少し欲しかったか!?」

 

 しかし、あえて少人数でエビル・ドーガを仕留めようとしたこの作戦、それはこの情報そのものの真偽が極めてあやふやな物であったからだ。その情報をもたらしたセシリーと「良い仲」であるシーブックですら、この話を完全に信じていない。

 

「ニュータイプ的な勘とやらもあるけどな!!」

 

 ジャベリンのビームライフルがそのデナン・ゾンのシールドに弾かれた事、それを自身の目で確かめたレーンはそのまま、運搬機の速度を上げて一旦一つ目達から距離を取る。その僅かな合間にシーブックのF91がその宙間を大きく跳ねた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「エビル・ドーガ、地球方面へと?」

 

 そのスペースアーク艦内で休息を取っていたナツメ、彼女はその知らせを持ってきたアラヴィスに軽く頷いて見せた後。

 

「やっぱり、セシリーお嬢の言っていた事はデマだったのね、他にもある」

「量産機という可能性もあるぜ、ナツメ」

「量産型モビルアーマー、嫌な話ね」

 

 その指を折って、出撃可能なモビルスーツの数を確認する。

 

「その地球への軌道上に、お前さんの親父が乗っているラー・カイラムもあるらしい」

「うるさい、アラヴィス」

「ヒュウ……!!」

 

 おどけたような顔を見せるアラヴィス、彼の事を気にせずにナツメはジュースを飲み干しながら軽くため息をついた。

 

「あんな何処から引っ張ったか解らない旧式の運搬機、使える物ですか……」

「お前さんの父さんが持ってきたモンじゃないかよ、ナツメ?」

「ええ、知り合いが持っているガンダム・タイプとやらの追加装備みたい」

 

 その彼女の父リディが持ってきた大量のフライングアーマーとやら、数多いその大気圏突入能力をも兼ねた運搬機達は、話によると昔のグリプス戦争時のものらしいが。

 

「今の小型機だと、推力に引っ張られるのよねぇ」

 

 かとかいってペーネロペーではその運搬機に乗ることは出来ない、昔のモビルスーツ規格であるサブ・フライト・システムなのだ。

 

「ビームシールドを取っつけたジャベリンとかには、役に立つと思うけど」

 

 だが、その機体の状態も何か運搬機を取っつけたような状態、大気圏突入用の兵装である。

 

「まさか、地球に降りる事は無いと思う、けどね」

「地球圏の戦闘、保険の為にだろ?」

「そうかしら、アラヴィス?」

「何だよ、ダイビングでもしたいっての?」

「いけない?」

「水着姿、俺に良い胸を見せてくれよナツメ」

「フン……」

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