「突入する!!」
「大気圏の獣に殺されるぞ!!」
と、旧友に言われた所でリディは「はい、そうですか」と言う事も出来ない。立場というものがある、その代わりに。
「や、止めろリディ!!」
バ、キャ……
半ば固定されていたガンダムMk-Ⅱのフライングアーマー、それを無理矢理奪い取り、そのまま自機リゼルにとあてがわさせる。
「引け、旧式!!」
「マリーダさんを助けてくれよ、リディ!!」
「無理だね、殺すという意味で受け取るよ!!」
その間にもエビル・ドーガⅡはその自らの巨体を地球の重力にと沈め、悠々と大気圏の中を泳ぐ。
「オードリーによろしくな、ロートル野郎!!」
「言ってろ、リディ!!」
「早く離脱することだ!!」
「お前の娘さんを泣かすなよ!!」
「おう!!」
流石に大気圏の中ではF91、そしてビギナ・ロナといった最新鋭機でも身動きは取れない。
「フライングアーマー、ドッキング!!」
「ザビーネ、フライングアーマーセット!!」
元々大気圏突入の装備は搭載されていない、破損した機体から拝借したフライングアーマー、旧型の大気圏突入用サブ・フライト・システムを無理に活用している状態だ。
「バリアーが効いてる、ペーネロペーの?」
ナツメのペーネロペー、元来は気圏内用の機体であるペーネロペーはある程度の大気圏突入能力があるらしいが。
キィ……
「熱、やられてるの!?」
やはり副次的なものであるらしい。音速を超える速度から身を守る為のビームバリアーが崩壊しつつある。
「じょ、冗談じゃないわ!!」
確かに冗談ではない。このままではペーネロペーは熱によって四散させられるであろう。その時。
ズゥ……
「……」
フライングアーマーを構えたリゼルが、ペーネロペーの前にとそっと伸びる。
「こちらナツメ、スタンバっておきます……」
「リディ・マーセナス、了解した」
「父さん……」
「戦闘中だ」
「は、はい!!」
――――――
「テイク・オフ!!」
だがその澄みきった成層圏、地球の蓋でナツメ機ペーネロペーが飛び出す前に、すでにF91達はその蒼き上空にと散らばっていた。
「助けてくれェ!!」
「解りましたよ、メジナウム!!」
大気圏突入時はさすがに僅かなショックがエビル・ドーガⅡにもあったのであろう、宙にと放り投げられた内火艇を回収すべく、リディのリゼルがその翼を拡げる。
バジュ!!
そのリディ機リゼルの背後で白い光が鳴った。自身のビームマグナムでバグ一基を消滅させたF91はそのまま、追撃として放たれたファンネル、エビル・ドーガⅡの飛翔物体からその身を反らされた。
「規格が甘い、エネルギーの無駄遣いだ!!」
「コネクターがあるぞ、シーブック!!」
「あるのか、ザビーネ!!」
「その代わり、私を守れ!!」
「セシリーに全てを任せるか!!」
その身を支えあっているF91達の背後で、ナツメのペーネロペーが勢いよく通りすがる。
「しまった、感性が!!」
少しの間、地球の「気」に身を取られてしまっていたらしい、そのまま猛スピードのままペーネロペーを宙に舞わせてしまうナツメ。
バァ……
「ランサー!!」
太陽から注がれる日の光にその身体を反らせるビギナ・ロナ、蒼の空に強くその機体を誇示しているセシリーのモビルスーツから、数発のショットランサーが放たれた。
「小癪な!!」
「マイ・シスター!!」
「このまま突っ切る!!」
ギィイ!!
そのランサーの内、二基程を拡散ビームで撃ち落としたエビル・ドーガⅡ、しかしそのまま自らの躯に槍をくわえたまま、その巨体は蒼空を切り裂く。
「地球人がいる場所は何処だ、何処でも構わん!!」
「イエス・シスター!!」
「切り裂け、肉を!!」
またしてもその巨体から放たれるバグ達、そのサイコ・バクを援護するかのように、エビル・ドーガⅡの背後からはファンネルの束がF91達にと向けられる。
ギュウア……
そのファンネル群、大型であるその誘導端末を再度接近してきたナツメ機ペーネロペーがファンネルミサイルをもって迎撃し、その合間にザビーネ機に支えられたシーブックが、脇のヴェスバーで十字型のモビルアーマー「エビル・ドーガⅡ」のコクピットと思われる箇所を連打する。ビームマグナムは温存だ。
「シーブック君、サイコ・バクが地表に落ちてるぞ!!」
「くそ!!」
メジナウムの内火艇をその手に持ったリディのリゼル、彼からの声をシーブックも聴いたが。
「少数の犠牲はやむを得んだろう、シーブック……」
「……」
ザビーネ、彼のその声にシーブックもある程度の納得をする。
「早く助けろォ……!!」
「うるさいぞ、メジナウムさん!!」
その自らが捕らえているメジナウムのわめく声、それにも気分を苛立たせながら、リディはビームランチャーにて一基のバグ、やや小型のそれを仕留める事に成功する。薄い大気の壁が彼のリゼルを大きく震わせた。
「ここで仕留めなければ、フロンティアの二の舞になるわ!!」
猶予がないと思ったのであろう、セシリーのビギナ・ロナがその手にランチャーを構えつつ残りの槍をエビル・ドーガⅡにと向けて一斉に放つ。
ジャ……!!
「シーブック、今よ!!」
「おう!!」
その槍の勢いに一瞬止まった銀面の淑女が駆るモビルアーマー、それでも放たれる強烈な拡散ビームを薙ぎ払うが如く、F91のビームマグナムが強く火を吹く。
「よし!!」
ダメージを与えたマグナムの光の陰ではナツメのペーネロペーも上手く陽動を行っている。この好機をシーブックは見逃さず、彼はザビーネ機ベルガ・ギロスとのドッキングを外し、そのまま成層圏の海へとF91を投げ出した。
「なんとぉ……!!」
光輝くF91、そのモビルスーツは幻影を空にと放ちつつ、最後のビームマグナムをエビル・ドーガにと撃ち放つ。機体内部のエネルギー系統から異常を知らせる音が、シーブックの耳を捉える。
ジャ……
地球への降下を行うバグ達、ファンネルの網に覆われたその殺人兵器を食い止めるべく、ナツメはシーブック達からやや下方でペーネロペーを激しく動かしている。大気圏内戦闘の為に製作されたモビルスーツだ、この地球という場ならば機動性はF91の比ではない。
「いけ、ファンネルミサイル!!」
フゥア……!!
ペーネロペー最後のファンネルミサイル、それらがバグ達にと向かって強く投げ放たれる。厚い大気にと飛び込んだペーネロペー達は、その身に夕陽の灯りを強く反射させる。
「銀面!!」
高機動形態にとなったF91、その機体がエビル・ドーガにと最接近したときにコクピットから覗きこんだ光景。それは。
「同じ顔をした女達か!?」
「悪いかい!?」
のっぺりとした顔、それが立ち並ぶ大型のコクピットの中で、その素顔を晒しだした銀面の淑女が怒りによってその顔を般若のように歪ませている。
「行け、バグ達!!」
「おっと!!」
ギィイイ!!
その身のチェーンを軋ませながらシーブック機にと迫るサイコ・バク達、しかしすでにシーブックには慣れ始めた相手だ。
「ここで!!」
バクの一斉攻撃を身を翻して退けたF91、高空を紅く染める夕陽の光を受け、その身を朱に染めた機体の両脇から光が迸る。
「ギャア……!!」
「プル・ナインティ!!」
「まだ行けます!!」
「そうか!!」
ドゥウ!!
しかし、一瞬に姿勢が揺らいだエビル・ドーガ、太陽の光によって紅い切り花のようにも見えるそのモビルアーマーは続けてビギナ・ロナからの可変ビーム・ランチャー、そしてベルガ・ギロスが放ったランサーをその身に浴びる。
「そうはいくかよ、雑魚ども!!」
それでもその身からバクを放出させるエビル・ドーガ、しかしその切り花はペーネロペーとリゼルからのビームによる連打を強く受け、そのままエビル・ドーガの左基部が大きくえぐりとられた。
「くそぉー!!」
ドゥン!!
しかし、そう罵り声を上げた銀面の淑女、彼女の視線の先に白いモビルスーツが立ちふさがり、そのままその機体はもろ手にとサーベル光を輝かせる。
「とどめだ、バグ野郎!!」
「食い止めろぉ!!」
淑女はそのまま近くにいた女を拳で殴り付けると、奇声を発しながら残りのファンネル達をそのモビルスーツ、F91にと向けて放った。
「やらせるものかよ、ガンダム!!」
「いいや、ここであんたは終わる!!」
「虐げられた者のォ!!」
「何!?」
その時に一際大きなプレッシャー、それをシーブックが感じた途端、突如としてF91の機動性が低下する。
「コンピュータ、熱が籠ったか!?」
機体の感覚が急速に重くなったF91、その事にシーブックは額に汗をかきながら、どうにか機体を立て直そうとする。ファンネル達から放たれた光条がF91のビームシールドにと当たり、そのまま弾けた。
バァオ!!
そのシーブック機の傍らからビギナ・ロナ、クロスボーンの新鋭機の手から、ヴァリアブルランチャーの銃口が銀面のモビルアーマーにと向けられ、一射される。
「我らの怒りを見ろォ!!」
「ここで終わりよ、貴女は!!」
「貴様も女、ならば女の怒りが!!」
「何ですって!?」
そのままセシリー機から放射された可変ビームランチャーの波、それがエビル・ドーガⅡのメインパーツと思われる部分を何度も叩き。
「何を言っているの、貴女は!?」
「貴様も女であるならばぁ……!!」
「だとしたら、何だと……!!」
ジャイア……!!
自機の前にと迫り来るバク達、それらをナツメやシーブック達によって退けてもらいながら、セシリー・フェアチャイルドの駆るビギナ・ロナ、それのヴァリアブルランチャーから迸るバリアを貫く咆哮が。
「言うのよ!?」
「解かれぇ……!!」
「何を!?」
グゥオ……!!
エビル・ドーガ、蒼き地球の真上にそびえ立った天空のバビロニアというモビルアーマー、それを一挙に崩壊させた。