天空のバビロニア   作:早起き三文

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第2話「コスモ・バビロニア」

  

 コスモ貴族主義という思想がある。何でも数年前に突如としてフロンティアⅣ・コロニーに攻め込んできたクロスボーン・バンガードの母体たるコスモバビロニア、建国して僅か二、三年である「宇宙の新興国」が主張する主義である。

 

「迷惑なのよね」

 

 ナツメも一応、そのコスモバビロニアとやらの盟主の血筋であると言われているセシリーの言い分は聞いたが、結局の所よく解らない。セシリー本人も何か全貌は理解していない様子だ。ただ。

 

――一部の人間の独走があった――

 

 というシーブック、セシリーの「彼氏」らしいパイロットの言葉は信じても良いと、ナツメは思う。

 

「バグ、か……」

 

 その噂はこのレジスタンスに加わる前、連邦軍にいたナツメも聞いている。新しいタイプの無差別殺人兵器らしい。

 

 

 

――――――

 

 

 

「何故、お前はレジスタンスを抜けてきたのだ?」

「お祖父様に歯向かいたく無かったもので……」

「フム……」

 

 そうは言われてもこのマイッツァー・ロナ、コスモバビロニアの当主である老人にしてみれば、むしろ彼の方が孫娘、ベラ・ロナに対する引け目がある。

 

「カロッゾを看取ってくれたか?」

「いえ……」

「そうか」

「父は鉄仮面という呼び名の方が相応しい男だったので……」

「悪き事をしたな、お前にもカロッゾにも」

 

 そう言ってのけたマイッツァー、ベラの見た限り彼の顔には皺が増えたような気がした。

 

「どうだ、ベラ?」

「何がでございましょう?」

「今からでもこのバビロニアを導いてくれぬか?」

「……」

 

 マイッツァーのその言葉にベラはすぐには答えない、そのまま時が過ぎるのを待ち、マイッツァーが淹れてくれた紅茶が静かに冷める。

 

「兄上がおられるでしょう」

「ドレルな?」

「高貴なる者の顔と見れます」

「人相学か?」

「祭り上げられた者が持つ勘です」

「儂にはそのような勘はない」

「お祖父様は財を増幅させましたから……」

「使い果たしたか?」

 

 孫娘のその言葉、何か耳が痛かったのかマイッツァーはその気持ちを抑えるかのように、逆に呵々大笑をしてみせる。

 

「まあ、よい」

 

 やはり疲れている、ベラ・ロナことセシリー・フェアチャイルドの目に祖父はそう見えた。

 

「明日、ドレルがこの館に来る」

「会いたいものです」

「お前が何処へ行くにしろ、一目でも会いなさい」

「はい」

 

 そう言って立ち上がる祖父をベラは椅子から立ち上がり支えてやり、そのままマイッツァーが誘う方向にその足を伸ばす。

 

「ベラ、窓を開けてくれ」

「はい……」

 

 まだ杖に寄りかかったまま足取りがおぼつかないマイッツァーの事を気にしながら、ベラは彼が指差した両開きの窓を静かに開けた。

 

 リィ、リィン……

 

「鈴虫か……」

 

 この夜のフロンティアⅣの季節設定は夏、その夏にしては涼風である風が窓を通じて豪華な装飾品に彩られた室内へと入ってくる。

 

「鈴虫は死肉を食べるそうだな、ベラ」

「その虫を育てたのは、お祖父様にも責任はあります」

「そうか……」

 

 その孫娘の、皮肉を帯びた言葉にマイッツァーはその顔をしかめつつも、苦く笑い。

 

「そうだな」

 

 そのままフロンティアⅣの夜の街並み、館が建ててある丘の裾野に位置する家々が発する灯りにと、その目を細めた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「シーブック」

「何だよ、ナツメさん……」

「セシリーの事、気にならない?」

「別に……」

 

 シーブックにしてみればF91の点検中にこのような事を言うのは止して欲しいと思うし、セシリーの事についてはまさしく大きなお世話だ。

 

「それよりもナツメさん、レーンさんが持ってきたペーネロペーは?」

「そのレーンさんがテスト飛行をしているわ」

「ミノスフキークラフト、オデュッセウスの追加兵装はいい装備のようだな」

「所詮は二十年前の品物だけどね」

「あれか?」

 

 ツナギ姿のシーブックが指差した先、少し前に廃棄されて今では地球連邦軍の兵器試験場となっている「テキサス・コロニー」の上空に、一機のモビルスーツが尾を引いている白雲の筋が見える。

 

「もともと地球用のモビルスーツだろ、こんなコロニーでは壁にぶつかるぜ?」

「レーンさんは慣れているみたい」

「宇宙じゃ、あんまり意味のない装備だろうに……」

「何、ペーネロペーが嫌いなの?」

「そういう訳じゃないけどさ」

 

 何か、そこまで言った後にシーブックは自機「F91」の整備に戻る。もしかするとヴェスバーが、可変ビーム発振機構であるヴェスバーがずっとオシャカになっている事で、不満が溜まっているのかもしれないとナツメは想像する。

 

「整備なんて、グルズさんやナントさんに任せればいいのに」

「好きなんだ、悪いな」

 

 ナツメにしてみれば遠回しに彼シーブックの事を気遣ったつもりではあったが、その時に彼が発した無愛想な声を聞いて何も言う気がしなくなった。

 

「ナツメさん」

「何?」

 

 ナツメ達が移動拠点としている艦「スペースアーク」の露天甲版の上を一人の女性医療兵が走る。

 

「何よ、ミンミさん?」

「レアリー艦長が呼んでいるわ、ナツメさん」

「艦長が?」

 

 その言葉を聞いたナツメは、上空を旋回し続けるペーネロペーに一つ名残惜しげな視線を向けた後。

 

「解った、行くわ」

「私は他に仕事があるから」

「だったら、通信機やジェシカでもよかったでしょうに」

「故障中」

「どちらが」

「両方」

「あら、そう……」

 

 そのミンミの台詞に両肩を竦めながら、スペースアークの艦内へと入っていく。

 

「まあ、寄り合いの所帯だからね」

 

 一応連邦軍にいたナツメにしてみれば、この規律で戦闘が出来るのかどうか不安である。が、それでも「エース」と呼ばれているシーブックは民間人出身だそうだ。聞く所によるとレジスタンスに加わるだけの理由もあるらしい。

 

「あたしは父さんのせいで、軍に居場所がなくなったからなあ……」

 

 それでもナツメの父が手引きをしてくれて、レジスタンスという新たな居場所を用意してくれた事は有り難い話。もっとも彼女にとってはこのレジスタンスのスポンサー、それの一人である父の影から脱出出来ていない、などとアラヴィス辺りに嫌みを言われてしまう原因となってしまっているのだが。

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