天空のバビロニア   作:早起き三文

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第3話「ペーネロペー威力偵察」

  

「別に、お偉方はフロンティアⅣの事なんかどうでもいいのよね」

 

 そのレアリー艦長の言い分には、連邦の腐敗、惰弱っぷりをよく知っているナツメは苦笑いを浮かべるしかないが。

 

「コスモ・バビロニアの存在自体は地球連邦の沽券に関わるけど」

「頑張っている人もいるんですよ、艦長」

「貴女のお父様のように?」

「権力争いも大変だそうです」

 

 あまり、自分の古巣の事について悪くは言われたくない。それを言えばレアリー艦長も連邦の者であるが。

 

 

 

――――――

 

 

 

 父の友人に言わせれば、今時のパイロットスーツは程度が良くなっているらしいが、それでも自らの明るい栗色の髪が蒸れるのを防ぐ事が出来ない。そう感じるのはまだまだナツメが若い女であるという証拠である。

 

「こちらペーネロペー、サイコミュシステム、チェックよし」

「こちらジャベリン隊、了解した」

「あなたがこれに乗ればいいのに、レーンさん」

「俺は所詮ロートルだ、もはやペーネロペーの機動性についていけん」

 

 その割には彼レーンのジャベリン、クロスボーン・バンガードからの技術を流用して作られたと言われている試作量産機を操る腕前は大したものであるが。

 

「コロニーに突入したら、ナツメは一気に敵陣へと飛び込め」

「はい」

「敵が展開し終わってからだぞ?」

「了解しました、レーン大佐」

 

 大佐、と呼ばれる事にレーン・エイムは拒否感を抱いているらしい。が、別にナツメには彼の心境などは気にしない。何かそういう彼女ナツメの自己中心的とも受け取れる面は昔からの父の友人、父が現役のパイロット時代に知り合った人間が言うに「そっくり」だという事らしい。

 

「知るもんですか……」

「こちらデッツ、コロニーへの突入経路へ到達」

「了解……」

 

 その同僚の言葉にナツメは頷きながら、再度この機体「ペーネロペー」のチェックを行う。古い機体ゆえか、何かパイロットスーツのヘルメット越しにもコクピット内の匂い、それが妙に鼻へとつく点がナツメにとって気にかかる所であるが。

 

「味方もこのペーネロペーを含めて四機、シーブックもいない、と……」

 

 一応、この匂うペーネロペーのパイロットであったレーンの言葉も信用出来る。が、実際の所カタログスペックを盲信し過ぎているのではないかとナツメは思う。今までのオデュッセウスやグスタフ・カールでさんざんクロスボーンの「小型機」に煮え湯を飲まされ続けたナツメの意見だ。

 

「それほど、このペーネロペーに馬力があるのか?」

 

 前方を行くジャベリンが、未だこのレジスタンスには三機しか配備されていない新鋭機がコロニー連絡通路をその手に仕込まれたレーザートーチを使って焼き切る。漆黒の宇宙の中に浮かぶナツメは、暫しの間自分の呼吸音だけを耳にと入れている。

 

 ポンッ……

 

 その連絡通路のドアが開き、大型荷物搬送用の通路がナツメ達の視界に拡がる、そのままペーネロペーとジャベリン達は一機のジャベリンを先頭として、暗い通路の中へと進む。

 

「ペーネロペー、なんとか入るか」

 

 フライト・ユニットを装備したオデュッセウスガンダム、通称「ペーネロペー」はかなりの大型機だ、一応前もって規格の調査はしていたが、ここで入れないなんて事になっては目も当てられない。

 

 コゥ……

 

 暗闇の中静かに進む四機、先頭に立つ機体が軽く光を発しナツメやレーン達にと何かを伝える。終着点だ。

 

「アラヴィス、行くぞ……」

「了解」

 

 この特殊任務を受けた部隊のリーダーはレーン・エイムだ。彼はペーネロペーおよびジャベリンの機体を知り尽くしている。

 

「サイコ・バグの調査とやらと、このペーネロペーのテストが目的らしいけど……」

 

 レーンはどちらについても詳しい事は言ってくれない。いや、ナツメが見た限りではどちらも断言できるほど内実を知らないといった所か。

 

「ペーネロペーについては、何かしら言ってもいいんじゃないかな……」

「ナツメ、何か言ったか?」

「な、何でもありません、大佐!!」

 

 レーン大佐は任務には厳しい男だ、昔このペーネロペーの同型機と戦闘を行ったとき、血気に逸ってミスをした反動である、と父が何かの拍子にこぼしていた事がある。

 

「さて……」

 

 サァ……

 

 以前に訪れたコロニー、廃棄コロニーを兵器試験場に仕立てた場所にナツメのペーネロペーは「浮き」ながら周囲を見渡す、広々とした荒野に幾つかポツポツと緑の物がナツメの視界に入った。

 

「ジャベリン、続いているようね」

 

 このコロニーは重力が低いのかもしれない、ペーネロペーのミノスフキークラフト、飛行装置を搭載していないジャベリンでもどうにか空中戦闘は出来る様子と見える。空に浮く動きが良い。

 

「こちらレーン」

「はい」

「以前の試験場施設に行くぞ」

「了解」

 

 ナツメ達はレーン大佐の言葉にそう頷きながら、その機体を宙に浮かせつつ、ゆっくりと移動を始めた。

 

「……」

 

 このコロニーは試験場とは言えども、あまり重要視はされていなかったようだ、故に以前のナツメ達の侵入の時でもまさか、あれほどの戦力がいるとは思わなかった。

 

「あれかな……?」

 

 泉を臨むほとりに立っている、素っ気ないコンクリートの建物、恐らくは地下もあるとは思うが、見た限りではただの掘っ建て小屋と言っても差し支えない。

 

「しかし……」

 

 その周辺には数機のモビルスーツ、クロスボーン・バンガードお馴染みの小型機の姿が見える。

 

「数は、ええと……」

「ナツメ、敵が来たぞ」

「全く……」

 

 そのレーンの言葉にナツメはコクピットの中で軽くその顔をしかめてみせる。いくら強行偵察、威力偵察を兼ねているとはいえ、戦闘というものは予断が許されない。もともと性能的にはクロスボーンの機体の方が「上」なのだ。

 

 シィン……!!

 

 涼やかな音をたてながら浮上する敵のモビルスーツ、恐らくはデナン・ゲーという機体である。バランスの取れた強敵だ。

 

「ナツメ」

「はい、レーンさん」

「敵が浮上し終わったら、サイコミュを起動させろ」

「はっ……」

 

 その間にもデナン・ゲーはどんどん浮上を仕掛けてくる。何か不気味な喉の渇きを覚えながら、ナツメはペーネロペーでそのクロスボーン機体達の上空を旋回しながら、その敵機の数をカウントする。

 

「五、六……」

「よし、行けナツメ!!」

「は、はい!!」

 

 すでにデナン・ゲーからはビームによる威嚇射撃が始まっている。そのビーム達にやや気をとられながらも、ナツメは敵機達の注意をこちらに引かせるよう、大出力のメガ粒子砲を放ってみせた。

 

「このメガ粒子砲でもビームシールドは破れないか……」

 

 小刻みにペーネロペーを動かし、敵の癇に障るような動きをしてみせるナツメ、そのナツメ機から放ったビーム砲はまたしてもビームシールド、新型のエネルギーシールドによって弾かれる事に、ナツメはコクピット内で軽くため息をつく。

 

「ならば!!」

 

 すでに味方のジャベリン達は後退している。ペーネロペーの動きを妨げない為と、この機体の特殊兵装の巻き添えを喰らわない為にだ。

 

「はあ!!」

 

 掛け声と共にペーネロペーの出力を増大させるナツメ、そのまま一旦デナン・ゲー達が上がってきた建物から自機の距離を剥がし、そのまま直進した後。

 

 グゥン……!!

 

 Uターン、その瞬間に敵の姿をペーネロペーの特殊システムを使用して認識する、そして。

 

「ファンネル!!」

 

 そのナツメの声と同時にペーネロペーの兵装コンテナが開き、多数の小型ミサイルがコロニーの空へと撒き散らされる。

 

「行け!!」

 

 ナツメは軍に入る以前から父、リディ・マーセナスとレーン・エイムからニュータイプ兵器についてのレクチャーを受けている、しかし相手であるこの小型機に通用するかどうかは全く未知数だ。

 

 シュア……

 

 しかし、そのファンネル・ミサイルはナツメの手足を使わない方法、脳波だけで自由にコントロールすることが出来る。そのまま敵の死角、あるいはビームシールドを貫通し、あたかもクロスボーンの機体やジャベリンが扱うような槍、ショット・ランサーのごとくデナン・ゲー達にと食い込む。

 

「やった……!!」

 

 そのデナン・ゲー達が爆発する姿を見てナツメは喝采を上げる。予想を遥かに上回る効果だ。

 

「よくやった、ナツメ」

 

 ナツメ機の近くにやってきたレーン、彼からの声にナツメはその顔を綻ばせる。

 

「昔の私でも、こうはいかない」

「お世辞ですか、上手く出来た人殺しの?」

「本心だよ、ナツメ」

「フフ……」

 

 やや嫌な感じのする含み笑いを浮かべながら、ナツメは施設に降下していく同僚のジャベリンの姿を見やる。しかし。

 

「こちらデッツ、まだいやがる……!!」

 

 ジャア……!!

 

 その声を最後に、先発したジャベリンがマシンガンの連打を浴びて撃破させた。

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