ジャベリンにもF91やクロスボーンの機体のように、ビームシールドが搭載されるという話は上がっているが、未だこのレジスタンスに配備されたジャベリンにはそのシールドは装備されていない。デッツには気の毒な事であった。
「来るぞ、皆!!」
「おう、レーン大佐!!」
しかし、アラヴィスはその掛け声とは裏腹に敵の様子をじっと、用心深く見つめている風である。慎重なパイロットなのだ。
バァ……!!
浮上する敵の先頭機、赤い塗装が施された機体がその手に持つ「槍」からマシンガンの弾をばらまいてくる。牽制であることはナツメ達にも解っているが。
「クロスボーンは、槍とマシンガンが一体化しているからな……」
油断は出来ない、いつあの強烈な威力を誇るショット・ランサーが跳んでくるか解らないからだ。
「赤い機体達か……」
確かにレーンの呻く通り、浮上してくる数機のクロスボーンは赤い塗装だ。別にホロ・ムービーで登場するジオンとやらのエースにあやかっている訳ではないだろうが。
シャ……
「おっと……」
その敵機群の内一機、特に小型の機体ら放たれた槍をアラヴィスは身軽に回避する。必ずしもコロニー内の戦闘に適しているとは言えないジャベリンで、大したものだ。
「推参、大型のモビルスーツ!!」
敵の先頭の機体、恐らくは隊長機と思われる機体が銃弾をばらまきながら一直線にナツメの機体に迫る。それが一番の驚異であると判断したのか、それとも無謀な行いか。
「捕捉されるものか!!」
ならばその敵機を引きずり回そう、そうナツメは思い、ペーネロペーのミノスフキー・クラフト、それを安定状態から解除する。
ヴォフ……!!
「速き!?」
「スピードなら、ペーネロペーは負けない!!」
確かにそのナツメが言う通り、ペーネロペーのスピードは小型機相手でも十分に通用する、そして。
「ここで!!」
そして、この巨体そのものも武器になる。外壁にぶつかりそうになりながらもナツメは巧くコントロールし、どうにか急旋回をしたペーネロペーはそのまま赤い敵機、ビギナ・ギナとよく似た機体に急接近をしかけようとした。
ジャ……!!
そのナツメが放ったビームライフルは威嚇だ、こんな旧式の機体が持つビームライフルでビームシールドは撃ち破れない。それにナツメが見た限りでは、敵機が展開しているビームシールドはかなりの大きさであり、もしかすると新型のシールドなのかもしれない。
「それでも、ここで何とかしたい!!」
翻って、敵機の放つショット・ランサーやマシンガンはこのペーネロペーにも痛打を与えるであろう。二十年以上も製造年数に差があるのだ。
「速いだけの旧式が!!」
「片手でペーネロペーの二刀流を受け止めた!?」
「このドレル、父の仇を討つまでは!!」
その赤いモビルスーツ、ビギナ・ギナの改良タイプと思われる機体はペーネロペーが構えた二刀流のビームサーベルをたった一本のサーベルにて打ち払い、そのまま敵機は小脇に抱えたショット・ランサーの基部の矛先をペーネロペーにと向ける。
「犬死には出来んのだ!!」
「くっ!!」
だが、ナツメはペーネロペーからバルカン砲を放ちつつどうにかその敵機、赤い奴から自機を退かせる。そのペーネロペー機のすぐ横を二本の槍、ショット・ランサーが通り過ぎた。
「十年間近くモス・ボールだというのに、よく動く!!」
その脇を通り過ぎた槍を見送ったナツメはコクピットの中で安堵しながら、上出来である自機「ペーネロペー」にと感謝する、そしてこれをレーン・エイム大佐共々、レジスタンスに配備するよう手配をしてくれた父にも。
「ファンネル!!」
再度のファンネル攻撃、先の攻撃でこのファンネルミサイルがビームシールドを貫通出来る事を確認したナツメは、自信を込めて放ったファンネルにと念を送る。ちゃんと仲間のジャベリン達を視認してだ。同士討ちは避けたい。
「うわっと!?」
「すみません、アラヴィスさん!!」
「俺をデッツの二の舞にしたいっての、ナツメちゃん!?」
「ほんと、すみません!!」
しかし、ナツメは何かと小うるさいアラヴィスの事はもう気にしない、そのアラヴィス機と対峙していた敵の偵察用機はファンネルの直撃を受けて撃破され。
「くそ、ニュータイプとやらか!?」
赤い連中、先の隊長機をも含めたクロスボーン・バンガードの機体も制圧出来ている、やはりビームシールドはこのファンネルミサイルの勢いを止める事は出来ない。
「まるでバグではないか!?」
「ドレル様、お引きを!!」
「ザビーネに見られるぞ!!」
「そのザビーネ様がサイコ・バグを撤収なされたではありませんか!!」
「そういう問題ではない!!」
「そのビギナ・ギナⅡは無傷でデータを送らねば!!」
「そう言ってくれるか、感謝する!!」
ヴォウ……!!
「速い!?」
そのレーン・エイムが放った言葉はあまりにいざぎよいクロスボーンの引き際を誉めたものか、それとも敵機達の機体性能を誉めたものなのかはよく解らない。どちらにしろ被弾したレーン達で追えるスピードではない。
「無傷なのはあたしだけ!?」
「デッツを回収するぞ、ナツメ!!」
「生きているか!?」
「じゃ、なくてはな!!」
少し苛立ったようなレーンのその声にナツメは不快感を覚えながらも、自機のサイコミュシステムの感度を上げてデッツの生体反応を探る。ニュータイプ・レクチャーによればこういう事にニュータイプ能力は真価を発揮する、らしい。
――――――
「レーンさんはなんで」
「なんだ、ナツメ?」
結局この施設にはナツメ達がターゲットとしていたサイコ・バグやそのデータ等は欠片もなく、ただ数機のクロスボーン製機体とそれの実証データが散乱してあるのみであった。
「父の要請を受けて、このレジスタンスに参加してくれたんですか?」
そのナツメの言葉にレーン・エイムはすぐには答えない。その手に待つ通信機越しの会話を耳にするに、デッツがリニアシートごと地表に落下して、無事だった事を宇宙で待機している通信用機にと連絡していたのかもしれない。
「それはな、ナツメ」
「はい」
「武力を用いた政治的な活動は」
良い歳であるとはいえ、レーンのその髪には白い物も少ない。明るい色合いのそれがこの研究施設の電灯に照らされ、明るく輝く。
「必ず、無関係の者を巻き添えにするからだよ」
「……」
「昔、私が関わった任務は、そういった手合いがいた戦いだった」
何かを懐かしむようなレーンの声、それが意味する所は直ぐにナツメには解らないが。
「いくら、武力行使をしようとする者、クロスボーン・バンガードが自制しようとも、必ず暴走が始まる」
「確信ですか?」
「人間の弱さだろう、それを止める事の出来ない連邦ともども……」
「あ……」
その言葉、それにはナツメはどこか聞き覚えがある。
「父が言ってましたね、その台詞」
「リディさん、あの方も若い頃は失敗の連続だったと、酒の力を借りて述べていたな」
「父らしい……」
「たまには顔を会わせろよ、ナツメ」
「父は政治家ですから……」
「嫌いか?」
「母を省みず、権力闘争に明け暮れた人ですよ?」
「それが、子の気持ちか……」
「はい」
ナツメにとって父とはそのような存在だ、「公」としては信頼出来る部分もあるが「私」としてはあまり距離を縮めたい相手ではない。
「親の心、子知らずか……」
もちろん、レーン・エイムとて音信不通である息子には引け目もある。それでも「より」を戻したいと思うのは親の気持ちであろう。