天空のバビロニア   作:早起き三文

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第7話「黒の宙域(後編)」

  

「くそ!!」

 

 デッツがいかに歴戦のパイロットとはいえ、機体の性能差というものは簡単に覆らない。その隊長機と思われる赤いビギナ・ギナシリーズに、彼のジャベリンは防戦一方となっている。

 

「そこ!!」

 

 それを救援に来たナツメであったが、どうしてもクロスボーン製と思われる巨大モビルアーマー、その偉容に気を取られ、思い切った攻め方をすることが出来ない、あやふやな気持ちのまま放った投げ槍「ショットランサー」は弱い気迫の影響か、容易くその隊長機の大型ビームシールドによって弾かれてしまう。

 

 ザァ!!

 

 機体を急加速したナツメ、彼女の機体はそのまま敵の赤きビギナ・ギナとそのサーベルの刃を合わせたが、そのパワーの差は歴然だ、抵抗する力もなくナツメのジャベリンはクロスボーンの機体に圧迫される。

 

「このドレルとビギナ・ギナⅡ、レッドバンガード共々なめてもらっては困る!!」

「どこぞのムービー被れの癖に!!」

「赤い彗星か、休暇の時に見たぞ!!」

 

 その刃を合わせているナツメ達の傍らを数機の敵味方モビルスーツが通り過ぎ、互いに宇宙にと火線を張り巡らせているその機体達からやや離れた場所、そこでF91がクロスボーンのモビルアーマー相手に接近戦を挑もうと、何とか間合いを取っている姿が見えた。

 

 バァフ……!!

 

 少しシーブックは攻め手を考えていた様子であるが、結局ガトリング付属のミサイルを初手にしたらしい。もしもこのモビルアーマーが昔のラフレシア、彼が忌避したクロスボーン製モビルアーマーの後継機であるならば、ビームバリアーは搭載されているはずだ。

 

「まさか、パイロットはセシリーか!?」

 

 その想像はシーブックの感性がもたらす夢想であろう。もしも彼が素直にセシリー・フェアチャイルドの事を信じているのであれば、完全なナンセンスであると直感出来るはずだ。

 

「何者だ!?」

 

 ミサイルの弾幕を撃ち放ったシーブックは、そのモビルアーマーから放たれたビーム砲を見切りながら接近を仕掛ける。様子を良く見るに、そのモビルアーマーはあたかも十の字のようなグレーの切り花の姿をしていた。

 

「名乗れ、パイロット!!」

「貴様こそ誰だ、白い奴!!」

「女、本当にセシリーか!?」

「名乗れと言っている!!」

「シーブック・アノー!!」

「そうか!!」

 

 ラフレシア、宇宙の妖花に見られた不気味さはこのモビルアーマーには、表面上では見当たらないように見える、しかしやはりF91に身を包んだシーブックにはこの敵機からラフレシアと同じ気配を感じてしまう、人を貶しているオーラだ。

 

「伴侶の仇、取らせてもらう!!」

「何だと!?」

 

 しかし、シーブックにはそのラフレシアもどきの言葉に動揺している暇はない、放ったミサイルを対空砲火で阻止したそのモビルアーマー。謎の機体から続けて、あたかも花粉を飛ばすかのごとく謎めいた物体が飛び出した来たからである。

 

「ペーネロペーのファンネルミサイルに似ている、そうか!!」

 

 そのシーブックの掛け声に反応したのかどうか、花粉達からビームの波がF91に向かって飛びかかった。

 

 

 

――――――

 

 

 

「銀面め、エビル・ドーガを使うなどと……」

 

 しかし、付近の宙域にと展開している母艦に帰投するザビーネは、ビギナ・ゼラのコクピット内で微かな安堵の声を上げる。

 

「最も、サイコ・バグはあやつの手に行き渡らないように、手筈は整えていたが」

 

 サイコ・バグがなければエビル・ドーガは単なる巨大モビルアーマーに過ぎない、いくらサイコミュ誘導兵器を装備していても、ラフレシアほどの特異さはないのだ。

 

「ドレル殿には悪いが、ここで彼女が鉄仮面の後を追ってくれればと思うのは、私の調子の良い言い分かな?」

 

 パ、チィ……

 

 破壊された左腕の損傷、それが自機の他の部分にまで悪影響を及ぼし始めたらしい。ブラック・バンガードの指揮は副官に任せてここまで撤退したザビーネの判断は正しいのかもしれないだろう。

 

「死んでしまっては、名を上げるも何もないからな……」

 

 家の、シャル家の再興に自分でもこだわりすぎているとザビーネは感じるが、だからといってここまでやってきた事を簡単に投げ出す事も彼には出来ない。

 

「かとかいって、鉄仮面の未亡人に取り入る真似は私には出来んよ……」

 

 その感性が彼ザビーネの、したたかでありながらも真面目な部分であろう。

 

 

 

――――――

 

 

 

「おのれ!!」

 

 ナツメとアラヴィス、そしてレーンに他のラー・カイラム隊ジェスタという集中攻撃を受け、やむを得ずにドレル・ロナのビギナ・ギナⅡは僅かに後退を掛ける。

 

「レッド・バンガードの損害もあるか!!」

 

 多大な被害を出しながらもジェムズガン、ヘビーガン達による波状攻撃は功を奏したようだ。数が少ないクロスボーンの各部隊はそのまま、後退を余儀なくされていた。

 

「仕留める!!」

 

 シャア……

 

 アルゴス・オデュッセウスの最後のビット、レーンは自機の内部に表示されるビットの残弾がゼロになったことを確認しながらも、そのサイコミュ無線誘導兵器のコントロールに神経を費やす。

 

「甘い、ガンダムとやら!!」

 

 だが、さすがは精鋭部隊と言うべきか、赤い部隊のデナン・ゾン達はそのビットの内数基を腕のビームガンで撃ち落とし、どうにか赤い隊長機を中心とした陣形を維持しようとする。

 

 シィン……!!

 

 その脇を通り過ぎる大型のファンネル、エビル・ドーガから放たれたそれは無差別に敵味方にと襲いかかり、その光景を見たドレルから非難の声が上がった。

 

「母上、何を再びヒステリックに!?」

 

 ドレル・ロナはそう叫びながらも、自機に飛来した大型ファンネル、それから放たれたビームをそのシールドで防ぎつつ、機体を僅かに後退させる。

 

「夫の流儀を真似するか、ラフレシアもどきの!?」

 

 そのドレルの近くを往くシーブック、破損しているF91もまた、その制御を失いつつあるエビル・ドーガに怒りを込めた視線を送っている。F91が致命的な打撃を与えたわけでもない、そのモビルアーマーの不安定さにだ。

 

「仮面の女!!」

「悪いかい、シーブック!?」

「女であるならば、もっと品を良くした仮面を付けるべきだよ!!」

 

 再度の接近戦を仕掛けたシーブック、彼がエビル・ドーガの至近まで近づいた時にその、半透明であるエビル・ドーガのコクピットから見えた女の姿、銀色をした仮面を付けた女に、彼シーブックは強い不快感を持ってしまう。

 

「銀仮面か!!」

「落ちな、F91!!」

「くそ!!」

 

 シーブックの体感ではこのエビル・ドーガはラフレシア程の恐ろしさはない。飛び回るファンネルも威力の程はビームシールドで防げる程度であるし、シーブックの腕前ではシールドが使えないほど懐に入られるヘマはしない。

 

「しかし!!」

 

 F91、それがザビーネ機から受けた胴の破損が彼には気になる、時おり断続的にコクピット内に鳴り響く警報に、どうしてもシーブックは気を取られてしまう。

 

「……迷っていては、死神を招く!!」

 

 あくまでもシーブックの見た目であるが、今のこの宙域は敵味方どちらに有利かは判明出来ない。クロスボーンにも被害は与えているが、おそらくレジスタンス側も大きな損害を被っているはずだ、少なくともシーブックに加勢する機体が無い以上、連携は取れていない。

 

 パァフ……!!

 

「信号弾……!?」

 

 デナン・ゾンから被害を受けたジャベリン、それを後退させようとしたナツメの、彼女の視線の先にと展開するクロスボーン各機から、幾多ものピンク色をした信号弾が放たれ、それに続いて紅い機体の隊長機、ビギナ・ギナⅡとやらからもクロスボーン・バンガードのシンボルが宙にと光を発しながら浮かび上がる。ビームシールドの技術を応用した旗の機能、ビームフラッグだ。

 

「撤退、いや……」

 

 ナツメが見つめるその敵機、紅い機体は幾筋もの破損が見える、レジスタンスから受けた物か、それともクロスボーンのモビルアーマーが放ったファンネルから受けた物か。

 

「休戦、無言の休戦の意思を伝えているの?」

 

 コクピット内でじっとそのフラッグを見つめるナツメ、彼女の近くを所々から火花を発しているF91が通りすがるのも気にせずに、そのままナツメは用心をしつつクロスボーンの機体、体勢を整え直しつつあるクロスボーン・バンガードの戦列を見つめ続けていた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「ぐずぐずしている訳にはいかんのに、レジスタンスはテキに突き進まないか?」

「この状態では無理でしょうに、将軍……」

「儂の手柄、取れんか」

 

 リディ・マーセナスの視線で言えば、レジスタンスを散々矢面に立たせて最後に良い所のみを採ろうとするこのメジナウム将軍の根性、どうにも受け入れられない部分である。

 

「君、娘さんがレジスタンスに参加していると言っていたが?」

「ここの宙域にはいないでしょう、彼女は」

「後方支援かな?」

「はて……」

 

 ラー・カイラム級のブリッジにてその首を傾げてみせるリディ、彼の言い分ではあまり娘には会いたくないというのが本音である、昔から娘とはあまり会話が続かない。

 

「まあ、いいさ……」

 

 そう口ごもりながらリディは、遥か前方でクロスボーンとの激戦を繰り広げていたレジスタンス達に対して小さく畏敬の礼をしたのち、ブリッジから静かに下がっていった。

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