【本編完結】ラブライブアフター~あれから5年…… 作:ひいちゃ
「はぁ……」
その日も、穂乃果は穂むらのカウンターで、タブレットからの『未体験HORIZON』を聞きながら、例の封筒を前に悶々とした気分で、溜息をついてました。雪穂からは『お姉ちゃん、ずっと溜息ばかり』と愚痴を言われてます。
あの封筒が来てから、私の心は再びラブライブという単語に縛られていました。
本当は、スクフェスに出たい。すごく出たい。私は、歌が、μ'sが、そしてラブライブが好きだから。
でも、μ's解散は、私たちみんなが相談して決めたこと。だから、そんな大切なことを破って、復活させて歌うなんてできない……。
それでも、スクフェスのことは私の頭の中から出て行ってくれませんでした。
出たい……でも、出るわけにはいかない……穂乃果、どうしたらいいの……?
そんな悩みの中、私が何度目かの溜息をついていたころです。
「穂乃果、今日も和菓子を買いにきました」
「う、海未ちゃんっ!」
海未ちゃんが、また店に来てくれました。私はあわてて、封筒をカウンターの下に隠します。でもそれは、海未ちゃんにはお見通しだったみたいです。
「おや、穂乃果、今何を見てたのですか?」
「な、なんでもないっっ」
「嘘ですね。この前の郵便、しかも、ラブライブ運営からの郵便だったのでしょう?」
「そんなこと……」
そんなことない、と言おうとしたけれど、海未ちゃんが真面目な顔をしたので、穂乃果は思わず観念してしまいました。海未ちゃんの真面目な顔には、それだけの迫力(怖いのとはまた別な)があるんです。
「はい……」
そこからしばらく気まずい沈黙。それが数分たったころ、海未ちゃんが口を開きました。
「穂乃果の部屋で話しましょうか」
* * * * *
そして、海未ちゃんに問い詰められて、私は全てを打ち明けました。あの郵便は、ラブライブ運営からの、「スクフェスの特別ゲストとして、μ'sを再結成して出てほしい」という依頼の郵便だったことを。
でも、なぜか海未ちゃんはそれを聞いても、驚いたりすることはありませんでした。どうしてなんだろう?
そんな私の疑問を知ってか知らずか、海未ちゃんが口を開きました。
「それで、穂乃果はどうしたいのですか?」
「私は……みんなで相談してμ'sはあれでおしまい、と決めたから……」
海未ちゃんの表情がこわばりました。その表情に、穂乃果は思い当たりがあります。5年前、穂乃果が「スクドルはやめる!」と言った時に、私を殴った時の、あの表情……。
「私が聞きたいのはそんなことではありません。穂乃果がどうしたいのか、ということです」
「……」
そこからまた沈黙。それからまた、海未ちゃんが口を開きました。
「穂乃果、覚えていますか? 5年前、あなたが『スクドルをやめる』と言い出した時のことを」
「……」
それはもちろん覚えています。
5年前。初のラブライブに向けての練習で、頑張りすぎた私が過労で倒れて、ことりちゃんが留学することが明らかになって……。
それで、ラブライブ出場を私が台無しにしたこと、ことりちゃんの留学の悩みに気付かなかったこと、スクドル活動の目的……音の木の廃校阻止……を果たして目的を失ったこと。
それらがごっちゃになって、思わず穂乃果は言ってしまったんです。「もうスクドルはやめる!」って……。
それで海未ちゃんを怒らせてしまい絶交寸前になり、そこからμ'sは一度解散してしまって……。でも、また歌いたい、μ'sをやりたいという気持ちは捨てられず、そして……。
「あなたと和解した時、私は言いましたよね? 『私が怒っていたのは、あなたがことりの悩みに気付かなかったからではなく、あなたが自分の気持ちに嘘をついていたからだ』って」
「うん……」
そう、講堂で海未ちゃんと仲直りした時、海未ちゃんにそう言われたんだ……。
「穂乃果、自分の気持ちに嘘をつかないでください。もう一度聞きますよ。あなたが本当にやりたいことはなんですか?」
そう海未ちゃんが真剣な面持ちと口調で聞いてきます。
私の気持ち、私がやりたいこと。それはもちろん決まってる。あの郵便を見てから、ううん、μ'sを解散してから、ずっと変わらなかったその答え。
海未ちゃんの真剣ながらも、私を想う表情に、私の答え、私の想いが一気にあふれ出します。
そして、私は思わず叫ぶように訴えていました。
「出たいよ! そして歌いたい! μ'sのみんなと、また一緒に歌いたいの!!」
そこまで言ったところで、なぜか海未ちゃんは笑顔になりました。あれれ?
「よく言えました。さぁ、みんな!」
「へ?」
海未ちゃんのその言葉とともに、穂乃果の部屋のドアが開きました。そして……えええええ!?
* * * * *
ドアが開いた向こうにいたのは……。
「ええええええ、み、みんな!?」
そう。ことりちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん、真姫ちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん、そしてにこちゃん。
μ'sのみんなでした。
「どどど、どうしてみんながここに!?」
海未ちゃんに郵便を見つかって、そしてこの部屋で問い詰められて説得され、そして本当の気持ちを告白させられ、そしてドアが開いてみんなが……。
この状況に、穂乃果の思考回路はスパークして、爆発寸前です!
「実は、穂乃果の他にも、花陽のもとにも出演依頼の手紙が来てたんですよ。きっと穂乃果だけじゃ心元ないと考えたんでしょうね」
そしてその後を、凛ちゃんが続けます。
「それで、穂乃果ちゃんに気付かれないよう、密かにみんなに根回ししていたんだにゃー」
こんなことをされて、驚かない人がいるでしょうか? いやいません。
でも……。
「でもみんな、学校とか仕事とかが……」
その穂乃果の懸念に応えたのは、ことりちゃんでした。
「みんなに根回しした、と言ったでしょ、穂乃果ちゃん?」
「みんな、スクフェスの当日に出れるよう、スケジュールを調整してるん。心配は無用やで?」
希ちゃんに続けて、絵里ちゃんが苦笑まじりで言います。
「希の言うように、心配は無用よ、穂乃果。また歌いたい、ううん、もう一度μ'sで歌いたいのはあなただけじゃないんだから」
「うん。だから心配しなくても大丈夫だよ、穂乃果ちゃん」
その絵里ちゃんの苦笑まじりながらも、暖かく優しい言葉、そして花陽ちゃんの言葉に、思わず穂乃果の涙腺が緩みます。
「うぅ、みんなぁ……」
「涙なんて似合いませんよ、穂乃果。あなたはいつも太陽でいてくれなくちゃ」
「ほんっと、あんたって昔から感情が豊かすぎるんだから。にこたちがちゃんと見てあげなくちゃいけないみたいね」
海未ちゃんの微笑みも、にこちゃんの軽口も、とても安心できました。まるでμ'sやってたころみたいな、安心して落ち着けて、でも楽しいような。
その雰囲気に、やっと穂乃果の涙も止まり、笑顔になれました。
「さぁ、穂乃果。みんなに一言お願いします」
「うんっ!」
海未ちゃんに促され、穂乃果は立ち上がると、指で天を指し示して力強く、そして明るく言いました。
「よーし、みんな! 頑張って、スクフェスの会場を盛り上げちゃおう!」
『おーーーーー!!』
さぁ、私たちの新しい伝説の始まりです!
ありがとう、海未ちゃん。ありがとう、みんな……!
μ's編 完