【本編完結】ラブライブアフター~あれから5年…… 作:ひいちゃ
「千歌さん、どうしたんですの!?」
「な、なんか、空ちゃんの具合が突然おかしくなっちゃったの……!」
「ぇあ……、はぁっ、はっ……、かはっ……!」
私の声を聴いて駆けつけてきたみんな。
そのみんなに、私は何が起こったかを説明します。
その傍らでは、空ちゃんが変わらず、変な呼吸を続けています。その空ちゃんに、果南ちゃんが駆け寄り、具合を見ました。
「これは……過呼吸だね」
「過呼吸?」
「ストレスなどで、呼吸のリズムが狂って、苦しくなっちゃう症状のことだよ。ほら、空、ゆっくり息を吐いて」
果南ちゃんは、空ちゃんの背中を軽く叩きながら、彼女に呼吸のアドバイスを行います。空ちゃんはそれに従って、ゆっくりと息を吐きだします。
「はぁー……」
「そうそう。浅くゆっくり息して……」
「すぅー……はぁ……」
果南ちゃんの指示に従って呼吸していると、空ちゃんはやがて回復していきました。
果南ちゃん、本当にすごい……。
そしてちょうどそこに、涼ちゃんが戻ってきました。
「ぜぇ……ぜぇ……。果南さん、ありがとうございます……」
「果南ちゃん、本当にすごいね……」
「まぁ、向こうの大学で少し習ってきたからね。空、無理はしないで、今日はもう休んだほうがいいよ」
「え、でも……」
「無理は禁物だよ。今日はゆっくり体を休めて、明日からまた頑張ろう? 花丸ちゃん、空を個室に連れて行ってあげてくれる?」
「わかったずら! ほら、一緒に行こう、空ちゃん」
「う、うん……」
そして、花丸ちゃんに手を引かれて、空ちゃんはトレーニングルームを出ていきました。
* * * * *
そしてその日の夕方、晩御飯が終わったあと。
私たちは会議室で相談をしていました。空ちゃんは引き続き大事をとって、自室で寝ています。
「うーん……。今回はなんとか回復できたけど、原因を解消してあげないと、また同じ症状を引き起こすかもしれないね。千歌、何か思い当たりはない?」
「うーん、うーん……。あ、そういえば、涼ちゃんが周囲にいないことに気付いて、何か取り乱していたような……」
と、私がそう言ったところで、
「やっぱり……」
涼ちゃんがそうつぶやきました。そしてそれを逃さなかった人が一人。
「やっぱり? 涼ちゃんには何か心当たりがあるの?」
「そういえば、涼ちゃんがその場にいなかったのがきっかけみたいなことを、千歌ちゃんが言ってたよね」
そう、梨子ちゃんです。ダイヤさんたちの騒動の時も、梨子ちゃんは鋭いところ突いてたしなぁ。それを受けて、曜ちゃんもそう言いました。
そしてそれは図星だったらしくて……。
「えーと、そ、それは……」
涼ちゃんはふと目をそらしました。あ、これはあれだ。ダイヤさんが鞠莉ちゃんや果南ちゃんのことを聞かれて逃げた時、その直前の反応とおんなじだ。
「すいませんっ!!」
あ、やっぱり。
涼ちゃんはそう言うと、会議室を逃げ出そうとしました。
しかし。
「よ」
「善子さん!」
……。
私が言う前に、ダイヤさんが善子ちゃんに号令を飛ばしました。
そして。
「ひぎゃあ~!」
「だから、ヨハネだってばぁ~!」
涼ちゃんはあっさりと善子ちゃんに捕まり、コブラツ〇ストをかけられて悶絶したのでした。
* * * * *
そして再び会議室。
「これから話すことは、とても重い話なので、他には話さないようにお願いします……」
「うん、もちろんだよ」
私がそう答えると、涼ちゃんは静かに話し始めました。
「私には二つ下の、未来(みく)って妹がいるんです。未来は心臓が弱くて、小さいころからずっと入院していました」
そして、涼ちゃんはお茶を一口すすると、話を続けます。
「そんな中、未来が心臓の手術を受ける一週間前のある日、空ちゃんは未来と一つ約束をしたんです。『大会で良い成績出してくるね』って」
「そうなんだ? それで、結果はどうだったの?」
曜ちゃんがそう聞くと、涼ちゃんは表情を曇らせて答えました。
「結果は惨敗でした。もしかしたら、その約束が、空ちゃんのプレッシャーになっていたのかもしれません。それで未来はひどくがっかりして……」
「ダークサイドに堕ちた、と……むぐっ」
「善子ちゃん。真面目な話なのにふざけちゃダメずら」
堕天使なことを言いだす善子ちゃんを、花丸ちゃんが見事に阻止しました。ナイス!
「命に別状はなかったのですが、手術は中止になりました。あまりにがっかりしすぎて、体力が大きく落ちてしまって、手術に耐えられないかもしれない、って……。それからも体力はなかなか戻らず、次はいつ手術ができるかも目途がつかない状況で……」
「そうなんだ……」
涼ちゃんの告白に、私はそれだけしか言えませんでした。
「空ちゃんが突然、陸上部に退部届を出したのは、その手術が中止になった翌日のことです……」
そこまで涼ちゃんが話すと、少しの間をおいて、果南ちゃんが口を開きました。
「なるほどね。自分が試合で惨敗したことで、未来ちゃんが元気になるチャンスを潰してしまったことがトラウマになって、過呼吸の要因になっていたんだろうね」
その果南ちゃんの言葉に続けて、梨子ちゃんも話し始めます。
「私も、空ちゃんが涼ちゃんに気を使っていたというか、少し遠慮していた、というのが気になってたんだけど、その未来ちゃんの件で、涼ちゃんに引け目に思っていたのね……」
「空があんなにうろたえていたのも、そんな自分が涼に捨てられるかもしれない、という恐怖から来たからかもしれないわね……。それも過呼吸の原因の一つになっていたんじゃないかしら」
「多分ね。でも、これは難しい問題だよ。トラウマの深さは私たちじゃ推し量れないし、私たちが何かしたところで、空のトラウマを完全に消せるとは思えないし……」
「そうだよね……。ダイヤさん、どうにかできないかな?」
私がダイヤさんにそうたずねると、ダイヤさんは組んでいた腕を解いて、私たちのほうを見据えました。
「そうですわね。私は医者ではありませんから、彼女のトラウマや過呼吸を治すことはできませんわ」
と、そこでダイヤさんは一度言葉を止めて、「ですが」と続けました。
「それを治すきっかけを作る方法を教えてあげることはできます」
「それは……?」
涼ちゃんがそう聞くと、ダイヤさんは彼女の方に向き直り、逆に質問を投げかけました。真剣な表情と声で。
「その前に聞いておきたいのですが……涼さんは、妹さんの件をどう考えておられるのですか?」
「それは……私も未来も、あの結果は空ちゃんが一生懸命頑張ってのものですから、恨みには思っていませんし、彼女に重荷を負わせようとも思っていません。それどころか、空ちゃんはそれからも未来に色々してくれていましたから、むしろ感謝したいくらいです」
そう涼ちゃんが言うと、ダイヤさんはにっこりとほほ笑んで続けました。
「なら、空さんにそう、自分の気持ちや考えを伝えればいいではありませんか。それで二人が本当にわかりあえば、それが彼女のトラウマを払拭するきっかけになるかもしれませんわ」
「ですが……」
涼ちゃんがそう反論しようとすると、ダイヤさんは彼女のほうを向いて、厳しく、でも優しい表情をして続けました。
「重い過去もありますし、なかなか自分の気持ちを伝えられないのはわかります。ですが、自分の気持ちを伝えることよりも、気持ちを伝えられないことで、すれ違ったままでいることのほうが、ずっと辛いものですわよ」
「あ……」
ダイヤさんの言葉に私はふと声をもらしました。
そうでした。
ダイヤさんたちがまだ、浦の星の一年だったころ、彼女たちがイベントに出るさい、果南ちゃんとダイヤさんは、鞠莉ちゃんの足のケガと彼女の未来のことを慮り、わざと歌を歌わなかったんです。それがもとで三人はぎくしゃくした関係になってしまって……。
ぎくしゃくした原因は、三人が自分の気持ちを素直にぶつけなかったこと。それがあの三年間の遠回りの原因でした。
だからダイヤさんは、そんな自分たちの過去を、涼ちゃんに重ねているんだとわかりました。
「大丈夫です。空さんは、あなたの大切な親友なんでしょう?」
「はい。空ちゃんはとっても大切で素敵な親友です。私にはもったいないくらいの」
「なら大丈夫です。きっとあなたの気持ちを受け止めてくれます。後は、あなたの勇気だけですわ」
「……」
それでもまたためらっている涼ちゃん。ここは、私たちが背中を押してあげなきゃだね!
「大丈夫だって! 勇気を出せば、きっと空ちゃんともっと仲良くなれるよ!」
「そうだよ! だから勇気を出して!」
「みんな……」
私と曜ちゃんの励ましに、涼ちゃんがこちらに顔を向けます。
そんな彼女を見て、私たちは優しく、そしてしっかりとうなずきます。
そして涼ちゃんは、少し不安さを顔に出しながらも、ゆっくりとうなずきました。
* * * * *
そしてその日の夜、空ちゃんがだいぶ回復したのを確認して、私は空ちゃんと涼ちゃんを屋上に連れ出しました。
「星空を見よう」……というのは建前で、実は二人が話し合う場を作るためなんです、えへへ。
「うわぁ……とってもきれいだねぇ……」
「ほんとーだー。きらきらーしてるー」
「えぇ、本当に、とってもきれいで素敵……」
三人で星を見ることしばし。さて、もうそろそろいいかな?
「あ、そうだ。私、ちょっと忘れものしてきちゃった! ちょっと建物に戻るね!」
『え?』
「ちょっと待って。すぐ戻るから!」
そう言って私は、入口のほうに走っていきました。そして踊り場に入ると、そこにはAqoursのみんなと元三年の三人が待っていました。
ダイヤさんが、頭痛をこらえるように、こめかみを押さえながら小声で言ってきます。
「千歌さん……。もうちょっとスマートにはできなかったのですか? 怪しいのがバレバレではありませんか……」
「そういえば、なんか棒読みだったずら」
「たはは……ごめんね」
そうダイヤさんと花丸ちゃんに謝ると、私たちはドアの隙間から、二人の様子を伺いました。
* * * * *
「千歌ちゃん、遅いね……。忘れ物探すのに苦労してるのかな?」
「うん、そうかもね……」
そしてしばしの沈黙。先に口を開いたのは、涼ちゃんのほうでした。
「ねぇ、空ちゃん……。もしかしてまだ、未来のこと、気にしてる?」
「……っ」
涼ちゃんの言葉を聞き、空ちゃんは泣きそうな表情になりました。
「当たり前じゃない! 私の、私のせいで、未来ちゃんの手術が……!」
そこまで空ちゃんが泣き叫んだところで、涼ちゃんが彼女を抱きしめました。
「馬鹿ね、そんなこと気にしなくていいんだよ。トラウマになってまで。空ちゃんは一生懸命頑張ったんでしょ?」
「うん……でも……」
「それなら私も未来も、空ちゃんを恨んだり憎んだりなんかしないよ。大切な友達だもん。それに、空ちゃんには感謝してる。未来のためにそんな約束してくれたし、あれからも未来のために色々してくれたから」
「涼……ちゃん……」
「何より、私は空ちゃんを大切な友達、親友だと思ってる。空ちゃんは?」
その涼ちゃんの問いかけに、空ちゃんは表情を崩し、涼ちゃんをさらに抱きしめました。
「好き! 大好き! 大切な友達だよ! 中一の時からずっと!」
「ありがとう。だったら、あのことで自分を責めないで。私と距離を置こうとしないで。ね?」
「涼ちゃん……涼ちゃーーーーんっっ!!」
空ちゃんは涼ちゃんをぎゅうっと抱きしめて泣きじゃくりました。
うまくいったみたいだね。よかった……。思わず私も涙ぐんじゃいます。それは他のみんなも同じようでした。
本当によかった……え、う、うわぁっ。
* * * * *
「えぇ、み、みんな!?」
「いたた……たはは……」
びっくりしてる空ちゃんと涼ちゃん。身を乗り出した私たちは、バランスを崩して、屋上のほうへとなだれ込んでしまったのでした。
「もしかして今までのこと、全部見てた?」
「うん。二人のことが心配で……ごめんね」
「たはは、なんか恥ずかしーいな……」
身を離し、顔を赤くしてうつむく空ちゃんと涼ちゃん。でもその手は、つながれたままでした。
それがなんか嬉しくて。
「でも、本当の友達になれてよかったね、二人とも」
「うん、ありーがと……」
「皆さんのおかげです……。皆さんのおかげで私たち、もっと先に飛び出せると思います」
「空ちゃん、涼ちゃん……」
再び涙ぐんじゃう私。その後ろで、みんなも涙ぐんだり泣いたりしてます。
「本当によかったね、お姉ちゃん……ぴぎぃぃぃ……」
「ルビィ、泣いてはダメですわ……ぐすっ」
「そういうダイヤも涙ぐんでるじゃない……ぐすっ」
そう泣きじゃくるルビィちゃん、涙ぐんでるダイヤさん、泣き笑いしてる果南ちゃんの横で、梨子ちゃんと曜ちゃんも感極まっていました。
「本当に、本当によかった……ぐすっ」
「うん、ほんとに……よかったよ……」
と、そこで私にあるアイデアが浮かびました!
「あ、そうだ!」
「え?」
きょとんと私のほうを見た空ちゃんに、私は涙を浮かべたまま笑顔で言いました。
「未来ちゃんにもスクフェスに来てもらおうよ! 未来ちゃんに私たちの……うぅん、空ちゃんがスクドルとして頑張ってる姿を見せてあげたら、きっと未来ちゃんも元気が出てくると思うんだ!」
「そうですわね。とってもいいと思いますわ」
「お医者さんの意見次第だけどね。でも、私もそれがいいと思うよ」
ダイヤさんや果南ちゃんの意見に、鞠莉ちゃんも賛同します。
「そうね。未来のために、特等席を用意しなくっちゃ」
「おー、さすがは鞠莉ちゃん!」
私たちの提案を聞いた空ちゃんは涙を再び流しながら……。
「みんな……ありがとう!!」
と大きくお辞儀したのでした。
* * * * *
それからは、特に問題は起こらず、合宿は楽しいまま進みました。空ちゃんの過呼吸の発作も、それからは起こらず。
私たちはもちろん、空ちゃんと涼ちゃんも、それまで以上に頑張り、私たちに追いつくほどに成長しました。もう、私たちと一緒にステージができるほどに。それと、あの夜のおかげか、あの時以上に、とても仲良しになったように見えます。Aqoursのみんなとも、すごく打ち解けたみたい!
そして合宿は無事に終わり、私たちは今、内浦へと帰るバスに揺られています。その座席の一つで、私はメモ帳にあることを書いていました。それは……。
「千歌ちゃん、何書いてるの?」
「うん。今度のことで、新しい歌のアイデアが浮かんだから、歌詞を書き始めてるんだ~」
「そうなんだ、見せて見せて?」
曜ちゃんにせがまれて、私はそのメモを曜ちゃんに渡しました。それを曜ちゃんと梨子ちゃんがのぞき込みます。
「へぇ~、とっても良い歌詞じゃん! これは衣装作りにも力が入りそうだよ!」
「そうね。この歌詞なら、とても感動的な曲になりそう……。あ、そうだ千歌ちゃん。この歌のタイトルは決まってるの?」
「もちろん! タイトルはね……」
Thank You,FRIENDS!
Aqours編~完