【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

1 / 49
簡単な過去の経緯

約6年程前、【無の軌跡】【無の軌跡 外伝】を投稿

前者は削除。後者は打ち切りに。何時か復活を目指してさようなら。


約6年後

数回投稿せずに書き直しを経て考えていた話の終盤まで完成。

かなりストックも出来たから多分大丈夫。投稿しよう。

結論。やっぱり男の娘は自分には難しい! 以上!


序章
0-1+α


 その日、トリスタの街に存在するトールズ士官学院は新しい生徒達を迎える入学式であった。列車から降りて来る生徒達は一様に制服を着用しており、ライノの花が咲き乱れるトリスタの地へ足を踏み入れる。緑色の制服を着た生徒達。白い制服を着た生徒達。その色が示す事柄は平民か貴族か否か。

 

「……ふぁー」

 

「ぃ、行かなぃ……の?」

 

「めんどくさい」

 

 去年まで制服の色は2種類。だがその日列車から降りて来る生徒達の中に数名、赤い制服を着用した者達が存在した。現在公園のベンチで士官学院に向かう生徒達の姿を眺めながら欠伸をする白髪の少女と、そんな彼女の隣で不安そうに人々を見つめる薄水色の髪をした少女も赤い制服であった。

 

「怒られちゃぅ、ょ?」

 

「……それも面倒だね」

 

 か細く弱々しい薄水色の髪をした少女の言葉に白髪の少女は何かを想像して微かに眉間へ皺を寄せる。そして座って居たベンチから立ち上がると、隣に居た少女へ手を伸ばした。そして2人は手を繋いだまま、新入生たちが向かう士官学院へ同じ様に足を進め始める。明らかに他の生徒達と年齢が違う2人は当然浮いており、特に気にした様子の無い白髪の少女とは反対に薄水色の髪をした少女はビクビクと怯える様子を見せ続ける。そして彼女達が去ったと同時に駅からまた1人、赤い制服を着た黒髪の青年が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂に集められた生徒達は学院長、ヴァンダイクの話を聞いた後に予め決められていた教室へ向かう様に指示を受ける。だが白い制服と緑色の制服を着た生徒達はその指示に従って移動を始めるものの、赤色の制服を着た者達はその指示に戸惑うばかりだった。総勢10名。赤い制服を着た者達は一様に困惑する中、1人の女性教官が声を掛ける。

 

 サラ・バレスタイン。それが女性教官の名前であり、彼女は自分が赤い制服を着た者達の担任教官である事を。そしてこれから『特別オリエンテーリング』を行う事を告げる。更に困惑が広がる中、彼女が着いて来る様に言って講堂を出れば、各々疑心暗鬼になりながら彼女を背を追った。

 

「行くよ」

 

「ぅん」

 

 白髪の少女に伸ばされた手を掴み、一緒に歩き始める薄水色の髪をした少女。明らかに他の生徒達に比べて幼い見た目の2人は10人と言う少ない人数の中では嫌でも目立ってしまう。『何故子供が?』『あの子も生徒なのか?』『可愛い』等々、色々な感想を心の内で8人が告げ乍らサラの後を追い掛けて辿り着いたのは……古びた旧校舎だった。

 

 中は講堂の半分程度の広さで、サラは入って来る10人をステージの様に高い場所から見下ろす。そして始まる説明に……1人の生徒が抗議した。緑髪の眼鏡を掛けた生徒、マキアス・レーグニッツ。彼が抗議した理由は赤い制服を着た生徒達。つまりこの場に居る10人が身分に関係なく選ばれた、と言う部分である。どうやら彼は大の貴族嫌いの様であり、そんな彼の抗議を鼻で笑う人物が次いで口を開いた。

 

「ぁぅ……喧嘩、してる……」

 

「気にしなくて良い」

 

 ユーシス・アルバレア。そう名乗った青年は紛う事無き貴族であり、それも四大名門と呼ばれる程の家柄であった。そんな彼の正体を知って噛み付く様に話をするマキアス。両者の間にピリピリとした空気が漂う中、ステージの上に立つサラが手を叩いて自分へ注目させる。そして彼女は話の最中、何気無く少し後ろへ下がると……傍に合った像に触れた。正確にはそこにあったスイッチに。

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「しまった!」

 

 突如傾く床。その傾きは大きく、誰もが真っ直ぐに立っては居られなかった。1人、また1人と落ちていく中で白髪の少女はワイヤーの様な物を天井へ投げてぶら下がる事で落下を回避する。そしてその片足には必死でしがみ付く少女の姿があった。

 

「た、高ぃ……怖ぃ……!」

 

「離しちゃ駄目」

 

「こら、フィー。あんたも行きなさい」

 

 フィーと呼ばれた白髪の少女は足にしがみ付く少女を落とさない様にしようとするも、サラが言うと同時に小さな刃を投げる。それはフィーのぶら下がるワイヤーを切り、2人は落下する事になった。

 

「はぁ……頼んだわよ」

 

 悲鳴を上げ乍ら落ちていく少女と面倒そうにそんな少女を滑りながら支えるフィーを眺め、サラは静かに告げるとその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧校舎・地下区画

 

 フィーに支えられて降りて来た少女は既に落とされた8人と合流する。何故か黒髪の青年が頬に手形の後を付けているが、その理由を遅れて来た2人が知る事は無かった。

 

「!?」

 

「これは……」

 

 突然鳴り響く電子音。驚いた様子でフィーの後ろに隠れた少女を横目に、各々が鳴っているそれを取り出した。小さな【導力器(オーブメント)】。そこから聞こえて来るのはサラの声であり、各々が手に持つそれが【ARCUS(アークス)】と呼ばれる戦術導力器であると説明される。

 

「戦術オーブメント。確かクオーツをセットする事で魔法(アーツ)が使えるんですよね?」

 

「っ!」

 

「平気」

 

 眼鏡を掛けた少女の言葉に僅かに反応を示す中、前に立つフィーが静かに告げる。そんな2人の様子に数人が気付く中、サラの説明は続く。そして物は試しとクオーツを付けて見る様に言われれば、薄暗かった部屋の明かりが付き始めた。見えてくる9つの台座。その1つ1つに色々な形をしたケースや袋が置いてあり、各々がそれに見覚えがあった。

 

 少女はフィーと共に1つの台座へ向かう。そこには小さな小箱と袋が置いてあり、フィーは小箱を開けてその中を確認した。紫色の宝石にも見える珠。マスタークオーツと呼ばれるそれは中に鳥の様な紋様が浮かんでおり、フィーの持つARCUSにピッタリ嵌りそうな場所があった。そしてそれを付ければ……フィーは不思議な感覚を得る。

 

「だぃ、じょぅぶ?」

 

「ん。問題無いね」

 

 他の面々も同じ様な感覚を得る中、突然閉じていた壁が開く様にして奥へと進む道が生まれる。サラ曰く奥には人を襲う魔獣が徘徊しており、その場所を抜けて入り口までやって来る事。それが特別オリエンテーリングの内容だと説明。『頑張ってね~』と陽気に告げて通信が終わり、全員が同じ道を前に頭を悩ませるしか無かった。

 

「ん」

 

「ぅん」

 

「あ、ちょっと!」

 

 どう行動するか悩む面々を置いて手を伸ばしたフィー。少女はその手を取ると、2人はさも当然の様に2人で行動を開始してしまう。思わずそんな彼女達に金髪の少女が声を掛けるが、2人が足を止める事は無かった。

 

 その後、ユーシス。マキアスの順に1人で行動を開始してしまう中、残ったのは6名。男子女子共に3名ずつであり、金髪の少女は黒髪の青年にあからさまな警戒心を見せ乍ら男女別に行動を開始する事になった。

 

「ラウラ・S・アルゼイドだ。宜しく頼む」

 

「エマ・ミルスティンです。よろしくお願いします」

 

「アリサ・Rよ。よろしく。……あの子達、大丈夫かしら?」

 

 金髪の少女……アリサは行動を共にする青髪の少女と眼鏡の少女を相手に自己紹介をする。ラウラ、エマと順に名前を知った事で次に彼女が感じたのは先に行ってしまった2人の少女の安否。エマも同様に心配する中、ラウラは出来る限り早く合流出来る様にしようと告げる。異存は無く、3人は行動を開始。アリサは弓を。ラウラは大剣を。エマは魔導杖を手に奥へ歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも先行するフィーと少女。通路を歩いていた2人だが、突然少女がその足を止める。そして目の前にある曲がり角を前にフィーへ告げた。

 

「ぃる……3匹」

 

「ん、了解。片づけて来る」

 

 少女の言葉に頷いたフィーは両手に砲身と刃の付いた武器を2本取り出す。双銃剣とでも言うべき獲物。それを片手に壁へ背中を付けて僅かに顔を出し、視界に少女の言葉通りに徘徊する3匹の魔獣を確認して……フィーは飛び出した。曲がり角故に見えない壁越しに聞こえる斬撃音と銃声。数回響いた後、武器をしまいながらフィーが戻る。無表情のまま、片手をピースサインにして。

 

「楽勝」

 

「ぉ疲れ……様」

 

 安心した様に返した少女は再びフィーと手を繋いで道を進む。……やがて2人は再び広い場所へ到着した。上へ行ける階段が見え、そこが終点だと分かったフィー。だがそんな彼女は何処か怯えた様子で何かを見つめる少女の姿に気付いた。

 

「ぁれ……ぃきてる……」

 

「……ちょっと面倒かな」

 

 少女が見つめる先にあったのは大きな石造。一見唯の石造だが、少女の言葉にフィーは少し遠い目をした後に後ろを振り返る。自分以外にもここへ向かっている筈の8人を思い浮かべて。

 

「仕方ないか」

 

「待つ、の?」

 

 少女の言葉に頷いたフィーは適当な場所に座り込んだ。すると少女もその隣に座り込み、それを横目に見たフィーは体勢を横にする。頭は少女の膝に乗り、少女はそれに「ぁ」と小さな声を出した後……その頭に手を置いた。

 

 それから数十分。僅かに遠くから聞こえる戦闘の音に気付いた少女がフィーへ声を掛けるが、彼女は目を開けても頭を離そうとはしなかった。そして近づいて来る足音。その数は3つであり、曲がり角から姿を現したのは3人の少女達だった。

 

「っ! 其方達は」

 

「良かった! 無事だったんですね」

 

「……」

 

「ぁぅ」

 

「お疲れ」

 

 ラウラが気付いて声を掛け、エマが安堵の表情を浮かべる。そんな中、1人だけ曲がり角を曲がった場所から固まった様に動かないアリサ。言葉を返せずに困る少女と頭を上げて立ち上がりながらフィーが言葉を返す中、ようやくラウラとエマがアリサの様子に気付いた。

 

「アリサさん、どうしたんですか?」

 

「一体何が……アリサ、鼻血が出ているぞ」

 

「……はっ!? な、何でも無いわ。えぇ。何でも。良かったわ、2人が無事で……ふぅ」

 

 2人の声を聞いて数秒。我に返った様に答えたアリサは鼻から僅かに流れた血を拭った。一応跡が残らない様にしっかりと拭き終わった彼女は座ったまま怯えた様子で自分達を見る少女の前に片膝で体勢を低くして声を掛けた。

 

「こんにちわ。私の名前はアリサ・R。貴女のお名前は?」

 

「っ! ティア……です」

 

「そう。ティアちゃんって言うのね。ティアちゃん……ふふ」

 

「……」

 

 自己紹介を始めたアリサに怯えながらも少女は自らの名前を答える。ティアと名乗った彼女にアリサは笑みを浮かべてその名前を反復する様に言い、更に笑みを浮かべる。ラウラとエマが先程と違う違和感に首を傾げる中、フィーは彼女へ何処か冷たい視線を向けていた。

 

 各々の自己紹介を改めて済ませた後、ラウラはフィーにここで何をしていたのか質問する。疲れて休憩していたかも知れないと僅かに思っていた彼女だが、返って来たのは『面倒な敵が居る』と言う事実。それが確かに今にも動き出しそうだが、何処からどう見ても石造であるが故に彼女は困惑した。するとフィーは少しだけ目を瞑った後、徐に石造へ近づき始める。

 

「っ! フィー……!」

 

「見た方が早い」

 

 警戒しながら石造へ近づき続ければ、やがて僅かな動きの後に石像は完全な生物へと変化した。目の前の光景に驚き、近くに居るフィーを助ける為に飛び出す3人。フィーも双剣銃を構える中、振り返らずに彼女はティアへ告げる。

 

「心配ない」

 

「ぅ、ん……頑張って……!」

 

「……健気な応援……良いわ」

 

「? アリサさん、何か言いましたか?」

 

「いえ、何でも無いわ。! 来るわよ!」

 

 始まる巨大な生物との死闘。フィーが軽やかな身の熟しで敵を翻弄してはラウラが重い一撃を加え、隙があればアリサの放つ矢が突き刺さる。エマの補助もあり、一撃一撃の威力は大きい。それ故にその戦いは殆ど一方的であった。……遅れてやって来た男子達が最初に目にしたのは、倒れ伏せる巨大な生物を前に喜び合う少女達の姿であった。





ティア

言語Lv.1(最大Lv.10)

人慣れLv.1(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
フィー・サラ
★★☆☆☆

★☆☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
アリサ・ラウラ・エマ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。