【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 地下水道に潜む魔獣を倒しながら奥へと進む4人。リィンとフィーが戦術リンクを使って前に出ると、エマが彼らの補助をする事で戦闘はスムーズに進行した。フィーは戦力が減った為に働く量が増えたと愚痴る中、そんな4人の目の前に見知った姿が現れる。

 

「ユーシス!?」

 

「お前達か」

 

 それは朝、父親の命令を受けてやって来た執事と共に別れたユーシスだった。彼も軟禁状態にあって居た様で、同じ様に地下水道を伝ってここまで来たとの事。共にマキアスを助け出す為に行動を開始すれば、フィーの愚痴は少なくなった。

 

 それから更に奥へと進んだ5人の目の前に巨大な鉄の扉が立ちはだかる。地下水道の構造上、その先が目的である領邦軍の基地。何とかして通れる方法は無いかと悩む中、仕方無さげにフィーが前へ出る。

 

「……任せて」

 

 彼女は扉の周りに何かを設置。そして『起動(イグニッション)』と言って何かを操作した瞬間、それが爆発する事で扉は強制的に解放された。驚愕するリィン達へ何事も無かったかの様に「開いたよ」と告げたフィー。……そこで到頭、リィンはフィーへ単刀直入に質問する。これまで見せて来た異常な身体能力を初めとしたフィーの異端さについて。誰もが思っていた事だった。15歳にして高い戦闘能力を持ち、様々な道具を使い熟す彼女は一体『学院へ来る前、何をやっていたのか?』と。

 

 フィーの口から簡潔に語られたのは、彼女が元々猟兵団に居た。と言う事だった。常に戦いの場に身を置く猟兵ならば、その戦闘力の高さにも納得したリィン達。そこでエマがティアを見て「彼女も、ですか?」と質問した。フィーと仲が良いティア。彼女が入学する前に何をしていたのかを知らないエマ達からすれば、そこに一緒に居たと言う可能性を考えても不思議では無かった。が、彼女の質問にフィーは首を横に振って否定する。

 

「ティアにはサラと会ってから。詳しい事は、サラに聞いて」

 

「……後にしよう。この先が領邦軍の基地の筈だ。何とか見つからずにマキアスを救出しよう」

 

 少し離れた場所で周りを警戒しながら自分達を見ているティアへ一度視線を送った後、リィンは本来の目的を果たす為に今深く聞く事はしなかった。……そしてフィーのお蔭で通る事が出来る様になった道を進めば、そこは領邦軍の拘置所。マキアスが収容されている場所だった。探す手間が省けたと安心しながら、何とか彼を檻から出す事に成功した5人。これでA班が全員揃ったと安心した矢先、次なる問題が発生した。

 

「そこで何をやっている!」

 

「……不味いね」

 

「くっ! 増援を呼ばれる前に片づけるぞ!」

 

 領邦軍の男性2人が現れ、マキアスと共に合流した全員を視界に捕らえてしまう。焦りながらも各々武器を取り出して応戦。早期決着を図るも、最悪な事に増援を呼ばれてしまう。

 

「走るぞ!」

 

「ティア、捕まって!」

 

「う、ん……!」

 

 完全に気付かれてしまったA班はとにかく逃げる為に来た道を戻り始める。フィーの手に捕まってティアも走る中、誰よりも先に彼女がその脅威が近づいて来る事に気付いた。

 

「大きぃ、魔、獣……獣……来てる……っ!」

 

「大きい獣の魔獣だと! まさか、軍用魔獣か!」

 

「足、速ぃ……!」

 

「駄目だっ! 追いつかれる!」

 

 A班が地下水道の少し広い場所へ出ると同時に背後から追って来ていた2匹の巨大な魔獣が道を塞ぐ様に現れる。そしてまるで獲物を囲い込む様に円を描きながら6人の周りを歩く魔獣。もう逃げる事は出来ないと悟ったA班は戦う為に武器を構えた。

 

「やるしかない。ユーシス!」

 

「ふん。遅れるなよ、はぁ!」

 

 走っていた間にずれた眼鏡の位置を戻し、ショットガンを手にユーシスと戦術リンクを繋いだマキアス。2人がARCUSを通じて繋がったのを見て、リィンもエマと共に戦術リンクを繋いだ。

 

「フィー! フォローを頼む」

 

「了解。でも、こっちも手一杯かも」

 

「あ、う……」

 

 前に出るユーシスとマキアスが1体を相手にし、リィンとエマも1体を相手にする中、フィーは何方にもタイミングを見計らって銃で援護射撃しながらティアの傍を離れなかった。

 

 以前とは違い、繋いで時間が経っても戦術リンクが断絶される事の無いマキアスとユーシス。今回の出来事は2人の関係に大きな影響を与えたのだろう。だが連携を出来る様になってしても、飼い馴らされて訓練を受けた軍用魔獣を相手にするには厳しかった。負ける事は無いものの、決定的な一撃を与える事も出来ない。リィンとエマも同様であり、どうしても戦力が分散されるのは痛かった。

 

「……ティア。隠れて」

 

「フィー……」

 

 時間を掛け過ぎれば、領邦軍が来てしまう。戦力が足りない現状、自分が入る事でそれを覆せると考えたフィーはティアに隠れる様に指示を出す。言われた通りに戦場から少し離れた場所に走って隠れたティアを確認した後、フィーはリィンとエマが戦う魔獣を先に倒す為に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーが本格的に参戦した事で戦場は一気に優勢となる。リィンとエマが相手にする魔獣を倒し、マキアスとユーシスが戦う魔獣も無事に倒し切る事が出来た5人。強敵との戦いに勝てた事に肩で息をしながらも思わず5人は笑い合ってしまう。だが、そこへ追い付いて来た領邦軍が現れて取り囲み始めた。リーダー格と思しき男が居ない筈だったユーシスの姿に戸惑うも、無理矢理連行しようとする中……その悲鳴は全員の耳へ届いた。

 

「……ゃ!」

 

「この、こっちに来い!」

 

「何だ、その餓鬼は」

 

「はっ! 予め6名と分かっていたので探したところ、同じ制服の子供が隠れて居りました!」

 

「……かなり、不味いかも」

 

 大人に腕を掴まれて強制的に連れて来られるティアの姿がそこにはあり、必死に抵抗する彼女の腕を押さえて領邦軍の1人が説明をする。それを聞いたリーダーと思しき男がティアへ近づく中、フィーが他の4人へ聞こえる様に呟いた。……現状、ピンチなのは誰でも分かる事。その上でそれを呟いた彼女に違和感を感じたリィン達。そして、それは起こってしまう。

 

「……ぃ、ゃ……」

 

「ふん、逃げられると思うなよ……」

 

『逃げられると思わない事だ』

 

「……ぁ……ぃ、ゃ……『ぃやぁぁぁぁぁぁ!』」

 

 ゆっくりと伸ばされた手。告げられた言葉。それがティアの中で違う男の声(・・・・・)として再び繰り返された時、彼女は大きな悲鳴を上げる。それと同時に彼女を中心として暴風が吹き荒れ、彼女を押さえていた男も、リーダーと思しき男も、周囲に居た者全員が大きく吹き飛ばされた。少し離れた場所に立っていたリィン達は飛ばされずに済むも、顔を庇う様に腕で覆っていた彼らは目の前に映る光景を見て絶句する。

 

「何だ、これは」

 

「何が起こったんだ!?」

 

 領邦軍の男達が1人残らず倒れる中、彼らの目の前にあったのは謎の光に包まれたティアの姿。その身体は浮いており(・・・・・)、宙を漂うティアはゆっくりと目を開いた。……それを見たフィーが誰よりも先に自分の武器を取り出して構える。

 

「来るよ」

 

「え? い、一体何が!」

 

「っ! 避けろ!」

 

 リィンの言葉と同時に一斉にその場から飛び退いた5人。そんな彼らの居た場所に1本の雷が飛来する。地面を焦がし、僅かな電気を残すその光景に5人は見覚えがあった。

 

「今のは、魔法(アーツ)……?」

 

「しかし、発動が早すぎる。まるで駆動時間が無いじゃないか!」

 

「くっ! フィー! どうすれば良い!?」

 

「ん……取り敢えず、耐える」

 

 唯一これが起こる事を予測出来ていた様子のフィーならば、打開する方法も分かると思ったリィン。だが返って来た言葉に耳を疑わずにはいられなかった。

 

「次、来ます!」

 

「今度は何が来ると言うのだ」

 

 ゆっくりと手を上げたティアの周りに出現するのは、5本の剣。それが各々の元へ飛んで行く中、全員がそれを防ぐか躱す等してやり過ごした。1度の攻撃で消滅した剣にも見覚えがあった全員。その後も床から火を起こし、竜巻を発生させるなど見覚えのある魔法を繰り出し続けるティアの攻撃を彼らは疲労を抱えながらも必死で避け続けた。……すると、ゆっくり両手を上に上げ始めるティアの姿にまだ発動した魔法を見ていないにも関わらず、全員が嫌な予感を感じた。

 

 空に出現する巨大な扉。光を放ちながら徐々に開き始めるそこから出て来る物が何か、今までの流れから嫌でも理解する事が出来た。避ける方法が思い付かず、唯々出来る限り攻撃を防げる様に構えた5人。……しかし、それが完全に開き切るよりも早く彼らの前に1人の女性が舞い降りた。

 

「はぁ!」

 

 見覚えのある紫の髪。紫電を纏いながらティアに急接近した彼女は片手で刃を振るい、跳躍しながら片手で導力銃を発砲する。大きく体勢を崩したティアの姿と共に開き掛けていた扉は開き切る前に薄れ、やがて消えていった。

 

「ったく。面倒な状況になってるわね!」

 

「サラ教官!?」

 

 突然現れた人物、サラに驚きを隠し切れないリィン達。するとそんな彼らの背後から更に見覚えのある人物が姿を見せる。それは昨日、公都を離れた筈のルーファスだった。

 

「話は後よ! あんた達、まだ戦えるわね!」

 

 ティアを前に警戒しながら語り掛けるサラの姿を見て、全員が互いに顔を合わせて頷き合った後、彼女の背後に武器を構えながら立つ。ルーファスも「微力ながら手を貸そう」と言って剣を構え、6人掛かりでティアとの戦闘が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事にティアを無力化する事が出来たリィン達。光を失ってゆっくりと床へ倒れた彼女は意識を失っており、A班はサラと共に士官学院へ戻る為に地下水道を後にする事となった。その際、ルーファスがトールズ士官学院に3人居るとされる理事長の1人だと知らされながら、その帰りの電車に揺られる5人は地下水道で起きた出来事についての話をする。

 

「結局、ティア君のあれは何だったんだ?」

 

「……駆動時間の無い魔法……そんな筈無いのですが……」

 

「委員長?」

 

「あ、えっと……フィーちゃんはあれが何か、知ってるんですよね!?」

 

「まぁ、ね。詳しくは知らないけど」

 

 マキアスの言葉に1人呟いたエマ。それに気付いたリィンが質問すれば、あからさまに話題をフィーへ振った。フィーは少し目を閉じて肯定するも、「多分サラが話すと思う」と続けるだけで彼女自身が語る気は無い様子を見せる。サラへ託してしまった為、今この場に居ない少女の事を思い浮かべながら、5人はトリスタへ帰還するのだった。


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