【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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間章+α

 トールズ士官学院、Ⅶ組の教室にて。ティアを除いた全員が教室に集められていた。特別実習が終わり、無事に全員が帰還。お互いに実習先で起きた出来事を話す中、ティアについても当然リィン達の口からB班の面々へ語られた。……そして2日が経ったこの日、未だに第3学生寮の部屋で目を覚まさないティアについてサラが説明をする為にⅦ組の生徒は集められていた。

 

「……さて、何から話すべきかしらね。……数年前、とある頭のイカレた教団があったわ」

 

 サラが語るのはとある教団の話。ゼムリア大陸の各地に拠点を置き、活動していたその教団は彼方此方で子供を攫っては『儀式』と称して様々な実験を行っていた。実験の目的は様々あり、上げれば切りが無い。だがその中の1つにあったのが、魔法(アーツ)導力器(オーブメント)無しに生身で発動出来る様にする為の実験。……本来リィン達Ⅶ組が持っているARCUSの様な導力器が無くては放てない魔法。それを何の道具も無しに使う事が出来れば、それは生きた兵器(・・・・・)にもなるだろう。

 

「つまりティアは」

 

「攫われ、実験体にされていた……と言う事か。外道が」

 

 ラウラが言葉にすると共に怒りを露わにする中、サラは説明を続ける。

 

 大体6年程前、その教団は警察・軍・遊撃士等々、あらゆる組織が手を組んで行われた殲滅作戦によって殆ど壊滅させる事が出来た。沢山の子供達が死体となって発見された悲惨な話はリィン達も各々聞いた事があり、教団がどんな名前なのかは察しが付く。

 

「それじゃあ、ティアはその生き残りって事?」

 

「そうだけど、ちょっと違うのよね……」

 

 エリオットの言葉に頬を掻きながら答えたサラは言葉を続ける。そもそも殲滅作戦が行われたのは6年前。だがサラがティアと出会ったのは1年前であった。それも彼女が見つけた訳では無く、彼女の知り合いが最初にティアを保護したと語る。その知り合いはティアの家族について調べる為に自分へティアを預けたと。……つまりティアには5年間の誰も知らない空白があるのだ。

 

「ティア君の家族……彼女に聞けばすぐに分かると思いますが」

 

「残念だけどティアは出会った当初、自分の名前以外には何にも覚えてなかったらしいわ。常識的な事は多少覚えていたけれど、自分については何もかも忘れていた」

 

「……成程。やっと合点が行きました」

 

 リィンが頷きながらサラの言葉に返した。ティアは12歳と聞かされていたものの、彼は前々から12歳にしては雰囲気も行動も幼過ぎると思っていたのだ。だが記憶が1年少々しか無いのなら、可笑しな話では無かった。更に大人を怖がる理由についても。記憶は無くとも、実験体としての日々を身体が無意識に覚えているのだと。教団の人間は当然全員が大人の筈であるが故に。

 

「まぁ、でもティアの家族についてはこの前連絡があったから問題無いわ」

 

「問題無い。要するに見つかった、と言う事か」

 

「えぇ。もうご家族に連絡は取れたわ。【ティア・プラトー】、それがあの子のフルネームよ」

 

 ティアのフルネームを知って各々が反応を見せる中、誰よりも反応を見せていたのは普段誰よりも反応の薄いフィーだった。彼女はサラへ睨むような視線を向けると、口を開く。

 

「家に帰すの?」

 

「そのつもりよ。予定では今月。貴女達が特別実習に行っている期間に連れて行くわ」

 

「…………そっか」

 

 言葉にせずとも、それはティアとの別れを意味していると全員は理解出来た。フィーが何処か弱々しく視線を逸らして窓の外を眺め始める中、サラが「何か聞きたい事はある?」と質問した。

 

「あの、ティアちゃんが帰る場所って何処なんですか?」

 

「ご両親はレミフェリア公国に住んでいるみたいね。でも連れて行くのはクロスベルよ」

 

「クロスベル……そう言えば数日前、あそこで事件が起きていた様だが」

 

「えっと、確か教……団……事、件」

 

「ふむ、教官の説明だと殲滅された筈だが」

 

「確かに大本は絶ったわ。でも残党はまだ居たみたいね」

 

 それから質疑応答を経て今日は解散する事になったⅦ組。クラブに入っている者は真っ直ぐに向かう中、唯1人フィーはエーデルと軽く会話をすると真っ直ぐに第3学生寮へ向かい始める。ティアは現在、サラの部屋でもフィーの部屋でも無い空き部屋に寝かされていた。誰か新しい入居者が何時入っても大丈夫な様に予め用意されていたベッドへ横になるティアの姿を眺め、フィーはベッドの縁に座り込んだ。

 

「……お別れ……か」

 

 彼女の脳裏に映るのは自分を置いて行ってしまった者達の姿。そしてサラと出会い、怯えるティアとも出会った。喋る事が苦手なティアと比較的無口なフィーはサラの居ない間も基本一緒に過ごし、時間は掛かったものの自然と仲良くなっていた。……だが、また自分の元から誰かが居なくなってしまう。1度失った経験がある故に、フィーはそれが恐ろしかった。

 

「……」

 

「……ふ、ぃ……」

 

「!」

 

 ジッと眺めていたフィーは、弱々しく紡がれたティアの声に反応して布団の中に入っていた手を無意識に握る。やがてゆっくりと目を開いたティアは心配そうに自分を見つめるフィーと目を合わせ、小さな笑みを浮かべるのだった。





ティア


言語Lv.4(最大Lv.10)

人慣れLv.4(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
フィー・アリサ・サラ
★★☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ
★☆☆☆☆

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