【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 3回目の特別実習初日。駅でA班とB班、そしてティアは集まっていた。フィーとラウラの気まずい距離感は未だに直っておらず、2人が同じ班であるが為にB班は心配していた。が、今はそれよりも大事な事の為に。9人はティアと話をする。

 

「ティアちゃん、また絶対に会いましょうね!」

 

「もしお勉強で何か分からない事があれば、何時でもARCUSの通信で聞いて下さいね」

 

 ティアを抱きしめて約束をするアリサ。優しく微笑んで頭を撫でながら告げるエマ。

 

「まぁ、何だ。君も色々あると思うが、頑張りたまえ」

 

「短い付き合いとは言え、同じクラスだった好だ。学友として、お前の事は覚えて置いてやろう」

 

 眼鏡のずれを直しながら激励を送るマキアス。腕を組みながら放つ言葉は上からだが、何処か優しさの籠った声音のユーシス。

 

「其方とはもう少し話したかったが……壮健でな」

 

「ティアにも俺の故郷を見て貰いたかったが、仕方ない。せめてお前に風の加護がある事を願おう」

 

 エマに続いて頭を撫でながら告げるラウラは、フィーとの事もあってティアとの距離も僅かにだが開いていた。だがこの時間が彼女との最後になる可能性もあった為、今この時は同じ学友であり仲間として見送る。そしてガイウスは今回A班が向かう実習先が彼の故郷だった事もあり、少々残念そうにし乍らも胸の前に手を当てて祈りを送った。

 

「まだ出会って短いけど、寂しくなるね。……元気でね、ティア」

 

「例え住む場所は違っても、俺達は同じⅦ組の仲間だ。また何時か、会おう」

 

 頬を掻きながら仲間が1人居なくなる事に寂し気な様子で告げたエリオット。そしてリィンが体勢を低くして同じ視線の高さで告げれば、ティアはその言葉に強く頷いて答えた。

 

「ティア……またね」

 

 誰よりも短く、誰よりも変わらぬ雰囲気で告げるフィーに見ていた全員は驚かずにいられなかった。だがティアはそれに頷いて答え、フィーは駅のホームへ入る為に歩き出してしまう。……が、ティアはそんなフィーへ声を掛けた。

 

「フィー……!」

 

「?」

 

「……ぁ、のね……ぇぃっ!」

 

≪!?≫

 

 ゆっくりと近づき始めたティアはフィーへしゃがむ様に仕草でお願いをする。首を傾げながらもフィーがティアと同じ目の高さに合わせれば、次にティアの行った行動にフィーのみならずこの場に居た全員が驚愕した。なんと身長の低いティアがジャンプをして、フィーの額に唇を当てたのだ。フィーが思わず呆けてしまい、全員が驚愕のまま動けない中……ティアは恥ずかしそうに語る。

 

「友、達……の、証……シャロン、が……教えて、くれた、の」

 

「……」

 

「て、ティアちゃん……っ! ちょっとリィン!」

 

「抑えてくれアリサ。ここは邪魔するべきじゃない!」

 

「離しなさい! 私もティアちゃんに!」

 

 決してセクハラにならない様に気を付け乍らアリサを押さえて、リィン達A班はホームへ彼女を引きずりながら去って行った。呆けていたフィーは我に返るとティアの説明を時間差で理解して、「それじゃあ」と言って同じ様にティアの額へキスをする。

 

「あ、ぅ……」

 

 恥ずかしがるティアをそのままに、今度こそ駅のホームへ入って行ったフィー。彼女を追う様にB班もティアへ一言告げ乍らホームへ向かい、やがて発進する列車をティアは見送った。……そしてⅦ組でありながらトリスタに1人残る事になったティアは第3学生寮へ。登校の時間になれば1人でⅦ組の教室へ向かい、サラが現れる。

 

「この後、午前中には迎えが来るわ。取り敢えずそれまで自習って事で」

 

 本来特別実習が開始された時点でサラはトリスタでⅦ組を相手に何かをする事は無かった。今回1人残っているのは異例であり、彼女1人の為にサラ以外の教官が特別な授業を行う事は無い。サラが担当する授業が無い時間はⅦ組の教室で、あった場合は他の暇な教官が念の為にティアを見る事となった。……そして時は流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ⅶ組の教室で自習と言われても余り勉強が出来ず、サラの居る時間ははぐはぐ人形を作っていたティア。フィーの他にも紫髪の女性をデフォルメした人形……はぐはぐサラが出来上がっており、現在は3体目の人形を作ろうとしていた。が、サラが突然ティアへ声を掛けると教室から一緒に出る事になった。教室を出て学院からも出て、ティアが到着したのは町の中にある公園。入学式の際にはフィーと時間になるまで昼寝をして、自由行動日では稀に教室で出会った黒猫を見掛けて戯れたりなどをした思い出のある場所。そこに1人の男性が立っていた。

 

「っ! ト、ヴァルっ!」

 

「うぉっと。はは。元気そうだな、ティア」

 

 ティアはその男性を見つけると同時に駆け出し、その身体へ飛びついた。驚いた様子ながらもティアを受け止めた男性……トヴァル・ランドナーは笑みを浮かべてティアの頭を撫でた後、サラへ視線を向ける。

 

「そっちも元気そうだな、サラ」

 

「お互い様よ……頼んだわよ」

 

「あぁ。最初に見つけたのは俺だからな。最後まで責任は持つさ」

 

 彼は以前サラが語った知り合いであり、ティアを見つけた張本人であった。トヴァルの言葉に満足そうに頷いたサラはティアの元へ近づくと、その頭を撫でながら「達者でね」と一言。まるで惜しむ様子も無く学院の方へ戻ってしまう彼女に、ティアは寂し気な視線を送った。

 

「しんみりするのは柄じゃ無いって事か。……ティア、サラから話は聞いてるよな?」

 

「う、ん……家族……に、会う」

 

「あぁ。他にも色々予定はあるが、詳しい話は移動しながらだ。すぐに出れるか?」

 

 トヴァルの質問に頷いて答えたティアは、彼に連れられて早朝に9人を見送った駅へ再び足を踏み入れた。そしてトヴァルが2人分の切符を購入して乗車すれば、2人は向かい合う形で席に座る。

 

「向こうに着いたらまずは寄るところがある。お前さんの姉と会うのはその後、夕方の予定だ」

 

「……」

 

 電車に揺られながら、説明を受ける事になったティアは黙ってトヴァルの話を聞き続ける。学院生活での3ヵ月を含み、彼女と一緒に居なかった時間の成長を見たトヴァルは内心でサラへ預けた事が間違っていなかったと改めて理解すると共に彼女へ感謝の念を抱く。

 

 ティアがクロスベルで寝泊りをする場所の候補は複数あるが、まだ決まっていないとトヴァルは説明する。選択肢は3つ。姉の元か、トヴァルがしばらく滞在する遊撃士協会のクロスベル支部か、何処かの宿を取るか。一番良いのは姉の元で過ごす事だが、姉もまた色々忙しい毎日を過ごしている為に不可能な可能性もある。もし可能でも、ティアが慣れる事が出来なければ難しいだろう。

 

「それと、もう1つ大事な事がある」

 

「?」

 

「俺は今後、お前にその()を制御出来る様になって貰いたいと思ってる」

 

「!」

 

 力。それが何を指すのか、当事者であるティアには当然理解出来た。そしてトヴァルは制御しなければいけない理由に家族や周囲の人間を例に出す。前回の特別実習で暴走した際には同じA班へ攻撃をしてしまった事もあり、周りに危害が及ばない為に制御する必要があると言われたティアは弱々しくも頷いて答えた。

 

「まぁ、俺の他にも助っ人を連れてもしもの時は止めてやる。安心しな」

 

「う、ん……」

 

 その後もクロスベルについての話を聞きながら、ティアとトヴァルは電車に揺られ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は昼を過ぎた頃。トヴァルと共にクロスベルへ到着したティアは、彼へ着いて行く形でクロスベルにある遊撃士協会の本部へ到着した。中には余り人の姿が見受けられず、唯一居るのは受付に立つ男性のみ。彼はトヴァルの姿とティアに気付くと、「あら?」と声を出した。

 

「久しぶりね、トヴァル。その子が例の子かしら?」

 

 女性の様な口調で話をする男性……ミシェル。口調は女性でも大人な男性の彼にティアは目に見えて怯え、だが既に知っていた様子の彼は不用意にティアへは近づかずにカウンター越しでトヴァルと会話をする。本部には2階があり、他にも遊撃士が4人居ると伝えられてトヴァルと共に上がったティアは男女2人ずつ、4人の前にトヴァルと共に立った。

 

「トヴァル・ランドナーだ。少しの間、ここで世話になる。よろしくな。で、こっちが……」

 

「……可愛いぃぃ~~!」

 

「ちょ、エオリア!?」

 

「っ!」

 

 自己紹介をしたトヴァルが自分の足にしがみ付いて後ろへ隠れるティアの紹介をしようとした時、1人の女性が目を輝かせてティアへ迫った。もう1人の女性が名前を呼んで止める様とするも、止まる様子の無い姿に男性2名が呆れる中、ティアは彼女から逃げる様に2階を走り回る。

 

「えっと、あたしはレンであっちがエオリアです」

 

「ヴェンツェルだ」

 

「僕はスコットと言います。……えっと、あの子はトヴァルさんの?」

 

「誤解しないでくれ。色々あってな。ここに来たのはあいつの為でもある。名前はティア・プラトー」

 

「プラトー? それって確か……」

 

 逃げるティアを眺めながら自己紹介を行う4人。やがてレンと名乗った女性が『プラトー』と言う名前に聞き覚えがあった様で、そのまま納得する。……数か月前、1人の少女がここへ訪ねて妹の所在を聞いて来た事があった。今ではクロスベルでも有名になったとあるメンバーの1人だが、彼女達の少女に対する第一印象は『妹を探す姉』であった。

 

「エオリア、一旦落ち着いて」

 

「こんな可愛い子が目の前に居るのに、落ち着ける訳無いよ! ねぇ、1回だけ! 1回だけで良いからハグハグさせて? お願いだから!」

 

「……ゃ!」

 

 止めに入ったスコットに興奮した様子で答えたエオリアは怯えてテーブルの向こうで自分を警戒するティアへお願いするも、ティアは長い髪を大きく揺らして拒否する。しかしその仕草が更にエオリアを興奮させ、諦めきれない彼女は暴走。到頭ティアは1階へ逃げ出してしまう。

 

「っと、1人にするのは不味いな。話はまた後だ」

 

「エオリア、お前は何をやっている」

 

「ご、ごめん……つい」

 

 トヴァルが追い掛ける様にして1階へ降りて行くのを眺め、ヴェンツェルがエオリアへ冷たい視線を向ける。レンとスコットもやれやれと言った様子で首を横に振る中、ティアが逃げた事で頭の冷えたエオリアは反省しながら肩を落とした。

 

 一方、1階へ逃げたティアはミシェルの姿にも怯えて建物を飛び出してしまう。建物の外はクロスベル東通り。東方の品を初めとして屋台が目立つ場所であり、人通りも多かった。子供も混じるが、大多数は大人。知らない場所故に何処へ行く事も出来ず困惑する中、そんなティアの頭に背後から手が置かれた。驚き振り返ればそこに居たのは自分を追って来たトヴァルの姿。彼は後ろ髪を掻きながら時間を確認すると、約束の時までクロスベルの街を適当に回る事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロスベル港湾区。海の見えるそこには公園があり、そこで1人の少女が女性と共に少々早い時間から待ち合わせの相手を待ち続けていた。

 

「ティオちゃん、大丈夫?」

 

「は、はい。大丈夫、です」

 

 心配そうに声を掛ける女性へ少し緊張した面持ちで答えるのは、ティアと同じ薄水色の髪をした少女。女性は彼女の付き添いであり、ここに来た理由を考えれば当然だと察する。……彼女が少女と出会ったのは5ヵ月程前。その当時は何も知らない相手だったか、これまで他の仲間と共に過ごした時間の中で少女の事を知る機会があった。妹が居た事や、その妹が行方知れずになってしまった事も。だが2月程前、突然現れた遊撃士から告げられた妹の所在。ずっと探していた相手が生きていた事を知り、涙する姿を彼女は二度と忘れる事は無いだろう。そして今日、遊撃士に連れられて少女は探し続けた妹と再会する予定だった。

 

「……でも」

 

 女性には不安があった。遊撃士の話に寄れば、少女の妹は名前以外全ての記憶を失っていたと言う。生きていた事実さえあれば、それだけで嬉しいとは思えるだろう。だがいざ何も覚えていない少女と相対した時、少女は何を思うのか。……願わくば少女が幸せを掴める事を、女性は女神(エイドス)に祈るのだった。

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