【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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第Ⅰ部-第4章- 蘇りし空白
4-1


 9月。特務支援課として活動するティオの傍ら、同じ建物で過ごしながらも合間合間には誰かに同伴して貰う形でウルスラ間道の浜辺で魔法(アーツ)の練習を熟す日々。稀に暴走しかけて止めて貰う事もあったが、それでも少しずつティアは魔法を使える様になっていた。……そして現在はその練習の帰り道であった。

 

「明日はミシュラムです。準備は良いですか、ティア」

 

「う、ん……みっ、しぃ……楽し、み」

 

「ですね」

 

 同伴していたティオと共に駅前通りを歩くティアは、彼女から言われた言葉に頷きながら答える。それを見てティオを微笑みながら返し、2人は同時にパンフレットを取り出した。……ミシュラムワンダーランド。略してM・W・L。とある事件を終え、身も心も疲労した特務支援課に休養としてエリィの知り合いである女性から招待があったのだ。そこは『みっしぃ』と呼ばれる猫の様なマスコットキャラの居るテーマパークであり、ティオはそのキャラクターが大好きだった。そして彼女を通じて知ったティアも、みっしぃを好きになっていた。

 

「当日は一緒に回りましょう。アトラクションを全て乗れると良いのですが……」

 

「これ、は……ゃ」

 

「ホラーコースター……ですか」

 

 パンフレットに載っている様々なアトラクションの紹介を見ていたティアがその1つを指差した。それはコースターに乗りながら迫りくるお化けを倒していくアトラクション。名前の通り怖いアトラクションであり、ティオも出来れば遠慮したいと思う。が、それと同時に想像する。一緒に乗り、守る様に銃を構える傍らで自分へしがみ付くティアの姿を。……有り体に行って、悪く無いとティオは思った。

 

 中央広場を通って特務支援課へ戻った2人はその後もミシュラムでする事を話し合う等して時間を過ごす事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水上バスで揺られながら、ティアはその甲板で流れる広大な海を眺めていた。初めて列車で見た時とは違う、海の真ん中で360度見渡せる光景は圧巻。引っ込み思案な彼女も少しだけテンションが上がっていた。少し離れた場所でロイドと特務支援課が飼っている狼、ツァイトの姿を確認しながらもキラキラと光る水面を眺め続けていた。が、離れた位置から聞こえて来る溜息に彼女は首を傾げる。……それはロイドが漏らした溜息であり、ティアはゆっくりと彼へ近づき始めた。

 

「ロ、ィド……元、気……なぃ?」

 

「! ティアか……いや、すまない。ちょっと色々あってな」

 

「ティア、ここに居ましたか」

 

「っ! ティ、オ」

 

 気付けば彼にも大分慣れる事が出来ていたティアは声を掛けるも、ティアに気付いたロイドは驚き、詳しい話はせずに何処か取り繕った様な笑顔を向けた。すると船内から甲板へ上がって来たティオがティアを見つけて声を掛け、ロイドの姿にも気付いた。

 

「……何か話していたみたいですね」

 

「いや、ちょっと俺が不甲斐なかったところをティアが心配してくれただけさ」

 

 ロイドの言葉に何度か2人を交互に見た後、「そうですか」と言ってティオはティアの手を掴むと一緒に船内へ入る。見慣れて来た光景にロイドは微笑ましくなると共に、今まで2人が離れ離れだった事を思い出した。彼が悩んでいた事は2人が過去に体験したであろう出来事と少しだけ似ており、今幸せそうに過ごす2人を見て彼は少しだけ元気を貰う事が出来る。

 

 その後、船は目的のミシュラムへ到着する。早く遊びたくてソワソワするキーアやティアを何とか落ち着かせて準備をした後、全員がテーマパーク内で解散となれば、ティアはティオと共にミシュラムのアトラクションを回り始めた。

 

「ぁ……みっ、しぃ……!」

 

「行きましょう、ティア!」

 

 途中、着ぐるみ(みっしぃ)を見つけてはしゃぐ2人。屋台で食べ物を買って食べる事もあれば、ビーチがある故にテーマパークを離れて用意した水着に着替え、砂浜で一緒にお城を作る事もあった。キーアや他の面々と一緒に遊ぶ時もあり、だが特務支援課以外にも招待されて来ていた女性達には普段通りティアは怯えてしまう。……そんな騒がしく、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行った。

 

 夕方を迎え、ティオとティアは大きなお城へと続く橋の上で夕焼けに照らされる海を眺める。

 

「楽しかったですね」

 

「う、ん……でも……疲、れた」

 

 沢山のテーマパーク。砂浜での遊び。普段以上に歩き、動いた為にティアは疲労を感じずにはいられなかった。ティオも当然同じであり、彼女の言葉を聞いて「戻りましょうか」と告げたティオは静かに手を差し出す。ティアはその手を掴み、2人は泊まる予定のホテルへ向かう事にした。するとホテルへ向かう最中、ティオは何気なくティアへ話し掛けた。

 

「また、遊びに来ましょう。……今度は2人だけでも良いかもしれませんね」

 

「ティ、オ……?」

 

 何故かティオが小さく言葉を続けた為、その真意が分からずにティアは首を傾げる。

 

 その後、無事にホテルへ戻ったティアはティオと共に夕食の会食に出る。招待した人物による挨拶等もあったが、全く面識も無い為にティオ共々黙って話の流れを見守り、やがて全員は自室で眠りに付く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。ティアは外で誰かが動き回る気配に気付いて目を覚ました。同じ布団にはティオが寝ており、ティアが起きるとの殆ど同じタイミングで彼女も目を覚ます。

 

「ティ、オ……」

 

「んんっ……何か、あったのでしょうか……?」

 

「ティオちゃん……? ティアちゃん……どうかしたの?」

 

「う、うぅん……何かありましたか?」

 

 2人が目を覚まして声を出せば、別のベッドで眠っていたエリィとノエルも目を覚ました。ティオがホテル内で誰かが動き回っていると2人へ告げれば、警戒しながらも部屋を出る事にした4人。……外を歩き回っていたのはロイド達であり、その理由は『ロイドと一緒に寝ていた筈のキーアが何処にも居ない』と言う事であった。

 

 ホテルの従業員にも協力をお願いし、宿泊場所である2階と3階を探し回る事にした面々。だがキーアの姿は何処にも無く、不安が更に募り始めた時。全員の目の前にツァイトが顔を出した。どうやらキーアの居場所が分かる様で、着いて行く事にすれば……ツァイトが誘導した場所はテーマパークへ続く扉だった。

 

「この先に居る。正し気を付けろ(・・・・・)……そう言っています」

 

「気を付けろって……」

 

「……ティ、オ……」

 

 ツァイトの言葉が何となく分かるティオの翻訳を聞いて困惑する一同。ティアも何か嫌な気配を感じて思わずティオの名前を呼び、服の裾を掴んでしまう。この先には何か危険が待っているかも知れない。そう思ったロイドはこの先へは特務支援課の面々だけで出る事にして、ティアや彼ら以外に呼ばれた者達はホテルに残る様に告げた。ティオも特務支援課のメンバー故に、ティアに「良い子で待っていて下さい」と告げて彼女もテーマパークへ。

 

 薄暗い1階でまだ慣れない人物たちと一緒に取り残されてしまったティア。不安げにテーマパークへ続く扉を見つめるその姿に数人が声を掛けるも、怯えてツァイトの傍へ隠れてしまう。だが流石に放って置く訳にはいかない。何とか遠い距離から部屋へ戻る様に説得をして、ティアは誰も居ない部屋に戻る事になった。念の為、誰か着いていた方が良いと言う話になった時。ティアが指名する様にツァイトの傍へ離れなかった為、護衛は彼である。

 

「だぃ、丈……夫……か、な?」

 

「ウォンッ!」

 

「ぅ、ん……待って、る」

 

 ティオと同じ様にツァイトの言葉が何となく分かったティアは、頷いて窓の外を眺めながら彼らの無事を祈り続ける。……やがて嫌な気配が薄れて消えて行く中、突然ツァイトが何かに気付いた様子で唸り始める。そしてティアが振り返れば、そこには人が立って居た(・・・・・・・)

 

「やぁ。久しぶりだね。いや、今は初めまして……かな?」

 

「っ!」

 

 見慣れぬ人物。何時部屋の中へ入ったのかも分からないその相手は楽しそうに笑みを浮かべながらティアへ近づき始める。するとツァイトが『止まれ』とでも言う様に吠えるが、相手は「怖い怖い」と全く怖がった様子を見せずに少し距離を取る。……そして指を鳴らした時、気付けばティアは彼の目の前に立たされていた。ツァイトは部屋の隅へ移動しており、飛び掛ろうと走り出す。

 

「別に今のままでも良いんだけどね。どうせなら面白くなりそうだから、ね」

 

「ぇ……ぁ、ぅ……」

 

 大きく跳躍してツァイトは飛び掛った。だがその攻撃が届くよりも早く、その人物はティア諸共消え去ってしまう。部屋の中には『その内返すから安心して良いよ』と言う言葉が木魂し、その日を境にティアはクロスベルから姿を消した。

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