断-1
某月某日。鉄騎隊の3人はティアを連れてある人物の元へ訪れていた。
パンタグリュエルでの出来事の後、ある人物の怒りを買ってしまったヴィータ達。その怒りは今の今まで同じ艦に居たティアの存在にも触れられ、ティアはその場所に居続ける事が出来なくなってしまった。
デュバリィと共に行動する様になり、時には1人で待つ様にもなったティアは幾日もの寂しい時間を過ごし……今日この日、再会出来るであろう人物に期待と恐怖を半々に抱いていた。そんなティアの様子に気付き、「大丈夫よ」と優しく励ますエンネア。やがて到着した扉を前に、デュバリィが振り返ってティアへ視線を向ける。
「着きましたわ。ティア、覚悟は宜しいですわね?」
「うん……」
「……では。マスター。ティアを連れて参りました」
『分かりました。入りなさい』
ノックをして扉越しに中へデュバリィが語り掛ければ、帰って来るのはティアに聞き覚えのある声だった。再びティアへ視線を向けた後、「失礼します」と言って扉を開けたデュバリィ。……その向こうに広がる部屋の中に、その人物は座っていた。
「……ぁ……」
「久しぶりですね、ティア」
「ママ……」
「……我慢する必要はありませんよ。来なさい」
「っ! ママっ!」
3人と共に入室したティアは目の前に立つ綺麗な女性の姿に弱々しく口を開いた。すると耳心地の良い声と優しい笑みを浮かべて少しだけ体勢を低くし、両手を受け入れる様に広げる姿を前にティアは目に涙を浮かべながら飛び出した。小さな身体で行われた突進を難なく受け止めた女性は静かに、唯優しくティアの頭を撫で始める。
「デュバリィ。長い間、任せてしまいましたね」
「い、いえ。大分成長していましたので、言う程に苦ではありませんでした」
「そうですか……僅か1年半でしたが、決して無駄では無かった様ですね」
「マ、マ……ママは……ティアの、事……嫌いに、なったの?」
「……そうではありませんよ。唯……あのままでは。私達や一部の者としか話を出来ないままでは貴女の為にならなかった。それだけです」
「あう……今も、まだ……」
「それでも、沢山の人達と出会った筈です。本来ならそのまま……いえ、もう過ぎた話ですね」
ティアの質問に答える女性。デュバリィ達がマスターと慕い、ティアが嘗て自分を拾ってくれた事で『ママ』と呼ぶ様になった人物……アリアンロード。普段は凛々しい姿ばかりを見ているが故に、ティアへ向ける優しい表情にデュバリィ達は目を奪われていた。
その後、今までティアの元で起きた出来事を報告する事になったデュバリィ。彼女が自らの意思で自分達の元へ戻って来た事を聞いたアリアンロードは目を閉じて何かを考えた後、ティアを見てから3人へ告げる。
「デュバリィ。エンネア。アイネス。分かっていますね」
「勿論です。ティアが此方に残ると決めた以上、我々に出来る事は……」
アリアンロードとの再会から数日。その日、ティアはまた別の人物と再会する事になる。
「あれ? ティアじゃん! どうしてここに居るの?」
「っ! シャー、リィ……?」
それは嘗てクロスベルで出会った少女、シャーリィだった。現在ティアが居る場所はティアにも良く分かっていないが、唯一分かる事がある。それはとある組織の一員かその関係者である事。この場に現れたシャーリィの姿に驚くしか無かったティアだが、そんな彼女の困惑など気にもせずにシャーリィはその周囲を初めて出会った時と同じ様に回る。
「ティアも結社の人間なの?」
「そうではありませんわ」
「? 誰?」
シャーリィの質問に答えたのは、ティアの傍に実は最初から立って居たデュバリィだった。ティアにばかり目をやっていて一切気付いていなかったシャーリィ。今気付いた様子を見せる彼女にデュバリィは僅かに顔を引き攣らせながら、ティアがアリアンロードに拾われた自分と同じ様な存在である事を自己紹介も交えて告げる。するとシャーリィはアリアンロードを見た事があるのだろう。「あの人か~」と上を向きながら呟いた後、デュバリィへ視線を向けた。
「あの人の部下って事は、
「っ!」
だが向けられたのは視線だけでは無かった。途轍もない殺気とまるで獣が獲物を見定める様な眼光に思わず驚き構えるデュバリィ。自分に向けられていない事でデュバリィの様子にティアは首を傾げるが、シャーリィは構わずジッとデュバリィを凝視し続ける。……が、やがて視線を外して再びティアへ向けたその表情は少女らしい可愛いものだった。
「ティア、この前お人形作ってたじゃん? あれ、もう1回見せて欲しいんだけど?」
「うん……お部屋に、ある、から」
「それじゃあティアのお部屋に行こっか?」
「あ、あわわ……」
「な、なんでしたの……今のは。っ! ティア!?」
「案内よろしくね!」
「あう、デュバリィ……」
「貴女、ティアを何処へ連れて行く気ですの!?」
デュバリィが落ち着いている内に話は進み、シャーリィに抱えられて移動する事になってしまったティア。我に返ったデュバリィの声も空しく、ティアはシャーリィに抱えられたまま部屋へ導く事になってしまった。
「準備は宜しいですね?」
「うん……頑、張るっ!」
デュバリィ達が普段、任務の無い時に使っている修練場があった。素振りや模擬戦等を行うその場所で、怯えながらも両手を胸の前で握って答えるティアと普段の優しさを感じさせない厳しい雰囲気を見せるデュバリィが対峙していた。少し離れたデュバリィの背後にはエンネアとアイネスが武器を手に何時でも動ける姿勢のまま待機しており、デュバリィはゆっくり剣と盾を構える。
「まずは今、使える
その言葉を聞いて頷いたティアはARCUSでは無く、自らの力を使って魔法を発動する。過去に戦って来た相手の中に、魔法を駆動無しで発動する人物を知らないデュバリィ。ティアが両手を前に出すと同時に彼女の目の前に出現する炎の弾に一瞬驚き、だが軽く身体を横に移動させるだけで回避する。……背後にいたアイネスが軽々と迫る炎をハルバードで切り散らした。
「えいっ! えいっ! えいっ!」
「っ!」
攻撃はそれで終わらない。『手を握って引っ込めた後に突き出して開く』を両手で交互に繰り返したティア。すると彼女の目前に水の刃が生まれ、デュバリィの足元から鋭い岩が。天からは雷が飛来する。が、それも軽々と回避したデュバリィ。そんな彼女の足元に僅かな風が生まれ始める。そして何かに気付いた様子で素早くその場から今まで以上に大きく距離を取った時、先程まで立って居た場所を中心に竜巻が生まれた。
「なるほど。確かに生身で魔法を使えれば兵器にもなり得る、なっ!」
「それをまだ3歳の幼い子に植え付ける彼らの気が知れないわ。知りたくも、無いっ!」
アイネスとエンネアはティアの発動する魔法を眺めて言葉を交わしながらも、デュバリィが避けた事で時に自分へ飛んで来る風の刃をアイネスが切り散らし、時に自分へ浮かびながら迫る銀の剣をエンネアが矢を放って相殺する。そして何度も繰り返される魔法を眺め続けていた時、それは起こった。
「あ、う……『あぁぁぁぁ!』」
「暴走か」
「魔法の連続使用。予想通りですわね」
「ティアちゃん。今、助けるわ」
2人が待機していた理由はティアの魔法を見る為でもあったが、それ以上にティアが暴走した際に素早く抑える為でもあった。20以上を超える魔法を使用した後に暴走する姿を前に、デュバリィが呟きながら一歩足を後ろに下げて姿勢を低くする。ハルバードを構えるアイネスと弓に矢を番えるエンネアを背後に、デュバリィは動き出した。……瞬く間にティアの目の前に立った彼女は剣の峰でティアへ攻撃を加える。が、彼女の周りを守る様に囲む薄い膜がそれを防いだ。
「マスタークオーツ……だけじゃ無さそうですわね」
「恐らく魔法の障壁が展開している。ティアを抑えるには障壁を破るか」
「彼女の体力が尽きて意識を失う、ね。どちらにしても、ティアちゃんが苦しい思いをするのは避けられないわ」
「なら、出来る限り早く終わらせてやりますわ! アイネス、エンネア! 行きますわよ!」
反撃の魔法を避け乍ら距離を取ったデュバリィは2人と会話をして、再び動き始めた。そして5分も満たない時間の末、ティアが修練場に眠る様な姿で倒れる姿が3人の前に映るのだった。