【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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断-2

「似、合う……かな?」

 

「もうバッチリよ!」

 

「ふむ、良いのでは無いか?」

 

「えぇ、悪くありませんわね」

 

 ティアはその日、着慣れぬ服に身を包んでいた。肩の見える白いワンピースに腰回りにある大きな薄水色のリボン。太腿や肩にまでそのリボンは伸びており、巻く事で生地がずれない様にしてあった。下は膝近くまでしか無く、スカート状になっているその場所を押さえて少し恥ずかしそうにお披露目するティアを前にエンネアは感極まった様子で答えた。その傍で同じ様に見ていたアイネスとデュバリィも悪く無い印象を持った様だ。

 

「ティアちゃんの服、少なかったから。何時か用意したかったのよね」

 

「姉のお古とⅦ組の制服、くらいですわね」

 

「前者はともかく、後者はもう着ないかも知れんな」

 

「でも、捨てない、よ? 大事な、思い出、だから」

 

 最後にⅦ組の仲間達と出会ったのはパンタグリュエルの甲板。余り良い別れ方を出来なかったが、それでもティアにとってⅦ組の面々は数少ない話せる者達であった。短い日々とは言え、思い出もある。故にその証である赤い制服を手放す気は無かった。

 

「一応、何着か用意したわ!」

 

「……全部同じですわね」

 

「あり、がとう」

 

 何処からともなく同じ服を両手に取り出したエンネア。余りにも強い同じ服の押しにデュバリィが僅かに引く中、ティアは彼女へお礼を言った。……それからティアの主な服装は彼女の用意したものとなる。

 

 着替えた服装のまま1日を過ごす事になったティア。シャーリィには『可愛い』と褒められ、アリアンロードには優しく頭を撫でられ、基本的にエンネアの用意した服の受けは悪く無かった。

 

「ヴィータ、も……褒めて、くれる、かな?」

 

 ティアは数日前、久しぶりに再会したヴィータの姿を思い出した。再会した彼女の表情はとても暗く、ティアの姿を見て優しい笑みを浮かべていたものの、それが無理に作られたものだとティアにはすぐに分かった。元気が無いと分かり、心配するティアにヴィータは一度その身体を抱きしめた後、弱々し気に彼女はティアへ告げた。

 

『しばらく、会えなくなるわ。言葉の勉強はお休みね』

 

『何処か、行くの?』

 

『えぇ。とても遠いところよ。……また何時か、会いましょう』

 

 それが彼女と交わした最後の言葉だった。やがて彼女は姿を見せなくなり、ティアはデュバリィ達に質問した事もある。が、3人は言葉を濁すばかり。会えなくなった事で寂しさを感じ乍らも、『また』と言う言葉を信じて何時かの再会をティアは願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ……」

 

「……」

 

 その日、ティアはアリアンロードへとあるお願いをしていた。静かに目を閉じて考えるアリアンロードに答えを待ち続けるティア。やがて目を開いたアリアンロードはティアと目を合わせ、頷いて「良いでしょう」と答える。

 

 それから突然マスターである彼女によって呼ばれた鉄騎隊。片膝を突く彼女達へ、アリアンロードは告げる。

 

「デュバリィ、エンネア、アイネス。今から貴女達にはティアと一緒に出て貰います」

 

「ティアと一緒に、ですか?」

 

「えぇ。今回は任務、と言うよりもティアの滅多にない我儘ですから」

 

 3人の視線が一斉にティアへ向けられる。余り我儘を言う様な子で無い事は知っている3人。故にそんな彼女が我儘を言ってまでしたい事が何か気になると同時に、デュバリィは少しだけマスターであるアリアンロードへ我儘を言った事実に叱るべきか考える。すると、ティアが1枚の紙を持って3人へ近づいた。そしてそれを両手で広げ、見せる様にして告げる。

 

「友達、に……会いたい、の。お願い」

 

 彼女の持つそれは帝国等で起きた記事が掲載される帝国時報。そしてその1面には『最年少の正遊撃士誕生!』と大きく書かれており、移った写真には何処か見覚えのある少し成長した少女が写っていた。

 

「おめ、でとう。って、言いたい、から」

 

「ティア……」

 

 顔が割れている以上、出会えば仲良くお話と言う訳にいかないだろう。だがそれでもお願いするティアの姿にデュバリィはアリアンロードを見る。彼女はデュバリィの視線に気付いて静かに頷いて返し、それを見てデュバリィは分かり易く溜息をついた。

 

「仕方ありませんわね。ティア、出掛ける準備を」

 

「! デュバリィ!」

 

「ちょっ! 苦しいですわよっ!」

 

「そう言う事なら、大人数で行っても警戒されるだけだろう」

 

「そうね。今彼女が居る場所は見つけて置くから……デュバリィ、頼んだわ」

 

「あ、貴女達!? ティア! 何時まで抱き着いてるつもりですの!?」

 

 デュバリィの言葉に喜び、飛びついたティア。そんな彼女に慌てる中、アイネスとエンネアの言葉で1人でティアと行く事になってしまったデュバリィは抗議の声を上げる。が、結局ティアと2人で行く事になってしまったデュバリィ。落ち着かせて準備をする中、ふと何処でティアの友達の情報を知ったのか質問した。

 

「シャーリィ、が……教えて、くれた」

 

 その答えに今度、彼女がしつこい程に好きな模擬戦で少し本気で行く事を心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。とある街の宿に居たフィーは、窓の外から夜空を眺めていた。

 

 様々な戦いを経て、特例でトールズ士官学院を卒業。サラとトヴァルと共にシノプスと呼ばれる場所で活動した後、数日前に晴れて正遊撃士となった彼女は、今でも自分を置いて行ってしまった仲間達を。そしてティアを探し続けていた。少なくとも後者は結社の人間と行動している可能性が高いと分かっているため、今以上に自由になって何時かは追い掛けられる様になりたいと思っていたフィー。……そんな彼女の思いを裏切る様に、唐突に再会の時は訪れる。

 

「っ! 誰」

 

 突然部屋の中に紫色の光が出現。何処か見覚えのあるそれに警戒する中、やがて姿を現したのは……ティアとデュバリィだった。フィーが驚き戸惑う中、何処か怯えた様子で目を瞑っていたティアへ先に目を開けてフィーを確認したデュバリィが「もう大丈夫ですわよ」と声を掛ける。言われてゆっくり目を開いた彼女は、フィーと目を合わせた。

 

「フィー……!」

 

「ティ、ア……」

 

 喜び近づくティアと、まだ現状に理解が追い付かないフィー。そんな彼女へ突きつける様に、デュバリィが告げた。

 

「お邪魔しますわ。ティアがどうしてもと言うから、連れて参りましたわ。時間は余りありませんので、話すなら手短に済ませる事ですわね」

 

「あの、ね。これ、見たの。だから、その……おめでとう。フィー」

 

 デュバリィ達にも見せたフィーの写る帝国時報の紙を両手で広げ、伝えたかった事を告げたティア。フィーは再び驚き、それと同時に少し姿勢を下げてティアの身体を抱きしめた。

 

「ありがとう、ティア」

 

「う、ん……うん!」

 

 気付けば1年以上会っていなかった故か、ティアはフィーの抱擁を受けて涙を流してしまう。デュバリィが邪魔をしない様にと部屋の入り口で気配を消して見守る中、ティアの両肩を掴んで抱擁を止めたフィーは足先から頭の天辺までを一望する。

 

「成長、してないね」

 

「そうなの、かな? フィー、は……大きく、なってる、ね」

 

「ん。少しね。……ティア。あの時、どうして向こうに行ったの?」

 

 ティアの姿はフィーの知るそのままだった。身長を始め、身体的などの部分も変わりがない。反対にティアから見るフィーは大きく成長していた。身長も伸び、髪を伸ばした事で少し大人になった様にも見えるフィー。大人なら怖がる対象になってしまうが、彼女の場合は当然別である。そうしてお互いの成長について話をした後、フィーは扉の前に立つデュバリィを一度見てから遂に質問した。……それはフィーが知りたかった事。ティアはその質問にあの時の別れ方を思い出して、何処か申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ママに、会い、たかった、の」

 

「ママ? ティアの両親はレミフェリアに居るって、サラが言ってた筈」

 

「ううん、違うの。トヴァルと会う、前。助けてくれた、人」

 

「それって……」

 

「ティア。そろそろ時間ですわ。長居すると、マスターに迷惑が掛かる可能性もありますわ」

 

「ママ、に? うん」

 

 フィーがティアの言葉を聞いて彼女が忘れていた筈の過去を思い出したと悟る中、デュバリィの言葉によってティアはフィーから離れる。出来る事なら引き止めたい。そう思いながらも、数人がかりで戦ったデュバリィに1人で勝てる確証がフィーには無かった。真夜中故に騒ぎにする訳にも行かず、再び紫色の光る足元へ入ったティアをフィーは見続ける。

 

「フィー、またね」

 

「ん。また。……今度はこっちから、会いに行く」

 

「それでは、お邪魔しましたわ」

 

 手を振るティアに振り返し、デュバリィの言葉と共に消え去る2人を見送ったフィー。思わぬ形で出来た再会と、ティアが自分達を選ばなかった事実を知った彼女は後日行動を共にするサラとトヴァルへそれを伝えた。……デュバリィのマスター、鋼の聖女と呼ばれる人物がティアの『ママ』かも知れないと言う事実に話を聞いた2人は頭を抱える事になった。




※ティアの服装のイメージが上手く伝わらなかった方へ。

【TOZ エドナ】

上記の色違いをご想像、又はご検索ください。……表現下手で申し訳ありません。

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