【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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先に断っておきます。閃の軌跡Ⅲ~Ⅳ前半までの時系列は猛スピードで進みます。書く事、無い。


第Ⅱ部-第5章- ~初陣~ 白亜の旧都
5-1


 4月下旬。白亜の旧都、セントアーク。そう呼ばれる街にティアはデュバリィ、シャーリィと共に来ていた。元々はティア以外の2人に任務があり、ティアはデュバリィが世話係をしているが故に付いて来たのである。

 

 久しぶりとも言える知らない街への来訪。行き交う人に少しだけ怯えながらも、昔の様に逃げも隠れもせずに2人の隣を歩いていたティア。途中で露店を見つければ、シャーリィが購入してティアに渡す場面もそこにはあった。

 

 デュバリィもシャーリィも遊びに来た訳では無い。故に2人は話をした後、ティアをシャーリィが預かってデュバリィは別行動を取る事になった。すると一度大きく伸びをしたシャーリィは、今以上に羽目を外す為に街を歩き始める。……ティアの手を引いて。

 

「そう言えば、この前作ってくれた奴。あったじゃん?」

 

「? えっと……これの、事?」

 

「そうそう。私の人形。いやぁ、中々可愛いよね……ねぇ、ティアは自分の人形は作らないの?」

 

「自分、の……?」

 

「ティアの人形があったら私欲しいけどねぇ。今度作って見ない?」

 

「自分、は……難しい、かも」

 

 既にパンタグリュエルでの出来事から1年半近く。その間も変わらずに人形を作り続けていたティアは、気付けば大量の人形を抱えていた、フィー、サラ、トヴァル、ティオ、デュバリィ、シャーリィ、アリアンロード。等々、ティアにとって信頼出来る相手となった証でもある人形。シャーリィはその存在を知るが故に、ティアがティア自身の人形を作らないかと提案する。あわよくば、それが手に入る事がシャーリィの狙いでもあった。

 

「あ……猫」

 

「お、可愛い猫。ほら、おいでおいで!」

 

 話をしていた時、ふとティアが街中で猫を見つける。首輪の付いた様子から恐らく何処かの家で飼われている猫。人慣れしている様子で、シャーリィの招きに鳴き声を上げながら猫は近寄り始める。やがてシャーリィの腕に抱かれれば、そのまま流れる様に彼女はティアへ猫を渡した。

 

「……可愛い、ね」

 

「本当だね。うん、眼福眼福♪」

 

「?」

 

 胸に猫を抱えながら愛でるティアの姿を前に、シャーリィは頷きながら笑顔で1人と1匹の光景を眺める。彼女の言葉は猫だけに限定していない様で、だがティアがそれを知る事は無かった。

 

 ふと、猫が急にティアの腕の中から飛び出して移動を開始する。すると猫にまるで釣られるかの様にティアも移動を始めてしまった。猫に夢中の彼女が周囲の人間を気にする素振りは無く、シャーリィは楽しそうにそれを追い掛ける。……が、猫とティアが人混みに紛れてしまった事で気を抜いていたシャーリィは1人と1匹を見失ってしまう。

 

「あぁ~、不味いかも?」

 

 何時まで猫に夢中かも分からないティア。もし我に返ってシャーリィもデュバリィも居ない状況で1人だけ人混みに取り残されてしまえば、不安に押し潰される可能性がある。最悪、暴走の可能性も0では無い。1年以上の付き合いでティアのメンタルの弱さを知ったシャーリィは猫とティアを探す事に。……すると、その途中で4人組の男女と遭遇する事になった。何とその4人は猫を探しており、飼い主の元へ連れて帰りたいとの事。先程までそれらしき猫と一緒に居た事を伝え、シャーリィは思い出す様に続けた。

 

「飼い猫みたいだったし、ご主人の元に帰ろうとしたのかもね。あ、ところで私も人を探してるんだよね。これくらいの身長で薄水色の髪をした子なんだけど」

 

「薄水色……?」

 

「僕は見て無いな」

 

「私も。えっと、迷子ですか?」

 

「ま、そんなところかな。そっちも見つかると良いね」

 

「お互いに。ご協力、ありがとうございました」

 

 シャーリィが示した身長は4人の中で一番背の低い銀髪の少女よりも低く、何か気になった様子で首を傾げる少女を横目に別の少年少女が答える。そしてシャーリィの答えに黒髪の青年が答え、彼女は4人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。猫を見失ったティアは見知らぬ人達しか居ない周囲に怯えてしまっていた。移動する事も出来ず、唯只管にシャーリィかデュバリィの姿を必死に探し続けていたティア。すると人混みの中から1人の女性がティアに気付き、驚いた様子で近づき始める。

 

「もしかして、ティアちゃん?」

 

「っ! あぅ……」

 

「あぁ、御免御免。……私の事、覚えて無いかな? 覚えて、無いよね……あはは」

 

「…………ヴィ、ヴィ?」

 

「そう! 覚えててくれたんだ!」

 

 何処か活気のある笑顔で話し掛けるその姿にティアは見覚えがあった。故に過去の出来事を必死に思い返す中で、数ヵ月だけ在籍していた士官学院での出来事を思い出す。

 

 2度目の特別実習後、試験の為に勉強に忙しかった日々。だがそれも終わった後、トリスタを離れるまでの数日間、彼女は1人の少女を初めとして何人かのⅦ組以外の生徒と話をする機会があった。当然最初は逃げていたが、何故か行く先々に現れる少女達。まるで誰かから教えられた(・・・・・・・・・)様に先回りされ続け、怯えながらも徐々に話せる様になった出来事。仲が良いと言える程に打ち解ける事は出来なかったが、名前を覚える程度には印象深かったのだろう。……それ程怖かったのかもしれない。

 

「まさかこんな所で会うなんてね。さっきはリィン君達にも会ったし、今日は良い日かも♪」

 

「リィン……? ここに、来てるの?」

 

「あれ? まだ会って無い? う~ん、結構忙しそうだったし……そう易々連絡は出来ないかなぁ」

 

 ヴィヴィの言葉に驚いた様子で反応するティア。それを見て連絡するか考えたヴィヴィだが、彼が士官学院を卒業後に就いた職業を知るが故に悩んだ末、連絡をしない事にした。実はとあるお願いをしていた為、その時にでも。と考えて、ヴィヴィは気になった事をティアへ質問した。

 

「ティアちゃん、どうしてこの街に?」

 

「えっと、その……付き、添い?」

 

「ティアの場合、付き添われた側じゃない?」

 

「っ! えっと……貴女は?」

 

 ヴィヴィの質問にティアが答えれば、全く別の人物が言葉を続けた事でヴィヴィは驚きながら視線を向ける。そこにはティアが逸れてしまったシャーリィが居り、彼女に気付いたティアは駆け足でその傍へ近づいた。明らかに彼女へ懐いている姿に、少なくとも怪しい人物では無いと思ったヴィヴィ。2人の様子を見て、ティアは彼女に付いて来たのだとヴィヴィは理解した。

 

「もしかして、ティアちゃんのお姉さん?」

 

「う~ん、そんな感じかもね。何というか、立場的には?」

 

「? 何か良く分かんないけど、1人じゃないなら安心だね。じゃ、またね! ティアちゃん」

 

「うん……また、ね」

 

 保護者が居るならと安心し、その場を去るヴィヴィ。無事にシャーリィと合流する事も出来た事で、ティアは心底安心する。そして再び逸れない様に手を繋いで街を歩こうとする中、シャーリィの持つ端末に通信が入る。……その相手は別行動をしていたデュバリィからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の夜、仕掛けるとして……ティアはどうしますの?」

 

「一緒に行けば? 居るのが分かってれば守れるし、ティア自身も魔法で戦える。大丈夫だと思うけど?」

 

「戦力的な話では無く、襲う相手が相手ですのよ?」

 

 南サザーラント街道。そこでデュバリィと合流した2人だが、この日の夜に行う事について話をする中でティアの存在が問題となってしまう。シャーリィの言う様に、戦う事は十分出来る程に魔法を扱える様になったティア。だがデュバリィが感じる問題はそこでは無かった。……彼女達は今日、とある士官学院の演習地となっている場所を襲うつもりだった。しかしそこに居るのはティアと関わりのある者が数名。その全員とデュバリィは顔見知りでもあり、別の不安を抱えずにはいられなかった。

 

「邪魔、しない……様に、する」

 

「……ティア。貴女の知り合いを襲うのですよ? 本当に大丈夫ですの?」

 

「あぅ……」

 

 ヴィヴィにリィンが来ていると聞いた後、2人の会話で襲う場所の話をする際にシャーリィが頻りに灰の(・・)と言う言葉を繰り返していたのを聞いていたティア。フィーの時同様、帝国時報を稀に誰かを通じて見る事があった彼女はリィンが灰色の騎士(・・・・・)と呼ばれている事を知っていた。故にデュバリィの言う知り合いとはリィンの事だと分かったティアは、弱々しく声を漏らすのみだった。そんな彼女の様子にデュバリィはシャーリィへ視線を送り、両手を広げて首を傾げる姿に溜息をつくしかなかった。

アリアンロードの結末について

  • 原作通りに退場
  • 『ママ』として残る

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