【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 同日。夜。南サザーラント街道には、トールズ士官学院第Ⅱ分校の生徒達が集う演習地があった。明るい内は列車を傍に生徒達が教官と共に行動していたが、今は違う。多数の人形兵器と生徒達が相対しており、正しくそこは戦場と化していた。

 

 そして地上が戦場となる中、列車の上に立つのは襲撃犯の1人であるシャーリィと……助太刀として現れたフィー。楽しそうにシャーリィが武器を構えてフィーへ声を掛ける中、掛けられた当の本人と言えば、少し離れた位置で戦場を眺めるデュバリィへ視線を向けていた。

 

「余所見しないでよね!」

 

「っ! はぁ、面倒だな……」

 

 フィーが自分を気にも留めない事が気に食わなかったシャーリィは、容赦無く彼女に向けて銃撃を仕掛ける。だがそれを素早く回避してフィーがシャーリィへジト目を向ける中、ようやく自分を気にする様になった彼女を前にシャーリィは何かを思い出した様に「そうだ」と口を開いた。そして突然フィーの前にそれを取り出し、転がす。

 

「あー、手が滑ったー……ってね」

 

「……これ……」

 

 フィーの前に転がり落ちたのは、シャーリィを模した人形。だがその作りや形は何処かで見た事があり、思わずそれを拾い上げた。……するとニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、シャーリィは告げる。

 

「友達が作ってくれたんだよね~。因みに今度、本人の人形を貰う予定だったりして?」

 

「……」

 

 その声音は明らかに煽っていた。そして煽られたフィーは拾った人形をシャーリィへ投げて返す。受け取って邪魔にならない様、シャーリィがそれをしまって再び相対せば、フィーの視線はもうデュバリィへ向けられる事は無かった。

 

「1つだけ教えて。……ティアはここに来てるの?」

 

「ここには来てないけど、近くには居るよ。連れて来るか迷ったけど、結局留守番になったんだよね」

 

「そっか……なら、約束は守れそうかな」

 

「約束?」

 

 シャーリィの聞き返しにフィーは静かに武器を構える。そしてそれを身体の前で交差する様に構え、一瞬でシャーリィの目の前に立った。が、軽く下がって回避するシャーリィ。距離を取りながら銃撃を仕掛ければ、フィーも撃ち返す事で弾丸と弾丸がぶつかり合う。

 

「今度は、私から会いに行く……約束」

 

 その答えと同時に2人の戦いは激しくなり始める。

 

 その頃、盾と剣を構えながらデュバリィは列車の上で戦うシャーリィに苛立っていた。

 

「何で私が御守を……子供はティアだけで十分ですわ!」

 

≪!≫

 

 それは思わず零した本音。しかし彼女の言葉に、出た名前に反応する者がこの場には大勢居た。そしてデュバリィがシャーリィと同じく襲撃犯として行動を開始しようとした時、それを妨害する様に彼女は現れる。光を纏った大剣から放たれる一撃を盾で防ぎながらも、その威力故に後ろへ下がるデュバリィは憎々し気に彼女と相対した。

 

「ラウラ・アルゼイド。皆伝に至りましたわね」

 

「お蔭様でな。これで其方達とも対等に渡り合える。……教えて貰おう、ティア(彼女)の事を」

 

「ぐっ、生意気な……絶対に教えてやりませんわ! そっちも小腹を満たしたなら、さっさと戻りなさい!」

 

「あぁ~あ。良いところだったんだけどなぁ~」

 

 デュバリィの言葉にフィーとの戦闘を中断し、列車から軽々と高い丘の上に移動したシャーリィ。同じ様にデュバリィも移動すると、警告を告げてその場を後にしてしまう。……そして残ったのは多大なる怪我人等の被害を受けた演習地。急いで生徒達の手当や被害状況を確認する中、リィンは助太刀に来たフィーとラウラ。そしてエリオットと話をする。再会を喜ぶも談笑する余裕は無い。3人の協力も経て何とか落ち着きを取り戻す中、フィーがシャーリィから聞いた情報をリィンや彼と共に教官を務める男性、ランディへ告げた。

 

「そうか。そうだったな。あいつは元々、お前さん達と一緒に居たんだったな」

 

「えぇ。……ランドルフ教官はクロスベルでティアと会った事があるんでしたね」

 

「あぁ。つってもあんまり懐かれちゃいなかったがな」

 

 ランディはティオと同じ特務支援課の一員だった。故にクロスベルでのティアを知っており、今もその姉が血眼になって探している事も知っている。……故に彼女の口から放たれた名前に反応した1人でもあった。

 

「ティアは近くに居る。そう言ってた」

 

「もしかしたら、会えるかも知れないね。そうすればどうして向こうに行っちゃったのか知る事も出来るかも」

 

「そうだな」

 

「……あ、言って無かった」

 

「おいおい、何の話だよ?」

 

 ランディが知るのは結社の人間、道化師カンパネルラに攫われた可能性があると言うところまで。故にリィン達が説明をした後、続ける様にフィーがティアと数ヵ月前に再会していた事を伝える。驚かれる中、更に驚くべき事実は結社の人間に『ママ』と慕う存在が居る事。それがデュバリィがマスターと慕う人物である事。……そこで次に驚いたのはランディだった。リィン達はデュバリィの口でしかその存在を知らない。が、ランディは嘗て鋼の聖女アリアンロードと戦った事すらあったからだ。

 

「どんな人物何ですか?」

 

「第一印象で言うなら、滅茶苦茶好みの美人なお姉様、だな」

 

 思っていたのと違う感想に話を聞いていた4人が肩を落とす中、夜は明けて行く。そして朝を迎えた頃、リィンは助太刀に来た3人と共に演習地を出る事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、中々楽しめたね」

 

「全く。勝手に飛び出さないで欲しいですわね」

 

「御免御免って」

 

「……お帰り……怪我は、無い?」

 

 そこは既に人の居ない廃村。頭の後ろに手を回して反省の色を見せないシャーリィへデュバリィが再び苛立ちを見せる中、気配に気付いた事でティアが2人を出迎えた。そして怪我が無いかを確認して、念の為にと治療の魔法を発動するティアに思わず2人は顔を見合わせてしまう。……分かってはいたものの、自分達が愛されていると感じたのだ。慣れない感じにシャーリィが頬を掻き、デュバリィが少し恥ずかしそうにする中、ティアは笑顔で「もう、大丈夫」と告げた。

 

「実験は今日。恐らく、シュバルツァーを初めとした旧Ⅶ組が邪魔しに来ますわね」

 

「だろうね。流石に次はティアも一緒かな」

 

「戦う、の?」

 

「えぇ。避けられませんわ」

 

 デュバリィの言葉に少し悲しそうにしながらも、予めその可能性を言われ続けていた為にティアは頷いた。昨日と違い、もう先延ばしにも出来ない。来るであろう彼らや目的に備え、3人は行動を開始する。

 

 それからしばらく。デュバリィとシャーリィの元に様々な人物が合流する。別行動していたアイネスやエンネアに、シャーリィが結社と両立して率いている猟兵、赤い星座の者達。余り彼らと鉄騎隊の仲は良いとは言えず、殆どが男故かティアも怖がって近づこうとはしなかった。

 

「それでは、手筈通りに(わたくし)と彼女とティアで旧Ⅶ組と交戦しますわ。覚悟は良いですわね」

 

「ティアは今回が初の実戦なんだよね。私も初めての時は……ワクワクしたよね」

 

「根っからの戦闘狂、か」

 

「ティアちゃん、無理しちゃ駄目よ?」

 

「うん……頑張、る」

 

 常に世話役として鉄騎隊の誰かと一緒に居るティアだが、何時までもお荷物と言う訳にも行かなかった。ティア自身も邪魔になっている事を感じており、それ故に決まった事。……それはデュバリィ達の様にティアも任務に参加。手伝いをする事。魔法の扱いも大分上達している為、長い相談期間を経て決まった任務の手伝い。その最初が今回の任務でもあった。

 

 アイネス、エンネア、赤い星座の者達を下がらせて廃村で待ち続ける事しばらく。ティアが真っ先に彼らの気配を感じ取った事でデュバリィ達は廃村の奥へ。小さく建てられたお墓に近づいた。これから騒がしくする事への謝罪や亡き者達への祈りを捧げる中、ティアの感じていた気配はすぐ近くにまで迫った。……そして、彼女達は再会する。

 

「っ!」

 

「……」

 

 場所が場所故に今は言葉を控え、彼らも祈りを捧げる。……そして廃村から出た広い場所で、改めて3人はリィン・エリオット・ラウラ・フィー。そしてもう1人長身の男性と相対した。

 

 リィン達の目的は結社が何をしようとしているのかを知る事。故にシャーリィやデュバリィへ質問するも、その答えが容易く返って来る事は無かった。そして2人との話を終えた事で、全員の視線がティアへ注がれる。

 

「あいつがお前さん達の探してる子供か?」

 

「はい。……ティア。色々聞きたい事はあるが、少なくとも其方側(・・・)である事は間違い無いんだな」

 

「あう……うん。私……リィン、達と……戦う」

 

「それは其方のママ、鋼の聖女殿からの指示か?」

 

「違う……ママは、戦わ、なくて、良いって。でも……何時も、守られてる。……嫌、だから。私、も……戦う、の!」

 

 ティアの答えにリィン達だけでなく、デュバリィも絶句してしまう。シャーリィだけが楽し気に笑みを浮かべる中、リィンが思わず頬を掻いてティアへ視線を向ける。……思う事はティアを知らない男性以外、全員同じだった。

 

「何と言うか……」

 

「この1年と少々の間、其方も成長したのだな」

 

「見た目は変わらないけど」

 

「あはは。なんか、ちょっと嬉しいね」

 

「おいおい、一気に和やかになりやがって。戦い難いったらありゃしねぇ」

 

 戦う事も出来ず、フィーやサラの後ろのに隠れていたばかりの少女の目に見える成長。それを実感すると共に、今から始まる戦いを。ティアとの対立を避けられないとリィン達は改めて理解した。やがて話が終わったのを合図に、改めてシャーリィが。デュバリィが。そしてティアが両手を握って胸の前に寄せる形で構える。

 

「それじゃあ、始めよっか!」

 

「精々、粘る事ですわね!」

 

「……行くよ……!」

 

 彼女達の言葉を最後に、話し合いの場は一瞬にして戦場と化した。

アリアンロードの結末について

  • 原作通りに退場
  • 『ママ』として残る

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