6-1
6月中旬。海都オルディスの傍にあるアウロス海岸道では、海を見る事も海岸で遊ぶ事も出来る場所があった。但し魔獣が徘徊している為、注意が必要である。
任務の為にやって来た鉄騎隊に着いて来る形でオルディスへやって来たティアは、砂浜で広大な海を眺めていた。……傍に居るのは鉄騎隊の3人。何処か目を輝かして海を眺めるティアの姿を後ろから眺めながら、彼女達も同じ様に広大な海の景色を見ていた。
「ティア、そろそろ行きますわよ。マスターが待ってますわ」
「うん」
デュバリィの言葉に海の景色へ後ろ髪を引かれつつ、ティアは3人の元へ近づいた。そして4人が向かった先は、同じく広大な海が見えるもアウロス海岸道とは違い、街にも他の地域にも通じる道が無い孤島……ブリオニア島。
「っ! あう……」
「ティアちゃん!?」
「どうした? 頭が痛いのか?」
「う、ん……なん、だろう?」
「風邪でも引きましたの?」
島へ上陸した時、ティアは突然頭を押さえて蹲ってしまう。その様子に驚き心配するエンネアと、声を掛けるアイネス。ティアが感じる痛みはそれ程強く無い様で、徐々に慣れ始めたのかすぐに行動する事が出来る様になった。デュバリィが心配しつつ、目的の場所へ。エンネアに診てもらいながらデュバリィ達が作業を始める横で、ティアはその光景を眺めていた。……自分の何十倍もある、巨大な神機の姿を。
数時間後。同じ場所には1人、予期せぬ来訪者が訪れていた。金色の網に拘束されたティア程に幼い見た目の少女。その姿をティアは嘗て見た事があり、相手の少女もそれは同様であった。……ミリアム・オライオン。ティアが居なくなった後、旧Ⅶ組へ編入した少女であり、アルティナの姉に近い存在でもあった。
「それでね、リィンが……」
「うん……」
共通の仲間。共通の知り合い。見た目が幼い事もあるが、それ以上にティアは彼女に嘗て感じたのに似た感覚を感じていた。自分の中の何かが喜ぶ様な、不思議な感覚。まるで前から知っていたかの様な感覚。アルティナと出会った時と同じその感覚は嫌なものでは無く、ティアは自らミリアムへ話し掛けた。鉄騎隊の3人からすれば驚きであり、ミリアムは明るい性格もあって今の状況でも悲観そうには見えない。会話をすれば盛り上がり、気付けば打ち解けた様に話す2人に3人は何とも言えない表情を浮かべた。
「一応、私達敵同士ですのよ?」
「そうなんだけどさ。何か、ティアと話すの楽しくって。僕達、前に会った事あるかな? パンタグリュエルの時じゃ無くて」
「無い、と思う……でも、お話。楽しい」
「ねぇ。もう逃げないからさ~、ここから出してくれない?」
「そうは行きませんわ」
「デュバリィ……」
「駄目ですわよ」
「あう……ごめんね」
「仕方ないか……あ、パンタグリュエルでのあーちゃんの話。聞かせてよ!」
「うん……!」
デュバリィ達とは決して話す事の出来ない共通の話題。それで盛り上がれる事は、ティアにとって楽しくて仕方が無かった。ミリアムの拘束を解く事は出来なかったが、ティアは諦めた後に告げた彼女の言葉にアルティナへ耳掻きした事や紅茶を一緒に飲んだ事。他にも一緒に声の練習をした事等を話し始める。ティアの話が終わればミリアムが再び話を始め、気付けば更に数時間。ミリアムは満足そうに笑みを浮かべた。
「っ! 誰か、来てる……」
「なっ! どうしてこの場所が……まさか!」
話をしていた時、ティアは複数人の気配が近づいて来る事に気付いた。彼女の言葉に驚きながらも疑う事無く構えれば、やがて鉄騎隊とティアの前に姿を見せたのは……リィンと5人の少年少女達だった。その中にはアルティナの姿もあり、ティアと彼女はお互いに目を合わせて驚き合う。
「アルティナ……リィン」
「ミリアムさん! それに、ティアさんまで……」
「えっ……ティアって、あの子がティオ先輩の?」
彼らがやって来た目的は、音信不通となったミリアムを救出する為。ミリアムに何かがあったとは分かっていたものの、そこに鉄騎隊やティアが居る事は予想していなかった。アルティナがミリアムとティアへ声を掛ければ、彼女の放った名前に反応するユウナ。クロスベルでティオと会い、会話を聞いていた事でクルトもそれを理解した。
「あら、可愛いらしい……ですが、この状況を見るに」
「明らかに敵って訳か」
更に少女と少年が現状を見て理解して行く。本来3人だけだった新Ⅶ組へ前回の実習後に科を移動したミュゼ・イーグレットとアッシュ・カーバイド。故に2人は話を聞いておらず、ティオと話をする機会も無かった為にティアの事は何も知らなかった。
まだデュバリィ達の任務は現在も継続中であり、それを邪魔される事は許されなかった。故にリィン達と戦うべく武器を構えた鉄騎隊の3人。そして予期せぬ再会に今だ慌てるティアへ、デュバリィは声を掛けた。
「ティア。前回の雪辱を晴らす時ですわよ」
「っ!……うん」
「ティアさん……」
「今は、戦うしか無い」
あれから1月以上。足手纏いにならない為、ティアも毎日魔法を練習等を熟して来た。故にデュバリィの言葉を受け、ティアはミリアムの傍を離れて鉄騎隊の近くに移動する。すると、鉄騎隊の3人はティアを囲む様に並ぶ。結果、ティアの立つ位置は3人を倒さなければ攻撃が通りそうに無い位置となった。
「以前の様には行きませんわよ、シュバルツァ―。そして新Ⅶ組」
デュバリィが剣を向けて告げた事で、リィン達も武器を構えてデュバリィ達を撃破する為に戦いを始める事となった。
ティアの役割は以前と変わらず、仲間達の援護だった。だがこの前と大きく違うのは補助するティアを先に無力化しようとしても、必ず3人の内の誰かがティアへの攻撃を庇うか無力化してしまう事。3人を無力化しなければティアへの攻撃は届かず、だがティアが居る事で強化や補助。回復を受ける3人。……リィン達にとって、かなりの強敵と言えた。
「皆、頑張ろう……!」
「あぁ」
「えぇ」
「負けませんわ」
ティアの応援に3人の士気は更に高まり、リィン達は押され始める。だが彼らも互いに戦術リンクを駆使した連携や、生徒達それぞれの技量を見せて食い下がり続ける。
剣と刀を打ち合い、やがて距離を取ったデュバリィ。アイネスとエンネアも彼女の斜め後ろに付き、再びティアを囲む。
「ふっ、悪く無い」
「えぇ。でも、私達には届かないわね」
余裕を見せる鉄騎隊とは対照的に、リィン以外の面々は疲労を感じ始めていた。4人を相手に1人で立ち回れる程、リィンが強い訳でも無い。それ故に、このままでは自分達が危ういと新Ⅶ組全員が感じてしまう。
「何とか守りを崩し、彼女を止めなければ」
「それが出来ねぇからこうなってんだろうが……!」
「それもあるが……まだ、余力を残しているな」
「当然ですわ。貴女達程度、全力を出すまでもありません」
「なっ!」
「嘘……」
「アイネス、エンネア。星洸陣で一気に終わらせますわよ」
デュバリィの言葉に驚愕する中、彼女が続けた言葉と纏い始める光に再びリィン達は驚愕する。ミリアムが今の様に拘束された際にも使われた3人の連携であり、彼女が「気を付けて!」と注意する声が響く。そしてデュバリィは再び剣をリィンへ向けた。
「さぁ、蹴散らしますわよ!」
『その必要はありません』
「っ! ママ!」
「マスター!?」
仕掛けようとするデュバリィを止める様に響き渡る女性の声。やがて、巨大な神機の前に姿を現したのは鎧に兜を付けた人物……アリアンロードだった。突然登場した彼女の存在に、ティアとデュバリィが掛ける言葉にリィンは誰よりも早く理解する。デュバリィが敬愛し、ティアが自分達よりも優先した存在……彼女こそが、鋼の聖女だと。
「来いっ! ヴァリマール!」
リィンはすぐに手を空に上げ、叫ぶ。すると『応っ』と言う機械的な男性の返事と共に突然巨大な人形兵器が出現する。……それはティアの居ない時に旧Ⅶ組が出会った騎神であり、リィンが『灰色の騎士』と呼ばれる由縁でもあった。アリアンロードの背後に立つ巨大な神機に比べれば、その姿は小さく。彼が召還したヴァリマールは彼が搭乗するより早く、アリアンロードの指示で動いた神機の妨害で無力化されてしまう。
「良い機会です。灰の
「っ! ティア、巻き込まれますわ。下がりますわよ」
「う、ん……」
突如巨大な槍を出現させ、リィンへ告げたアリアンロードの姿にデュバリィ達はティアを連れて道を開ける。するとリィンが何かをユウナに渡し……嘗てパンタグリュエルで見せた赤黒い霧の様なものに包まれる。そして彼の髪は黒から銀に。目は赤色に染まった。マクバーン曰く、鬼の力。それは彼の全力であると同時に、危険性もあった。
始まるは激闘。アリアンロードの攻撃を何とか躱して攻撃を仕掛けるも、その殆どは通らない。まるで勝てない事が予め決まっているかの様な力量差。……そして抑えきれない鬼の力がリィンの意識を蝕み始める。
『うっ、ウオォォォォ!』
「人の身でマスターに挑んだ代償か」
「もし飲まれる様なら……狩るしかないわね」
「っ! リィン……負けちゃ、駄目……」
彼がアリアンロードとはまた別の、内なる何かと戦っているのは見て分かったティア。エンネアの『狩る』と言う言葉が何を意味するのか、何となくでも分かったティアは敵の立場でありながら、思わずリィンを応援してしまう。すると、動けず戦えなくなってしまった彼を守る様に前へ出始めた新Ⅶ組の面々。
「その心意気は買いましょう、ですが、甘すぎる。少し現実を知ると良いでしょう」
「そこまでにして貰おう」
そう言って槍を構えたアリアンロードに全員が息を飲んだ時、突然空から鷹が飛来する。そして新Ⅶ組とアリアンロードの前に降り立ち、彼女の攻撃を止めたのは……旧Ⅶ組のガイウス・ウォーゼルであった。
「久しいな、リィン。ミリアムは通信以来か。それに、ティア。元気そうだな」
「う、ん……久しぶり」
『ガイウス、ガイウスなのか!?』
「来てくれたんだ!」
現れた彼の姿に驚き、歓喜するリィン達。そんな中、彼の只ならぬ風格にデュバリィ達は警戒し始める。……リィンとはまた違う、強者の風格。その強さはアリアンロード程では無いが、彼曰く「この場の全員を逃がす事は出来る」との事であった。
「よぉし! 僕も! う、りゃぁあぁぁ!」
「んなっ!?」
「ふふっ、凄い力ね」
彼の登場で士気が上がり、ミリアムは自分を拘束する金色の網を力のみで破壊する。そして彼と共に並び、新Ⅶ組とリィンを守る様に立った。すると、彼らを前にアリアンロードは槍をしまう。
「ふっ。良いでしょう。神機の霊力も十分。一通り舞台は整いました」
「今宵限りは安らかに眠ると良いでしょう」。最後にそう続けて、その場から姿を消したアリアンロード。そんな彼女へ続く様にデュバリィ達の足元も光り始める中、ティアが前へ出始める。
「ミリアム……また、お話……しようね」
「うん。またね、ティア!」
「ティア、行きますわよ」
「あう……リィン。ガイウス。アルティナ……またね」
その言葉を最後にティアもデュバリィ達と共に姿を消した。残されたリィン達は再会を喜ぶ……前に、アリアンロードが去り際に残した言葉を思い出して今までの様子を見続けていた人物へ声を掛けるのだった。