【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 実技テストをする。とだけ言われ、グラウンドに集まったⅦ組の生徒達。一体どの様な形でテストをするのか気になりながら待ち続けていると、サラの登場に全員が注目する。そして彼女が全員の前に見せたのは……謎の傀儡だった。サラ曰く戦術殻と呼ばれるそれは何処かから押し付けられた様子で、「でも便利なのよね」と複雑そうな表情で使おうとしている事が伺える。

 

 実技テストの内容は目の前に現れた傀儡を指名された数名が協力して倒す事。但し唯単に倒すだけでは無く、課せられた条件を満たす必要があった。ARCUSに備わる戦術リンクと呼ばれる機能があり、互いの連携を取り易くするそれを駆使すれば熟せない筈の無い条件。そう挑発めいた言葉をサラは告げた後、真っ先に呼ばれたのはリィン・エリオット・ガイウスの3人だった。日頃仲良くして居る彼らの息はそこそこ合っており、突然リィンとガイウスの間に光の線が生まれる。それはリンクが繋がった証であった。

 

「始め!」

 

 睨む会う事数秒。サラの掛け声と共にリィンとガイウスが言葉を交わさずに動き始めると、連携を見せる。まるで何年も一緒に過ごして来た相手の様に仲間の行動が分かる2人の動きは傍から見れば凄まじい物だった。

 

「戦術リンク……そう言えば旧校舎の時、不思議と皆の気持ちが伝わって来たわね」

 

「あぁ。不思議な感覚だったが、もしそれを使い熟す事が出来るならば……」

 

「見知らぬ人とでも連携が出来る。凄い機能ですね」

 

「だね」

 

 旧校舎で石造から怪物へと姿を変えた敵を前に戦った4人。彼女達は全員がその日初対面であり、だがお互いに連携を取る事が出来た。互いが互いを思って行動した。と言うよりも、相手が次に何をしようとしているのか分かる事で繋がる連携。ラウラはそれを使い熟す事で得られる力を理解出来たが故に、強く拳を握る。

 

 サラの声が響く中、リィン達のテストが終了する。結果はサラの満足出来る内容の様で、ご機嫌な様子のままサラは次の生徒を指名した。そして同じ様に戦術リンクを駆使した連携を見せ乍ら傀儡を倒した時、サラは三度傀儡を出現させて……ティアに視線を向けた。

 

「ティア。昨日言った通り、あんたも今日はやるのよ」

 

「ぁ、ぅぅ……」

 

 サラの言葉に全員が驚く中、次に指名されたのはアリサ。マキアス。フィー。ティアの4人。戸惑うアリサとマキアスを横に、フィーはティアと共に前へ出るが……ティアの様子は明らかに戦える物では無かった。

 

「ティアちゃん……」

 

「教官、彼女が戦えるとは思えないのですが」

 

「……」

 

「はぁ~。ティア、ちょっとこっちに来なさい」

 

 心配そうに視線を送るアリサ。ティアの姿に思わずには居られないマキアス。そして首を横に振って『やれやれ』と言いたいかの様に仕草を見せるフィー。3人の様子を眺め、サラは手招きしてティアへ近づく様に言う。恐る恐ると言った様子でサラに近づいたティアは、「AECUSを出しなさい」と言われてそれを取り出した。

 

「ぁ……ティア、持ってたんだね。僕はてっきり貰って無いと思ってたよ」

 

「私もです……ですが、持っていたとしても使い熟せるのでしょうか?」

 

 サラに何かを言われながらARCUSと彼女を見つめるティア。やがて旧校舎で全員が小箱から受け取ったのと同じ様な宝石、マスタークオーツらしき物をサラから手渡される。黄色い球体の中に盾の様な紋様が浮かぶそれを手に、ティアは傀儡を前に並ぶ3人の元へ。

 

「さて、それじゃあ始めるわよ!」

 

「だ、大丈夫なのか……?」

 

 自分のARCUSにマスタークオーツを嘗てフィーが付けているのを思い出しながら装着したティア。途端に彼女の周りには薄い膜の様な物が張られ、サラの言葉にマキアスは不安を感じ乍らショットガンを手にする。そして動き始めた傀儡。フィーが前に出て素早い身の熟しで相手を攪乱しながら攻撃を加え、マキアスとアリサが隙あれば攻撃を加える中……ティアは未だにオロオロとしたままだった。

 

「ティア! ARCUSで魔法(アーツ)くらいは使える筈よ! やりなさい!」

 

「ひぅ! ぁーっ……っ!」

 

 サラの声に怯え、ARCUSを操作し始めたティア。そんな彼女は余りにも無防備であり、傀儡は攻撃を受け乍らも標的に彼女を選ぶ。迫る傀儡が攻撃を加えようと身体の一部を振り上げれば、ようやく気付いたティアが恐怖に強く目を瞑り……彼女の周りにあった薄い膜が傀儡の攻撃を防いだ。僅かに光を放ち、やがて傀儡を退けた薄い膜。だが完全に攻撃を防ぐと共にそれは消え去り、傀儡は再び攻撃を仕掛けようとする。が、次にティアへ攻撃が届くよりも先にフィーの振るった刃が傀儡を真っ二つに切り裂いた。

 

「そこまで! ……はぁ。ティア以外は合格、ね」

 

 そう呟いたサラの声は明らかに落胆している様子だった。

 

 その後、フィーと共に元の並びに戻ったティア。彼女もまた落ち込んだまま、サラは次の話を始める。それはⅦ組の生徒達だけに与えられる特別なカリキュラム、名付けて特別実習。声高々に宣言するサラだが、言われた面々は首を傾げる事しか出来なかった。

 

 特別実習。A班とB班に別れて学院から。トリスタの街からも離れ、全く違う場所で課題を熟すと言うもの。2班に別れる時点でサラが着いて来る可能性は低く、それを確認すればサラは当然とばかりに返した。普通の生徒とは違うと予め理解していた故に各々時間を掛けずに納得する中、ユーシスが一体何時何処へ行けば良いのかを質問する。すると待って居たとばかりにサラは用紙を配り始めた。そこには班分けと行き先が書いてあり、それを読んだ全員が一様に様々な理由で驚愕する。

 

 【A班 リィン・アリサ・ラウラ・エリオット・ティア】

 

 【B班 エマ・マキアス・ユーシス・フィー・ガイウス】

 

 A班の行き先は交易地ケルディック。B班の行き先は紡績町パルム。行き先を知る者と知らない物が居る故にそれを妥協する事は可能だったが、その顔触れについては目を疑わずにはいられなかった。未だ確執のあるリィンとアリサ。平民嫌いのマキアスは未だにユーシスを目の敵にしており、ティアはフィー以外と真面に話す事も出来ない。サラも居ないとなれば、確実に困るだろう。実際それを見てティアはサラを涙目で見つめるが、彼女は「諦めなさい」と無情に告げるだけだった。

 

「日時は今週末。期限は2日間を予定してるわ。各自それまで英気を養っておきなさい。以上!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別実習初日。リィンは朝早くから同じA班である仲間達を待っていた。すると最初に現れたのは未だ確執のあるアリサ。しかしお互いがお互いに謝罪をする事で蟠りは無くなり、仲直りをしたところでエリオットとラウラが姿を見せる。

 

「ティアちゃんは……まだかな?」

 

「いや、昨日はフィーと一緒に居たみたいだから多分もう出てる筈だ」

 

「ふむ。確かにもう私達以外には誰も居ない様だ。行くとしよう」

 

 唯一この場に居ないティア。エリオットがそれに気付く中、リィンとラウラの言葉に彼はアリサと目を合わせる。そして何故分かるのかと質問すれば、2人が今度は目を合わせた後にリィンが答えた。彼曰く、気配で何となく誰が居るか分かるとの事。少なくとも今現在自分達以外には気配を感じず、故にもう建物の外に居ると思った。との事であった。

 

「気配……気配かぁ……」

 

 リィンとラウラが自分とは違う領域に居ると思い、思わず呟いたエリオット。そして4人が駅へ向かえば、そこには予想通りB班の面々と……フィーの傍で服の裾を握るティアの姿があった。マキアスとユーシスの空気感は危うく、心配になるリィン達。そしてアリサが徐に体勢を低くしてティアへ声を掛けた。

 

「ティアちゃん、おいで」

 

「……ゃ」

 

「……やれやれだね」

 

 拒否されるアリサ。その事実に彼女の身体は固まり、見ていた全員はまるで石造の様に彼女の色が失われた様にも見えた。そんな中、呆れる様に声を出して首を横に降ったフィー。彼女の姿にエマは「どうにか出来ませんか?」と声を掛ける。唯一心を許している相手故に、その人物からの言葉には従うかも知れないと僅かな期待を抱いて。

 

「…………はぁ」

 

 全員から向けられる眼差しに長い間の後、溜息を付いたフィーはティアへ振り返る。そして彼女を元気付ける様に頭を撫でながら、同じ高さに目を合わせて声を掛けた。

 

「頑張って」

 

「フィー、ぅぅ……」

 

 ティアは確かに子供だが、何も分からない訳では無い。フィーの言葉に只管涙目になりながらもゆっくりと服から手を離したティアは1歩ずつ、ゆっくりとA班の元へ近づき始める。

 

「ティア」

 

「っ!」

 

「知らない人に着いて行かない。すぐに泣かない。約束」

 

「フィー……ぅん。頑張、る……!」

 

 フィーの言葉を聞いて涙目をそのままに答えたティア。そして再び1歩ずつ近づけば、距離が詰まる毎にアリサの身体は指先から色を取り戻し始める。そしてA班の元へ到着した時、アリサは何事も無かった様に笑顔でティアを出迎えていた。

 

 マキアスとユーシスに関する心配を抱え乍ら、B班は先に駅を離れる。遠ざかるフィーの背中をティアは不安げに見つめ続け、やがて居なくなってしまった事で彼女は到頭誰の傍にも逃げられなくなってしまった。

 

「まだ少し時間があるな。準備するなら今の内にして置こう」

 

「ティアちゃん、おいで」

 

「ぁ、ぅ……」

 

「……凄いね、アリサは。僕だったら挫けそうだよ」

 

「前々から仲良くしたいと言っていたからな。ある意味、今回は好機なのだろう」

 

 待合所の椅子に座ったアリサはティアを手招きする。先程の拒絶を忘れたかの様にティアへ声を掛けるその姿にエリオットが感心する中、ラウラは普段の生活でアリサが何とか仲良くしたいと常日頃から言っていた事を思い出した。アリサの元へは近づかず、付かず離れずの距離であたふたするティア。その後、アリサの検討も空しく同じ椅子には座れなかった。

 

 時間になり、切符を購入して電車に乗り込んだ5人。リィン達が向き合って座る中、ティナは彼らから距離を取る様に反対側の席に座っていた。その腕の中にはアリサも見た事のあるはぐはぐフィーがあり、それを抱きしめながら不安そうにチラチラと自分達を見つめる姿に……アリサも気になった様子でチラチラと彼女へ視線を向けていた。リィン達には覚られない様にしている様だが、既に手遅れである。

 

 少し電車で揺られて居た時、突然ティアが隣の車両からやって来た人物に気付いて視線を向ける。するとそこからやって来た人物、サラに彼女は心底安心した様子で近づき始めた。まるで逃げて来たかの様に自分の元へやって来るティアの姿にサラは驚き、席に座る4人を見て頭を抱えた。

 

「やっぱり、そう簡単には行かないみたいね」

 

「えぇ、まぁ。……教官はどうしてここに?」

 

 着いては来ないと言っていたサラが現れた事に驚きながらも言葉を返したリィンが質問すれば、彼女は担任として最初くらいはサポートをする事にしたから。と説明する。その答えに納得した4人。そして続けざまにエリオットはⅦ組の全員が気になっていた質問をする。

 

「あの、どうしてティアをフィーと別の班にしたんですか?」

 

 彼の質問にサラは少し困った表情を浮かべると、先程までティアが座っていた席の向かいに座り込む。そして自分の向かいに座って安心し切った様子のティアを見て、口を開いた。

 

「もう気付いてると思うけど、この子はかなり臆病よ。最初は私も苦労した。でもそれなりに一緒に居る事である程度話せる様になったわ。信頼される様になった、って所かしら?」

 

「……なるほど。つまり私達も彼女に信頼される様になれ、と言う事ですか」

 

「まぁ、端的に言ってね。現状ティアが話せるのは私とフィーだけ。今は良いかも知れないけど、何時までもそれじゃあ困るのよ」

 

「大分荒療治と言うか、何というか……」

 

 サラが現れて安心した様子のティアは話に参加する事も無く外を眺めていた。1人だと周りを警戒し続け、信頼する相手が居れば周りを見ようともしない。そんな彼女の姿にサラが頭を抱える中、リィンはふと気になった事を質問しようとする。……ティアの臆病さは唯の性格と言うには少々大げさであり、それ以上の何かがあると彼は感じていた。故にどうしてそこまで人に怯えるのかをサラに質問しようと。しかしそれを察した様にサラは彼が口を開くよりも先に喋る。

 

「目には目を、歯には歯を。てね。……多少荒くでもしないと、どうしようも無いのよ」

 

 その言葉を最後に、サラは話を終わらせて眠り始めてしまう。リィンは最後の言葉にティアに何があったのかを気になりながらも、眠るサラを起こしてまで聞こうとはしなかった。……その後、実習先についての予習をし乍らブレードと呼ばれるカードゲームで移動時間を過ごす事にした4人。まだティアを誘う事は出来ず、彼らは彼女と仲良くなる為の方法についても話し合うのだった。


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