【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 ジュノー海上要塞。そこは今、鉄騎隊と紫の猟兵・ニーズヘッグの占領下にあった。天守閣にはアリアンロードと巨大な神機が居り、その傍に立つは鉄騎隊とティアの4人。現在要塞内は猟兵達が至る所に居り、彼女達はその位置から見える橋。そこに集まる者達を眺めていた。

 

「来ましたか、有角の若獅子達に灰の起動者。そして黄金の羅刹」

 

「……サラ……ユーシス」

 

 アリアンロードは新Ⅶ組の生徒達とリィン。そして彼らを引き連れる様に橋を渡る1人の女性を眺める。一方、ティアは昨日再会した者達とは別にリィンと共に居たサラとユーシスの存在に気付いてその名前を呟いていた。出来る事なら、今すぐにでも会って話をしたい。だが、それをする訳にはいかない。ティアは気持ちを抑えて、その場に留まり続ける。

 

「紫の猟兵。放って置けば要らぬ事までしそうですわね。少し、様子を見て来ますわ」

 

 そう言ってその場から消えたデュバリィ。続く様にアイネスとエンネアもその場から消え、アリアンロードと共に残ったティアは不安そうに彼女を見上げる。すると侵入を開始したリィン達を見終わり、彼女はティアへ視線を向ける。

 

「行きたければ、構いませんよ」

 

「っ! うん……」

 

 彼女の言葉を受けたティアはデュバリィ達が居ない為、1人では転移が出来ない。故に自らの足で要塞内へ入って行く。中には怖い雰囲気を見せる猟兵や結社の人形兵器が徘徊。陰に隠れる等してやり過ごしながら、ティアは要塞の脇へ到着する。……が、そこでティアは左右を見て固まってしまう。要塞内はとても広く、ここにはアリアンロードと鉄騎隊の転移で来ていた。つまり、ティアには要塞内の行動が分からず、簡単に言えば迷子になってしまったのである。

 

「あう……人、一杯」

 

 気配を探ろうにも、要塞内には人の気配が多すぎて誰が誰か判別も付けられない。やがて要塞内にある小さな橋で立ち止まってしまった彼女の元に、複数の人影が近づき始めた。ティアはそれに気付いてすぐに顔を上げる。見えて来るのは見覚えのある少年少女達。

 

「ぁ……」

 

「あれは」

 

 橋の上に居るティアの存在に気付いた少年少女達は、6人だった。それはリィン達と現在分かれて行動していた新Ⅶ組の面々と、1人の女性。

 

「あの見た目。あの愛らしさ。間違い無い! 会いたかったよ、ティアちゃん!」

 

「……誰?」

 

「ガクッ。まぁ、仕方ないか。私の名はアンゼリカ・ログナー。リィン君たちと同じトールズ士官学院の卒業生で、君の先輩さ」

 

「先、輩? ……クロウと、同じ?」

 

「っ! ……あぁ。そうだね」

 

 まるで何処かの劇の台詞の様に大きく片手を伸ばして告げた女性の名はアンゼリカ。彼女の言葉通り、その立ち位置は先輩に当たる。そしてティアの中で先輩と言えば、パンタグリュエルで話したクロウであった。同じⅦ組でありながら、元々は先輩だったと聞かされていたのだ。だが、その名前を出した時。一瞬アンゼリカは苦悶の表情を浮かべる。そして同時にティアの様子を見て、彼女は理解した。……知らない、と。

 

「ティアさん」

 

「アルティナ……昨日ぶり……」

 

「はい。……ティアさんは、結社の目的が何か知っているのですか?」

 

「目的……? わかんない。でも、悪い人……やっつけてる」

 

「悪い人って、どう考えてもそっちの方が」

 

「ここに居た、お爺さん。悪い人。友達も、仲間も、見捨てようと、した。自分だけ、助かろうと、した」

 

「あの感じ悪い爺さんの事か。確かに真っ黒だな」

 

 アルティナと昨日に続けて再会したティアは、彼女の質問に首を傾げて答える。その中に上がったお爺さんが誰か、この場に居る全員がすぐに察する事が出来た。と同時にティアから情報を聞き出す事が不可能である事も察した。彼女は唯、鉄騎隊と鋼の聖女の元で過ごして彼女達の手伝いをしているに過ぎないのだと。

 

「ティアちゃん! ティオ先輩の事、分かる?」

 

「っ! ティオ……お姉、ちゃん」

 

「やっぱりそうなんだ。ティオ先輩、ずっと貴女を探してるの。攫われて、行方不明になった貴女をずっと!」

 

 ユウナの声に反応し、その言葉にティアは徐に1体の人形を取り出した。薄水色の髪をした少女の人形。それはティオを模したものであり、ティアは彼女の言葉にティオと過ごしたクロスベルでの日々を思い出す。

 

 反応は悪く無い。もしかすれば、ティアを自分達の方へ引き込めるかも知れない。そう思わずにはいられなかった6人。だがその僅かな希望を断ち切る様に、ティアの傍に2人の女性が転移してくる。それはアイネスとエンネアであった。

 

「ティア」

 

「ティアちゃん」

 

「!」

 

 彼女達の登場で、ティアは今自分が居る場所を思いだした。ティオとの思い出は確かに大事な物だが、彼女の中にある記憶はクロスベルでの再会からしか無かった。同じ様に誘拐され、同じ様に実験体となった。そんな話は聞かされていたが、ティアにある一番最初の記憶はアリアンロードとの出会い。……ティオと過ごした数か月と、アリアンロードやデュバリィ達と過ごした数年を比べれば、何方が大事かは明らかだった。

 

 海上要塞を奪還する為にやって来た6人を唯見送る訳にはいかない。アイネス、エンネアと共に橋から降りてその前に立ち塞がったティアはティオについて話をしたユウナへ告げる。

 

「私は、ママと……デュバリィ達と、居る。帰らない」

 

「ティアちゃん!」

 

「ユウナ! 今は諦めるしかない!」

 

「鉄騎隊の方々が居なければ、説得出来たかも知れませんが……」

 

「やるってんなら仕方ねぇ、昨日の続きをしてやらぁ!」

 

「もう少しお近づきになりたかったが……対立関係の中で芽生える愛も、悪く無い」

 

「来ます。彼女の援護と、それを受けた2人に注意してください!」

 

 相手にはデュバリィが。自分達にはリィンが。互いに筆頭と教官が居ない中、新Ⅶ組とアンゼリカは3人と交戦を開始する。だが昨日に続けて食い下がるも、相手は余力を残す程。その実力の差は1日程度で狭まるものでは無かった。

 

 新Ⅶ組とアンゼリカが苦戦を強いられる中、更に3人の元へ増援が現れる。それはデュバリィであり、戦う3人を見て加勢しようとする彼女を今度は同じ様に要塞の中から出て来たリィン達が阻止し始める。昨日再開したガイウスとミリアムを始め、そこには天守閣から見えたユーシスとサラの姿もあった。

 

「っ! 話は聞いていたが、完全に其方側の様だな」

 

「ティア。あんた、以前フィーに会いに来たんだってね。なら、私達にも挨拶くらいすべきだったんじゃないかしら?」

 

「ユーシス……サラ……! あの時は……時間。無かった、から。ごめんなさい」

 

 ティアの姿を確認したユーシスと、会って早々に不満を告げるサラ。ティアが彼女の言葉に説明をして謝った後、デュバリィ達は会話の末に一時撤退する事となった。もう1度謝るティアが転移でゆっくり消えて行くのを眺めて、再びリィン達のチームと新Ⅶ組+アンゼリカのチームは要塞の攻略に挑み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュノー海上要塞、天守閣。

 

 巨大な神機とアリアンロード。そして鉄騎隊とティアが待つその場所に、リィン達のチームが先に到達した。リィン・ミリアム・ユーシス・ガイウス・サラ。そして最後にアリアンロードが気に掛ける様に呼んだ、黄金の羅刹の異名を持つ女性、オーレリア・ルグィン。巨大な剣を片手に近づく彼女は、武の頂点と言われるアリアンロードへ挑む事を告げた。

 

 彼女の強さはその雰囲気だけでよく分かった。傍に居るだけで感じる強者の圧力。デュバリィ達も息を飲む中、ティアは倒れない様に必死でデュバリィの身体にしがみ付いていた。……やがて、戦いをするに当たって静かに着けていた兜を外し始めるアリアンロード。強者にしか見せないその姿を自ら見せたのは、彼女が認めた証拠でもあった。ランディ曰く、『滅茶苦茶好みの美人なお姉様』なその姿は男女問わず見惚れてしまう程。

 

「デュバリィ。アイネス。エンネア。ティア。準備は宜しいですね」

 

「はい、マスター!」

 

「承知。全力でやらせて貰おう」

 

「ふふっ、この要塞が持つと良いわね」

 

「リィン、皆。行くよ……!」

 

 彼女の言葉に各々武器を取り出した鉄騎隊と、胸の前で握った両手を寄せて構えるティア。彼女を囲む様に再び鉄騎隊の3人が陣形を組めば、更にその身体は光の靄に包まれ始める。星洸陣と呼ばれるそれは、3人の戦闘能力を飛躍的に高める鉄騎隊だけが使える力であった。

 

 やがて、オーレリアとアリアンロードが互いに飛び出してぶつかり合う。その余波だけで吹き飛ばされそうになるリィン達。ティアは3人に囲まれていた事で飛ばされず、2人の戦いを横にリィン達も鉄騎隊+ティアとぶつかり合うのだった。


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