黒の工房本拠地。そこは旧Ⅶ組や新Ⅶ組の面々にとって言わば敵の本拠であり、現在そこには自我を失い獣の様に暴れるリィンが拘束されていた。彼の傍には一匹の喋る黒猫がいるも、その声は彼には届かない。特別な力を持った猫ではあるが、彼を拘束した者達はその猫の行為が無駄だと分かっていた。故に放置されているに過ぎなかった。
「……」
「よう。またここに居たのか、鉄騎隊筆頭さんよ」
「蒼のジークフリート……いいえ、クロウ・アームブラスト」
そんな彼の声が扉越しに微かながら聞こえる場所で、デュバリィは立って居た。そしてそんな彼女の元へ近づいて声を掛けたのは、嘗てティアとパンタグリュエルで出会った事もあるクロウ。……だが本来、彼の存在はあり得る事では無い。何故なら彼は、既に
「今でも信じられませんわね。……騎神、不死者、呪い……もう、頭が一杯一杯ですわ」
「俺も分かんねぇことは多いからな。……でもお前さんの場合、それ以上に心配な事があるんじゃねぇのか?」
「……」
彼の言葉に口を閉ざしたデュバリィ。リィンの声がする扉へ視線を向け、思い返すのはあの日の出来事。
自分達が世界の終わりに手を貸したと知ったデュバリィは、マスターであるアリアンロードの意思が分からなくなってしまっていた。今までだって、分からずとも彼女の為に尽くして来たデュバリィ。だが今回の内容は、彼女への敬愛だけでまかり通る話では無かった。そして更にデュバリィがアリアンロードを分からなくなったのは、彼女と合流した際に見てしまった血を流した後のティアの姿。
「ジョルジュ……じゃ無くてゲオルグの話じゃ、一応一命は取り留めたって聞いたが?」
「えぇ。そうらしいですわ。……言いましたわよね、ティアを撃ったのは
「……あぁ」
「結社はあの者達と協力する事を決断しましたわ。当然、マスターも。……ですが、それはつまりティアを撃った者と協力する事になる。そんなの、受け入れられる筈ありませんわ!」
「随分大事に思ってるんだな、あいつを」
「ティアは私に、私たちにとって……妹も同然ですもの」
既に家族の居ないデュバリィにとって、ティアは妹の様な存在であった。同じ者を尊敬し合うも、姉妹弟子とは少し違う。それはエンネアとアイネスが当て嵌り、言うなればティアは家族に近い存在と言えた。
「今までマスターの為に生きる事が私の使命であると、そう思っていましたわ。いいえ、それは今でも変わりませんわね。……ですが、気付けば全てを失った筈の私にも、新たに大事なものが生まれていた」
「……で、どうするつもりだよ?」
「……見極めますわ。何が正しくて、何が間違っているのかを。必ず、その時が来る」
「ま、だろうな。あいつらの諦めの悪さは筋金入りだ」
共にもう1度、リィンが居るであろう扉へ視線を向けた2人。それから2人がその場を離れれば、静寂に響くリィンの叫びと呻きの声だけが木魂し続けるのだった。
約1月の時が経ち、デュバリィの待つ
デュバリィの行動はマスターであるアリアンロードの意思にそぐわないもの。暴走するリィン、デュバリィ、クロウの前にはマクバーンと、葛藤の末にアリアンロードの元で戦う決意をした鉄騎隊の2人、アイネスとエンネアが立ち塞がった。
彼方此方で始まる戦闘。最終的に彼を迎えに来た新Ⅶ組がリィンを取り戻した事で本懐は達成され、敵に囲まれるも味方の増援を経て脱出に成功。その最中にデュバリィは何が正しいのかを見極める為に、アリアンロードから暇の許可を受託した。
リィンを連れて無事に脱出する事の出来た新旧Ⅶ組の面々。クロウとデュバリィも新旧Ⅶ組の面々に言葉を残してその場を離れる中、2人は今後の行動についての話をする。
「別に、俺達に付き合わなくてもいいんだぜ?」
「乗りかかった船、ですわ。……それに、今後の事を考える時間も必要ですし」
リィンが起動者としていた灰の騎神ヴァリマールと同じ様に、クロウは蒼の騎神オルディーネの起動者であった。そんな彼の操る騎神の肩に乗り、デュバリィは答えながら思案する。……実は彼女が最後にティアの姿を見たのは、撃たれた直後が最後であった。その後治療を受けていた事は間違い無いが、その所在については分かっていなかったのだ。
まだ騎神の存在理由や結社の計画を知らないリィン達へ自分達が分かっている事を教えると共に、
2日の時が経ち、やがて2人の言葉を聞いてやって来た
相克の場を作る為に、クロウとデュバリィの2人を相手に戦う事になったリィン達。やがて場が完成すれば、リィンとクロウの騎神同士の戦い……相克が始まった。クロウを倒してしまえば、彼は消えてしまう。葛藤を抱えながら戦うリィンへ、クロウは叱咤する。そして、決着はついた。
結果として、クロウの思い通りにはならなかった。消える事無く残る結果となり、彼はリィン達と共にこれから戦う事を決断する。彼との再会や共に戦える喜びに旧Ⅶ組の面々が涙すら流す中、当然次に注目されるのはデュバリィとなった。
「其方はどうするつもりなのだ?」
「私は……ティアを探しますわ」
≪!≫
彼女の言葉で蘇るのは、撃たれて落ちて行くティアの姿。そこで初めて全員はデュバリィからティアが一命を取り留めた事等を知らされる。その事実に安心するものの、現在行方知れずの彼女。手掛かりと言えるものは無く、それでも「何もしないよりは良いですわ」と闇雲にでも動こうとする彼女へリィン達は協力を申し出る。
「ティアは俺達Ⅶ組の仲間でもある。放っては置けない」
「そうでしたわね……良いですわ。但し、あくまで私はティアを見つけるまでの客将。仲間ではありませんから!」
「あぁ。それでも、ありがたい」
デュバリィも加わり、彼らは今後についての話をする。そしてまずは共に戦い、バラバラになってしまった仲間達を集める事に決定。それぞれが様々な事に秀でた者達の為、デュバリィも手を借りる事で目的を果たせる可能性があると同意する。……見つける者の中にはティアの姉であるティオも居る為、同じ様な立場として彼女は少し他人事では無かった。
現時点で最終話が完成した為、このまま最後まで投稿致します。それに伴い、タグを一部変更しました。過去にない執筆調子の良さに自分自身、驚愕。