【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 リィン達は各地を回り、バラバラになっていた仲間を探した。殆どの者が幽閉という形で囚われの身となっており、救出へ向かう。そして1人、また1人と助け出す事が出来た事で遂にバラバラだった仲間達は揃う事になった。

 

「まさかあなたが手を貸してくれる時が来るとは……分からないものですね」

 

「目的が一致している。それだけですわ」

 

「目的……ティアの事、ですね」

 

 パンタグリュエル。嘗てティアがデュバリィと共に乗船した巨大な戦艦に、新旧Ⅶ組の面々を始め各地の勢力が集っていた。一部メンバーを除いた特務支援課や、遊撃士協会の者達。更には各国の地位ある者達も集うそこで、デュバリィはリィン達によって救出された特務支援課の一員であり、ティアの姉でもあるティオと話をしていた。そしてその傍には2年近くの日々で更に逞しく成長したロイドやエリィの姿もあった。

 

 ティオのデュバリィへ向けられる視線は決して穏やかなものでは無かった。今は協力関係になっているとは言え、ティアの所在を知りながらも語らず。邪魔すらして来た過去を持つ相手なのだから、それも仕方の無い事だろう。しかし、ティアに起きた出来事を聞けば、今はそれ以上に何としてでも彼女を探すべきだと考える。……例え複雑な心境を抱く相手が傍に居たとしても、共に探す手は大いに越した事は無いと。

 

 各々の再会を喜び、話をした後に始まるのは帝国や結社に対抗する為の作戦に関する会議。リィン達や特務支援課、遊撃士協会の面々はその作戦の内容が途轍もない犠牲の上に成り立つものと知った時、彼らは同意すると共にそれ以外の方法を模索する第三の道を探す事を選択した。……犠牲を出さずにこの事態を収束させる、より良い作戦を探す為に。

 

 突然、会議の最中にパンタグリュエルは帝国と結社の襲撃を受ける。そこで迎撃する為に、リィン達は特務支援課や遊撃士協会の面々と共に、男女で別れて船内を甲板目掛けて進む事になった。途中立ち塞がるのは普段シャーリィが率いている赤い星座の猟兵や、結社の傘下にある強化された猟兵達。彼らを退き、同時に離れた別の場所から甲板へ出た男性陣と女性陣の前に過去にぶつかって来た様々な帝国や結社の者達が立ち塞がる。

 

「あっはは、中々に錚々たる顔触れだね。しかも綺麗に男女別……面白くなりそうだね」

 

「話に聞く新旧Ⅶ組の皆さんも揃っている様ですわね。なら、丁度良いのではありませんこと?」

 

「だね。ミリアム(彼女)はもう居ないけど、これで本当に勢揃いって訳だ」

 

「……」

 

 女性陣の前に立ち塞がるのは、カンパネルラとシャーリィ。そしてもう1人、エリィと因縁のある結社の人間……マリアベル・クロイスであった。2人は楽しそうに会話をするが、それを横で聞いているシャーリィは参加しようとしない。それどころか目を閉じ、何を考えて居るのかも分からなかった。

 

「ベル、一体何を……」

 

 エリィが言葉の真意を問い質そうとした時、カンパネルラが指を鳴らした。すると彼らの向かい……アイネス、エンネア、シャロンの立ち塞がる傍に淡い色の光が生まれる。そしてそこから姿を見せたのは、見覚えのある仮面を付けた少女だった。

 

「っ! まさか……」

 

「ティア、なんですの……?」

 

「ティアさん!」

 

「……」

 

 顔は見えないが、その容姿や格好はその場に居る殆どの者に見覚えがあった。しかしデュバリィやアルティナの声に反応する様子は無く、嘗て似た様な経験をしていたアンゼリカが少し目を閉じてから告げる。

 

「どうやら、私やクロウと同じみたいだね。……ジョルジュ」

 

 クロウが蒼のジークフリートだった時。そしてアンゼリカが紅のロスヴァイセと名乗っていた時、それぞれ同じ様な仮面を付けていた。共に別人となっていた間、過去の記憶を思い出せずに活動していた2人。今、ティアは正しくその状況であった。アンゼリカがそれを仕掛けた者に心当たりがあった為、その名前を呟いて思い浮かべる。

 

「そんな……」

 

「……アイネス、エンネア。これは、マスターのご意思ですの?」

 

「……」

 

「……」

 

「答えなさい!」

 

「っ! ……えぇ、そうよ」

 

「我らと共にこの艦を襲撃する様、マスターは命じられた」

 

 アリサが目の前の光景にショックを受ける中、デュバリィは2人へ問い掛ける。だが2人は今のティアから視線を外し、何処を見ようともしなかった。しかしデュバリィの悲痛の叫びにも聞こえる言葉に、やがて2人は答える。

 

「……ティア」

 

「ティ、ア……? 違う。私、は……ロスト、ナンバー」

 

 フィーがティアへ声を掛けるが、それにようやく反応した彼女は首を傾げた後に否定する。そして、片手を上に上げた時。更なる光景に全員は驚愕した。

 

「あれは……アルと同じ戦術殻!」

 

「グラー、シーザ……行く、よ?」

 

 ティアの背後に出現するのは、アルティナが扱う戦術殻……クラウ=ソラスや、ミリアムが扱っていた戦術殻……アガートラムと酷似した真っ赤な傀儡。その名はグラーシーザ。

 

 戦闘の意思を見せる彼女と戦わないのは不可能だと悟った面々。他にも強敵が揃う中、ティオが1歩前に出る。

 

「エリィさん。其方はお任せします」

 

「ティオちゃん……えぇ。分かったわ」

 

 ティア……ロストナンバーと戦う意思を固めたティオの様子に、エリィは導力銃を構えて彼女の背中を守る様に反対を向いた。そんなティオの行動を見て、4人の少女達が並ぶ様に前へ立つ。

 

「ラウラ、任せた」

 

「承知した!」

 

「エマ、背中は任せるわ!」

 

「はい。私達の分まで、お願いします! 必ずティアちゃんを!」

 

「ユウナさん」

 

「分かってるって。友達を取り戻して来なさい、アル!」

 

「ふふ。相変わらず人気者ね、あの子は」

 

 フィーがラウラへ。アリサがエマへ。アルティナがユウナへ。それぞれ背中を任せ、デュバリィは誰にも言う事無く同じ様に彼女達と共にロストナンバーと鉄騎隊の2人。そしてシャロンと対峙した。……そんな光景に、大きな鎌を持つ菫色の髪をした少女が笑みを浮かべながら呟いた。

 

 男性陣も2手に分かれて戦闘を開始。同時に始まる4つの戦いは、正しく死闘であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイオンシステム、起動します。それっ!」

 

 ティオが魔導杖を片手に魔法を使用すれば、優しい風に包まれた5人の身体は浮かびそうな程に軽くなり始める。神速と言われる程に元の速度が速いデュバリィはその影響で残像を残してアイネスとエンネアへ接近。一瞬にして2人を間を通過する。

 

「ぐっ!」

 

「私達の星洸陣を、容易く……」

 

「以前の貴女達なら、こうは行きませんわ。ですが迷いのある今の貴女達が使う星洸陣など、付け焼き刃にもなりませんわね」

 

 膝を突く2人へ静かに告げるデュバリィ。そのすぐ傍では、アリサが身軽に回避を繰り返すシャロンへ矢を放ち続けていた。

 

「シャロン! 貴女が教えてくれたんでしょう! 可愛い子は、愛でるべきだって! なのに、それを教えてくれた貴女があんな残酷な事を見て見ぬ振りするつもりなの!?」

 

「っ! ……」

 

「取り戻して見せるわ、貴女も。ティアちゃんも。絶対に!」

 

 アリサの言葉に悲痛の面持ちを浮かべ、決して語らずに戦いを続けるシャロン。そんな彼女にアリサは決意を込めた矢を放ち続ける。

 

「え、いっ!」

 

「っ!」

 

「燃え、て……!」

 

「させません!」

 

 そのまたすぐ傍では、グラーシーザの腕を振るってフィーへ攻撃を仕掛けるロストナンバーの姿があった。フィーはそれを側転しながら躱すが、そんな彼女に炎の魔法が迫る。しかし素早く間に入ったアルティナがクラウ=ソラスの力で障壁を張り、攻撃を防いだ。

 

「……やっぱり」

 

「? 何か分かったんですか?」

 

「ティア、何時もなら同時に魔法を使ってくる。でも今は1種類しか使って来ない」

 

「同時に魔法を?」

 

 距離を取ったフィーは戦いの中で気付いた事をティオへ告げる。彼女の言う様に、ティアは同時に魔法を扱う事が出来る筈だった。だが、ロストナンバーはそれをしない。

 

「もしかするとしない(・・・)のではなく、出来ない(・・・・)のかも知れません」

 

「なら、問題無いね」

 

 同時に迫る魔法は凶威。しかしそれを使えないなら、幾多の修羅場を潜って来た3人の敵では無かった。……しかし、そんな3人に向けて、ロストナンバーはゆっくりと手を向ける。途端、彼女の目の前に黒い球体が生まれ始めた。

 

「っ! 何を……」

 

「吸い込まれますっ!」

 

 その球体は周囲を吸い込み始め、黒い影が入り込む度に肥大化して行く。再び立ち上がったアイネスとエンネアを相手にするデュバリィも、戦い合うアリサとシャロンも。その光景に手を止めてしまった。

 

「な、何ですの……あれは」

 

「何も感じない……まるで」

 

 『虚無』。その光景を見た者達が思う中、ティアはそれを対峙する3人へ放った。

 

「みんな、消えちゃえ……エンドレス、ヴォイド……!」

 

 迫る黒い球体は周囲を吸い込む様に接近する。その勢いに逃げる事も敵わず、3人の元へそれは無情にも近づいた。

 

 

 

 

 

「リベリオン、ストーム!」

 

 だが飲み込まれる寸前、何処からともなく飛来する巨大な緑の球体が黒い球体に横から接触。黒い球体を弾き飛ばし、それは空に浮かぶ雲を元から存在していなかったかの様に消し去って消滅した。

 

 各戦いが終わりを迎える中、空から1人の男が飛来する。彼は3人とロストナンバーの間に着地すると、体勢を低くしたまま素早く導力器を片手に駆動を開始。瞬く間にロストナンバーの足元に茨が出現し、彼女を拘束した。

 

「ぁ……」

 

「あ、貴方は……!」

 

「ったく。最高のタイミングを作ってくれやがって」

 

 何処か面倒そうに呟いて立ち上がり、その顔が露わになる。……それは1月以上前、カレイジャスの爆破で亡くなった筈のトヴァルであった。

 

「だ、れ……?」

 

「おまけにお前さんが敵とはな」

 

「っ! え、いっ!」

 

 ロストナンバーは茨から脱出すると、空かさずトヴァルに向けて水の刃を放つ。だがそれを軽々とスタンロッドを振るって防ぐと、猛スピードで彼女の傍に近づいた。トヴァルの接近に慌てた様子で魔法を放つが、その全ては尽く躱される。

 

「魔法を使用する時は落ち着いて冷静に。そう教えた筈だぜ? まぁ、今のお前さんは俺の知ってる弟子(ティア)じゃ無いから仕方ないか。って事で、退場だ」

 

「!?」

 

 目の前に立った彼は、スタンロッドをロストナンバーの仮面へ振り下ろした。全力では無いその打撃は高い音を鳴らし、真ん中から仮面に罅が入ると……やがて2つに割れて床へ落下する。

 

「……ト、ヴァル……?」

 

「おはようさん、寝坊助」

 

 ロストナンバー……ティアは一瞬彼の名前を呼び、彼の言葉を受けてゆっくりとその身を彼の方へ倒した。再び眠ってしまったティアを受け止め、後ろ髪を掻きながらも彼は自分の存在に動揺する面々と向かい合う。そして度重なる衝撃に、パンタグリュエルに乗る者達は歓喜した。


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