「ティアの事、宜しくお願いします」
「うむ。血は繋がって無いとは言え、リアンヌの子じゃ。里の者にも話は通して置こう」
パンタグリュエルでの戦いから1日。トヴァルによって負かされたティアは眠ったままであった。診る者が見た結果、ティアは背中に受けた傷が完治しないまま無理に身体を動かして戦っていた事が判明。その無理が祟った可能性もあると診察された。
リィン達は彼女を一時的にエマやヴィータの故郷であるエリンの里へ預ける事にした。新しく乗船する事になったカレイジャスⅡでも悪くは無いが、揺れる船に乗り続けるより里の長である見た目少女の女性……ローゼリアの家に預けた方が安心出来たのだ。
彼女と戦い、呪いの真実を知ったリィン達は次の目的……相克へ挑む為に里を離れる。彼らの姿が見えなくなったところで、ローゼリアは自分の家にあるベッドで眠るティア。そして彼女の傍に佇む2人の少女達に目を向けた。
「お主ら、ずっとそこに居る気か? 少しは休まぬと、身体が持たんぞ?」
「この程度で倒れる様じゃ、鉄騎隊は務まりませんわ」
「もう少し、傍に居させてください」
それはティアと共に里へ残ったデュバリィとティオ。2人は3つ並んだベッドの左右に座り、真ん中で眠るティアを眺め続けていた。リィン達も同じだが、誰よりもティアを捜索し続けていた2人。その相手が目の前に居れば、離れたく無いと思うのも仕方の無い事なのかも知れない。ローゼリアは「やれやれ」と呟きながら首を横に振って、里に居る住人達へ伝える為に家を後にした。
「……」
「……」
「……ずっと、気になっている事があります」
「……何ですの?」
お互いに同じ存在を眺め続けていた時、突然ティオが目を反らさずにデュバリィへ語り掛ける。それに驚く様子も無くデュバリィが聞けば、ティオはティアから彼女へ視線を移した。
「地精の長が去り際に言った言葉。どう言う意味だったんでしょうか?」
それはトヴァルを始め、あの爆発で生き残ったオリヴァルト達の登場で戦いが終結した後の事。帝国と結社の者達が去ろうとする中、帝国側でリィン達と戦う皇太子、セドリック・ライゼ・アルノールがトヴァルに囚われたティアの処遇をどうするか地精の長、黒のアルベリヒに質問した時の言葉。
『あれの回収は?』
『必要ないだろう。既に何方も一度、破棄した欠陥品だ。今更向こうに渡ろうが、支障は無い』
まるで物の様に言い放ったその言葉はティオを始め、数々の存在の怒りを買った。だが通信で顔を見せていた彼をその場でどうする事も出来ず、その怒りは堪える事しか出来なかった。……破棄。その言葉にティオが思い出すのは、教団でティアが捨てられた事実。だが教団の人間では無く、ティアの存在を昔から知る筈の無い黒のアルベリヒがそれを言う理由がティオには分からなかった。
「私も、気になっている事がありますわ。……ティアはあの傀儡、グラーシーザとやらを使っていた。……あれは誰でも扱える物ではありませんわ」
「アルティナさんや、亡きミリアムさんが使っていたのと似た別種の戦術殻。地精の長が一度廃棄した……! そんな筈は……ティアは確かに私の」
ティオは1つの可能性に気付いた。だがそれは血の繋がりがある姉妹故に、ありえない事。ティアが約2年前にクロスベルへやって来る以前、本当に姉妹かどうかの確認を当然トヴァルは行っていた。故にちゃんと血縁関係のある姉妹だと証明もされている。しかし、目の前の事実と黒のアルベリヒの告げた言葉はそれを物語っていた。
「……ティ、オ……?」
≪!≫
突然、弱々しく紡がれるティオの名前。それはずっと彼女が聞きたいと思っていた声が発したものであり、2人は急いでティアの傍へ駆け寄った。まだ眠そうに。だがゆっくりと目を開いたティアの姿に、2人は喜びの余り涙を流さずにはいられなかった。
「あの、ね……私……一度、死んじゃったの」
「ぇ……」
「なぬっ?」
「……どういう事ですの?」
完全に目を覚ましたティアは、ベッドへ座りながらティオ。デュバリィ。そして帰って来たローゼリアへ語り始める。因みにローゼリアはその見た目が少女の様であり、昔に比べて人に慣れたティアが怖がる事は無かった。
ティアが語るのは、ティオと共に誘拐されてからの話。魔法を生身で扱える様に身体を改造する実験が行われ、成功はした。しかし彼らが思う様に使うにはまだ幼過ぎたティアは破棄と言う形で処分される。度重なる実験と、碌な物を口に出来なかったティアの身体は死ぬ寸前だった。捨てられた場所から動く事も出来ず、声も出ないままその命の灯は消え……ある出来事によって再び命を灯される。
『……ぉねぇ、ちゃん……』
『……』
死ぬ寸前、姉を呼ぶティアの声に反応する様に。白い靄が彼女の傍に現れる。そしてそれは何度かティアの周りを回った後、彼女の身体を包み込んだ。……その光はティアの身体にあった実験の傷を癒し、健康体と言えるまで治してしまう。
ティアが再びゆっくりと目を開けた時、彼女の目前には複数人の少女達が身体を薄くしながら立つ姿があった。
『
「……ぉな、じ……?」
『でも、分かるんだ……妹は、助けないと駄目。お姉ちゃん、だから。……だから、もし貴女が元気になったら。何時か出会う事が出来たら。私達の妹を、守ってあげて』
再び薄れる意識の中、その言葉を聞いたティア。次に彼女が目を覚ました時、最初に見たのは
ティアの話を聞き、彼女を救ったその光が何かを考えるティオ達へティアは告げる。……光の中に居た少女達が告げた妹とは、ミリアムとアルティナの事だと。それだけで、その光の正体が何かを3人は理解した。
「Oz。ミリアムさんやアルティナさんと同じ、黒の工房が開発した人造人間」
「確か、彼女達は73番目と74番目でしたわね」
「それ以前のものは破棄されたと考えるのが自然じゃろうな。じゃが、その意思達はこの世を彷徨って居た。そして、お主と出会った」
「俄かには信じられない話ですが……今までありえない話が真実だった場面を、私は幾つも見て来ましたわ」
デュバリィの言葉にティオも同意を示す様に頷いた。同じ部屋に
「あの、ね……ちっちゃい頃の、ティオとの事……思い出せた、の。少し、だけど」
「っ! 本当ですか?」
「う、ん。……本当の、パパとママ、は……思い出せない、けど……ティオ、私を……守ろうと、してくれた」
幼過ぎる頃の記憶は誰もが忘れてしまうもの。だが同じ様に微かに残る記憶もあり、ティアの場合は……誘拐されようとした時にティオが必死で自分を助けようとしてくれた記憶であった。
「あり、がとう……ティオ」
「っ!」
11年越しの感謝を伝えるティアへ、ティオは再び涙を浮かべながらその頭を抱え込む様に抱き締めた。涙を流す彼女にティアも涙を流し始め、そんな様子にローゼリアは「良い話じゃのう」と貰い泣きする。そして互いに泣き続ける2人を前に、デュバリィは目を閉じてから窓の外へ視線を向けた。
「(マスターは、こうなる事を見越していたんですわね。あの戦いでティアが破れ、
それは根拠の無い想像だが、それでもデュバリィは確信していた。間違い無く、もうティアはリィン達と敵対する事は無いだろう。このまま戦いが終わるまで身を隠すか、もしくは彼らに協力するか……それはティアの意思次第である。
2日後。ティアはローゼリアの家でティオ、デュバリィの2人と仲良く話をしていた。目を覚ました事で、自らの傷を治す為に魔法を使用したティア。傷自体はその特異な回復力で治す事が出来たものの、時間が経ってしまった為か跡までは消す事が出来なかった。消えない跡を見る度に辛い顔をするティオだが、ティアは特に気にしていない様子で「大丈夫、だよ」と彼女へ答える。
現在、家の主であるローゼリアは不在だった。彼女もリィン達と同じく忙しい様で、ティオとデュバリィもそろそろ合流するべきだと考えていた。ティアが目を覚ました事は今朝連絡済みであり、彼らが来次第合流する予定である。……2人はティアが今後どうするかの決意も既に聞いていた。
「大変です! 何か怖い人たちが急に!」
「っ!」
それは突然だった。エリンの里に住む少女の1人がローゼリアの家へ飛び込む様にして入って来ると、里の者では無い男達が近づいて来る事を知らせる。本来、許されたものしか入る事の出来ない結界に守られた里。近づく男達の様子は明らかに害意があり、3人はローゼリアが不在な事もあってまずは様子を見る事にした。
「あれは……結社の強化猟兵、ですわね」
「話によると、今は相克の最中。この里を襲う理由が見当たらないのですが」
「と、なると……お遊び。結社の意とは別の何か、かも知れませんわね」
里の者の力を借り、室内から外の様子を眺める3人。接触すれば襲ってくる可能性は高く、ティオはまず里の人間を一番大きなローゼリアの家へ避難させた方が良いと考える。デュバリィも同意して、彼らが里に入り込み始める前に全員を避難。魔女達が強力な結界を張る事で、攻撃をされてもビクともしない頑丈な要塞を作り上げた。
「さて。ここに閉じ籠っていれば、危険はありませんわ。ですが、解決もしない」
「……ロゼさんやリィンさん達との連絡は何かで妨害されている様です。ですが今朝連絡を入れていますし、恐らく今日明日には来るかと」
「確かにそうですわね。ですが、それで良いんですの?」
「デュバリィ……?」
「
「っ! ……あ、う……」
強化猟兵は徐々に里の中へ入り始める。その全てが大人の男性。ティアが恐怖する対象であり、だがデュバリィの言う通り戦えなければティアの決断も話にならない。煽る様な様子にティオがデュバリィへジト目を向けるも、向けられた本人は「試験ですわ」と告げた。
「ティアちゃん、無理しなくても良いんだよ?」
「リィンさん達が来れば、守ってくれる。それまで耐えれば良いのよ」
「!」
まだ3日程度しか居ないものの、里の者と話をする機会もあったティア。彼女達はティアへ優しく告げるが、最後に続いた言葉。『リィン達が守ってくれる』と言う内容に、彼女は反応する。そして意を決した様に、家の出入り口の前に移動した。
「守られるじゃ、駄目。守る為に……戦うの!」
『……』
「ふっ。言いましたわね。なら、次は行動ですわよ」
「はぁ……仕方ありません。里の方には色々お世話になっていますし、恩返ししましょうか」
ティアの決意と共に、その背後へ出現するグラーシーザ。デュバリィが己の武器を構えてティアの右に並び、ティオが魔導杖を手にティアの左へ並ぶ。里の住民である少女が3人の様子に、その中でも特に戦おうとするティアの様子に心配そうな視線を向けるが、そんな彼女の肩に女性が手を置いた。
「誰でも、自分の殻を破らなければいけない時が来る。今、あの子は殻を破る為に戦おうとしてるの。見守ってあげましょう」
女性の言葉は少女だけでなく、里の者の殆どに届いた。そして家を出る3人を見送り、唯々無事を祈り続ける。
立て籠もられた事で人質も取れず、頭を抱える強化猟兵達。そんな中、結界の中から出て来る3人の姿に彼らは驚いた。そして、その中に結社では有名な神速が居る事で彼らに動揺が走った。
「結社の強化猟兵。何が目的が知りませんが、ここに手を出すと言うならば、私達が相手になりますわ」
「エイオンシステム、起動。迎撃モードを開始します」
「皆を、守るの……ここから、出て行って……!」
剣を前に向けながら告げるデュバリィ。魔導杖を横に構えて魔法を何時でも放てる様に準備をするティオ。大人の男性達に恐怖を感じながらも、怯まずに言い切ったティア。まだ若い少女達だが、その気迫は強化猟兵達も怯む程だった。が、それでも子供が2人。全員女性と見て侮った彼らは、3人を囲む様に移動し始める。
「まぁ、予想通りですね」
「引く訳がありませんわ。隊長があれなら、特に」
「なあっ!?」
登場と口上だけで撤退する訳が無く、強化猟兵達の行動は予想通りだった。そこでデュバリィが少し離れたところに立つ1人の男性を見ながら告げる中、大人の男性達に取り囲まれた事でティアが少し震え出してしまう。
「大丈夫です。もう、1人にはしませんから」
「マスターにそんな腰抜けな様子を見せるつもりですの?」
「……違う……! リィン達と、一緒に……ママに、会うの!」
ティアの言葉に2人が同時に笑みを浮かべ、それを合図に襲い掛かる強化猟兵達。だがデュバリィの速さに追いつけず、ティオの魔法に抗えず、ティアの操るグラーシーザに彼らは容易く吹き飛ばされた。
「な、何なんだあの女達は!」
「あの人、が……一番、偉い人……なら。そ、れっ!」
「あちっ! あちち! って、ひぃ~!」
部下たちがやられる姿に戸惑う中、そんな彼を狙ってティアが全力で魔法を放った。途端、彼の足元に疑似的な足場が出現。里への被害を防ぐと共に、その足場は炎に包まれる。それに苦しむ中、彼は自分へ向けて近づいて来る炎の鳥に気付いた。火から逃れる為に足を動かすしか出来ない彼はその火の鳥の急接近を逃れられず、やがて爆発に巻き込まれる。
「ぐはっ! ぐぬぬ……まだまだぁ!」
黒い焦げ跡を残して倒れ伏した男。だがそれでも立ち上がった彼は逃げる様にその場を離れ始める。気付けば強化猟兵達は尽く地に伏しており、3人は隊長である彼を追って里から少し離れた広場へ向かった。……そこには浮遊する機械に乗り、更にその傍に現れたのは帝国が使う強力な主力戦車。しかも独りでに動いており、完全に自立している様だった。
「はっはっは! 機甲兵すら木っ端微塵にする帝国の
「くっ! 流石に不味いですわね」
「生身で相手にするのは、分が悪いかと」
「あう……それ、なら……」
その装甲も下手な攻撃では傷1つ付けられそうに無かった。故にデュバリィとティオが焦る中、ティアが前に出て両手を突き出す。
「何をしても無駄無駄ぁ……え?」
「これは、あの時の!?」
「なるほど。確かにそれなら……ティア、遠慮は要りませんわ。消し去ってしまいなさい!」
余裕を持っていた男は、ティアの目の前に生まれる黒い小さな球体が周りを吸引しながら徐々に大きくなる光景を前に言葉を失う。それはパンタグリュエルで
「……これで、お終い……エンドレス、ヴォイド……! さようなら」
十分に大きくなった黒い球を戦車へ放ったティア。それは戦車の全てを飲み込み、やがて消え去ってしまう。残るのは丸い円形に地面の抉れたクレーターだけ。その光景に男が呆気に取られる中、その隙を見逃さずにティオとデュバリィが連携して彼の乗る機械を攻撃した。バランスを取れなくなり、地面へ激突して大破する機械。それに乗っていた彼は放り出され、その目前にデュバリィの剣が突きつけられる。
「勝負あり、ですわね」
「ひぃ!」
男の情けない悲鳴を最後に、戦いは決した。