【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 カレイジャスⅡ。医務室。

 

 嘗てトールズ士官学院において別のクラスの同級生であり、以前ティアが再会したヴィヴィの妹でもあるリンデが任されていたその場所に、多くの者達が集まっていた。

 

「……どうなんですの?」

 

 その中の1人、デュバリィが不安げに問う相手はローゼリア。そして彼女は目の前に座る2人の人物を前に目を閉じて何かを探っており、やがて目を開いた彼女は……満足そうに頷いた。

 

「問題無い。無事に繋がっておる」

 

「それでは……!」

 

「もう、リアンヌが相克で消える事は無かろう」

 

「っ! ママ!」

 

「マスター!」

 

 彼女の言葉に座って居た者の1人、ティアが同じく隣で座っていたアリアンロードの身体へ抱き着いた。デュバリィも喜びの余り飛び上がる勢いで彼女を呼ぶ中、言われた本人は目を閉じて静かに口を開く。

 

「一体、何をしたのですが……ロゼ。力を金に奪われた以上、私は消える運命にある筈」

 

「うむ。まぁ、そうじゃな。確かにお主の力の大半は金に奪われてしまった。じゃが、お主の魂はまだそこに残って居ったのじゃ。それが消えるのも時間の問題じゃったがな」

 

「なら、どうやって……」

 

「魔術には色々ある。そして中には禁書と呼ばれる危険な魔術の載った本も存在する。エマも知っておるじゃろ?」

 

「はい。禁書で行える魔術はとても強力で、ですが同時に使用者に危険が伴うとされています。死者蘇生の魔術もあると聞きますが、成功例は今のところ……」

 

「し、失敗するとどうなるんですか?」

 

「話に聞く限りじゃ、身体が破裂して木っ端微塵! らしいわよ」

 

 質問に答え、エマへ話を振ったローゼリア。するとエマの続けた説明にユウナが不安げに質問し、セリーヌが答える。彼女の言葉を聞いて少しばかり数名の顔が青褪める中、ローゼリアは「安心せい」と告げた。

 

「そもそもあの魔術は確かに禁術だが、死者蘇生の禁術では無い。そんな物を使えば、治す間も無く一瞬で妾の身体が弾けてしまうからの」

 

「でもよ、現に俺達の目の前でちゃんと生きてるぜ? 俺みたいに力を返された訳じゃねぇんだ」

 

「言ったじゃろうに、力は金に奪われとる。妾が使ったのは、蘇生では無く消滅の先送りじゃ」

 

 クロウの言葉に返し、ローゼリアは更に説明する。

 

 元々、アリアンロード。……リアンヌ・サンドロットの魂は騎神の力で不死者となった事で生き長らえていた。だが金の起動者にやられた事で騎神は消え去り、彼女の魂を現実に繋ぎ留めるものが無くなってしまった。

 

「魂を繋ぐ騎神が消え、リアンヌは消える。……ならやる事は簡単じゃ。新たに魂を繋げば良い(・・・・・・・・・・)

 

「魂を、繋ぐ……?」

 

「250年分の魂の中からその核になる部分を見つけ、後は違う存在と魂を繋ぐ。……それが妾達の行った事じゃ」

 

「それって……」

 

 あの時の最後を思い出し、全員は嬉しそうに抱き着いているティアへ視線を向けた。言葉にせずとも思っている事が分かったローゼリアは頷いて、エマとセリーヌを見る。

 

「そうじゃのぅ。言うなれば、眷属。使い魔。そんな関係になった訳じゃ。あの親子は」

 

 ローゼリアが先程確認をした繋がり。それはティアとアリアンロードのもの。現在ティアを介してアリアンロードの魂はそこにあり、騎神や相克との関連で消える事は無い。……全てを知った時、突然崩れる様に座り込んだのはエンネアだった。

 

「そう……マスターは、まだ生きられるのね……」

 

「少なくとも、娘が死ぬまでは消える事は無い。250年以上生きたんじゃ。今更7,80年増えようがどうって事なかろう?」

 

 自分達よりも遥かに長く生きているローゼリアだからこそ言える物言いに聞いていた者の殆どが何とも言えない表情を浮かべる中、デュバリィが座るアリアンロードの目の前で跪いた。

 

「マスター。あの時言った通り、これは全て私達が勝手に決めた事。お叱りでも何でも、覚悟は出来てますわ」

 

「ママ……怒ってる……?」

 

「デュバリィ、ティア……いいえ。まだ、やるべき事があります。あのまま消える運命と一度は受け入れましたが……まだその時では無かった。と言うことなのでしょう」

 

 その答えに思わず顔を上げたデュバリィ。同じ様に嬉しそうにもう1度アリアンロードへティアが抱き着く中、抱き着かれた本人はリィン達へ視線を向ける。

 

「灰の起動者。蒼の起動者。そして有角の若獅子達。貴方達の思いと強さが私以上である事は、先程の相克で既に示されました」

 

「っ! 嘗て武の頂点とまで言われた貴方にそう言って貰えるとは……恐悦至極です。それと、ミリアムとヴァリマールの事。心からお礼を言います」

 

 リィンは彼女の言葉に答えると共に、現在船倉で待機しているヴァリマールと剣となったミリアムに関しての礼を告げる。……ローゼリアに促され、元よりそのつもりだった残り僅かな力を灰の騎神へ送ったアリアンロード。嘗ての戦いで意思を失ったヴァリマールと、剣に宿るミリアムの意思はその力によって復活する事が出来たのだ。以前の様に話を出来る様になり、思念体としてミリアムも姿を見せられる様になった。……本当の意味で、旧Ⅶ組の全員が揃う事が出来る様になったのだ。

 

「私の本懐は相克に勝ち残り、黒を討つ事。しかし、既に相克に置いて私は敗北者です。共に黒と戦う事は出来ないでしょう。ですが力を失えど、貴方達を黒の元へ導く手伝いは出来る筈」

 

 それは彼女が自分達に協力すると同じ意味。数名が鋼の聖女・アリアンロードが仲間になれば百人力だと思う中、釘を刺す様にローゼリアは告げる。

 

「何度も言っておるが、今のリアンヌは言葉通り力を失っておる。今までの様には戦えぬぞ?」

 

「そうなのか?」

 

「元々そのままでは力が強大過ぎて弱い娘の魂に繋げんかったからの。仕方なかろう」

 

「えぇ。それは私自身、感じています。どうやら私を繋ぐ器となったティアの力が、私の今出せる力。と言ったところでしょうか」

 

「余り使い過ぎるで無いぞ? やり過ぎれば、娘が倒れる」

 

 ローゼリアの言葉に「分かっています」と答えたアリアンロード。大きく期待した者達は残念そうに肩を落とすが、全てを彼女に頼っては意味が無いと前向きに考える事で落ち込むまではしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリッジでは現在、リィン達とアリアンロードの戦い、第三の相克が終わって間も無く出現した5本の塩の杭と空に浮かぶ要塞についての話し合いが行われていた。要塞の中には残りの騎神使いが待ち、中へ入る為には塩の杭を攻略しなければいけない。……そこで通信越しに塩の杭を攻略する為に名乗りを上げたのは、特務支援課や遊撃士協会の者達。他にも過去にアリアンロードを相手に戦い、生身で彼女に膝を突かせたオーレリアやラウラの父等、様々な者達だった。

 

「ママ……」

 

「えぇ。……塩の杭。その1つは私達が務めましょう」

 

「鉄騎隊の名に懸けて、速攻で落として見せますわ!」

 

「ふっ。久しぶりだな、我らが揃って任務に出るのは」

 

「日で言えば、そこまで経っていないのでしょうけど……色々あったものね」

 

 彼らの名乗りに続けて、ティアの呼ぶ声にアリアンロードは頷きながら名乗りを上げる。彼女が杭に挑むとなれば、必然的にティアも彼女達の元へ。リィン達が心配する様子を見せるが、ティアは「大丈夫、だよ」と告げた。

 

「皆が、居るから……大丈夫」

 

 それは鉄騎隊……だけでは無く、この場に居る者達全員の事だと聞いた者は感じる事が出来た。鉄騎隊とアリアンロード。そしてティアが共に行くとなれば、それ以上の戦力は必要ない。寧ろ連携の邪魔になる可能性も配慮し、慎重にチームが結成されていく。空に浮かぶ要塞では第四~最終までの相克が行われる為、リィンやクロウは当然突入しなければならない。となれば、その面々は自然と決まって行く。

 

「……ティア、良いんですの?」

 

「……リィン達は、負けないから」

 

「ドライケルスの意思を継ぎし若者達。彼らの道を、切り開きますよ」

 

≪はい、マスター!≫

 

「うん!」

 

 突入するのは新旧Ⅶ組の面々。嘗て短い期間ながらⅦ組として過ごしていたティアも当然その中に含まれて可笑しくないが、彼女はデュバリィの言葉に頷いて答える。そして彼らが要塞へ突入出来る道を作る為、力強く答える。

 

 塩の杭攻略と要塞突入の二大作戦は、オリヴァルトによって翼の閃き作戦(・・・・・・)と名付けられる。作戦決行は明日の正午に決まり、大きな戦いを前に壮行会が行われる事も決定。……すると、アリアンロードは静かにリィンの元へ近づいた。

 

「1つ、伝えて置くべき事があります。貴方が滅ぼした、かの者について」

 

「っ! ……それは……」

 

 彼女の言葉に思い出すのは、ティアが撃たれてミリアムが殺された黒キ星杯で対峙した禍々しい姿の聖獣。今現在、大陸全土に広がってしまっている呪いはその存在を暴走したリィンが剣となったミリアムを使って殺した事が始まりでもあった。

 

 アリアンロードから彼女の知る話を聞いたリィン。夜の壮行会が終わり、明日の朝になった時。作戦が始まる前に、彼は彼女から聞いた場所へ向かう事を決めるのであった。


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