幕-1
ミシュラムワンダーランド。そこは嘗て特務支援課が休養に来たクロスベルでは有名のテーマパークであり、ティアがカンパネルラによって連れ去られた場所である。そんなこの場所では、8月31日の夜。明日の翼の閃き作戦に参加する者達に向けた壮行会が貸し切りで開かれていた。
「ティア!」
「あう……ティオ」
建物の中で特務支援課の面々と再会したリィン達。すると誰よりも早く飛び出したティオが、ティアを抱きしめる。エリンの里で共に戦ってすぐ、一度カレイジャスⅡを降りていた彼女は僅か2日と言えど離れ離れになっていたティアを心配していたのだろう。彼女の抱擁にティアは驚きながらも、それを受け入れる。
ミシュラムへ到着したのはリィン達が最後であり、挨拶等を経て明日の作戦に向けて英気を養う為、各々自由に行動する事となった。ティアはティオに連れられてミシュラムのテーマパーク側で行われると言うみっしぃのイベントを見る為に移動。フィーとアルティナも共に行動する中、離れて行くティアをアリアンロードは眺めていた。
「さて。ここにはバーがあるんじゃろ? 久々に、飲むとするかの。リアンヌ、お主も付き合え」
「ふふっ、そうですね。行きましょうか」
「ま、マスター! お供させてください」
「御婆様、私も良いかしら?」
「むっ? ……まぁ、良いじゃろう」
アリアンロードはローゼリアの誘いに乗り、デュバリィとヴィータを連れてバーへ。そんな彼女達の姿を見送りながら、ふと気になった様にマキアスが「離れていても大丈夫なのか?」とエマへ質問した。今までは同じ船の中に居たが、今は街1つはありそうな広さの場所で別行動。繋がっていると言う話を聞いた故の疑問であった。
「私とセリーヌの様に、離れていても支障は無いと思います。それにお互いの場所は常に感じ取れるので、何かあってもすぐに分かるかと」
「話に寄れば、ティアはここで道化師に誘拐されたとの事だったな」
「結界も張られてるし、もうそんな事にはならないと思うけど……ちょっと心配だよね」
エマの答えにユーシス、エリオットと続く。そして彼らもまた互いに少し話をした後、解散。リィンは適当にミシュラムの中を回る事にした。
一方その頃、ティオと共にフィーとアルティナを連れてみっしぃのイベントを見にやって来たティア。彼女はイベントを始める前の、ステージ前に立つみっしぃを見つけて目を輝かし始める。そしてティオと共に駆け寄る姿を前に、それを見ていたアルティナが思った事を口にした。
「……以前、ユウナさんにも聞きましたが。どうして人が動物の皮を被るのでしょうか?」
「多分、気にしちゃ駄目だと思う。後、あの2人の前で言うのも駄目」
ティアとティオはどう見ても信じ込んでしまっている。故にアルティナの言葉を聞いてしまえば、前者は不思議がり、後者は否定する事だろう。みっしぃを前に目を輝かせるティアの笑顔を消さない為にも、フィーはアルティナへ告げる。それを聞いて疑問を持ったまま、それでも「分かりました」とアルティナは答えた。
みっしぃのイベントは30分程度で終了。フィーとアルティナは気付けば別の場所へ移動し、ティオとは別に同じ場所で共に見ていた
「相変わらず、怖がりなのね」
「っ! ……誰?」
「ふふっ、久しぶりね……ティア」
ティアが驚き振り返った先に居たのは、菫色の髪をした1人の少女。その傍には1組の男女も居り、ティアは自分の名前を知る少女を前に戸惑い続ける。が、やがて何かを思い出した様に不安そうな表情は一変。驚き、少女へ近寄った。
「レン、お姉ちゃん……?」
「えぇ、そうよ」
「っ! お姉ちゃん!」
それは数年前、アリアンロードに拾われてから少ししてティアが出会った少女だった。結社に関係する人間の中で一番年が近かった事もあり、ティアは彼女を姉の様に慕っていた。……だが、記憶が戻った頃にはもう結社の人間では無くなっていた為に会えなくなっていたのだ。そんな相手が突然現れた事もあり、ティアは思わずその身体に抱き着いた。少女……レン・ブライトは予想していたのかそれを受け入れ、頭を撫でる。
「ヨシュア。あんたは行かなくて良いの?」
「僕は殆ど話した事が無かったから、覚えていないかも知れない」
「そっか……取り敢えず、2人きりにして置きましょ?」
「そうだね」
そんな彼女達の後ろで話をする男女は、エステル・ブライトとヨシュア・ブライト。ヨシュアはレンと同じ嘗て結社に居た執行者の1人であり、ティアとも面識はあった。が、自分より大きな存在且つ男性だった彼を怖がる彼女は近寄ろうとしなかった為、仲が良かったとは言えなかった。
2人が離れて行く中、噴水のある広場のベンチに座って少し彼女と話をする事になったティア。やがてティアを探してやって来たティオがレンをお姉ちゃんと呼ぶ姿を見て衝撃を受ける中、今まで避けていた乗り物……ホラーコースターへ向かう事になってしまう。
「嫌……乗りたく、無い……」
「テーマパークの作り物よ。こんなので怖がってたら、明日の戦いは難しいかも知れないわね」
「あう……」
「ティア、大丈夫です。
「ティオ……うん。怖く無い、怖く無い……」
焚き付ける様に言うレンと、姉と呼ばれる彼女に対抗心を燃やして自身が想像する姉の安心感を見せようとするティオの言葉に乗る事を決意したティア。だが、アトラクションを前にティオは思い出す。ホラーコースターは2人乗りであると。
「レンお姉ちゃん……一緒」
「ふふっ、良いわよ」
「なっ……ティア……」
再会の嬉しさもあったのだろう。迷いなくレンを選んで一緒に乗ろうとするティアに、ティオはショックを受けざる負えなかった。優しい笑顔で承諾して共に入って行く2人を前に、ティオは離れて行くティアの背に手を伸ばす。が、その手は届かない。
それから数分後。アトラクションを出た2人は少し白くなったティオを発見。ティアが驚き心配する中、レンが楽しそうに笑みを浮かべ続けている姿がそこにはあった。
ティアは一度、テーマパークを出る事にした。ホテルやお店の並ぶ建物に入った彼女に気付いたのは、衣服専門店の前でシャロンと話をしていたアリサであった。
「あ、ティアちゃん! 今、時間は開いてるかしら?」
「? ……うん。大丈夫、だよ」
「ふふ。それでは、参りましょうか」
2人に連れられてお店の中へ入れば、そこには他に2人の人物が別々の服を手に話をしていた。
「こんなのは如何でしょう? あの子には絶対に似合いますわ」
「なるほど。流石皇女様ね、でも、こっちも良いと思うの」
それは嘗てパンタグリュエルで出会った帝国の皇女、アルフィンと鉄騎隊の1人であるエンネアであった。2人は共に自分よりも小さいサイズの服を手にしており、互いに見せては認め合って次の服を手に再び話をする。
「殿下。エンネアさん、本人を連れて来たわよ!」
「さぁ、お着替えと参りましょうか」
「え……ふぇ?」
それは一瞬だった。シャロンによってお店の試着室へ流れる様に入れられたティア。彼女が理解をする前に、素早く着ていた服は嘗てエンネアが用意したのとは別の物へと変わってしまう。
「……良いわ」
「……えぇ」
「……あぁ。やっぱり可愛いは正義、ですのね」
普段とは違うティアの服装と、それに伴う雰囲気の変化にシャロンを除く3人が何処か恍惚とした表情で眺める中、優しい微笑みで待機するシャロン。……ティアは試着室の中で普段着る事の無い服を着た事もあって、少し嬉しそうに鏡を眺める。それから3人の選んだ服装に着せ替え人形の如く着替えさせられる事になったティア。3人が満足するまで、それは終わらなかった。