鏡の城の前にある橋から離れ、広場までやって来たティア。すると突然、彼女の持つARCUSに通信が入り始める。リィン達は既にARCUSⅡと呼ばれる次世代機になっているが、ティアは導力器を必要としてこなかった故に未だ士官学院への入学時に貰ったARCUSのままだった。……が、問題はそこでは無い。現在、ティアの持つARCUSにARCUSⅡからの通信は可能だろう。しかし、そもそも彼女へ連絡をする様な相手は殆どいなかったのだ。突然鳴ったARCUSに戸惑いながら、ティアは通信を開いた。
「は、い……」
『やぁ、楽しんでいるかな? ティア』
「! カンパ、ネルラ……?」
通信の相手はカンパネルラ。彼がどの様な方法でティアのARCUSに通信をしているかは定かでは無いが、突然予想もしなかった相手からの通信にティアは更に戸惑ってしまう。
『あはは! 安心して良いよ。君達の時間を邪魔するつもりは無いからね。……だけど、こっちもお願いされちゃってさ』
「お願い……?」
『今から観覧車に乗って欲しいんだよね、1人で。以前の様な事はしないと約束するからさ』
「……」
誰かに伝えた方が良いのか、それとも信じた方が良いのか……ティアは迷った挙句、彼の言葉を信じる事にした。ARCUSの通信を開いたまま、観覧車に1人で乗り込んだティア。そんな彼女を後ろから眺める者が居る中、動き出した狭い空間の中でティアはARCUS越しにカンパネルラへ声を掛ける。
「……乗った、よ?」
『うん。それじゃあ、結界を誤魔化せる短い時間……再会の一時をお楽しみに。ってね』
「!?」
その言葉と同時に通信は切れ、狭い空間に淡い緑色の光が生まれ始める。そしてその光の中から姿を現したのは、シャーリィだった。
「シャーリィ……?」
「ティア、久しぶり!」
「シャーリィ!」
彼女の登場に驚き、やがてその身体へ飛びつく様にティアは抱き着いた。彼女を受け止めて抱き返すシャーリィは、「あぁ~、これだよこれこれ」とその感触を堪能する様にティアの背中を撫でる。すると、彼女は背中のある部分に触れて少し怖い表情に変わった。
「跡、残ってるんだ」
「うん……でも、痛くないよ。治した、から」
「そっか……ねぇ、ティア。もうやっぱりこっちに戻って来るつもりは無い?」
気にしていない様子で答えるティアにシャーリィは表情を戻し、何処か残念そうに。寂しそうにティアへ質問した。ティアが結社の人間が集う場所に居たのは、
「ここ最近はつまんなくってさぁ……ま、ティアが元気な姿も見れたから今は楽しいけどね」
「えへへ……ありがとう、シャーリィ」
「あぁ~! もう! 可愛いなぁ、ティアは」
シャーリィの言葉に嬉しく思ったティアがお礼を言えば、感極まった様子で彼女を再び抱きしめてしまうシャーリィ。軽々と彼女の膝に乗らされ、腹部に手を回されたティアは首元で鼻を当てて匂いを嗅ぐシャーリィの行動にこそばゆさから身悶えする。
「あ……シャーリィ。これ……約束だった、から」
「? あ、これって……ティアのぬいぐるみ」
彼女に抱きしめられた状態で、ティアは思い出した様にそれを取り出した。……数ヵ月前、セントアークで約束した自身のぬいぐるみ。他の誰かと違い、自分自身を作るのは大変で長い日が掛かってしまったものの、完成には無事に至ったのだ。再会出来た事で、ティアはそれをシャーリィへ渡す。彼女はそれを受け取ると、ティアの頭を撫でてお礼を言いながら自分の腕にくっ付けた。
「うん、良いね。流石に戦闘時には外すけど……暫くは耐えられるかな」
「耐える……?」
「ティアと会えなくなる時間の事。だから今の内に堪能しなくっちゃね!」
そう言ってティアの身体を弄る様にじゃれるシャーリィに、楽しそうな声を上げて受け入れるティア。だが観覧車が天辺を通り越して後半に入り始めた事で、シャーリィはその手を止めた。
「そろそろ時間かな~。ティアは明日、あの空を飛んでる場所に来るの?」
「ううん。おっきな塩の杭を……ママ達と一緒に」
「そっか。じゃあ、明日は会えそうに無いね」
敵への情報流出だが、そんな事気にした様子も無く答えるティア。シャーリィは彼女の言葉に残念そうに呟き、やがて観覧車は終わる手前になる。すると、2人の乗る狭い空間にカンパネルラの声が響いた。
『時間だよ。一時の再会は楽しめたかな?』
「まぁね」
「カンパ、ネルラ……ありがとう」
『あっはは! うん、どう致しまして。でもティアはもう少し人を疑う事を覚えた方が良いと思うな。一度信じた相手だからって、僕達は明日敵なんだからね。まぁ、君らしいけどね』
どうやら2人の話を聞いていた様で、ティアがシャーリィへ軽い情報を流出させたのも聞いていたのだろう。だからと言って何をする気も無い様子だが、彼はティアへ注意する。シャーリィも同じ事を思ったのか、「だね」と同意を示す中。ティアは不安そうにシャーリィへ視線を向けた。
「リィン達と……戦うの?」
「ま、そうなるだろうね」
その答えに悲しそうに視線を落としたティアを見て、シャーリィは「なる様になるよ」と言ってその頭に手を置いた。……やがて、そんな彼女の足元に転移する為の淡い緑色の光が生まれ始める。それは別れの合図。
「……シャーリィ……またね」
「またね、ティア。……あ、そうだ」
「?」
お別れを前に寂しくなりながら見送るティア。すると、答えた後に思い出した様にシャーリィはティアへ近づき始める。そしてその姿勢を低くすると……ティアの額に口付けをした。それは嘗て、シャロンから教わった友達の証。
「再会の約束、ってね。次会う時は、口でも良いかもね?」
「あう……」
恥ずかしそうにするティアの姿を最後に眺め、シャーリィは笑顔で観覧車から消えてしまう。1人恥ずかしそうに観覧車から降りたティアは、イベントにも使われていたベンチに座って火照る顔を夜風に当てて沈めながら、明日の戦いで出来る限り彼女に怪我が無い事を祈るのだった。
「ティア。大丈夫か?」
「あ……アイネス」
ベンチで休んでいたティアへ声を掛けたのは、アイネスだった。彼女はティアが1人で観覧車に乗る姿を見ており、彼女の乗っていた狭い空間にもう1人の人物が居た事にも気付いていた。
「血染めに何かされたか?」
「ううん。大丈夫、だよ……ちょっと、疲れちゃった、だけ」
「そうか……今更だが、ティア。マスターを救ってくれて感謝している」
「ママ……消えて欲しく、無かった……から」
「自分の為、か? だとしてもだ。……私はマスターの傍で、マスターの為に力を使える事を誇りに思っている。私の居場所はあの方の傍以外に考えられないのだ」
「……アイネス」
「デュバリィも、エンネアも。それは同じだろう。あの方の為に生き、その力となる事を誇りに思っている。だからティア。お前の行動はマスターだけでなく、私達鉄騎隊も救ったんだ」
「皆の力に……なれた?」
「あぁ。頼り甲斐のある、我らの仲間だ」
そう言って頭に手を置いたアイネスの言葉にティアは嬉しそうに笑みを浮かべる。戦いにおいては守られてばかりで足を引っ張っていると感じていたティア。それ故か、彼女の言葉で初めてティアは鉄騎隊の一員の様な存在に成れた気がした。
もう夜も大分深まって来た。テーマパークを離れ、デュバリィやアリアンロード達が居るであろうバーへ向かう事にした2人。バーと言えどお酒だけを取り扱っている訳では無い為、以前来た際にティオと飲んだジュースを思い出してティアは飲みたいと思いながら足を進めるのだった。