【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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終章 新たな未来へ
終-1


 9月1日、正午。

 

 カレイジャスⅡに乗るオリヴァルトの号令と共に、翼の閃き作戦は開始される。塩の杭へ向かう飛行船に乗り、ティアは傍に立つ鉄騎隊の3人とアリアンロードへ視線を向けた。

 

「魔獣……一杯」

 

「外から入り込んだ魔獣も居る様ですが、その大多数は杭を守る為に生み出された存在ですわね」

 

「杭を守る守護者も居る事だろう。ふっ、望むところだ」

 

「最初から簡単に攻略出来るだなんて、誰も思っていないわ」

 

 ティアの言葉にデュバリィ、アイネス、エンネアの順に言葉を告げながらその視線はアリアンロードの元へ。4人に視線を向けられた彼女は空へ浮かぶ要塞へ視線を一度向けた後、4人へ向き直った。

 

「鉄騎隊、ティア。彼らをかの要塞へ届かせる為に、我らで血路を切り開きますよ」

 

≪イエス、マスター!≫

 

「うん!」

 

 彼女の言葉を最後に、飛行船は彼女達が担当する塩の杭へ到達。飛び降りる様に塩の杭へ侵入を開始した5人は、壁を伝う赤い光にのみ照らされた薄暗い空間へ降り立った。目前に見えるのは長い通路と、徘徊する魔獣の姿。それを前に、デュバリィ達は各々武器を取り出す。

 

「行きますわよ!」

 

 そう言って走り出したデュバリィ。そんな彼女の背中を追う様に他の4人も進みだせば、気配に気付いた魔獣達が襲い掛かり始める。が、デュバリィは目にも留まらぬ速さで目前の敵を切り裂いて足を止めない。

 

「ふっ!」

 

「邪魔はさせないわ!」

 

 後方でも後ろから飛び掛る魔獣をハルバードで軽々と吹き飛ばし、近づく前に射貫いて仕留めて行くアイネスとエンネアの姿が。そしてその更に後ろでは、グラーシーザの突き出した腕に弾き飛ばされて壁へ激突する魔獣に一瞬で距離を詰めたアリアンロードが手に持つ槍で貫く光景もあった。……因みに霊場での戦いで先が欠けていた槍は昨日の壮行会で修復済みである。

 

「ちっ、魔獣がわらわらと……切りがありませんわね」

 

 入り込んだ魔獣に加えて塩の杭で生み出された魔獣の数は多く、彼女達の行く手を塞ぐ様に現れ続ける。魔獣を切り裂いた刃を振りながら、思わず悪態をついてしまうデュバリィ。すると、後ろに居たティアがアリアンロードと目を合わせてから誰よりも前へ移動する。

 

「ティアちゃん?」

 

「ママ、お願い……!」

 

 エンネアが彼女の行動に声を掛ける中、胸の前で祈る様に手を組んで隣に立つアリアンロードへ告げる。途端、彼女とアリアンロードの間に目で見える光の線が出現した。見ていた鉄騎隊の3人が驚く中、身体を輝かしながらアリアンロードは前へ。槍を持つ腕を引き、一気に飛び出す。

 

「我が槍、見切れるものなら見切ってみなさい!」

 

 その言葉を合図に、槍が数百本はあるかの様に錯覚する程の残像を残す神速の連続突きが彼女から魔獣の群れへ放たれる。1体、また1体と貫かれて葬られていく魔獣。やがてアリアンロードが突きを止めた時、彼女の目前に広がるのは群がっていた魔獣が全て死に絶える光景だった。

 

「あの魔獣の群れを一瞬で……流石マスターね」

 

「例え力を失ったとしても、マスターの強さは不動。と言う事だ」

 

「あぁ~、マスタぁー……って、ティア? 大丈夫ですの?」

 

「う、うん……ちょっと、疲れちゃった……だけ、だよ。大丈夫」

 

 エンネアとアイネスがアリアンロードの強さに改めて尊敬の念を抱く中、まるで恋する乙女の様に勇ましいその姿を眺めるデュバリィ。すると、そんな彼女の目に少しふらつくティアの姿が映った事で彼女は素早くその身体を支えた。すると疲労を感じさせる様子で答えた姿に、彼女達は思い出す、アリアンロードの力は現在、ティアから引き出されるもの。つまり彼女を頼ると言う事は、ティアに頼る事にも繋がるのだ。そして余りにも頼り過ぎれば、ティアは倒れてしまう。

 

「アイネス、エンネア。行きますわよ」

 

「承知!」

 

「ティアちゃんやマスターにばかり頼る訳にはいかないものね!」

 

 目前に居た魔獣の群れは全てアリアンロードの攻撃で倒れた。だが最奥へ続く道にはまだ徘徊する魔獣がおり、戦闘は避けられない。故に彼女達はティアとアリアンロードに頼らない為に、改めて前へ出て2人を先導する様に進み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最奥を目前に、彼女達の目の前に巨大な存在が立ち塞がる様に姿を見せた。それは杭を守る守護者として、杭自身に生み出された存在。……この場に居る誰よりも巨大で、本来であれば騎神や機甲兵で相手をする様な存在。

 

「なっ! 何ですのこれは!?」

 

「黒の工房の最終機体……!?」

 

「っ! ううん……違う。分かるの……」

 

「Ozの意思、か。もう話を出来ないと聞いていたが」

 

「うん。でも、感覚がするの……違うって」

 

「杭が帝国での出来事を読み取り、それを元に生み出した存在なのでしょう」

 

 黒の工房。それはミリアムやアルティナの様なOzを作り出した存在であり、ティアの中に眠るOz達の意思も彼らによって生み出された存在。それ故に目前に現れた巨大な存在は同じ場所で作られた様に誰もが一見見えるが、確証は無くとも自分達と違う事をティアは感じ取っていた。恐らく、彼女達以外の杭でも同様に帝国内で存在した神機や幻獣と呼ばれる存在を元に生み出された一種の偽物が立ち塞がっている事だろう。今にも襲い掛かって来そうな巨大な存在……ネクロ=ヴァリスを前に、デュバリィが剣を向けた。

 

「我らが鉄騎隊の前に立ち塞がるのなら、何であっても切り散らすのみ。速攻でスクラップにして差し上げますわ!」

 

「ティア、エンネア。援護は任せるぞ」

 

「了解したわ」

 

「うん! ママも、一緒!」

 

「えぇ。さぁ、参りますよ……!」

 

 一斉にデュバリィとアイネスが飛び出し、遠距離からエンネアとティアが矢と魔法で攻撃を開始する。襲い掛かる小さな存在を払おうと攻撃を開始するネクロ=ヴァリスだが、素早い移動で攻撃を回避しながら加えるデュバリィには当たらない。アイネスも固い守りを展開して攻撃を受け止め、ならばと遠くから攻撃してくる2人へネクロ=ヴァリスは攻撃を仕掛けた。が、間に入り込んだアリアンロードが槍を突き出してそれを防ぎ止める。

 

「えいっ! やぁ! もう、一回……!」

 

 ティアが連続で魔法を放てば、氷の刃が地面から数本生えてまずはネクロ=ヴァリスの行動を牽制。その間にデュバリィとアイネスの足元に身体能力を上げる風が生まれ、巨大な時計が地面に浮かびあがると共にその時間速度を早くする。

 

「せいっ はぁ! まだまだ、ですわ!」

 

「はっ! ふっ! 貰った!」

 

 翻弄する様に左右で攻撃を加える2人が同時にその足を武器で攻撃した時、ネクロ=ヴァリスはそのダメージから前方へ倒れ込んだ。すると、それを好機と見たデュバリィが声を上げる。

 

「アイネス! エンネア! ティア! やりますわよ!」

 

「ふっ、我らが鉄騎隊の力、見せてやろう!」

 

「この技を受ける事になるなんて、可哀想に。生まれて来た事を後悔させてあげるわ!」

 

「うん! ママ、力を貸して!」

 

「良いでしょう。貴女達の力、その全力を持って道を切り開きなさい!」

 

 その言葉にそれぞれが反応を示すと、アリアンロードが最後に告げて手を前へ突き出した。

 

「さぁ、耐えてみなさい! セイントランサー!」

 

 それは彼女が放ったオーダー。途端に4人の内から尋常では無い程に湧き上がる力は、全てネクロ=ヴァリスへ向けられる。

 

「さぁ、行きますわよっ!」

 

 まずはデュバリィが3人に分かれ、ネクロ=ヴァリスを囲む様に3方向へ移動。すると、アイネスが一気にネクロ=ヴァリスへ急接近して手に持つハルバードでその足元を力強く打ち上げる。 

 

「吹き飛べ! はぁ!」

 

 その巨体を物ともせずに地面ごと打ち上げ、空に舞うネクロ=ヴァリス。そんな相手を遠くからエンネアが弓に4本の矢を番え、放つ。

 

「捕らえたわ! ティアちゃん!」

 

「うん。そ、れっ!」

 

 放たれた4本の矢はそれぞれその巨体の上下左右へ。するとティアがエンネアの言葉に頷き、魔法を発動する。上下の矢と左右の矢を繋ぐ様に光の線が生まれ、出来上がる十字架にネクロ=ヴァリスは磔となる。

 

「はあぁぁぁ!」

 

 そこへ3人に分かれたデュバリィが同時に突撃する。そして1人となった彼女は振り返り、続け様に剣を上へ掲げる様に構えた。

 

「これが、私たちの!」

 

≪恊技・グランドクロス!≫

 

 揃う4人の声と共にデュバリィの振り下ろす刃から飛ばされた斬撃が十字架の中心に当たった瞬間、巨大な爆発がネクロ=ヴァリスを包み込む。……やがて場が落ち着いた時、その姿は影も形も無くなっていた。

 

「……スクラップどころか、塵も残りませんでしたわね」

 

 思わず呟いたデュバリィが振り返れば、そこには嬉しそうにエンネアとアイネスに両手でハイタッチするティアの姿が。彼女はデュバリィに近づくと、両手を上げて彼女からのタッチを待つ。少し気恥ずかしさを感じながらもデュバリィはそれに応じ、高い音が静寂に響き渡った。


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