【完結】調の軌跡   作:ウルハーツ

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 オーロックス峡谷道。バリアハートから出たA班は手配魔獣を倒す為にそこを訪れていた。先程の半貴石を手に入れる為に戦った魔獣とは違い、初めから強敵が相手と分かっている。故にユーシスとマキアスが今度こそ戦術リンクを互いに成功させる気概を見せる中、手配魔獣に近づいて来た事でティアは反応を見せる。

 

「大きぃ……爪……ぴょんぴょん、跳ねてる……よ」

 

「大分機動力に優れた魔獣、かもね」

 

「あぁ。……行こう」

 

 ティアの情報を元に敵の行動を予測して警戒し乍ら、やがてA班は手配魔獣と接触。そしてユーシスとマキアスが主に前へ出て戦闘を行うも……戦術リンクを繋いで尚、2人は全く連携が出来ていなかった。やがて強制的に2人を繋ぐ光は断絶され、ARCUSの機能を受けなくなってしまう。

 

「駄目かっ! エマ、頼む!」

 

「はい、リィンさん!」

 

 2人の動きが上手く行かないと分かり、代わる様に前へ出たリィンはエマと戦術リンクを繋ぎながら戦闘を引き継ぐ。誰とも繋いでいないフィーが1人でフォローする中、地に伏した魔獣を前に一安心。だが、ユーシスとマキアスは互いに断絶された原因が相手にあると言い合いを始め、到頭掴み合いが始まってしまう。

 

「ぁ……う……フィー」

 

「流石に不味いかも」

 

「そうじゃ、なぃ……あれ」

 

「? っ!」

 

 リィンが止めに入ろうとするも、更に言い合いが過熱して到頭殴り合いにも発展しそうになった時。フィーはティアの言葉に首を傾げて彼女が指差す何かを見る。……それは地に伏した魔獣であり、一瞬その巨体が動いた事でフィーは動き出していた。機動力を生かして倒れた状態から突然跳躍した魔獣。その攻撃先は喧嘩する2人であり、次に魔獣の動きに気付けたリィンが2人を庇う様に間へ入る。そしてその刃が自らの肩に僅か乍ら触れた瞬間、背後から響く銃声と飛来する弾丸が魔獣の鋭い爪を撃ち抜いた。

 

「まだ生きてる。気を抜かないで」

 

「リィンさん、怪我はありませんか!」

 

「あぁ。フィーのお蔭で大丈夫だ」

 

 自分達を庇おうとした事は明白。その事実に喧嘩をしていた2人が言葉を詰まらせる中、フィーが何時の間にか魔獣の背中に乗って至近距離で発砲する。再び倒れる魔獣を前にやり遂げた様子で息を吐いたフィーはその背から降りた。

 

「完全に沈黙した筈。どう?」

 

「う、ん……もう、へぃき。……フィー」

 

「? ……了解」

 

 自分よりも完全に魔獣の状況が分かるティアへ質問すれば、頷いて肯定した彼女がフィーへ何かを耳打ちする。フィーはそれを聞いて頷きながら答えると、リィンの傍へ。そして肩に僅か乍ら傷がある事を指摘した。途端に心配していたエマが手当をすると言い始め、僅かな掠り傷で放って置いても治ると答えるリィンだが、エマの押しは強かった。

 

「そんな大げさにしなくても大丈夫だ」

 

「いいえ、傷は傷です。放って置けば更に悪化する場合もあるんですからね」

 

「……分かった」

 

 到頭折れたリィンにエマが手当を開始する中、黙っていたマキアスとユーシスが自分達のせいだと謝り始める。リィンは彼らの言葉に傷はそんなに大きく無いと念を押した上で、2人は悪くないと告げる。

 

「言ったろ? 俺達は仲間、だからな……2人が無事で良かったよ」

 

「君は……」

 

「……」

 

 リィンの言葉に再び言葉を詰まらせる2人。やがて手当も終わり、無事に討伐した事を報告する為にオーロックス峡谷道を更に奥へ進む事になったA班。未だにマキアスとユーシスの戦術リンクは繋がらないが、それでも彼らはあの時以上に喧嘩を始める事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告を終えての帰り道に謎の飛行物体の目撃し、峡谷道の向こうにあったオーロックス砦に侵入者が入った事実を知りながら街へ戻ったA班。ホテルの前でユーシスの父親と遭遇するも、決して暖かく感じる事の出来ない会話をその目にした事で彼もまた何かを抱えていると悟る。……そして男女別に部屋へ戻り、レポートを書く事になったのだが……。

 

「……うぅ……」

 

 ティアは机の上に置かれた紙を前に何も書けずにその手を止めていた。と言うのも以前の特別実習でティアが作ったレポートは決してレポートと言える様な代物では無かった。基本的に何でも『怖かった』で終わり、その内容は言うならば子供の日記。本人の年齢的にはギリギリ問題無さそうだが、士官学院に居る以上それでは許されなかった。

 

「ふぁ~……やっぱ、眠くなるね」

 

「フィー……見せ、て?」

 

「別に良いけど、多分丸写しはサラに怒られるよ」

 

「あぅ……」

 

「あはは……ティアちゃん。一緒に頑張りましょう」

 

「…………う、ん」

 

 士官学院での日々と今日の時間で僅か乍らに慣れ始めていたティアはエマの言葉に長い間を置いて頷いた。今ならもう少し仲良くなれるかも知れないと思ったエマ。彼女へ僅かに近づけば、ティアは離れる様に僅か乍ら距離を取った。……一緒に頑張る気はあるものの、近づく事はまだ出来ない様子である。

 

「エマ、どんまい」

 

「うぅ、もう少しな気がするんですが……」

 

 一定の距離を保ちながら口頭で手助けをして貰う事になったティア。フィーもエマに色々助けを求める事があり、エマは大忙しだった。……やがて無事にレポートが完成したタイミングでリィンが部屋の戸を叩く。夕食を食べに行く為に向かいのレストランへ行くとの事で、無事に男子の方も終了したのだろう。彼の誘いに乗ってA班はレストランへ向かった。

 

 向かいのレストランはマキアス曰く、『如何にも貴族が来そうなレストラン』だった。数人が気後れする中、堂々と入店するユーシスを出迎えた店主。その表情は一瞬驚き、すぐに優しいものへと変わる。それは駅員やホテルの従業員とは違う、心の底からの微笑み。ユーシスの帰還を祝ってと言う事で、値段は特別料金。出される料理はどれも豪華で美味しく、A班は至福の一時を味わうと共にユーシスが慕われている事を知った。今朝出会った貴族との大きな違いにマキアスが複雑そうな表情を浮かべる中、やがて食べ終えた事でホテルへ帰還。再び男女別に分かれ、明日の為に休む事となる。

 

「今日は別」

 

「……う、ん」

 

「ベッドの位置は……こうなりますよね」

 

 普段一緒のベッドで寝ているティアとフィーも今日は別々。3つ並んだベッドの中央でフィーが横になり、その左右をティアとエマが使用する。ある意味当然とも言えるベッドの使用位置に眼鏡を外しながら呟いたエマ。そして電気を消して眠る事になり、部屋の中には静寂が支配する。……が、しばらく時間が経った頃。ティアは徐に目を開いた。

 

「……」

 

「……眠れない?」

 

「っ! ……う、ん」

 

 ティアは決して誰かが一緒で無いと眠れない訳では無かった。だが不思議と中々眠る事が出来なかった様で、まだ寝付いていなかったフィーがそれに気付いて声を掛ける。声を掛けられるとは思っていなかったティアは一瞬驚き、フィーへ顔を向けて頷いた。

 

「前は知らないけど、ティアは今日頑張ってた」

 

「……そう、かな?」

 

「ん……半貴石、だっけ? あれを見つけたのはティア。リィンが大きな怪我をしなかったのもティアが気付けたから。……頑張った」

 

「……う、ん……戦ぃ、出来なぃ……から」

 

「そっか。……ティアは無理して戦わなくても良いと思う」

 

「で、も……」

 

「前にも言った筈。私が守る。だから、ティアは心配しなくて良い」

 

「……フィー」

 

「大丈夫。……お休み」

 

 会話の末、フィーはそう言って目を閉じてしまう。ティアはそれを見て天井を見上げ、同じ様に目を閉じた。……それから数時間、部屋の中には再び静寂が訪れる。2人の会話を同じ様にまだ寝付けていなかったエマは図らずも聞いてしまい、今まで以上に2人の関係が気になり始めるのだった。そして、夜は明けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別実習2日目。男子の部屋でも何やら話があった様で、マキアスとユーシスが互いに積極的に戦術リンクを完成させると意気込みを見せる中、突然ユーシスの父親の命を受けた執事によって彼は一時的に班からの離脱を余儀なくされてしまった。ユーシスが居なくなっても時間は過ぎる。彼抜きで課題を熟す事になったA班は2つの課題を確認した後、最寄りの昨日夕食を食べたレストランへ向かった。

 

 それから数時間。レストランからの頼み事を終え、街の外で手配魔獣も無事に撃破したA班は突然大人達に囲まれてしまう。ティアが目に見えて怯える中、彼らの恰好から領邦軍であると理解した一同。その目的はマキアスの確保であり、罪状は昨日のオーロックス砦にあった侵入者について。マキアスが『濡れ衣だ!』と抗議するも、聞く耳を持たずに連行して行く領邦軍。リィン達に止める術は無く、彼が連れて行かれる現状とユーシスがこの場に居ない現状を合わせてリィンはそれが仕組まれたものであると理解した。

 

 宿泊していたホテルにも領邦軍が居り、自由に行動する事が出来なくなってしまった4人。職人通りの宿酒場でまずは状況を整理する事になる中、ティアが窓の外に何かを見つけた様子で急激に立ち上がった。

 

「どうしたんだ、ティア」

 

「っ!」

 

「ティアちゃん!?」

 

「……私が見てる」

 

 ティアは突然宿酒場を飛び出してしまう。予想外な行動に困惑する中、同じく驚いていたフィーが彼女を追う様に外へ出れば……少しして入れ替わる様に1人の男性が入店した。

 

 その頃、職人通りの道の真ん中できょろきょろと周りを見渡していたティア。その様子は見つけた何かを見失った様であり、追い掛けて来たフィーが彼女へ声を掛ける。

 

「どうしたの?」

 

「あ、ぅ……と、ヴぁる……」

 

「トヴァル? ……それって確か」

 

 フィーがティアの言葉に思い当たる部分があった事で言葉を続けようとするも、見失っても尚諦めきれない様子のティアは再び走り出してしまう。何の手掛かりも無い状況で大きなこの街中を闇雲に探すのは無謀とも言える。が、言っても聞きそうにないその姿にフィーはティアの姿を見失わない様に気を付け乍ら街を歩きまわった。が、結局は見つからない。今にも泣きそうなティアの姿にフィーは前に立つと、両肩に手を置いた。

 

「見間違いかも。戻ろう、リィン達のところに」

 

「……ぅ、ん……」

 

 弱々しく頷いて、フィーと手を繋ぎながら職人通りへ戻ったティア。宿酒場に残っていたリィン達は2人を出迎え、何があったのかを質問するも、「ちょっとね」とフィーは返して話を終わらせる。するとリィンとエマはマキアスを助け出す事を、その方法を見つけたと2人へ説明し始める。……何でも偶然この場に若い男性の遊撃士が居り、彼から『地下水道』の存在と場所を聞いたとの事。

 

「……ゅう、撃士……」

 

「……」

 

「えっと……続けて大丈夫か?」

 

 ティアが『遊撃士』と言う言葉に反応を見せ、フィーがそれを見つめる中でリィンが頬を掻きながら質問。フィーが頷き返すと、彼は説明を再開した。

 

 公都の下には地下水道があり、そこには魔獣が徘徊している。だがその地下水道は領邦軍の基地にも通じており、そこから中へ入ってマキアスを助け出す事が出来るかも知れない。全ての説明を聞いたフィーは少し黙った後、「良いよ」と一言。エマもマキアスを救う為にやる気の様で、リィンはティアに視線を合わせる様にしゃがみ込んだ。

 

「ティアは大丈夫か? 何なら街に残るのも」

 

「……ゃ」

 

「ホテルも入れないし、ティアを残すのは逆効果だと思う」

 

「少し心配ですが、私も連れて行ってあげた方が良いと思います」

 

 フィーとエマの言葉を聞いてリィンはティアを連れて行く事にする。そして4人は若い男性遊撃士からの情報を頼りに地下水道への入り口を見つけ、領邦軍目掛けて侵入を開始するのだった。


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