クリスマスの魔法   作:ATNAS

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1.リュウ

2018年12月3日。ふと塾から出てきて見ると階段の下にクリスマスツリーが立っていた

クリスマス…もうそんな時期か。

クリスマスまでは一ヶ月を切っている。

クリスマス…生まれてきてからこれまで生きてきた17年間の記憶を辿ってみる。

とはいえ俺は年齢=彼女いない歴だ。

なので、「大切な人とクリスマスを過ごす」みたいな事は一回もなかった。

あぁ、なんて悲しい人生なんだ。

当然、毎年家族と過ごす。

貰ったプレゼントの種類以外全く変化が無いのでじゅうなな思い返してみたは良いもののどの記憶がいつのクリスマスだかわからない。

意味無いねこりゃ。

思い出してもどうしようも無いようなので俺は自分の内部ストレージに蓋をした。

夜空を眺めてみる。

今日は生憎の曇り空だった。

まぁ、晴れていたところで星など全然見えないだろうが。

今俺がいる場所は、都会とまではいかないが田舎でも無い。

よくある「普通の街」だ。

だがそれでも夜通し明かりが消える事は無い。

当然星はかなり見えにくくなる。

おまけに季節は冬。

夜空は我らが銀河系の中心とは正反対の方向の宇宙を映し出している。

星など見えるはずが無い。見えたとしても今にも消えそうな北極星が見えるくらいだろう。

はぁっとため息をついて目線を下に落とす。

静かな気持ちではある。

だがそれは寂しいのか悲しいのかわからない、ブルーな気持ちだった。

俺は今駅チカの塾からほど近い、そしてもって駅一体のエリアの外れ中の外れみたいな所にいる。

一体こんな所で何やってんだろ。

ここまで考えて、俺は久々に今がクリスマスシーズンだと言う事を思い出した。

あぁもう。

また思い出してしまった。

クリスマスといえばプレゼントかぁ。

昔はサンタを信じてイブの夜はウキウキしてベッドに入ったものだった。

だが当たり前だが今俺はサンタの存在を信じていない。

だけど欲しいものなら、ある…かもしれない。

ずっと俺はいわゆる「ヒット曲」が大嫌いだった。

あんなの安っぽいケータイ小説と一緒だ。

意味の無い言葉を並べ立てただけ。

歌詞の無いインストロメンタルを聞く方がずっと良い。

ところが困った事に俺はインストロメンタルは愚か、音楽全般に興味が無かったので、自分で音楽を調べたりもせず、ただ音楽を自分の世界から閉め出した。

今でもBGMでは無く普通の曲が流れるようなファミレスとかには絶対行かない。

とまぁ、ここまで見てもわかるように俺はかなりのひねくれ者だ。

もう自分でも開き直っている。

だけどまぁ少しは改善したい気持ちが無くも…無い。

音楽逃避とひねくれ者改善。

プレゼントに変換するなら「温かい気持ちと、優しい音楽」

とでも言った所か。

まぁお願いした所で届くとは思えないが。

てかこれ完膚なきまでの他力本願じゃん。何バカみたいなこと考えてるんだ俺は。

嗚呼。

ガクッと方を落とす。

と、突然後ろから足音が聞こえてきた。

無視。

しかし足音の主はそのまま歩いてきて俺の隣まで来てしまった。めんどくさ。

無視しようと決めていたがその決心は数秒後には打ち砕かれた。

「ねぇ、君、どうしたの?そんな沈んだ顔して。もうすぐクリスマスだよ?」

なんて事を聞いてきたからだ。

しかもその声が嬉しかろうが悲しかろうが怒っていようがいようが勝手に返事をしてしまうような声なのである。

ムッとしたがつい「クリスマスだからなんて理由にならないだろ?しかもなんで見ず知らずの奴に応えないといけないんだよ。」

横を振り向きながらそう応えてしまった。

改めて相手の姿を見てみる。

女子だった。

おそらく俺と同い年だろう。

俺より少し背は低い。

顔はかなり垢抜けている。結構人気ありそうだ。

だが少し幼かった。

そして目を引くのがその服装。

厚手の黒パーカーに黒のワンピース。

まるで車にひかれたいのかと思うまでに黒ずくめだった。

そいつはこう返してきた。

「あ、ムキになってる。クリスマス嫌いなの?」

うっせえな。だいたいあんた誰だよ。

「私?うーん……」

黒ずくめ女子は結構考え込んでいたがやっと答えに近い言葉を見つけたらしくまた口を開いた。

「うー…クリスマスの精…みたいなものかな?」

…は?

何言ってんだ?

そんなのいる訳無いだろ?

だいたいまっくろくろすけじゃねえか。

「これは普段着ですぅ!んー…精じゃ無いな…なんだろう…あ!『クリスマスシーズンの時だけしかもクリスマス関係の能力しか使えない超能力者!』みたいな?」

…。(同情の目)

「う、うるさい!ほんとだよ!」

こちとら何も言って無いんだが。

じゃあ何か能力使ってみろよ。

まぁどうせ無理だろうけど。

「わかった!」

めちゃくちゃ嬉しそうだな。

「ちょっと手を貸して」

黒ずくめ女子は俺の腕を握って右の手の平を上に向けさせる。

まぁ見てやろうじゃないかとおれは素直に言うことを聞く。

そして黒ずくめ女子は何やら力を込めて自分の右手を俺の手の平に振りかざした。

「うーん、は!」

ああ、このイタいな…精神科へ…へ?

俺は多分そのときすごくマヌケな顔をしていただろう。

あ、いや俺がマヌケ顔だって事を言ってるんじゃ無いぞ?多分誰でも同じ顔をしていたと思う。いや、絶対する。

なぜなら俺の手が赤と緑の光の粒子に包まれだしたからだ。

「お…へ…れ?」

…謎の声を出しながらただただ驚いて固まっている俺とは反対に黒ずくめ女子は実にニコニコと楽しそうだ。

そして5、6秒後光は消え、俺の手元には玄関にでも飾っていそうな小さなサイズの陶器でできたクリスマスツリーの置き物が載っていた。

黒ずくめ女子は得意そうだ。

「へっへ〜ん。今はまだまだクリスマスに近づいてないからこれくらいしかできないけど、そのうち本物のツリーも出せるようになるよ!どう?信じてくれた?」

おわ!?夢じゃ無いだろうな。

俺は左手で何度も目をこすったり頬をつねったりした。

でも相変わらず置き物は右手の手の平に鎮座しているし、その重さも感じられた。

俺はへなへなとその場に座り込んだ。

と、置き物が落ちる。ああ、割れる…と思ったが次の瞬間置き物はシュッと黒ずくめ女子の手に収まった。

今までの常識がガラガラと音を立てて崩れ落ちた気がした。

ああ!もう!みとめますよ!とりあえず!

「本当?やった〜!」

女子はまるでクリスマスツリーのてっぺんの星飾りのようなぱあっと明るい笑みを見せた。

ああ、眩しい…と言うか今までの俺の常識はなんだったんだ…ああ、めまいが…

情けないことに俺はフラフラと倒れそうになった。

「ちょっと君大丈夫?顔真っ青だよ?」

…あんたのせいだ。

「え、なんのこと?」

女子はきょとんとしている。

おい。

…ってマジで倒れそうだ。

だるい。

「大丈夫じゃないじゃん!」

いや俺はイエスともノーとも言ってないんだが…

「なにわけわかんないこと言ってるの、ほら、あっちいこ!」

そう言うと女子は俺の右腕を掴んでさっさと歩き出した。

俺は死にそうな顔をしながら女子に半分ひきずられながら歩くという醜態を晒すはめになってしまった。

何人かがジロジロと俺を見ている。

…頭が痛くなってきた。

駅近くの広場。

このシーズンになると動く雪の結晶が投影されたりイルミネーションが輝いたり結構綺麗な場所なのだが、リア充がいちゃいちゃしているのが玉に瑕だ。濃縮凝固(爆発四散にあらず)すれば良いのに。

うう…倒れそうだ…

女子が俺を広場の中央まで連行したそこには人工芝が植えられていて、ねそべったり、座って喋ったりできる憩いの場になっている。

女子は「そこで寝てて」と一方的に言い残してどこかに行ってしまった。

正直立っているのも辛かったので大人しく俺は人工芝の上に寝転がった。

寝転がりながら、グラグラする頭で今まで起こった事を反芻してみる。

なんか急にクリスマスの精だか超能力者だかなんだかいう奴がそいつが手をふりかざしたら俺の右手の手の平にクリスマスツリーの置き物が現れて…ああ、もうわけがわからない。

余計頭が痛くなってきた…

と、そこに女子が帰ってきた。

手には缶のホットココア二つ。

「自販機で買ってきた。飲んで。」

そこは普通に買うのか。

でも金は…

「良いから飲みなさぁい!」

…全く怖くない雷が落ちてきたのでありがたく頂くことにする。

ほっと一息ホットココア。

とてつもなくアホなダジャレが混乱した脳内から浮かび上がってきて顔をしかめる。

「なにバカみたいな顔してるのさ〜早く飲みなよ」

それはさぞバカみたいなツラをしていただろう。

バカみたいな事を考えていたんだから。

それはともあれ、まあ飲もう。

俺は缶に口をつけた。

ダジャレじゃないがほっとする味だな。

混乱していた頭も落ち着いてきた。

そう言えば名前を聞いてなかったな。

なんて言うんだ?

「愛璃(あいり)。アイリス、つまりアヤメから来た名前らしいよー!喜びを運ぶ花なんだって!」

なんでわざわざデリバリーしなきゃなんないのさ。

ピッチャーか誰かに投げてもらえば良いじゃん。と黒ずくめ女子改めて愛璃は笑う。

投げるって…でも愛璃にはぴったりなんじゃないか?

「またまたぁ。褒めてもなにも出ないよ?」

そう言った愛璃はこころなしか嬉しそうだ。

トナカイとか出てきそうだからでなくていい。すると、「偏見に満ちたフレンズなんだね!この馬鹿!」と笑いながら怒り出すという器用な真似をしだした。情緒不安定か。

「そう言えばユーの名前はなんてユーの?」

ラッパーでも目指すつもりか。

「今夜ナイトバイトだいたいタイト本屋デート好きの斎藤!」

愛璃が嬉しそうに吠えたのを聞いて俺は危うくココアを吹き出しそうになった。

おいおい、その一節って…

「え、なんのこと?お父さんがよく口ずさんでる曲?だよ?確かシャンプーシンドロームとか言ってたな…」

お前の父さん何者だ… で、名前だったか?俺の。

「あ、そうそう。忘れるところだったよ!」

別に忘れてもらって構わなかったんだが。

「それじゃだめですぅー。なんて言ったけ……うーん、、、あー。。。うがー!_あ!そう、unfairだよ!」

いや普通に不公平って言えば良い話では…

「や、英検の勉強してるから!」

英検だぁ?確か次は2月じゃなかったか?

「だ、大学受験に入るから受験シーズン到来する前に何としてもとらないといけないの!」

おお、大変だなあ。

ま、指定校推薦で進学する俺には関係ない話だが。

「…(カチン)」

ん?今なんか音したな。気のせいか?

「………アイアンクロー!」

あががががが!痛い痛い痛い!なんだよ急n_あががががが!!

「私の前でぇ、、、二度とォ…指定校推薦の話をするなぁ!」

愛璃はとてつもなく強い力で俺の頭を掴み、締め上げる。

その華奢な身体のどこに一体そんな力があったのか不思議でしょうがない。

わかった。わかったからやめろって!俺死んじゃう!

愛璃は怒気のはらんだため息を1つついて

「情けない奴だなぁ」

と三白眼で俺を睨みそれからやっと俺を解放した。

まぁ、何で指定校推薦で怒り出したかわからないほど俺も馬鹿じゃない。

長い事高校に通っていると話した事のない生徒でも顔くらいは覚えるようになる。

でも愛璃とはおそらく初対面。

つまり、俺の通っている高校の生徒じゃない。

おそらく愛璃が通っているのは駅の近くにあるもう1つの高校だ。

そこは進学校で、みんな受験して一流の大学に進学するらしい。

そんな学校で頑張ってるのに、そんな話されたら腹もたつだろう。

「だがそんな事知るか。」っといつもの調子で嘲笑をたたえて言おうとした。

…っ!怖い、怖いぞ…さっきまでが嘘のようだ。

愛璃はこの顔で睨まれたら閻魔様もママに泣きつくに違いない、というような顔で俺を睨んでくる。

無言で俺はそれこそ本当に情けないが何も言い返す事も嘲笑を浮かべる事すらもすらもなかった。

さらなる怒りを買う前に俺は言った。「朝倉リュウ」

突然話題を変えられた愛璃はキョトンとした表情で首を傾げる。

さっきまであんなに聞きたがってたのにもう忘れたのか。

俺の名前だ。

「あ、ありがとう!」

愛璃は花が咲いたように笑った。

そろそろ寒さが限界になってきた。

悪い、そろそろ失礼する。

俺が歩き出すと、愛璃はにっこりと笑って「リュウ、また明日ね!」と手を振ってくれた。

駐輪場に停めてあった愛チャリにまたがり、俺は駅を後にする。

「また明日」か…いつぶりに聞いた言葉だろう。

俺はチャリを漕ぎながらふとそんな事を考えた。

こんな捻くれ者だと当然だろうが、俺には友達と言う友達が居ない。

学校で話す生徒はいるが、誰に会おうと会わなかろうと関係ないし気にしない。例えそいつが休んでても知った事か。

向こうもそう考えている筈だ。

また明日。嬉しくなくもない…かもな。

俺はすいすいとチャリを漕ぎ家まで帰った。いつもより心なしかペダルが軽いような気がした。

 

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