クリスマスの魔法   作:ATNAS

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14.リュウ

しばらくして家に着く。

愛璃を起こさねばならない。

さて、どうするかな。

ふとカーポートを見る。

我が家の軽自動車と隣にはレンタカーで借りたハイエース。

今日遅くまで会議の母さんは明日からジャズバンドのツアーだ。

メンバー全員+輸送費節約の為載せられる楽器全部を積んでいくので借りたらしい。

昔、俺が幼い頃に母さんはマウスピースを買って、「これ、リュウにあげるから、気が向い

たら私のサックス触って良いよ」

と言って俺に与えた。

その時から音楽に興味ゼロだったので使う事は無かったが、自分の楽器と同じ楽器を触らせ

ようとするからには何か思いが込められているはず。

それを子供心にも俺は感じたらしく、それからずっと俺はそのマウスピースを大事に保管し

ている。

確か勉強机の引き出しにしまってあったはずだ。

あれを吹けばさすがに起きるだろう。

だが

マウスピースは家の中だ。

つまり寝たままの愛璃を家に運びこまなければならない。

しかしどうやって?寝てるんだぞコイツ。

30秒ほど考え込んだ末に俺は最適かつ最悪、そして唯一無二の方法を思いつく。

お姫様抱っこ。

わかっている。どうかしてる。

でも愛璃自身が動かないので他に方法が無かった。

我が家の玄関は階段3段分の段差がある。

俺はその階段の横にチャリを横付けした。

足でスタンドをかけると一本足タイプのスタンドなのでチャリは玄関側に少し傾く。

そして俺は愛璃をさっきしたように支えながらもう片方の手で釣り糸を切る。そしてモゾモ

ゾと苦戦しながら片手でコートを脱ぐと、階段の上に放り投げる。

そして、そろそろと支える手を下ろすようにして愛璃を寝かせて、チャリのスタンドを外

し、倒すようにしてチャリをずらして停め直した。

ちょうど膝下が階段にぶら下がる形になる。

スカートの中が見えそうだったので俺は慌てて玄関の正面に駆けた。

本当に覚えとけよ…

…ちょっと待て。

わかってはいたものの改めてやるとなるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだが…そしてさっきに

も増して罪悪感的何かがすごい…とりあえずドアを愛璃に当たらないように小さく開け、釣

り道具入れを噛ませておく。

やっぱ本当にやるのか?…えぇ……

ええい、ままよ。

俺はコートごと愛璃をゆっくり持ち上げた。

制服とコート越しにほのかに伝わる体温と共に身体の重みが伝わる…もとい、落としそうで

怖い。

噛ませて少し空いているドアを足で開けて中に入る。

って俺も愛璃も靴履いたままじゃん。

とりあえず悪戦苦闘の末足だけで自分の靴を脱ぐのに成功した。

運び込みは方法黙っておけば良いとしてさすがに勝手に靴脱がせると後で魔法的何かでしば

き倒されそうなので後で自分で脱いでもらおう。

そしてどうにかこうにか俺は愛璃をリビングのソファに寝かせる事に成功した。

はぁっとため息をつく。

呆れ1/3、安堵1/3、愛璃の無茶もあったとは言え愛璃に限界まで能力を酷使させてしまった

事に対する情けなさ1/3だ。

ふと愛璃を見るといつの間に引き寄せたのかソファに置いてあったクッションに抱きついて

丸くなっていた。

そう言えば俺はこいつをサックスで起こそうとしていたんだっけか。

マウスピースを取ってきて、母さんのサックスに取り付けた。

一年に一度クリーニングもしているので鳴るはずだ。

運指も何も分かったものでは無いが、取り敢えず力任せに思いっきり息を吹き込んでみる。

ブァーーーッ!うわっ!うるさっ!

ビクッと反応したかと思うと、愛璃は起き

「…ここは音楽室ですぅ、リュウぅ…飲食禁止なのでテナーを食べちゃいけませぇん…スヤァ…」

起きなかった。

ってどんな夢見てんだ…しかし本当に幸せそうだなオイ

俺がどんなに熟睡していたとしてもこんな幸せそうに寝る事は出来ないだろう。

しばらく眺めていたかったくらいに気持ちよさそうに寝ていたが俺は目下のしかかっている

ディナーと言う深刻な馬鹿げた問題を思い出した。

どうやって起こそう…

あれだけ大きな音を出しても起きないんだから爆音で起こすのは無理だろう。

さて、どうしたものか…

ん?待てよ?

俺は名案を思いついた。

だけどそれはおそらく良い目覚めとは程遠いものになるであろうものだった。

…やるしかないのか?えぇ…はぁ………………

………メリークリスマsぐはっ!?

「えぇぇええっぇえっぇええええええ!?!?もうクリスマスなの!?まだ何も準備できて

ないのに!!」

愛璃はソファの背もたれの後ろから声をかけた俺に肘鉄を食らわせてガバッと飛び起きたか

と思うと寝ぼけながらリビングをドタバタ走り回り始めた。

「ええとあぁそうだリュウに魔法をえぇうwぁああどうしようどうしよう…」

えっと、俺はここにいるぞ?あと、クリスマスまではあと3週間くらいあるぞ?

「ほへ?」

愛璃はきょとんと首を傾げた。

そして次の瞬間

「ひぃぇあ!?…え、う、あ…………」

妙な声を上げながら目を覚ましたかと思うとみるみる顔が赤くなっていく。

「り、り………」

ん?

「リュウの馬鹿あぁぁぁああぁああああああ!!!!」

うわぁ痛い痛い痛い?!あんたが起きないからだろうが!

「だとしてもこんな起こし方ないでしょおぉぉぉおおおおお!…ってここどこ?!」

痛ぇんだよ…ここは俺んちだ。急におねむになった誰かさんを四苦八苦しながら俺は運んで

きたんですぅ!

「あ、それはどうも…」

あ、うん。そうですね。(急に大人しくなられても調子狂うなぁ)

あと、土足でジタバタしないでもらえますかねぇ、後でそれ掃除するの俺なんですが…

「え?…あ!ご、ごめん!今すぐ脱ぎますうひゃああああ!あ、玄関どこ?」

こっちだこっち。

俺はリビングの出口を指差して、自分も愛璃に履かせる来客用のスリッパを出してくるため

に玄関へ歩き出した。

愛璃もキョロキョロお上りさんよろしく俺んちを見回しながらそれに続く。

俺はと言うと、そういえば愛璃って部活何してるんだろうとかどうでも良いことを考えなが

ら、玄関に行くついでにその途中にあるトイレやら手洗い場の位置を愛璃に案内するのだっ

た。

あ、待てよ、来客用のスリッパどこだっけか?母さん、しまっちゃうおばさんだから年に数

回しか使わないようなものは速攻で靴入れの奥の奥にしまってそうな気が…しかもあそこの

中の配置知ってるのしまっちゃうおばさん本人だけなんだよなぁ…見つからなかったらどうしよう…


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