家に帰るとまだ働いているらしく両親はいなかった。
親父は会社員。
今頃部長の接待でもして酒に飲まれてベロンベロンになってるんだろう。
情けない。
母さんは喫茶店の店長と言うか、バリスタ兼マスター?だ。
若い頃に弟子入りしていたバリスタから今年の春に独立、自分の店を建てて今まで切り盛りして来た。
俺は人を信じないが母さんだけは別だ。
苦労している姿を昔から見てきたからだ。
しかもそこそこ有名なjazz bandのサックスをしていたりする。
だけどそこで得たお金もカフェの資金に回していたりで正直カツカツらしい。
俺は別に珈琲を愛するものでは無いが母さんに叩き込まれたのでこれでも味の違いはわかるつもりだ。母さんの珈琲は人気店と比べても遜色無い。むしろそれ以上だと思う。だがカフェの立地が悪くお客さんも他店と比べるとあまり来ない。
俺の前では「伸び代ですねぇ!」と某サッカー選手の真似をしておどけてみせるけど。
おそらくこのままではお店が潰れてしまう。
せっかく念願の自分の店を持てたというのに現実はあまりにも残酷だ。
だけど母さんは決して悲観的にならずいつも前を向いている。笑顔も絶やさない。
おそらく今閉店準備に取り掛かっているであろう母さんに、俺は心の中でつぶやく。「いつもありがとう」。
母さんが冷蔵庫に幾つか材料を入れてくれていたのでサッと作って夕飯を済ませると俺は二階の自分の部屋に足を運んだ。
机と棚とノーパソとベッドしか置いてない殺風景な部屋だ。
俺は机に向かって少し課題を進めて時間割を済ませてシャワーを浴びるべく一階に戻った。
シャワーを浴び終わり、歯磨きも済ませて、これから寝ようと思っていると
ガチャリ
「リュウ、ただいまぁ!」
疲れていて当たり前なのにいつも元気発剌で帰ってくる母さんが帰って来た。
…そして「おかえり」という間も無く母さんは台所に消えた。
これもいつもの事なので俺はその後を追いかける。
_________あぁ!やっぱり。
母さんは2リットルのペットボトルからグビグビと直でオレンジジュースを飲んでいた。
母さんまた?コップで飲めっていつも言ってるだろ。
「あーうるさいわねー。いつも言ってるけどリュウは小さい事気にしすぎよ。」
いや母上、至極当たり前の事言ってるんですが…
「私は無駄な事をしない主義なのよ」
いや、後で母さんが口を付けた飲み物を飲む俺の気持ちにもなってくれよ…
母さんはうんざりしたように返す。
「そのくらい家族なんだから良いでしょ。細かい事しか言わない男は嫌われるわよ。」
…………………………………。
俺は反論するのを諦めた。
もう寝よう。
その代わり二階に上がる直前に。
母さん。
「ん?リュウ、どうしたの?」
母さんに俺ははっきりという。
「また明日な。」
「?」
頭がクエスチョンマークで一杯であろう母さんを残して俺は二階へと去った。