クリスマスの魔法   作:ATNAS

3 / 15
3.リュウ

明くる朝、12月4日。

俺は駅から学校までの変わり映えのしない通学路をいつものように歩いていた。

そしてこれまたいつものように変わり映えのしない3つの顔を見つけた。

「でさぁ俺ははっきり言って言ってやった訳よ。あんた馬鹿だって。」

「………………へぇ。」

「真部・田中コード進行…ペンタトニックスケール?……………ブツブツ………」

…全く連帯感がない。

残念ながらこいつらが昨日言ってた

「学校で話す生徒」だ。

一応挨拶しとくか。おはよう山名井、松戸、西行寺。

「あ、なんだ朝倉か…」

「………………。あ、うん。」

「……………この場合はマイナーペンタトニックスケール?……………………。朝倉おはよう(棒)」

因みに一番初めに返事したのが山名井 彩人(やまない あやと)、その次が松戸 広幸(まつど ひろゆき)、最後に俺がよくわからないし知ろうとも思わない音楽理論の話をしていたのが西行寺 結乃(さいぎょうじ ゆの)。

西行寺以外ロクに挨拶すらしてくれない。

その西行寺の挨拶も棒読みだ。

わかってくれただろう?俺が「学校で話す生徒はいるが、誰に会おうと会わなかろうと関係ないし気にしない。

例えそいつが休んでても知った事か。

向こうもそう考えている筈だ。」って言った訳が。

なぜなら、残念ながらこいつらがそうだからだ。

とりあえず便利だから群れているけどお互いにまるで関心のない者の集まり。友達と呼ぶには程遠い、連帯感ゼロのただの群衆。

俺はいつも通り、その群衆の1パーツとなることにした。

ところで山名井、千の偽り万の嘘。

お前のヨタ話は聞き飽きたぞ。

すると山名井はうるさそうに「俺はそのひねくれた文句付きの説教も聞き飽きたぞ朝倉。」

と返してきた。

くそ、何も言い返せやしない。

ギリギリと唇を噛んでいると、西行寺が突然「今日音楽の授業ある…?」と聞いてきた。

ん、今日は5限目にあったんじゃないか?

「そう」それ以上は何も言わずに西行寺はまた元の姿勢に戻って歩き出した。西行寺は登校中いつも何かしら本を読んでいる。

今日の本は…げっ、楽典じゃねぇか。

俺が大嫌いな本ランキング第1位だ。

音楽関係の本はどれもあまり好きでは無いが、こいつはその中でも別格中の別格だ。

一度朝の読書の時間に本を忘れてやむにやまれず西行寺に借りた事があるが

、なんだあの電話帳とプログラミング用語辞典のウザさを一緒にして200%濃縮したみたいな気持ち悪さは。

そのせいで俺は半日ずっと気分が悪かった。

音楽をやっている人間はよくあんな物を読んでられるな。

ちょっと尊敬しそうになるくらいだ。

まぁする訳ないけどな。そんなこんなで再び楽典に目を落としている西行寺を眺めていたら、ふと西行寺が「朝倉は音楽、しないの?」と尋ねてきた。

その問いは、不意にやってくる。

今まで何度も、毎日、繰り返されてきた、いつもの問い。

俺は今日も答える。

「しないよ。俺はあまり音楽が好きじゃないんだ。」

「そう。」

何度も繰り返されてきたこのやり取りの繰り返し。

お互いにどう会話が流れていくのかはわかりきっていた。

だけど俺は答えのわかりきっているはずのこの問いを何故西行寺が何度も尋ねてくるのか、その真意がわからずにいた。

本当、なんでなんだろうな。

そんな事を考えながらボーっと通学路を歩いていると、俺+他の群衆構成要素は歩道橋に差し掛かった。

この歩道橋、片側は階段ではなく普通の歩道からそのまま橋の部分に繋がっている。

だから俺はそのまま歩道橋を歩いている事すら気付かずにボーっと歩いていた。

そして、反対側の階段に差し掛かってハッとして初めて自分が歩道橋を歩いている事、そしてどれだけ自分がぼけっとしていたかに気付いた。

周囲を見回すと群衆構成要素その1の山名井がこんな事を言っていたのが聞こえた。

「おい松戸、お前、イブどうすんの?」

松戸が面倒くさそうに答える。

「家族とユニバ。からの山で宿泊。」

それはかなりの長距離移動だな…ちょっと詳しく聞いてみたい気もしたが、所詮他人事だ。

7秒経った後にはどうでもよくなっていた。

で、質問した山名井の反応はと言うと、「は?彼女とかいないのかよつまんねぇなぁ。

俺はプレゼントに親が天皇誕生日にくれるゲーミングヘッドセットでネッ友とオンラインゲーム三昧だぜ!」

こいつこの長距離移動についてスルーしやがったぞこいつ…に、しても彼女とか。山名井、お前は俗物か。

もうちょっとマシな反応しろよ。

しかもなんか松戸以上に謎でしかも全然メリクリしてないイブじゃねぇか…てか天皇誕生日って…お前は忍耐てのを知らないのか。

本当にアホだなあんたは。ちなみに西行寺、あんたは?

「某アーティストのクリスマスライブにギタリストとしてサポートで出演。」

お、おう…なんか、西行寺は西行寺してるな…こいつは誰かと群れて音楽を作るという事を絶対にしない。

一時的にサポートメンバーとして組むだけ。

西行寺は本当の意味で誰かと付き合うのがあまり得意では無いんじゃないかと俺は考えている。

まぁ、西行寺も俺にだけは言われたくないだろうが。

俺は自分で自覚している程の捻くれ者だがあいつには少なくともそういった曲がった所は見受けられない。まぁ、だからと言って西行寺の肩を持つ気は無い。

裏でサイケな恋人と聖夜を過ごしたりしているかもしれないし。あー、こんな事考えてるから捻くれ者なんだな。

なんて事を考えていると、気付くとすぐ目の前に校門が迫っていた。

ロリコン変態教師こと生活指導部の出光が「乙女のスカート膝下!」とか訳のわからない事を叫んでいる。

好きにさせりゃ良いだろ。

別にスケバンになろうって訳じゃあるまいし。

ここまで黄金比を強要されたらレディー・シャネルも苦笑いだろう。

ちなみに西行寺のスカートは膝関節より少し上だ。

なので微妙に違反している。

の、だが。

「おはよう…!ot…」

「(じいぃ…)」

「あっ…おはよう!乙女のスカート膝下!(別の生徒へ)」

寡黙少女萌えなのかその視線に気圧されているのか知らないが、西行寺はスルーされる。

ちょっと見ていて面白いので、いつも俺はその光景を眺めながら教師に気付かれないように無言で校門を通過する事にしている。

そして校門を通った後終始無表情の仮面を外さなかった俺と違ってあからさまにニヤニヤした顔で一連の流れを見ていた山名井に向かって言い放つ。

「何ヘニャヘニャした顔してるんだこの野郎。イケメンが廃れるぞ。」

勿論多分の皮肉を込めて。

山名井はあからさまにムッとしていた。

顔は良いんだから誰かとヨロシクしていれば良いのに、こいつはその面をヘラヘラさせる。

お陰で誰も寄って来ないのは山名井の自己責任だから良いとして、こいつの何が腹立つかってそのイケメンをヘラヘラさせて台無し以下にして俺に向けて来る事だ。煽ってんのかコイツ、と勘繰りたくなってしまう。

所で松戸はと言うと何やら熱心に一限目の英語のテストの暗記をしている。

こいつもこいつで腹の立つやつだ。

こうしていつも小テストは直前勉強で合格点スレスレのくせに真面目にやって小テストも余裕で取っている俺より定期テストの点数が上って神様は何処を中心に世界を回してるんだ。

唯一腹が立たないのは西行寺くらいなものだが、あいつはあいつで無口だからあまり話せない。

つくづくついてないなって思う。

まぁ、愚痴吐いてても仕方ない。

教室はすぐそこだ。

うっかり独り言でも漏らして変な噂でも流れたらシャレにならない。

俺は教室に入ると、挨拶をしてくる生徒もいないのでそのまま無言で昨日のおさらいを始めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。