誰がどんな気分であろうが日常というものはいつものように流れていくもので高校の最寄駅で電車を降りてしばらく歩いていると山名井らいつもの群衆に合流することとなった。
だが挨拶する気も起こらない。こんな奴らだが、それでも俺はいつも
「おはよう」
と、ちゃんと言うようにはしていた。
それさえする気力も無い。
俺は無言で群衆の中に合流した。
まず、山名井のヨタ話の捌け口になっていた松戸が俺に気付いた。
だが、一瞬俺に目を向けると、気付かなかったフリをしてすぐヨタ話の聞き役に戻った。おい、裏切り者。
山名井の話なんか何の意味も無いだろう。
すると、西行寺が俺に気付いて「あ、朝倉、大丈夫?(棒)」
棒読みなのは相変わらずだが、一応心配してくれた。
あざすあざす(棒)。
全然大丈夫じゃない…
最後に山名井が
「あ、朝倉だ。ん?元気ねぇな。大丈夫か?精神科行くか?」
こいつ…はぁ。
言い返す気力も無い。
すると山名井は
「おう?何も言い返してこないのか?おお…」
不思議そうな顔をしてまた松戸との会話に戻っていった。
何を期待してるんだお前は…
そして急に
「朝倉は音楽、しないの?」
しないよ。
俺はあまり音楽が好きじゃないんだ。
そしていつものように西行寺は本を読んでいる。
今日の本は…?写真集?アイドル?タルトタタン?あ、真部脩一。
納得。
おそらくこのアイドルをプロデュースしているのが西行寺お気に入りの作曲家だからだ。
どうやら俺がどんな気分でも当たり前は続いていくらしい。
そしてそうこうしている内に気付くと学校の目の前にいた。
そしていつものように西行寺は出光教諭と謎の視線を交わしそれを見て山名井がニヤニヤし松戸はどこ吹く風で早朝テストの勉強をする。
ただ、いつもと違うのはそれを見て俺が何も突っ込まない所だ。
それすらの気力も無い。
帰りたい…けど帰ったところでどうにもならない…。
ふと気づくと教室で机に突っ伏すようにして座っていた。
どうやら周りの景色も頭に入ってきていなかったらしい。
生きた心地がしねぇ…
机に突っ伏していた上半身を持ち上げる拍子にふと隣を見ると西行寺がいた。
何故か昨日行われた席替えで隣同士にされたからだ。
西行寺は俺を見ると
「大丈夫…?」
と聞いてきた。
う、あ…実はこれこれでだな…
「ごめん、私料理は苦手。」
無表情のままそう返してきた。
そうですか…。
西行寺なんかできそうと思ったんだけどな…
スッと西行寺が席を立った。
昨日みたいにまた音楽室にいくのだ。
俺は何も言われなくても視線を受けなくても西行寺に続いた。
一応相談に乗ってくれた訳だし、ここは忖度するのが筋ってもんだろう。
あ、クズの様な政治家がやるやつじゃない。
辞書で引くと意味のトップに出てくるやつだ。
そして俺はまたいつものように音楽室に足を踏み入れる事になった。
音楽室の独特の空気を吸いつつ、俺は西行寺がセッティングしていくのをぼうっと眺めていた。
あ、いつもとギターケースが違うな。
このケースに入っているのは…たしか…
「Fender Telecaster Custom Les (筆者注:これも架空のギターですね。いつか作ってみたいものです。)」
そうそれ。
西行寺からの受け売りだがこれは西行寺がフェンダーのテレキャスターカスタムと言うギターのフロントピックアップを西行寺がフェンダーのライバル社であるギブソン社のギターであるレス・ポールの物に換装したモノらしい。
音の違いはなんとなくわかるが、それがどうとも思わない。
…ってえらく暗い曲だな。
「朝倉の精神状態を表してみた。」
余計な御世話だ。
「そう」
怒るでも笑うでもなくただ相槌をうってくる。
もしかしたらのもしかしたら冗談のつもりなのかもしれないがそうであってもそうでなくてもとてつもなく拾いにくい。
そしてその後直ぐに西行寺はアンプのスイッチを切った。
俺は先に防音加工のせいでやたら重い扉を開け、外に出て西行寺が出てくるのを扉を開けたまま待っていた。
西行寺が扉をくぐると、俺は先に少しゆっくり歩き始める。
ガチャンと扉が閉まる音がした。数瞬後にカチャリと西行寺が錠を下ろす。
後ろを振り返ってはいないが後ろから西行寺がついてくるのを感じた。それを確認してから、俺は歩くスピードを元に戻した。
西行寺が何を考えているかはわからない。
だが、何故か断れない。
何故だろうと考えたこともあったが結局わからなかった。
わかる時は来るのだろうか。
そんなことを考えながら俺は教室を後にするのだった。