別世界の異邦者 作:みども
0話 3年前の準決勝戦
世界のカードゲーム人口は数億人とも言われ、今や日常に結びつく存在となっている。
その中でひときわ人気を集めるのが、『ヴァンガード』だ。
そして、そのヴァンガードの頂点を決める大規模な大会の決勝リーグが、日本を舞台に開かれていた。
「さあ! ヴァンガードアジアサーキット決勝リーグ、準決勝第2試合もいよいよ大詰めだ! この戦いを制し、チャンピオンの座をかけ蒼龍選手に挑む切符を手にするのは、果たしてどちらだ!」
MCが会場を盛り上げる。
それに応じる様に、ターンの移り変わりとともに会場にあふれんばかりに詰めかけた観衆たちが建物を揺らすほどの大歓声をあげた。
その中心に立つのは、このヴァンガードのアジアチャンピオンの座をかけた最後の戦いへ赴く舞台の切符を手にするために対峙する2人のヴァンガードファイターである。
どちらも予選リーグを怒涛の強さで勝ち上がってきた世界最高峰の大会の決勝リーグに相応しい凄腕のファイターだ。
その戦いはまさにサーキットの決勝リーグに相応しい一進一退の攻防であり、両者後退知らずの激突を繰り返すこと、ターンはすでに17に到達している。
だが、この好勝負ももうすぐ終わる。
それはこの会場を埋め尽くす観衆の誰よりも2人のファイターが強く感じ取っていた。
このターンが勝負。
両者ともにダメージは5。
先ほど終わったターンにて猛攻を仕掛けられたことで、ようやくターンが回ってきた青年は手札が1枚のみで前衛も一体欠けている。
このターンに攻めきらなければ敗北は必至。しかし、相手はインターセプトを持つユニットが一体に加え手札がプロテクトを含め6枚と1ダメージすら与えることが難しい。
そんな、並のファイターならば負けを覚悟する様な戦況でありながら、青年の瞳には勝利への希望の炎が爛々と燃え上がっていた。
だからこそ、彼は宣言する。
1ダメージを与えることが厳しいこの戦況から覆してみせるという、この宣言を。
「……ファイナルターン!」
青年の宣言に、会場が歓声からどよめきからくる静寂へ変貌する。
誰もがこの状況に似合わないと思うだろう宣言に、対戦相手である少女はそのファイナルターン宣言がハッタリではない、本気で勝利を狙ってくることを強く感じ取っていた。
青年の手札はスタンド&ドローで2枚になったが、リアガードは縦一列が空となっている。戦力不足は否めない。
Vサークルには『超次元ロボ ダイユーシャ』。フォースを4枚も重ねていることで、パワーアップのためのスキルを使わずとも単体でパワー53000、クリティカル2の高い攻撃力を有している。
そして、前列で埋まっている方のリアガードには『次元ロボ ダイドラゴン』。その後ろには『次元ロボ ダイタイガー』。ダイドラゴンはスキルでパワーが20000となっており、ダイタイガーのブーストをつければ28000、最低でも20000のシールドを要求させることができる。
そしてダイユーシャの後ろには『グローリー・メーカー』。カウンターブラストにより相手の手札のガードをグレード0に限定させる強力なスキルを持つ。
この現状だけを見るならば、2度のアタックしかできない。プロテクトを含める6枚の手札と1枚のインターセプトを突破するのは難しい。
その上、そのインターセプトを持つユニットも『夜警海賊 ニルデ』。パワーが7000とグレード2でありながら低い数値にありスキルも持たないバニラであるが、その代わりトリガーユニットに匹敵する15000のシールドを持つ防御に秀でたカードである。手札を1枚出せばブーストを加えたダイドラゴンの攻撃を防ぐことが可能であり、プロテクトを使えばダイユーシャの攻撃も通らないため、2度のアタックで1ダメージを与えることは不可能であった。
ファイナルターンを宣言をしたならば、根拠は手札にあるだろう。
つまり、たった2枚でこの状況に新たなくさびを打ち込むユニットが来るということ。
少女は青年の持つ手札を警戒し、身構える。
何がきてもからなず防ぎきる。それを考えればいい。
青年は倍は歳が離れているだろう少女が慢心せずに最大の警戒してきたことに、好感と高揚を抱いた。
どの様な戦況でもひたむきに勝利の可能性を模索する姿は、模範的なファイターであり、人間的にも優秀なのだろう。
そんな対戦相手とこの大舞台で対決できた。その幸運と、相手のファイターへの敬意を込めて、青年は本気でこのターンで攻めきると、このアジアサーキットで最後になるかもしれないターンのメインフェイズに取り掛かった。
「まずは『次元ロボ ダイドラゴン』のスキルを発動。ソウルブラストでヴァンガードのダイユーシャにパワー+5000!」
次元ロボ ダイドラゴンの起動スキル。
1枚ソウルをドロップすることで、ヴァンガードにパワーを+5000するスキルである。
1体のダイドラゴンにつき、1ターンに1度しか発動できないスキルだが、これによりダイユーシャはパワーが58000に上昇した。ディメンジョンポリスのデッキの特徴であるセンターラインの大幅な強化のスキルにより、ダイユーシャにとてつもないパワーがたまっていく。
そして、ここで青年は手札から新たなユニットを後方の空いているリアガードサークルへコールしてきた。
どれほどセンターラインを強化しようともプロテクトがある限りダイユーシャの攻撃は届かない。だが、他のユニットの攻撃が通ればあるいは……
その少ない可能性を引き寄せる、ファイトの流れを変えるカードを。
「『次元ロボ ダイランダー』をコール!」
「!?」
そのユニットの登場に、対戦相手の少女はファイトの流れが青年の側に向いたことを感じ取った。
青年が新たにコールしたユニットは、『次元ロボ ダイランダー』。グレード1、パワー8000のブースト要員として活躍するユニットである。
少女のヴァンガードである『不死竜スカルドラゴン』には、単体だとパワーが届かず攻撃できない。
だが、青年がこのユニットをコールした理由は別にある。
「ダイランダーのスキル! ヴァンガードのパワーが30000以上の時、相手のインターセプトを封じる!」
「くっ……!」
青年のコールしたユニット。このファイトの風向きを変えた一枚、『次元ロボ ダイランダー』。
そのスキルはセンターラインの強化に伴い発動するスキルであり、ヴァンガードのパワーが30000以上の時に相手のインターセプトを封じるというものである。
つまり、少女が防御用に配置していた『夜警海賊 ニルデ』のインターセプトが封じられたということであり、シールド15000が無効になったということに等しい。
青年はダイランダーを後方のリアガードにコールした。前列のリアガードサークルにはイマジナリーギフトフォースが1つ置かれているためそれを使えば単体でもダイランダーのパワーをヴァンガードに届かせることができる。
それでも後方に配置したということは、もう一枚のカードを前衛にコールするということ。
つまり、少女の方はインターセプトを封じられた状態で3回のアタックを防がなければならないという状況に追い込まれたのである。
使えるのは手札のみ。
ならば残る1枚の、ダイランダーの前に配置するカードはなんであるか。
そのカード1枚で、この戦況が覆りかねない。
青年が額に汗を流しながら、口元に笑みを浮かべる。
まるで、「これから自分の繰り出せる最高の攻撃を出すから、防いで見せろ」というかのように。
その笑みは挑発というよりも、自身より若いながら才能あふれるファイターへ己が挑戦者として挑むような、相手に尊敬の念を持って挑むまさに勇者のような笑みだった。
そして青年はコールする。
この後がないターンのドローフェイズという奇跡といえるタイミングで引き当てた、この戦況に最適のユニットを。
「コール! 『クイックヒーロー アクティブマスク』!」
「なっ!?」
『クイックヒーロー アクティブマスク』。
そのユニットは、ダイランダー以上の衝撃を対戦相手にもたらした。
このタイミングで引いてきたというのか……そのユニットを!
自分の予想さえ上回るユニットの登場。
青年がコールした『クイックヒーロー アクティブマスク』は、ヴァンガードがアタックした時、そのパワーがブースト含め30000以上ある時、カウンターブラストすることで己をスタンドさせることができるユニットである。
つまり、インターセプトが封じられた状況で4度目のアタックを仕掛けてくるユニットということ。
単体ではパワー10000なので不死竜スカルドラゴンには届かないが、そのサークルにはイマジナリーギフト フォースが1つ配してある。
その効果は自身のターン中に置かれたサークルのユニットのパワーを+10000するというもの。
つまり、2度のアタックを確実にスカルドラゴンへ通せるということに他ならない。
次元ロボが主力を占める青年のデッキに置いて異色を放つヒーローのユニット。
普段使いではせいぜいダイユーシャのコストに使われた上で再攻撃をインターセプト潰しに使うようなユニットに過ぎないはずだろうが、奇跡といえるタイミングでドローされたことで最高の活躍の舞台を与えられた。
少女は手札を確認する。
青年は手札を使い切った。最高の布陣を整えたが、このターンで決められなければ次のスカルドラゴンの攻撃はほぼ確実に止められない。
つまりこのターンをしのげば少女の方が勝つ。
だが、インターセプトを封じられた上に4回のアタックを可能とする布陣を整えられたことでその防御はかなり厳しくなった。
手札は6枚。そのうちの1枚はグローリー・メーカーのスキルを使おうともダイユーシャの攻撃を確実にガードできるイマジナリーギフト プロテクト。
その他は、『ストームライドゴーストシップ』、『ナイトスピリット』、『荒海のバンシー』、『キッキングフランガル』、『サムライスピリット』が1枚ずつ。
山札には出ていない『おばけのリック』が2枚あるのでヒールトリガーの可能性は残されているが……
攻撃を防ぎきるための構想を作る。
ストームライドゴーストシップはプロテクトのコストに使いダイユーシャのアタックはガード。
クイックヒーロー アクティブマスクの1度目の攻撃はフォースとブーストを合わせてパワー28000となる。これはキッキングフランガルとナイトスピリットで防御。
ダイドラゴンの攻撃はパワー28000。これは荒海のバンシーとサムライスピリットで防御。
……ダメだ。インターセプトを封じられた今、最後のアクティブマスクの攻撃を防ぐ手段が残っていない。
青年が幸運を引き当てた時点で、最後のアタックは必ずスカルドラゴンに届く。
そうなれば、少女に残された選択肢はヒールトリガーにかけることだけ。
並みのファイターなら投了してもおかしくない戦況で強運を引き当てたことで大逆転の可能性を作った青年に、会場が割れんばかりの歓声に包まれる。
その中で青年は、最後のアタックを開始した。
「行かせてもらうよ。クイックヒーロー アクティブマスクでアタック!」
「サムライスピリットでガード!」
ヒールトリガーを警戒したのか、青年はあえて1度目のアタックにダイランダーのブーストをつけなかった。
そのためパワーは20000。手札1枚でガードできるようになったことで、少女はすかさず戦い方を変えた。
ヒールトリガーにかけるならば最初のアタックを受けてパワーアップの恩恵を狙うべきだが、この攻撃を受けて出たヒールトリガーのパワーアップでは次のアクティブマスクはブーストを得るので再度の攻撃が通ってしまう。
防げる攻撃を防いでおかなければ手札が足りなくなる。ヒールトリガーの恩恵を受けても防げない攻撃のリスクを抑えるため、1度目のアタックを少女はガードした。
しかし青年の猛攻は止まらない。
「グローリー・メーカーのブーストした超次元ロボダイユーシャでアタック! パワーが35000以上の為、ダイユーシャにクリティカル+1!」
2ダメージを叩き込む攻撃。これは必ずガードする必要がある。
少女は防御の切り札をためらうことなくこのアタックに対して使用した。
「通さない! プロテクト発動! 手札のストームライドゴーストシップをドロップゾーンに送ることで、ダイユーシャのアタックはスカルドラゴンにヒットしない!」
「やはりそうくるか……けど、僕だって負けられない! アクティブマスクのスキル発動! カウンターブラストし、アクティブマスクをスタンド!」
60000越えのパワーを有するダイユーシャのアタックを防ぎきるが、アクティブマスクのスキルが発動しさらなるアタックの準備が整ってしまう。
それでも少女は諦めずに青年の攻撃を防ぐ。
あとはこのドライブチェック次第。クリティカルトリガーがでなければ、ヒールトリガーの恩恵と合わせて残る2度の攻撃は防ぎきることが可能となる。
攻める青年も、守る少女も、お互い持てる力の全てをぶつけ合うギリギリの戦いである。
ダイユーシャのツインドライブ。
ここでクリティカルトリガーを引けば2ダメージのアタックを防ぐために次の攻撃にも少女は手札を割かなければならなくなり、最後のアタックが通ることになる。
だが、それ以外のカードならばヒールトリガーの恩恵を受ければ勝機のある戦況に持ち込める。
「ファーストチェック……『次元ロボ ダイランダー』、ノートリガー。セカンドチェック……きた、『次元ロボ ダイバトルス』!」
「……っ!」
勝利の女神は、青年にチャンスを与えた。
迷うことなく青年はその効果をダイドラゴンに与える。
「トリガー発動! ダイドラゴンにクリティカル+1、パワー+10000!」
これでダイドラゴンのアタックを受ければ2ダメージを受ける状況となった。ダイドラゴンの攻撃は防ぐしかなくなり、次のアクティブマスクの攻撃を防ぐ手立てがなくなった。
青年が3度目のアタックを仕掛ける。
「次元ロボ ダイタイガーのブーストした次元ロボ ダイドラゴンでアタック!」
パワー38000、クリティカル2の攻撃。
ヒールトリガーにかけるにしても、こちらの攻撃は防がなければならない。
少女は残る防御を繰り出した。
「荒海のバンシーとナイトスピリットでガード!」
高火力を有するディメンジョンポリスの3度にわたる攻撃を防ぎきった少女。小学生でありながら自身の倍は人生を重ねている世界的にも名をはせる青年を相手にここまで戦える彼女は、間違えなく一流のファイターの力を持つだろう。
だが、青年には4度目の攻撃が残っている。
勝負を分けた最高の2枚のカードを使った攻撃が。
「行くよ……次元ロボ ダイランダーでブースト、クイックヒーロー アクティブマスクでアタック!」
「…………」
少女の手札は1枚のみ。
キッキングフランガル。グレード2。シールド5000。
夜警海賊 ニルデのインターセプトを使えればこの攻撃も防ぎきれた。
だが……
「次元ロボ ダイランダーはインターセプトを許さない、か……」
ダイランダーのスキルにより、最後の防御も封じられた。
ならば、彼女の取れる選択肢は1つのみとなる。
「プロテクトも使ったし、インターセプトもできない……ごめん、スカルドラゴン……もう、これしかない」
手札を伏せ、青年に向かって少女は宣言する。
「こうなりゃ逃げも隠れもしない……きやがれヒーロー! ノーガードだ!」
たとえ逃げ回ろうとも、無様な散り花は咲かせない。派手に散り、また海の底から復活するのが不死の海賊団。
グランブルー使いらしい思い切りのいいノーガード宣言に、青年も笑みを浮かべた。
今度は敬意を持って挑む挑戦者としての笑みではなく、その清々しい覚悟をたたえ、ともに最後の番狂わせの可能性となるヒールトリガーの奇跡を祈る微笑みである。
「ダメージチェック……」
クイックヒーロー アクティブマスクの攻撃を受けた不死身の竜が倒れる。
その運命を決めるカードは……
「……『不死竜スカルドラゴン』。ノートリガー」
……少女の敗北と、青年の決勝戦進出を決めるカードだった。
「決まったあアアアァァァ! アジアサーキット準決勝第2試合、アジアチャンピオンを決める最高峰の決勝戦へ駒を進めたのは、光定ケンジ選手だぁ!」
MCの声が、観客の歓声が、青年の勝利を讃える声が会場中に響き渡る。
その中心の反対側で、少女は1人悔し涙をこらえていた。
これはアジアサーキットで決勝リーグ進出選手最年少、小学生でありながらベスト4入りを果たした1人の天才が、人生で1番悔しかった敗北をつけられた3年前の記憶である。