別世界の異邦者 作:みども
店長がファイナルターンを宣言してきた。
溜め込んだ武装ゲージを使う、ギガレックスの真価が発揮される。
「スタンド&ドロー。『餓竜 ギガレックス』のスキル発動!」
ライドフェイズはスキップ。
そのまま店長はギガレックスのスキルを発動した。
「武装ゲージ5枚を破棄。これにより、前列3枚のRのパワーを+5000し、相手のダメージが4枚以下であれば1ダメージを与える!」
ギガレックスの起動スキル。
メインフェイズ中に武装ゲージを5枚破棄。その代わり前列3枚のRのパワーを+5000する上に、4ダメージ以下の相手にダメージを一撃強制的に叩き込む。
私のダメージは4。このスキルは適用され、ガード不能の1ダメージを受ける。
ギガレックスが怒りの咆哮を轟かす。
それは味方には武装に頼らずとも身体の奥底から熱い闘志をみなぎらせ奮い立たせる咆哮であり、敵には恐怖を通り越したもはや攻撃の域に達する咆哮である。
あまりに大きな咆哮に、嵐の剣豪は無様に吹き飛ばされた。
「ダメージチェック……『突風のジン』!」
だが、ただでやられてはくれないのが海賊。
大きすぎる咆哮は、新たな敵の増援を招くことになる。
「ドロートリガー発動! 『剣豪 ナイトストーム』にパワー+10000、そしてドロー」
このタイミングでのドロートリガーは大きい。
防御用の手札を補充できるし、パワーアップにより4度の攻撃をしのぎやすくなった。
これで私の手札はプロテクトを含めて8枚。5ダメージに追い込まれつつあるが、ファイナルターン阻止も可能な範囲となった。
しかし、その程度で店長は動揺などしない。
「トリガーを引かれたならば、こちらも10000のパワーアップをするのみだ。もう一度ギガレックスのスキルを発動!」
さらに店長が溜め込んだ武装ゲージを使い、前列3枚のリアガードを5000パワーアップさせる。
これによりギガレックスのスキルで前衛のRのパワーが10000ずつ上昇した。ギガレックスも自身のスキルでアタック時には大幅なパワーアップをしてくる。トリガー1枚のパワーアップ程度で揺れる攻撃陣ではないのだろう。
私はすでにダメージ5まで追い込まれているので、これ以上のダメージの追加はない。
手札はドロートリガーのおかげで8枚まで増えたけど、これからの4回のアタックはギガレックスのスキルで大幅に強化されたたちかぜ軍団の圧倒的なパワーによる攻撃だ。生半可な手札では受け止められない。
「アタックフェイズだ。『餓竜 ギガレックス』で『剣豪 ナイトストーム』にアタックだ! 同時にスキルを発動!」
ギガレックスはアタック時に武装ゲージをRを任意の数選択して1枚ずつ追加し、Rの数に応じて5000ずつのパワーアップができる。
ダークレックスのパワーを全開に上げるため、店長は山札の消費を惜しまず全てのRに武装ゲージを追加した。
これにより、『サベイジ・トルーパー』と『掃討竜 スイーパーアクロカント』も武装ゲージを追加されパワーがさらに上昇する。
そして、ギガレックスはパワー+25000、自身のパワーと合わせ37000のアタックを繰り出した。
ドロートリガーで強化されても、ヒールトリガーですら1枚では防げない圧倒的なパワー。
トリガーの可能性を考慮すれば、ここは温存なんかしていられない。
「プロテクト発動!」
私はすかさずプロテクトを発動させた。
手札から『不死竜 スカルドラゴン』をドロップゾーンに送り、トリガーを引かれようともギガレックスの攻撃を完全に防ぎきる。
これでギガレックスの攻撃はヒットしなくなったけど、まだツインドライブがある。
「ツインドライブ、ファーストチェック……『ターボスミロドン』、ノートリガー」
1枚目はノーマルカードだ。
このまま2枚目も何も出ないで欲しいところだけど、こういう時は結構トリガーを引いて見せるのが店長である。それも、私が1番引いて欲しくないトリガーを。
「セカンドチェック……『群竜 タイニィレックス』!」
……こんな感じに。
ここにきて前列を全て強化するフロントトリガーである。
「フロントトリガー発動! 前列全てのユニットのパワーを+10000!」
5ダメージに追い込まれているこの状況で、これはきつい。
ドロートリガーのパワーアップが実質的に相殺されたようなものである。
手札はプロテクトを使い残り6枚、ルイン・シェイドのインターセプトを合わせてギリギリ防ぎきれるかというところだ。
店長のアタックは終わらない。
続けてターボスミロドンとサベイジ・トルーパーをレストする。
ここからさらに武装ゲージは増えていく。
「『ターボスミロドン』、『サベイジ・トルーパー』のブーストで『剣豪 ナイトストーム』をアタック! ターボスミロドンのスキルにより、『掃討竜 スイーパーアクロカント』に武装ゲージを1枚追加!」
ターボスミロドンのスキルは、スイーパーアクロカントに回してきた。
スイーパーアクロカントは武装ゲージの数だけパワーを増す。その上自身のスキルにより、アタック時にはさらに武装ゲージを追加してくる。
それがさらにダークレックスのスキルにも繋がる。
……やっぱり、店長の武装ゲージの扱いは一流だ。
武装ゲージで力を増すユニットのアタックもあるけど、今はターボスミロドンのアタックだ。
サベイジ・トルーパーのブースト含め、パワーは42000。シールドが25000は必要となる。
……これが残る3度のアタックで1番低いというのは、ちょっとおかしくない?
そんな軽口も出させないたちかぜの怒涛の攻撃。
私は手札からシールド20000のヒールトリガー『お化けのりっく』を出した。
「『お化けのりっく』でガード、『ルイン・シェイド』でインターセプト!」
ルインのインターセプトも繰り出し、攻撃をガードする。
しかしこんなのはまだ序の口、続いてスイーパーアクロカントをレストする。
「『掃討竜 スイーパーアクロカント』で『剣豪 ナイトストーム』をアタック! 同時にスキルで武装ゲージを追加、合計パワー49000のアタックだ!」
「『夜警海賊 ニルデ』と『荒海のバンシー』でガード!」
シールド合計30000。ナイトストームのパワーと合わせて52000。
ニルデはかつてアジアサーキットでも使っていたカードだけど、その高いシールド値をインターセプト封じのスキルで使えなかったことがある。
手札から繰り出してもシールド値は変わらない。あの時は使えなかったけど、今回はしっかりと活躍してくれた。
「ニルデ……ふっ、お前って本当にそいつが好きだよな」
「悪いか」
「いや」
何だよ、店長。
……その君の悪い笑顔やめろよ。犯罪企む凶悪犯にしか見えないから。
「顔写真が張り出されていると全国指名手配犯にしか見えない顔で笑うな」
「誰が指名手配犯だ、このクソガキ!」
店長のアタックはあと一回。
ギガレックスの武装ゲージを溜め込むスキルを最大限活かすダークレックス。これが本命と言える攻撃である。
「『ソニックノア』のブーストした『破壊竜 ダークレックス』でアタック! ソニックノアのスキルによりダークレックスに武装ゲージを追加、そしてダークレックスはアタックしたバトル中武装ゲージ1枚につきパワーを+2000! フロントトリガーの効果とソニックノアのブースト、ギガレックスのスキルを合わせ、合計でダークレックスのパワーは56000だ!」
店長が得意とする武装ゲージを駆使するアタックの中で、ひときわ強力な『餓竜 ギガレックス』と『破壊竜 ダークレックス』のスキルを連携させた大幅なパワーアップによる攻撃。
私は残るすべての手札を投入してガードする。
「通さない! 『サムライスピリット』、『お化けのりっく』、『ドラゴンスピリット』でガード!」
インターセプトも手札も使い切った。
けど、ギリギリだけどシールドは足りた。店長のファイナルターン宣言阻止成功だ。
「……まさか防ぎきられるとはな。ターンエンドだ」
全クランの中でもトップクラスのパワーを発揮し攻撃ラインを形成するたちかぜのアタックをすべてしのいで見せたことに、店長も驚きが隠せない様子。
まあ、店長がファイナルターン宣言するのは滅多にないことだから、よほど自信があったのだろう。こっちはギガレックスのスキルで5ダメージにまで追い込まれていたし、あれほどのパワーラインを形成した4回の攻撃を防ぎきれるとは思っていなかったのだろう。
しかし、こちらはおかげで全てを手札を使わされ、さらにルイン・シェイドも消えた。おかげでパワーラインが圧倒的に不足している。
対して店長はツインドライブなどで手札を4枚まで補充している。ダメージも未だに4。十分な防御力が確保できている。
ギガレックスはアタック時に武装ゲージに関係なく仲間の数だけパワーを上げる。次のアタックを許せば間違えなく私が負けるだろう。
私のターンだというのに、追い詰められているのには変わらない。私だってそれなりに強い自負はあるのに、それをここまで追い込むとは……さすが店長。
「全く……店長のたちかぜって本当に捌くのが大変なんだよ。手札0で前衛はパワー不足、おまけにVの後ろにブーストできるユニットも無し。ここまでズタボロにされた状況で、インターセプト2枚に手札4枚の守りを突破して2ダメージを与えるなんてミラクルでも起きなきゃ不可能なんだけど」
「できないのか?」
「やってやるし! 私のグランブルーをなめるな!」
虚勢を貼り付けて店長の挑発に言い返す。
勝負の分かれ目はこのドローフェイズに何を引くかにかかっている。
……何を引いたとしても、この戦況を打開するのは簡単ではないけど。
「スタンド&ドロー……」
カードを引く。
その中身は……
「……厄日じゃなかったんだ」
正直、自分でも驚く微かな可能性を引き出してくれるカードだった。
いつかのバカ宮のことが笑えない。土壇場でこんないいカード引ける瞬間って、ポーカーフェイスの維持が難しい。思わず顔と声に出た。
私の表情の変化を店長も機敏に感じ取ったらしい。流れが変わったことを察したのだろう。
「……おいおい、ポーカーフェイスのしすぎはわかりやすいと言ったが、それはそれで分かりやすいぞ」
「うるせえ、行くぞ店長!」
正直、このタイミングでこのカードが引けるとは思っていなかった。
グランブルーの数あるカードの中で、1番頼りにしているユニット。小学生だった頃、アジアサーキットの準決勝戦まで私を導いてくれたドラゴン。
トリガー運にかける必要があるけど、このユニットになら託せる。
「光届かぬ深淵より蘇り、大海原の厄災を持って怒れる餓竜を駆逐せよ! 私の頼れる相棒、『不死竜 スカルドラゴン』にライド!」
土壇場で私が引いたカードは、グランブルーのデッキの中で私が1番信頼しているカード『不死竜 スカルドラゴン』だった。
イマジナリーギフト『プロテクト』を持つ、グランブルーのグレード3のカード。
ノーマルコールができないため、コキュートスのスキルなどを使わなければRサークルに置けない永続スキルを持つ。
そんな慣れてない人にしてみれば一見扱いに困るカードだが、保有するもう1つの永続スキルはたちかぜをも上回るグランブルー最強のパワーを生み出す。この戦況で相手の守りを一点突破できる可能性を持つカードだ。
「『不死竜 スカルドラゴン』のスキルを発動! ドロップゾーンのカード1枚につき、私のターン中スカルドラゴンはパワー+2000! 私のドロップゾーンのカードは19枚、よってスカルドラゴンのパワーは+38000、合計で50000だ!」
墓場の仲間の数だけ力を増すスキル。
グランブルーだけじゃない。武装ゲージを駆使してデタラメな攻撃力を生み出す店長でも、その中でも最強のギガレックスとダークレックスの連携を駆使してようやく作り上げたほどのパワーラインだ。
店長が手札を見直している。シールドか足りるかどうか確かめているのだろう。
……あの反応、守護者のカードはないと見た。
ならばと、スカルドラゴンに全てを託す。
ドロップゾーンのサムライスピリットのスキルを使い、スカルドラゴンの後ろにブーストするユニットをコールする。
「ドロップゾーンの『サムライスピリット』のスキルを発動! ソウルブラスト、そして『悲痛なる銃弾 ナイトゲベール』を退却する代わりにサムライスピリットをスカルドラゴンの後ろにスペリオルコール!」
スペリオルコールされたサムライスピリットはパワーが復活したターンに限り+4000される。
さらに代わりに退却させたナイトゲベールによりドロップゾーンの枚数が20枚となり、スカルドラゴンはさらにパワーがアップする。
「ブースト合わせて合計パワー64000……ったく、手札全部使わせたっていうのに、この盤面をすぐに作るお前にさばくの大変とか言われても実感わかねえっての」
思わず店長も悪態がこぼれる。
でもスカルドラゴンのクリティカルは1。クリティカルトリガーが出なければ、6ダメージを与えることはできない。
不死竜を引けただけでも幸運だった中、トリガーも運任せ。分の悪い賭けだけど、私は相棒を信じる。
帝国の地上部隊たちかぜが誇る盤面の仲間の数だけ力を増す餓竜に、不死の海賊が誇る墓場の仲間の数だけ力を増す不死竜が挑む。
運命のアタックフェイズだ。
「行くぞ店長! 『サムライスピリット』でブーストした『不死竜 スカルドラゴン』で、『餓竜 ギガレックス』にアタック!」
「……面白い、全力で受けて立ってやる! 『翼竜 スカイプテラ』『群竜 タイニィレックス』『サベイジ・アグレッサー』『掃討竜 スイーパーアクロカント』でガード! さらに『ターボスミロドン』と『掃討竜 スイーパーアクロカント』でインターセプトだ!」
店長は手札4枚に加えインターセプトをもつユニットを全て繰り出してガードしてきた。
トリガーが1枚でも出れば突破されるギリギリのガードである。
店長はこういう相手の全力を真っ向から受け止めてくれる性格だ。だからここ1番という場面で負けてしまうこともあるけど、それでもカッコいいと思ってしまう。……強面含めて。
「ツインドライブファーストチェック……『ルイン・シェイド』、ノートリガー」
1枚目はノートリガー。
クリティカルトリガー以外ではシールドを突破できたとしても6ダメージまで与えられない。
それでも、厄日とかもう私には関係ない。
スカルドラゴンが来てくれた。私はこの相棒を信用している。
「セカンドチェック……『荒海のバンシー』! きた、クリティカルトリガー!」
2枚目は、クリティカルトリガーだった。
これで守りを突破してギガレックスに攻撃を通せる。
「クリティカルトリガー発動! 効果は全てスカルドラゴンに!」
バンシーが不死竜に力を与える。
大海原の厄災を体現する不死の竜が、剣をギガレックスに振り下ろす。
餓竜を守ろうと立ちふさがったたちかぜの戦士たちは次々にその剣に薙ぎ払われ、それでもなおスカルドラゴンを止められない。
睨み上げるギガレックス。同志たちを蹴散らされた怒りに咆哮を轟かす。
嵐の剣豪を吹き飛ばしたその咆哮は、しかしスカルドラゴンには届かなかった。
……骨だし。耳ないし。
そういう無粋なツッコミは無し。
スカルドラゴンが剣を振り下ろし、ギガレックスに2条の剣傷を穿った。
「ダメージトリガーファーストチェック……『怒号竜 ロアーバリオ』、ノートリガー」
1枚目はノーマルカード。
でもここで店長がヒールトリガーを引けば逆転する。
その運命の2枚目は……
「セカンドチェック……『餓竜 ギガレックス』」
ノーマルカードだった。
6ダメージを受けたギガレックスが倒れる。
それを見下ろす不死竜の目には、いつもの無感動な虚空ではなくどこか哀愁を漂わせる色を帯びていた。
「6ダメージ……俺の負けだ」
ギリギリだったけど、店長に勝った。
……結果だけど、これで2パックただでゲットである。
「……はい、2パックおごりの約束ちゃんと果たせよな」
「……はあ、わかったよ」
店長がレジに戻っていく。
私はというと、片付けたデッキに一言声をかけた。
「サンキュな、相棒……」
途中からどうでもよくなりがちだったけど、私は勝負内容を忘れないんです。
ざまあみろ強面店主!