別世界の異邦者 作:みども
店長からブースターパックを2つ略奪……もとい、貰った直後に今度は野次馬からクラウンの常連の1人に声をかけられた。
別に普通の人に話しかけられたくらいなら私も邪険にしない。クラウンの常連は、まあバカ宮と初遭遇した時には変なやつしかいなかったけど、まともな人だってたくさんいる。
けど、話しかけてきたやつは残念ながら変人を通り越して変態の部類のやつだ。
「姫〜! 復帰したんだ、なら僕と––––」
「消えろ変態!」
私が店長とのファイトを終えるなり、真っ先に詰め寄ってきて両手を広げ抱きつこうとしてした変態。
やられてたまるかと、その腹を蹴り飛ばした。
「ぐえ!?」
腹を抱えてうずくまる変態。
放置すると際限ない暴走をする変態なので、手加減は一切しない。
「お前もいい加減諦めろよ。傍目から見ても一途を通り越して犯罪者だぞ」
ため息をつきながらカウンターからブースターパックを2つ手に出てきた店長が常連の変態を注意する。
でも、犯罪者というなら店長の顔も相当なものだけど。
「ハアハア……僕にとってプリンセスの暴力はご褒美なのです。さあマイプリンセス、どついてください!」
「来るな変態!」
いつも思うけどガチの変態じゃねえか! なんなんだよお前は!?
とりあえず飛びつこうとした変態を再び蹴り飛ばす。
しかしこの変態、いくらどついても何度でも立ちがってくる。しかも笑顔で。
……店長の強面は慣れるからいいけど、この変態は正直5年くらいの付き合いになるけど日々変態度が増してくるから慣れるどころか恐怖が増している。
「お前はお呼びじゃねえんだよ!」
「はい! 拒絶されるのが僕の幸せなのです!」
「やめろ!」
「……相変わらずこいつだけは苦手なんだな、お前」
この変態がターゲットにするのは基本私だけなので、クソガキの天敵としてこの変態ぶりなのに店長は出禁にしない。
私は信じていないけど普段はまともだという。……信じられねえ。
「店長! こいつ出禁にしろよ、絶対店のイメージダウンにつながる!」
「断る。出禁にしてもこいつ来るし、お前の唯一無二の天敵だからな」
「はい! 出禁にされても必ず来ます! 不法侵入します! 姫あるところに、僕があり––––ぐえ!?」
「気持ち悪いんだよ!」
鳥肌たつわ!
しがみつく変態を必死に押しのけながら店長に文句を言うが、軽く交わされた。
しかし、店長の言うことも一理ある。確かに、こいつ出禁にしてもやってきそうだ。
……アジアサーキットに出た時は予選ステージのウランバートルまで来たくらいである。地の果てまで私を追いかけてきそう。いや、間違えなく追いかけてくる。
どさくさに紛れて頬ずりをしてきた変態を蹴り飛ばす。
中1くらいまでは力で引き剝がせなかったから兄貴をはじめ他の人たちが引き離してくれたけど、1人でも撃退できるようになってからは止めてもらえなくなった。
「お、
最近冷たい店長はやっと変態を剥がした私を無視してテレビ見てるし!
店長の見ているテレビには、昨年のアジアサーキットチャンピオンである蒼龍レオンに「今年のサーキットに向けての抱負を独占インタビュー!」とかいう題材の取材を受けている様子が映っている。
受験勉強で前回のアジアサーキットには参加していなかったし、中2の頃は日本の予選ステージに挑戦して
しかし、前年も蒼龍レオンがチャンピオンだったのか。
もう4回くらいチャンピオンになってない、あの人?
ちなみに彼が『マイ』をつける人。香港代表だけあって、香港だとスタンドアップじゃなくて『Stand up My Vanguard』が一般的に普及しているレベルだ。
アジアサーキットのチャンピオンに複数回なっている世界的に有名なアクアフォース使いであり、私も本戦で何回か会ったこともある。残念ながら対戦は一度もしたことがなかったけど。
割と気があういい人だった。反面、2人の共連れからは別に狙っているわけでもないのに殺意込みの嫉妬通り越した憎悪を向けられていたけど。
そういえば彼ももう20歳になったんだっけ。
今年ももちろん香港ステージからアジアサーキットのチャンピオン連覇を目指していくとのこと。
「蒼龍レオン……少し見ない間に随分大人っぽくなったな。あ、そういやもう大人か」
元気そうな姿に、思わず笑みがこぼれる。
しかもめちゃくちゃカッコよくなっているし。成人しただけで一気に老けた……じゃねえや、大人の色香って感じのがすごいついてきたように見える。
これ、きっとモテモテだろ。アイドルに虫がつかないようにって、ジリアンたちが常に殺気立っていそうな気がする。
でも、レオンは今年もサーキットに出るのか。
あの伝説と言われたクラン『アクアフォース』を使いこなす世界トップクラスのファイター。是非とも今回こそは戦ってみたい。
「……店長、今年のアジアサーキットは香港ステージに出る!」
「……はあ!?」
「なら僕もついていきます、香港まで!」
レオン1強と言われる香港ステージに挑むという宣言に、それぞれ聞いていた2人が反応する。
店長は普通に驚き、変態は早速ついていく宣言。リアクションは店長の方が正しい。
「変態は付いてくるな」
「はい、ならば這いつくばって尾行します!」
「するな!」
また変態が飛びついてきた。
やめろ! 離れろ! てか、なんで右脚だけにしがみついてくるんだよ! 匂い嗅ぐな! 頬ずりするな! その這うような手つき気持ち悪いから今すぐやめろ!
「いや、誰か止めろよ!」
「お前、レオンに挑むつもりか!?」
「ああそうだよ! てか、その話題は後からいくらでも付き合ってやるから誰か変態引き剥がすの手伝えよ!」
店長が驚くのもわかるけど、誰か手伝え!
変態が脚にしがみつくせいでうまく蹴り飛ばせない。そしてこいつは男なだけあり結構力があるので、剥がせない。
しばらく変態とせめぎ合いをしたのち、話を聞きたいと店長が変態を引き剥がしてくれたおかげでようやく一息つけた。
「モガモガモガー!」
完全に拘束した変態。
それでもうるさいけど、少なくとも飛びかかってくることはないだろう。
さて、話を戻すけど。
日本ステージは葛木カムイをはじめとしたファイターたちが集う、サーキット最難関のステージと言われている。なので私は彼らとかち合わないように別のステージから決勝リーグに進むことが多かった。
でも、どうせ挑戦するなら強い奴とかち合いたい。その上で決勝リーグを勝ち上がり、並み居る強豪を倒して得る優勝が1番嬉しい。
だから、レオン1強と言われる香港ステージに出るのだ。私が勝ち上がれば、絶対に1度は対戦できるから。
「というわけで、私はレオンとファイトしたい。だから香港ステージに出る」
「……まあ、反対するつもりはないが」
店長も常連の馴染みたちも反対こそしないが、みんな乗り気じゃなさそう。
まあ、サーキットの予選突破できる実力者ってクラウンだと私と変態くらいだし。
その1人である私がレオン1強と言われる香港ステージに出るというのだ。予選落ちしてほしくはないのだろう。
……ショップの箔付のために。
「私は道化師の店の箔付けに協力するつもりはないから」
「そ、そそんなことしないぞ!」
してるだろうが。声震えてるぞ強面店主。
とにかく、私はレオンと戦いたいので香港の予選リーグに出る。
あの伝説の艦隊、アクアフォースと是非とも戦いたい。
「レオンに久しぶりに会いたいし、さ。そういうわけで、今回の予選ステージは香港に行く!」
「……ったく、仕方ねえな。わかった、行ってこい。応援してるぜ」
「そして僕は付いていきます」
「付いてくるな!」
なんだかんだ言って、店長は認めてくれた。
認めてくれるのはありがてえけど、お前の許可得る必要は本来ない。
あとどさくさ紛れに隠すな、ブースターパック。